「やあ桶川姫乃!!!」
やけに楽しそうなその声は、がらんとした寒々しい構内に、不釣合いに響いた。
声の主は人間に近い姿をしているものの、地蟲たちの怯えている様と、どことなく漂う冷たい負の雰囲気で、敵だとわかる。
「アニマ・・・」
姫乃はじり・・・と後退りるが、すぐに絶壁の淵に足がかかり、慌てて踏みとどまった。
「まて、コモン!この娘は・・・」
地蟲の長老が姫乃を庇うように前に出たが、言葉が終わる前にコモンは腕を軽く振った。
「・・・ジジィはひっこんでろ」
突然、どこからとも無く3匹の焔狐が現れ、姫乃と地蟲を囲むとじりじりと半円を狭める。
人間一人と地蟲4匹を動く隙間無いほどに追い詰めてから、半眼で笑みを浮かべ、コモンは言った。
「地蟲たちを助けたい?桶川姫乃」
いきなり問われ、戸惑いはしたが、姫乃は大きく頷く。
気丈に自分を見つめる姫乃にこみ上げる笑いを抑えきれず、ククッと喉を鳴らすとコモンは両手を挙げた。
「OK、OK。・・・お前ら」
コモンの指示に、焔狐の包囲が緩められた。緊張の糸が切れ、地面に膝を突く一同。
満足そうにそれを眺め、腰に手を当てながらコモンは尻尾を振った。
「―――姫乃」
肩で息をする彼女に、横柄な態度で顎をしゃくり、言外にこちらに来るように言い渡す。
ぎゅっと唇を引き結び、意を決すると、姫乃はすっくと立ち上がった。
「案内屋さん・・・」
不安そうに見上げてくる地蟲に、強張りながらも笑みを返す。
「・・・大丈夫だよ、チコちゃん。―――みんなも。そんな顔しないで。ね?」
なかなか動かない姫乃に、コモンが大きく舌打ちをする。どうやらかなり気の短い性質らしい。
「娘さん・・・こんなことに巻き込んで・・・」
長老の言葉を遮り、姫乃は首を横に振った。
「言わないでください。・・・明神さん、本当の案内屋さんのこと、信じましょう。長老さ―――」
「おい!!何調子乗ってだよ!!―――お前ら、見せしめに一匹食って・・・」
「待って!!・・・行くから。待って」
敵の気性の激しさに内心ぞっとしながら震える両足を叱咤して、姫乃は狐のアニマの前に立った。
地蟲たちは再び焔狐に囲まれてはいたが、先程までの圧迫感は無く、あくまで威嚇程度のものになっている。
横目で確認してほっと安堵していると、顎に爪を添えられ、目の前の男に顔を向けさせられた。
細い目でしげしげと値踏みされるように眺められ、姫乃はひどく居心地が悪い。
「ふーん・・・。これが・・・へえ。」
あまりに顔を近付けられ、姫乃は思わず目を固く閉じた。
と、不意に顎が自由になる。
不審に思い、目を開けると、コモンは相変わらず薄く笑っていた。
(桶川雪乃の娘・・・ね)
外見はそれほど重要ではない。何より、人間の顔というのはどれも同じに見えて仕方が無い。
「まあいいや。―――それよりも」
「・・・?」
視線を止めた先には、薄く汚れたセーラー服のリボン。
怪訝な表情の姫乃に構わず、無造作に引き裂いた。
「なっ・・・」
思わず胸元を押さえ、一歩下がる姫乃に、コモンは楽しそうに忠告した。
「おっと。あんまり抵抗しない方がいいと思うよ。・・・あの豚共がどうなってもいいなら別だけどね」
「案内屋さん!」
「娘さん!」
突然の事態に、地蟲たちは動揺して駆け寄ろうとする。
だが、周りを囲む焔狐に歯を剥かれ、成すすべも無い。
「あんないやさ・・・」
「―――いいのッ!!」
姫乃の声が坑道にひどく大きく響いた。
こだまする台詞をバックに、姫乃はゆっくり地蟲たちに微笑みかけた。
「構わないで。―――いいから。放って置いて。」
コモンは微笑を浮かべ、ゆっくり自分の爪を舌でなぞる。
横目でコモンの動向を見据えながら、姫乃はその部下たちにキツい視線を送った。
