「それは、おかしい。」  
と、友人は姫乃にびしりと箸を突きつけた。  
行儀が悪いと気づいて彼女は「失礼」と腕を下ろしたものの、もう一度言う。  
「おかしいよ」  
「・・・おかしいのかなあ?」  
「おかしいって。だって半年でしょ?ありえないよ。そいつ、本当に大丈夫?」  
「だ、大丈夫って」  
「不能だったらどうする」  
「ふ・・・」  
なれない単語に頭がついていけない。姫乃は逃げるように、膝の上にひろげた弁当をつつく。  
相談しておいて、この子に相談してよかったのか、という不安がぐるぐると姫乃の頭を渦巻く。  
友人が続けた言葉に、その不安は倍増し、ついでに目の前が暗くなった。  
「つーか、付き合ってる男とヤらないなんて、姫乃不幸すぎるよ」  
 
 
最初は、頼りになるお兄さん、という感じだった。  
上京してすぐに巻き込まれた、陰魄騒動の中、彼はいつも姫乃を守ってくれた。  
あるときは片手で軽くあしらい、あるときは傷だらけで命を懸けて。  
たとえそれが、「案内屋の義務」でも「無縁断世の娘だから」でも、姫乃はかまわなかった。  
彼が好きだった。守ってくれる背中が苦しいほどに愛おしかった。  
だから、彼に好きだと伝えたとき、うなずいてくれた事にものすごく驚いた。  
「俺もだよ」と微笑んで、抱きしめてくれたときに、これ以上の幸せがあるのかとさえ思った。  
(・・・あるの?)  
セックスくらい姫乃だって知っている。けれど姫乃にとってそれは、家族を作るため、という認識ぐらいでしかなかった。  
家族はなるほど、確かに幸せに直結しているだろうが、今の状態で子供を身ごもる事なんてできない。  
親戚中をたらいまわしにされた過去を持つ姫乃にとって、手と手が触れる直接的な愛情よりも、  
包み込んでくれる間接的な愛情のほうが大事だった。受け入れてくれる空間こそが、姫乃の幸せの場所だった。  
身体を重ねる事は、果たして、幸せなのだろうか。  
いわゆる、「性的快感」を感じる事が、今まで以上の幸せに繋がるのだろうか。  
友人に不幸と言われることが、姫乃にはわからなかった。  
 
午後の授業を終え、うたかた荘に帰り、夕飯を済ませて風呂から上がっても、  
昼休みに友人と話した事がちらちらと頭の隅に残っていた。  
同じことを、長く考えることは苦手だ。  
答えの出ない疑問に頭を悩ませるのは、とんでもなく無駄なことのように思えてきた。  
だから  
「ひめのん、今日どうかした?難しい顔してるよ?」  
と、明神が話しかけてきたとき、  
(不幸か不幸じゃないか、確かめてみればいいじゃない。)  
という結論にすんなり至ったのは、もう考えるのが面倒になったからだと思う。  
姫乃は向かいからこちらを覗き込む明神と視線を合わせると、口を開いた。  
「明神さん、私とセックスしよう」  
 
 
明神はまず、ガクがこの場にいないことを神(信じちゃいないが)に感謝した。  
もし奴がこの薄い壁の向こうにでもふらふらと漂っていたのなら、今頃自分は跡形もなく叩き潰されていたことだろう。  
自分の心臓が、それはもう早鐘のごとく動いている事を確認して、明神は深く息を吸い込んだ。  
「ひめのん」  
しぼりだした声はひどくかすれていた。  
「今とんでもないことを聞いたような気がするんだけど」  
「うん。セックスしようって言った」  
『今日は晴れましたね』くらいにあっさりとこの子はなにを言ってくれるのか。  
「あのね・・・それどういう意味だかわかって言ってんの?」  
そういうと、姫乃はむっとした表情で明神を見上げる。  
「わかってるよ」  
「じゃあどうしていきなりそんな事言い出すんだよ」  
「だって、友達が・・・」  
「友達?」  
「付き合ってる人とヤらないのは不幸だって」  
誰だひめのんにいらんこと吹き込んだ奴は。  
「じゃあヤったら幸せになれるのか、私わからなかった。明神さんはどう思う?」  
「俺もわかりません」  
「でしょ?だから、実際やってみればわかるんじゃないかなあと思って」  
即答が逆効果だった。  
「だから、しようよ」  
そう言って、姫乃が明神の袖を掴んだ。  
 
