・・・one day・・・
「っ・・・パジャマ・・汚さないでって言ったのに・・・」
月明かりだけが光源の薄暗い部屋の中、衣服を脱ぎきらないうちに行為を強いられた姫乃が恨めしそうに呟く。
「へ?あ、・・・ははっ・・・ゴメン。」
先ほど明神が吐き出した精液が、薄いピンクのシャツに生々しい染みを作っている。
あーあ、とため息をつくと姫乃は月明かりに照らされてテラテラと気持ち悪いツヤを見せるパジャマの上を脱いで、染みを内側にたたむと小脇に抱えた。
ズボンとタンクトップ姿になった姫乃はそのまま管理人室を後にしようしたが、その小さな手を明神が掴んで引き止めた。
「ひめのん、そのままじゃ風邪引くだろ。・・・俺のシャツ貸したげる。待って」
姫乃の返事を聞くより早く、明神はタンス代わりにしている押入れから、男物の白いワイシャツを出して姫乃に手渡した。
「はい。とりあえずコレ着て。ほら」
「え?・・・ちょ、なっ・・・」
口より手が先。なぜかタンクトップと汚れていないパジャマの下まで一瞬で剥ぎ取られ、羞恥を感じるまでも無くシャツを着せられた。
あっけに取られた姫乃から少し離れて、明神は一人で得心したように唸る。
「・・・やっぱ、一度は見ときたいもんな。うん。・・・いい。うんうん。」
正直、シャツを借りる前より確実に寒いのだが、どこか楽しそうな明神に何も言えない。
「え―――と・・・じゃあ、私戻る・・・ってちょっとおォ!!」
言い終わる前に布団に押し倒され、夜目に慣れた瞳が自分の上に乗った男の顔を捉えた。
「貸し出し料金頂きます。お客様。」
―――結局。文字通り身体で払わされた姫乃は、翌日当然の如く遅刻したとか。
・・・some day・・・
「・・・ねえ、これ絶対変」
管理人室に何着かあると聞き、着物を着たいと言い出したのは確かに自分だ。だけど何ですか、この独特の配色と肌け方。
「いいね〜ひめのん!いやあ、アッパレ!」
そして、なんで目の前の着付けたご本人までノリノリの着流し姿なんですか。
質問を口にする暇は無く、明神の吉原ごっこは明け方まで衰えを見せなかったらしい。
・・・other day・・・
夏のある日。今日は流星群が見られるらしい。東京ではあまり期待できないものの、とりあえず二人は屋根に上ってみた。
「あー、やっぱ厳しいかー。・・・そうだひめのん、喉渇いたろ。コレ飲んで。」
「え、あ・・ありがとう・・・」
なんだか変なタイミングで水の入ったコップを渡された。本当は喉なんぞ渇いていないのだが、建前として一口飲んだ。
「・・・ッ〜〜〜〜!?げほっ!・・・こ、これお酒じゃない!?やだ・・・なんか、熱い・・・」
早速回ってきたらしい。明神はいきなり真面目な顔になると、神妙な口ぶりで言う。
「あ〜あ。ひめのん、未成年なのに。これは十味さんに言って逮捕だな。」
「え・・・やだ、言わな・・・言わないでよぉ」
酒のせいで姫乃が判断力を失ったのを確認して、明神は交換条件を持ちかけた。
「そこまで言うんなら、言わないでおいてあげても良いけど。・・・俺の良心が痛むなあ。慰謝料払ってくれるの?」
「へ・・・?う、うん。でもわた、し・・・お金な・・・」
「じゃあ代わりに俺のお願い聞いてくれたらチャラにしてあげよう。俺が優しい奴でよかったね、ひめのん」
にっこり微笑まれて、姫乃はホッと息をついた。
「明神さんありが」
「脱いで。ああ、下だけでいいよ。俺優しいから。」
―――その後、屋根が冷たいからと言って、明神は自分が下になる優しさまで見せ、姫乃から多大な慰謝料をふんだくったという。