「あなた達もッ!!あと二歩、チコちゃん達から離れて!!」
萎縮したように、たじっ・・・と後ろに下がる三匹を見て、姫乃は胸を撫で下ろした。
「そう・・・絶対、危害を加えないで・・・!もしものことがあったら・・・承知しないからッ!!」
やり込められた手下を一瞥し、つまらなそうに舌打ちすると、コモンは姫乃の前髪を無造作に掴み上げた。
「・・・で?」
姫乃は答えない。
「それって、あんたが豚の分まで俺を楽しませてくれるって事だよな?」
「・・・」
「―――ふん・・・なら、脱げよ」
それでも戸惑う姫乃に痺れを切らすと、コモンは鋭い爪を軽く一振り浴びせかけた。
「や・・・あっ」
一閃でバラバラに切り裂かれ、ハラリと落ちていく制服を見つめる姫乃をコモンが促す。
「ほら。後は自分の手でどうにでも出来んだろ?」
「いや・・・だ・・・」
下着とソックスしか身に纏っていない姫乃の強がりも、コモンには何とも無いらしい。
「へえ。―――別にいいや。・・・おい、お前ら―――」
「まっ・・・待って!!・・・脱ぐ!!下着、取るからッ!!」
言うが早いか、姫乃は背後のホックを外すと、壁に向かってブラジャーを投げ捨てた。
育ち切らない、未熟な双丘が瞳に飛び込み、コモンは双眸を眇める。
「・・・へえ。」
さほど大きくない乳房を両手で揉みほぐされ、姫乃は込み上げる感情を嚥下するように瞳を閉じた。
「あんた、思ったより度胸いいな。」
「・・・っあ・・!」
空気に晒された突起を、冷たい舌が掠めた。
「ハッ。見とけよテメェら。次にもし生者に助け媚びたらどうなるか、しっかり網膜に刻んどけ!」
言うが早いかコモンは姫乃を組み伏せ、地蟲たちに向かって冷たく微笑みかけた。
そこ。四つん這いになれ・・・そう」
姫乃は地蟲たちから見れば丁度真横になる形で、コンクリートの地面に手足を付き、コモンに秘部を向ける形を取る。
ショーツもソックスさえも取り払われ、一糸纏わぬ姿で敵に後ろを向けて膝を折った。
「っ・・・」
酷い屈辱だった。
あまりに酷すぎて涙も声も嗚咽も出ない。
だが自分が降参すれば、後ろで忍び笑いをもらす相手に、地蟲たちは跡形も無く消されてしまうだろう。
それを躊躇わない、残忍な性格であろうことは出くわしてすぐに予想がついた。
そして、おそらく自分がこれから受ける嘲弄も。
姫乃の思惑を他所に、冷たい手が、微かに震える腰に添えられた。
「人間の交尾ってのは・・・可笑しなもんだよなあ?」
「ひ・・・ぃやあああぁぁぁッ!!」
前戯も何も飛ばしていきなり後ろから挿入され、姫乃はただ悶える。
ぎちぎちと無理やり捻じ込まれ、まだ潤っていない箇所にコモンの男根を迎えさせられた。
コモン自身も正直まだ自分の用意が整いきってはいなかったが、自然界においてはそんなことを言う余裕は無い。
繁殖期にメスを見つければ、うだうだ言う暇は無い。他のオス共が寄ってくる前に事を済ませるのが当然なのだ。
入れた後は自分の器量次第。どうにでもなる。
「まっ・・・っきゃ・・ふあッ!?」
「・・・そんなに好き?ココって子供育てる時使うんじゃねーの?」
少女の背後から長い爪を湛えた指で乳首を転がす。
その刺激に耐えられず、姫乃は腕だけでは上半身を支えかねて、コンクリートの冷たい床に突っ伏した。
「っはは!人間の身体ってのは面白いよなあ。乳が自分のガキじゃなくて、ガキを孕ませるオスのためでもあんのな。・・・変なの!」
「んあぁっ・・・ひ、ゃあぁ・・・!」
身を捩り、必死に快感に耐える姫乃に飽きたのか、コモンは少女から上半身を離すと、強く腰を動かし始めた。
ぶちゅ、ぐちゅっと彼女を侵蝕する手応えに満足を覚える。―――と。
「うあっ!!ぃ、やあっ!!ッア―――・・・!!」