姫乃とお互いの想いを確認してから半年、明神は一度も姫乃を抱いていない。  
その素振りを見せたこともない。キスですら、触れるだけのものだった。  
確かに、姫乃に性的欲情を覚えた事は幾度もある。こっそり一人で処理もしていた。  
それでも、相手が未成年だからとか、場所の条件が悪いとか、今じゃなくてもとか、理由をつけては後回しにしていた。  
それくらい、現状に満足していたのである。  
そして、一度彼女を抱いたが最後、もう止まらないだろうことも承知していた。  
今までのように、手を握るだけで、抱きしめるだけで満足できることはないと体が理解していた。  
そんなもろもろを、姫乃は自らぶち破ってくれた。理由はどうあれ願ったり叶ったりである。 が。  
本当はこっちから誘いたかったのに。自分より年下の少女に誘われるとは、不覚である。  
などとぐるぐる考えている明神に、痺れを切らしたのか姫乃がぐいと強く裾をひっぱった。  
「明神さん!」  
「ぅお!?」  
「明神さんにその気がないなら私勝手にやるから」  
・・・ちょっと待て。  
 
 
入居当時から着ているうすピンクのパジャマ。そのボタンを、姫乃の細い指が上から順に開けていく。  
3つめまで外し、ちらりと白い下着が見えた瞬間、明神は我に返った。  
「待て、ひめのん!」  
あわてて姫乃の両腕を押さえ、やめさせる、姫乃が不服げな表情で明神をにらみあげた。  
「なんで」  
「なんでじゃないでしょ、ここじゃまずい!」  
共同リビングである。幸い、他の住人は全員出はらっているようだが、万が一誰かが入ってきたときに非常にまずい。  
「じゃあどこならしてくれるの?」  
上目遣いで唇をとがらせる姫乃を見ながら、明神は諦めと覚悟のいり混じったため息をついた。  
 
管理人室の面積のうち、1/3を占める万年床に、ちょこんと座った姫乃の前に座り込む。  
それを見ていた姫乃は再び、パジャマのボタンをひとつひとつ外し始める。  
上着を脱ぎながらうかがうようにこちらを見るので、とりあえず上だけでいいよ、と言った。  
闇の中でも肌の白さがぼんやりと浮き上がる。ブラジャーのホックを外すとき、ふるりと腕が震えたのが見えた。  
「怖い?」  
「・・・恥ずかしいだけ」  
緩んだ肩紐から腕を抜くのも待たず、明神はブラジャーの下から直に姫乃の胸を掴んだ。  
「あっ・・・」  
驚きと羞恥に姫乃が声を上げる。かまわず右手で胸を揉みしだきながらブラジャーを外させ、左手を姫乃の腰に回して引き寄せた。  
勢いのまま、姫乃が明神の足の上に半分乗り上げて体が密着する。熱く漏れ始めた吐息を唇ごと塞ぐ。  
「んっ、ふ・・・んんっ」  
唇を割り、歯列をこじ開け、口内に侵入すると姫乃の舌がびくりと逃げを打つ。  
すかさず絡めて吸い上げると、苦しそうに肩が震えた。  
「んぅ、ん!」  
胸の突起を親指で押しつぶすように摘むとくぐもった悲鳴が上がる。酸素をもとめてふり切った姫乃の唇は追わず、  
そののぞけった白い首筋に噛み付く。白い肌に赤い鬱血が点々と散り、そして明神の唇は左の乳房に吸い付いた。  
「っあぁん!」  
高い嬌声が上がった。赤子のように舌で突起を舐りながら姫乃の身体をゆっくりと布団へ押し倒す。  
「あ・・・ん、はぁ・・・っ」  
空いた左手でパジャマの上から足の付け根までゆっくりとなで上げる。  
中心を人差し指ですっとかすめると、足がびくりと震えた。く、と少し力を入れて布の上から秘所を押し上げる。  
「あぁっ!・・・あ、やぁっ・・・あんっ」  
秘裂にそって指を動かし、探り当てた肉芽を押すと突き抜けるような快感が姫乃を襲った。  
「やあぁん!あっ、そ、そこ、嫌・・・っ!」  
「嫌じゃないでしょ?」  
「いやぁっ!あっ、あっ・・!」  
肉芽と秘裂を往復していると、どうやら濡れてきたらしい。  
その感度のよさに明神は思わず笑みを浮かべながら、姫乃に言う。  
「ひめのん、パジャマの上からもわかるよ・・・ここ、濡れてきてるね?」  
「んんっ、そ、なの、しら・・・な・・・あっ!」  
「嘘言わないの」  
そういうと、明神はパジャマと下着を左手で掴むと一気に引き摺り下ろした。  
 
