宵闇が辺りを支配する。全てを包み込んで。
今、この時から、私は人間ではなく、ただの人形に成り下がる。
口付けを交わす。そこに感情はない。儀式にも似た、冷たい合図。
「脱いで、オレに見せてくれよ」
その言葉に従い、私はひとつひとつ、身に着けているものを外してゆく。
生まれたままの私を見つめている。月光に照らされる私のカラダ。
「お前の体は、ホントに見事だな」
そう、もっと見て。そして私を追い詰めて。ギリギリまで。
私はただの人形。モノのように扱われたってかまわない。
私の愛しいひと… 明神。
彼の手が私の肌を這う。私を知り尽くしているその指。
どこを触れば私が感じるか、どこを触れば声を上げるか、全て知っている。
「…あっ…ん」
「早いな、まだ何もしちゃいねぇぜ」
「ん、でも…」
彼が触れたのは私の首筋。でも、その指がどこに触れても私は反応する。
そういうカラダになってしまっている。
すべて、アンタの所為。
その指が触れていないところなんて、このカラダのどこにもない。
じらさないで、早く…お願い。そう訴えかける私の欲望。理性なんてもう、どこにもない。
「後ろを向け。四つん這いになって尻をあげろ」
彼がそう言うのなら、私はそれに従う。
どんなに恥ずかしい格好だって構やしない。それが私の望み。
「ふん、もうグショグショじゃねぇか、恥ずかしくねぇのか?」
「あんっ… いやっ… そんなこと言わないで…」
嘘だ。もっともっと言って欲しい。私を貶めて欲しい。
「お前のここは、そうは言ってねぇみたいだぜ?」
言われなくともわかる。自分がどれだけ濡れているのか。
「これだけ濡れてるなら、もう前戯はいらねぇよな」
…嘘、いきなり?
いつもなら、少なくとも舐めてはくれる筈なのに…
だけど、待ち望んでいる自分がいる。壊して欲しいと願う自分が。
「お願い… 待ちきれないわ」
はしたない言葉。なんて下品な女。だけど嘘はつきたくない。自分に正直でいたい。
アンタを求めているの。今はただそれだけ。だから、だからお願い。
今すぐ来て…私の中へ。
「そうか、じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ」
「くっ…うあああぁぁぁっ!!!」
彼が侵入してくる。全身で受け止める。この瞬間が私の悦び。
「おおおおぉぉっっ!!!」
彼が悦んでいる。それを感じられるなら、私はもう何もいらない。
「すげぇな、いつもにも増してこの締めつけ、たまんねぇぜ…っ」
彼の動きに合わせて腰を振る。それも全て彼に教え込まれたものだ。
…ぐちゅっ、くちゃっ、くちゅっ。
猥褻な水音が、私の中の獣を解き放つ。
「あぁんっ、あんっ、はぁん、はぁっ…」
抱き慣れたカラダ。彼の手が私の乳房を這う。その頂をこねくりまわされ、私はさらに高みに昇る。
「あああぁぁっ!!! んんっ…やああぁぁっ!!」
彼が私を突き上げる。そう、そのまま、そのままよ。私を追い詰めて。やめないで。
私が昇り詰めるまで。奥まで、ずっと突いていて。
頭のなかがどんどん空っぽになっていくのがわかる。もうすぐ、もうすぐだから…
「くっ…! お前、オレを吸い尽くす気か…?」
そうよ、アンタの全てが欲しい。何度だって受け止めてみせる。私のこのカラダで。
他のことは忘れなさい。そのためだけに私はここにいる。
今この時、私はアンタだけのモノ、アンタは私だけのモノ…
「うっ…! うおおぉぉぉぉっっっっ!!!」
「あっ…! いやあぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
そうして私たちは同時に達する。この満足感を共有して。
はぁっ…はぁっ…はぁっ………
急激に冷めてゆく体。私たちのつながりは、ただ、それだけだ。
そう、この人は去ってゆく。私のもとから。
消耗しきって力の抜けた体を横たえたまま、私はただ荒く息をつく。
「邪魔したな」
彼が服を着て、この部屋から出て行くのをただ眺める。行く先は知らない。私は彼を縛れない。
次に彼が私のもと訪れるのは、いつのことだろう…
答えの出ない問いを投げかけながら、私は深い眠りの世界に落ちていく。
Fin