なんだよ、これ―――――?
偶然通りがかった管理人室の前で、エージはぼんやりと立ちつくしていた。
中から聞こえる啜り泣き混じりの悲鳴は途切れることなく、今ここで
何が行われているのかを赤裸々に物語っている。
しかし、理解が追いつかない。
二人がそういう関係にあることを、かなり前からエージは気づいていた。
時々真夜中に忍び足で部屋を抜け出す姫乃。次の朝には決まって寝不足気味の明神。
気づいていたが、気づいていない振りを続けていた。
薄暗い部屋で二人が何をやっているのか、知りたくもなかった。
それもこれも全て、明神と姫乃が互いに惹かれあっていると思い込んでいたからだった。
だが、扉の中から聞こえる姫乃のこの悲痛な泣き声は、いったい何なんだ?
無意識のうちに身体が動いた。扉に向かって突進する。
―――――バシッ!
触れた瞬間、強烈な衝撃が走り、エージの身体は後ろに弾き飛ばされた。
予想外のダメージ。あまりの痛さに思わず呻き声が漏れる。
………結界、かよ。
これが張ってある限り、陽魂は絶対に中には入れない。声すら届かない。
こんなことが出来るのは、もちろん明神をおいて他にない。
つまり、この隔離された空間の中で姫乃をいたぶっているのは、間違いなく明神本人だということだ。
何故、という問いがエージの頭の中を駆け巡る。
好きあってるんじゃなかったのかよ?
それともただ、ヒメノをオモチャにして弄んでるだけだったのか?
そういう、奴だったのかよ。
どうなんだよ、答えろよ、明神!
床に這いつくばったまま、クソったれ、と呟く。たった一枚の壁に阻まれて手も足も出ない。
この結界を破るだけの力がない自分。彼女を助けてやれない自分。
姫乃がずっと明神を特別な目で見ていたことを知りながら、認めたくなくて
気づかない振りをしていた自分の馬鹿さ加減を呪う。
明神がこんな奴だと知っていたら絶対に渡さなかった、例えどんなことをしてでも。