「ガクリン!!」  
姫乃は叫んだ。  
ツキタケとエージを明神を探してこいと言いくるめて先に逃がし、自分はそこに踏みとどまった。  
鳥の首を擁したアニマとガク。力の差は均衡していて、自分はただただ見守ることしか出来ない。  
そんな中、ガクの強烈な一撃をまともに身に受けたホルトは、たまらずその場を飛び去った。  
「ホハッ!・・・覚えているが良い!!この身に受けた屈辱・・・何倍にもして返させてもらう!!」  
一陣の風を残して闇に消えていくアニマを見送り、姫乃はガクに駆け寄った。  
「ガクリン・・・!大丈夫?」  
傷ついたガクに心配そうに手を伸ばす姫乃。その手を冷たい感触が覆った。  
(・・・え?)  
当然だ。ガクは陽魂。生者の姫乃に触れられるはずが無い。姫乃はその事を誰よりも理解している。  
なのに。  
「ガ・・・クリン・・・?」  
今この瞬間、目の前の生者ならぬ男は、自分の手を握り返しているではないか。  
「・・・・。」  
無言が重圧と化してのしかかる。姫乃はただただ、なぜか自分を慕う男を見つめることしか出来なかった。  
「ひめのん・・・俺・・・」  
今にも消えそうな声で自分を呼ぶ、実体を持たないはずのガクに姫乃はゆっくりと問いかけた。  
「うん・・・助けてくれてありがとう・・・。どうか・・した?」  
内心触れられることに驚きながら、柔らかく微笑んで姫乃はガクの手を両手で包みこんだ。  
そのガクの手の感触に概視感を覚える。これは・・・  
姫乃の思案をよそに、ガクはどこか呆けた目で姫乃を見つめ・・・ぽつりと言った。  
「ごめん・・・スイッチ・・・入った・・・。」  
「え・・・?」  
行き成りのことで姫乃は目を見開いた。冷たいような暖かいような、不思議な感覚が口内を満たした。  
「っや・・・ふぁっ・・・!」  
華奢な腰に手をあてがい、小さな頭蓋に手を添えて、ガクは姫乃の唇にむしゃぶりつく。  
「ガクリンっ・・・!!やだ・・・冗談でしょ・・ねぇっ!?」  
小さな拳でガクの胸を叩くが当の本人は動じる気配さえ無い。  
むしろ、その軽い反動を感じるたびに不安に陥るのは姫乃の方だった。  
(気のせいじゃ・・無い・・・触・・・れる・・・?)  
もちろん生身に触れる感触ではない。圧縮した空気を叩くような抵抗を感じるのだ。  
「・・・いやっ・・・やめて・・・・放してぇっ!」  
身を捩っても放してくれないガクの胸を、姫乃は力の限り突っぱねた。・・・いや、突っぱねたつもりだった。  
「あ・・・」  
少女の細い腕は軽い抵抗を覚えて・・・そのままガクの身体をすり抜けていた。  
まるでさきほどの陰魄・・・アニマと同じように。  
 
姫乃があっけに取られている間も、ガクは我を失ったように彼女を求め続けた。  
首筋に舐めるようなキスを落とし、セーラー服の下から、姫乃の華奢な身体を撫で回す。  
「っきゃ・・・ぅんんっ」  
やはり生身の人間の体温ではない。自分の体温と同じ温度の風呂に入った時に感じる浮遊感。  
そんな、触られている・・・と確信が持てない。だが同じくらい触られていないとも言い切れない、  
微妙な触感で、ガクの骨張った大きな手は、姫乃の身体を蹂躙していった。  
「あっ」  
今までブラジャーの上から擦っていた指が、唐突に内側に侵入してきた。  
かと思うまもなく、先ほどまでの緩さを取り残して、痛いくらいの力で揉みしだきだす。  
「やぁっ・・・あっ・・い・・・痛いよっ・・・ねぇ!」  
自分で意図して触ったことも、ましてや第三者に許したことも無い乳房を、  
見知った、気が弱いと思っていた目の前の男に犯されるのだ。抵抗せずにいられるはずがない。  
「やめ・・・やめてったら!・・・ガクリンッ!!・・・っあ!」  
だがそんな姫乃を下水道の壁に押し付け、ガクは更に行為を続けようとする。  
「・・・っひめ・・・のっ・・・」  
耳元で熱に浮かされた男の声を聞いて、姫乃は全身を粟立てた。  
ダメだ。  
この男は自分の知っているガクじゃない。  
いつものギャグのようなアプローチをしてくるあのガクではない。  
そう悟ったと同時、ガクの手が姫乃のスカートの中に伸ばされた。  
「・・・やめなさい!ガクッ!!」  
獣のように自分を力づくで征服しようとしていた男の手がビクリと止まる。  
思わず怒声をあげた姫乃に、ガクははっとして全ての行動を停止させ、見開いた目で半裸にされた少女を見つめた。  
「あれ・・・?・・・俺・・・」  
「どうしちゃったのよガクリンっ!!」  
大きな瞳に涙を一杯に溜め、半ば脱がされた衣服の胸元を絞りながら、姫乃は叫んだ。  
「こんな・・・こんなの・・・私の知ってるガクリンじゃないよ!  
 なんで・・・なんでこんなこと・・・っ!?・・・ねぇ!?」  
問い詰められたガクは呆然と立ち尽くし、少し震えた声で謝罪の言葉を口にした。  
「ごめん・・・ひめのん・・・。  
 ・・・俺が陰魄と陽魂の間を行き来してるのは・・・知ってるよな・・・?」  
「・・・うん・・。」  
束縛していた力を緩め、彼女を開放しながらガクは続けた。  
「たまに・・・こうなるんだ・・・。自分を抑え切れなくて・・・暴走・・・するんだ・・・」  
弁明を続けるガクから、淡い光が放たれている。  
姫乃は不思議に思いながらも、相槌をうった。  
 