唐突に自身を包んでいる壁が収縮した。一拍置いて、結合部から滴る愛液を見て、コモンは嘲た。
「は?・・・ああ、イッたのか。ハハ!早えーよ!」
「ぅ・・・あ・・・」
「お前、初モノでもねーよなァ?・・・あの案内屋とはどんな風に交尾(つる)むんだ?」
快感より悔しさに涙を浮かべ、朦朧としながら姫乃は地蟲たちの方を顧みた。
先刻同様に焔狐に囲まれたままの彼らは、姫乃がコモンに犯される現場を見ないことが最大の助力と取ったらしい。
一様に下を向き、耳を塞ぐ者もいる。
姫乃はその心遣いに心底感謝し、口の端には自然と笑みが浮かんだ。
途端。
「・・・何笑ってんの?」
「え・・・」
目聡く姫乃の視線を追い、状況を把握すると、コモンは鋭く言い放った。
「おいッ!!・・・豚、何顔背けてんだァ!?見とけっつたろーがッ!!」
「いっ・・・きゃああぁぁッ!!」
苛立ちに任せて、コモンは姫乃から自分を抜くと、彼女の身体を力任せに反転させた。
冷えた床に背を叩き付けられ、呼吸と思考が一気に止まる。
「さっきのは野生動物の正しい犯り方な。・・・次は人間の作法で行こうか、姫乃」
コモンの脅しに、地蟲たちが躊躇いながら視線を向けるが、それに羞恥を覚える余裕は姫乃に無かった。
「―――かはっ・・・ッいや!!」
背中を強かに打ち付けられ、息が出来ずにいるところへ、コモンが覆い被さってきた為だ。
「腹合わせんのが人間のスタンダードなんだろ?・・・はっ。よく分かんねー種族だな、お前ら」
「や・・・あっ、やめ・・・ッ」
生きた人間には有り得ない、冷たい舌が首筋を這った。
共に、実際仰向けになれば殆ど無くなる胸を揉まれ、姫乃は歯を食い縛って嬌声を押し止める。
「お前の案内屋はどうなんだ?前戯・・・っつーの?これ。どーせさんざしてくれんだろ?」
「ッ知らない・・!―――関係無い・・・!!」
込み上げてくる快感と惨めさを表に出すまいと努めるも、コモンには見え透いている。
「ふぅん。人間のオスは優しいこった。―――けど」
「ひゃ・・ァッ・・・」
「俺は面倒くせぇ」
「・・・まっ、―――もうやだぁっ!!」
再び濡れきった場所に男性器をあてがわれ、身を捩る。
これ以上、こんな男に善がらせられたくなかった。
その思いだけで必死に抗っていると、耳元で何か囁かれる。低く、小さく。
(地蟲)
と。
―――頭に上っていた血が一気に冷めた。
思わず振り向けば、はたりと彼らと目が合った。
(そんな顔・・・しないでよ・・・)
一様に心配そうな、憐れんだ顔だった。
(ガクリン、エージ君、ツキタケ君・・・―――明神さん)
ここまで、色々な人に庇われて、助けられて、逃がされてきた。
・・・それなのにどうして今、自分が無力な彼らを見捨てられるだろう。
ゆっくり、瞬きをする。無理矢理口元に笑みを浮かべた。瞳には涙。
「今度は・・・私の番、ね?」
小さくつぶやいた声は彼らに届いただろうか。
分かったのは上に乗った男の低い笑い声だけだった。
「アッ・・く・・・んんッ」
姫乃はもう抵抗しなかった。もちろん応じた訳でもないが、コモンは自分に逆らいさえしなければ、意に介さないようだ。
早く事を終わらせてしまおうと、出来る限り身体の力を抜こうと努めた。
それを読み取るように敵の男はククっ、と笑いながら身を沈めてくる。
その度ビクリと震え縮まる膣を、息を吐く事で必死に緩める。その隙をついて侵略は進む。
ただその繰り返しだ。
「・・・ガキとはいえ、ふぅん。―――中々・・・」
狭い膣を命一杯拡げられる。エクスタシーを感じないわけではない。だがそれ以上に屈辱と、防衛本能が勝っている。ただそれだけだ。
姫乃は思いの他、冷静だった。
(ごめん、明神さん・・・!)