「ひゃん!あ・・・」  
反射的に閉じようとした足の間に身体を入れて抑え、先ほどの場所に今度はじかに指を押し当てた。  
「やぁ・・・っん」  
「ほら、濡れてるじゃん」  
既にあふれ出した蜜が明神の指にまとわりつく。左手の中指の腹を、蜜を絡めながらじっくりとそこに擦り付ける。  
ためしに指を曲げてみると、くちゅん、と簡単に埋め込まれた。  
「ふぁっ!な、なか、はいっ・・・ああっ」  
そのままゆっくりと押し込んでいく。おそらく初めてであろう異物に内側の肉壁が強く抵抗する。  
「んんっ・・・や、だぁ・・・あっ、変、な、かんじ・・・」  
「痛くない?」  
「わ、かんな・・・あぁんっ」  
反射的な嫌悪感から足を閉じようとも閉じられず、もどかしく足がシーツを引っ掻く。  
薬指を身長に根元まで押し込み、そしてゆっくりと引き抜いていく。  
肉壁と蜜が絡み合い、逃がさぬように指を締め上げる。  
この中に自身をうずめられたらどれだけの快感が得られるのか、想像もつかない。  
「はあっ、あっ、あっ、は、いや・・・ぬい、てぇ・・・」  
明神は目を細め、膣内を行き来する感覚にもだえる姫乃を眺める。  
2本に増やした指を引き抜くと、太腿の内側に手を添えてゆっくりと頭をかがめた。  
「みょ・・・!?」  
なにをしようとしているのか本能的に察した姫乃は身体を後ろにずらそうと肘をついて上体を起こす。  
しかし明神は逃すことなく足を掴むと、そのまま茂みの奥へ唇を押し当てた。  
「っいやあぁ!そんな、だめ・・・みょ、じん、さん・・・っ!」  
信じられないところに、明神の舌が入り込む。指とは違う生暖かい体温と吐息、蜜を掻き出すような動きに翻弄される。  
「そん、な、とこ・・・だめぇ・・・ああっ、あっ、はぁん!」  
せめてもの抵抗に、明神の頭を押さえた両手はしかし力なく震え、そこはあふれんばかりに濡れそぼった。  
明神は唾液と混ぜて秘裂をなぞり、あふれ出た蜜を啜り上げる。  
「あ、あん・・・は・・・いや、ぁ・・・あんっ」  
姫乃のそこから絶え間なくあふれる蜜は、秘裂をやわらかく溶かしていた。  
 
(そろそろかな)  
ぢゅ、と最後に蜜を啜り上げると、一度もくつろげていなかった自分のジーンズへと手を伸ばす。  
自分自身は既に限界まで張り詰めて苦しいほどだった。  
身体を起こして姫乃の顔をのぞきこむ。明神の信じられない行動に混乱し、姫乃はボロボロと涙をこぼしていた。  
その表情にちくりと良心が痛んだが、これからしようとしていることを思うといま謝る事は到底できなかった。  
「姫乃」  
汚れていない手のひらで涙を拭う。  
「いい?」  
一瞬、姫乃は不安と恐怖の入り混じった表情をして明神を見上げた。  
それでもぎゅっと目を閉じ、一度つばを飲み込んで、そしてゆっくり微笑んでみせた。  
「いい・・・私が言い出したことだもん」  
その額にキスをして、明神は姫乃の足を抱えてひろげさせると、秘所に自身を押し当てた。  
その熱にびくりと姫乃の肩が硬直したのを見ながら、明神は体重をかけて一気に奥まで突き上げる。  
「っああああ!!」  
「・・・っ、姫乃、力抜け」  
「うあ、あ、いや、いやあぁっ!痛いよう・・・!」  
あまりの痛みにまともに息をすることもままならないらしい。焦点の合わない瞳は大きく見開かれ、そして歪んだ。  
「あぁ、や、あ、ああ、あああっ」  
涙は止まらない。その苦痛にもだえ、縋るように両手を差し伸べる姿が明神の心に罪悪感と、  
そしてそれを凌駕する征服感をあふれさせた。今彼女の世界には自分しかいない。  
姫乃の中は恐ろしく気持ちが良かった。押し出そうとする力と、奥へいざなおうとする力が反発しあって強く締め付けられる。  
欲望がもとめるまま、無茶苦茶に突いて掻き回してやりたい衝動を必死に抑え、姫乃が慣れるようそっと揺さぶる。  
「や、あっ、あっ、あん」  
「姫乃、大丈夫だから、力抜いて」  
「はぁっ、いや、む、り・・・っああ」  
姫乃の爪が明神の肩と首に立てられる。皮膚を突き破ってちくりと痛みが走ったが、それすら今の明神を煽らせる。  
もう引き返すことはできない。蜜を絡めてゆすり続けた。  
 
「ふ、あん、は、ああっ、あ」  
痛みで真っ白だった姫乃の頭の中で、かすかに体が違和感をとらえた。  
さざなみのように押し寄せては引いていく。はっきりと掴めないもどかしさに、縋りついていた明神の首に強くしがみつく。  
「姫乃?」  
「あ、ひゃん、あん、なん、か、違うっ・・・の・・・!」  
「姫乃」  
「はぁっ、あ、みょ・・・じん、さんっ、もっと・・・あっ、奥、まで・・・っあん!」  
喉を逸らせて天井を見上げるその表情には、恍惚すら浮かんでいるように見えた。  
体が快感を覚え始め、それを逃すまいと姫乃の足が明神の腰に回る。  
限界だった。  
姫乃の望む通り、一度ぎりぎりまで腰を引くと、思い切り奥まで突き上げた。  
乱暴に腰を動かして、中を蹂躙していく。  
「っうあああ!あっ、ああっ、あっ、んっ、あうっ」  
痛みはあるだろう。しかしそれを越えた快感が姫乃の体を襲っている。甲高く上がる悲鳴は既に嬌声と化していた。  
姫乃の膣内は悦びを与える明神を奥へと誘い、離すものかと強く締め付けてうねる。  
突き上げるたびに締め上げる力は増していく。  
「んあっ、あああっ、あっ、あっ、あっ、はぁっ、ああっ!」  
「ふ・・・姫乃・・・っ」  
「あ、いや、ああっ、やぁっ、あっ、あんっ、な、なんか、くる、はああっ」  
動きが激しくなると共に、快感の波が二人を襲う。競うようにお互いに高みへ上り詰めていく。  
「あっ、だめ、だめっ、あんっ、ああっ、ああぁあっ、ふあっ、ああんっ、あああァァ――――っっ!!!!」  
姫乃はとうとう頂点に達し、身体を反らせてびくびくと痙攣した。  
膣内が思い切り収縮して、身体を貫いた快感に耐えきれず明神は白濁の欲望を姫乃の中に叩きつけたのだった。  
 
姫乃の中はまだ、明神からすべて搾り取ろうとするかのように蠢いている。  
誘われるまま情を流し込んでいると、明神の首にかかっていた姫乃の両腕がずるりと外れて布団に落ちた。  
肩で息をし、恍惚とした表情でぼんやりと天井を眺めてはいるが、どうやら意識は保っているらしい。  
「姫乃」と呼んで顔を覗き込もうとしたら、中がこすれて姫乃が「あん」と甘い声を出した。  
「ごめん、すぐ抜くから」  
と言うと、姫乃はゆるゆると首を振った。  
「いい・・・大丈夫だから・・・あったかくて気持ちいい・・・」  
その様に思わず生唾を飲み込み、  
「いや、俺がやばそうだから抜かせてください・・・」  
流石に連続で相手をさせたら姫乃は耐えられないだろう。  
ずりゅ、と引き抜くと、自分が吐き出した白濁がどろりとシーツの上に流れた。  
乱れた髪を整えてやりながら、明神は姫乃の顔をのぞきこむ。  
「それで、わかった?」  
「・・・?なにが・・・?」  
「セックスは幸せでしたか」  
ようやく目的を思い出したらしい、姫乃は目を丸くしたあと、微笑んで言った。  
「うん、幸せでした」  
 
これで「不幸せでした」なんて言われて、子供作る時までやらせてもらえなかったらと  
実は戦々恐々だった明神は、思い切り安堵のため息をついた。  
 
 
おわり  
 

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