何度か関係を持ったとはいえ、別段貞操の約束を交わしたわけでも何でもない。
それでも心の中で繰り返すのは、初めて抱かれた男への謝罪だった。
根拠は無くても、謝りさえすれば自分にこびりつけられている汚れを少しでも薄められるような、
あくまで冤罪なのだと言い張れる気がして、姫乃はただ唱え続けた。―――それだけしか出来なかった。
「っア―――・・・」
びくんと華奢な背が反る。最後の数センチを無理矢理ズグっ押し込まれ、無意識に下腹に力が入った。
「ハハッ!さっきと比べて随分落ち着いてんじゃねーか。・・・そうこなくちゃあな」
はあっと大きく息をつき、キッと上に乗る男を睨み付ける。無論、コモンは気にもしない。
「その眼。・・・流石は桶川家の女だよ。・・・だからこそ汚し甲斐がある訳だ・・・!」
「ひッ・・・く・・あぁっ!」
グチュ、ズブッと、生々しく膣から男根を抜き差しする音が響く。
先刻以上に激しく胎内をかき回され、広げられた両足の中心からは間断なく透明な液体が流れ落ちた。
「ひゃ・・あっ・・・や、痛・・・」
「痛い?・・・こんだけ慣らされてんのに何言ってんだ?」
せせら笑いと共に、何度も何度も腰を打ち付けられる。その度、姫乃の喉からは悲鳴とも嬌声とも取れないか細い声が上がった。
「や・・・みょ・・じんさ・・っ」
「来ねーよ。馬鹿かお前」
冷めた声とは裏腹に、擦られる膣の中で異物のかさが増す。熱い。
涙が止まらない。霞んだ視界の端には虜囚の地蟲達が見える。彼らを思えばこそ、抵抗できない。
「悪かったなァ。―――白髪の案内屋のでなくてよォッ!!」
「ふぁっ・・・っアアァァッ!」
子宮に熱い衝撃を感じた。同時、再び膣が激しく収縮する。
一瞬だけ、頭が真っ白になった。
瞬きをすれば、自分の状況が朧気に理解できる。
(また・・・イかされちゃったの・・・私)
手放してしまえば楽なのに、それも出来ない姫乃の意識は彼女の手に残ったまま、コモンの精液の脈動をただ受け取る。
どくっどくっ・・・と自分の情欲が無抵抗の相手に注がれる感覚を味わって、コモンは満足そうに笑った。
「・・悪くはない。―――まだまだガキだけどな」
繋がった部分から溢れる体液と共に自身を引き抜いて、地蟲たちを囲っている部下に目配せした。
何かを感じ取ったのか、コモンの視線は遠く、暗闇の向こうを凝視している。
「ふぅん・・・。意外と早かったじゃねーか・・・。おい!」
主の呼び声に、焔狐たちはコモンの掌に吸い込まれていった。
「う・・・ぁ、は・・・」
倒れたまま、未だ朦朧としている姫乃にコモンの揶揄が落とされる。
「おめでとうさん。案内屋のご到着だ。・・・今の格好、よく見せてやれよ。」
今更ながら、全裸で秘部から愛液を垂れ流した姿を自覚して、姫乃は切り裂かれた制服をかき集めた。
震えながらコンクリートの壁際に身を寄せるが、何の慰めにもならない。
「あんないやさん・・・」
地蟲たちは声無く泣く彼女を思えばこそ、何も出来ずに絶壁に立ち尽くしたまま、動かなかった。
end