「さよならだ・・・ひめのん・・・。」  
「えっ・・・?」  
唐突に言われた台詞を理解するのには時間がかかった。その間にもガクは冗談とは思えない口調で言葉を続ける。  
「もうじき俺は・・・自我に破綻を切らせて・・・消えるよ・・・」  
「な・・・に?・・・ちゃんと、せつめ・・・」  
姫乃が言うそばから、ガクの身体は透け始めた。  
「俺をこの世界に縛り付けるのは未練なんだ・・・どんな未練なのかは・・・ひめのんの想像に任せる。  
 けど、俺はひめのんが・・・ひめのんが嫌がることはしたくない・・・。」  
言うそばから、ガクの身体はみるみる内に透けていった。  
「本当に・・・ごめんひめのん・・・。俺は・・・」  
「ちょ・・・待ちなさいガクリン!!」  
強い口調で口を挟まれ、同時にガクの身体はピタっと透けるのを止めた。  
「それって・・・つまり・・あの・・・その・・・  
 ・・・・〜〜〜〜つまり!!・・・えっ・・・と・・・あの・・・えと・・・」  
「ひめのんとしなきゃ消えるんだ。」  
「〜〜〜〜〜〜!!!」  
リンゴのように頬を染め、16にしてまだ男を知らない少女はその場に硬直するしかなかった。   
「だ・・・だって変じゃない!?だってもし・・・もし・・・」  
「ひめのんとしたら?」  
「そう!それっ!・・・それでも未練が無くなって消えちゃうんじゃ・・・」  
しどろもどろしながら必死に言い募る姫乃に、ガクはゆっくり言い含めた。  
「大丈夫だ・・・ひめのん・・・俺の目標は・・・もっと・・もっと高いから・・・。」  
・・・乾いた風を感じた。つまりはこういうことだ。姫乃が自分の身体を許せばガクは助かるが、  
もしここで拒めば、彼は魂を繋ぎ止める自我に矛盾を生じて消滅してしまう・・・と。  
 
拒否権などあったものではない。  
 
はあっ・・・とため息を漏らし、姫乃はガクを見つめた。  
「・・・最低。」  
ガクは嬉嬉としたものだ。  
「ひめのん・・・それは、俺と・・・ひとつになってくれるってことだと・・・取って良いのかい・・・?」  
「・・・じゃなきゃガクリン、消えちゃうんでしょ?」  
「うん」  
悪びれる様子さえ無い。これでもし、さっきの透けていく様を見なければ、絶対に許さないのに。  
「もう痛く・・・しない・・・?」  
「しない。絶対。」  
言いながら抱きしめてくる力は先ほどと比べても至極穏やかだ。  
姫乃はゆっくりと四肢の力を抜いた。  
 
ガクが脱いだコートに身を横たえて、姫乃は自分にのしかかろうとする男をみつめた。  
ガクは何と言うか・・・細い。そして長い。  
身長の無い自分など、簡単にすっぽりと抱き込められてしまうだろう。  
もう余計なあがきは諦めた。抵抗しても、姫乃の肉体はガクを通り抜けてしまうので無駄だとよくわかった。  
なにより、助けてくれたというのに、自分と今添い遂げねば消えてしまうというガクを見捨てることなど出来るわけが無い。  
「ひめのん・・・そんなに・・・みつめないでくれ・・・。」  
ねっとりと耳元で囁かれ、姫乃はゾッと背筋を張るが、ガクはお構い無しに姫乃の身体を暴いていった。  
「っ・・・」  
まさか初体験を下水道で・・・しかも人間を卒業した存在と迎えるなんて考えてもみなかった。  
新しかったセーラー服は上にたくし上げられ、白いAのブラジャーが呼吸に合わせて不規則に上下する。  
固く目を閉じ、寒さと羞恥と恐怖で小刻みに震える姫乃の白い頬を、空気よりも冷たいガクの手がそっと包みこんだ。  
「かわいいよ・・・ひめのん・・・」  
あまりにも近い場所から声が降ってきたので、姫乃は思わず目を開ける。  
文字通り目と鼻の先にあったガクの唇が半拍置いて、自分に重なった。  
「ぁ・・・んっ」  
絶対に声は出さないと決めていたのに、予想していたよりも深く口付けられ、思わず吐息のような悲鳴を上げてしまう。  
「ぅっ・・んん・・・ふ・・・っあ・・・ぁ」  
初めて他人の舌の感触を覚えさせられた姫乃は、顔を真っ赤にして酸素を求めようとする。  
それはいつかハリウッドの映画で見た、恋人たちが交わす濃厚な、あの独特のリズムの付いたキスだった。  
予想以上の息苦しさに首を振っても、突き抜けないほどに相手の胸に手を付いても、ガクは姫乃を開放しようとしない。  
むしろ獲物を求める猟犬のように、姫乃の唇を追跡する。  
「・・・はっ・・・ゃ・・・ぅんんっ」  
暴れる頭部を両手で固定して、ガクは姫乃の口内をじゅっと音を立てて吸引した。  
とろりとした目で少女から顔を放し、自分以上に焦点の合わない姫乃の髪を梳く。  
「まだだよ・・・まだまだ・・・まだ・・・満たされない・・・・ひめのん・・・」  
言葉の最後はくぐもってよく聞き取れない。ガクの口はしゃべること以上に姫乃の身体に夢中なのだから当然だ。  
白い下着はいつのまにか剥ぎ取られていた。  
「っ・・・ぅっ・・・はぁ、んっ・・・」  
肺への空気はやっと十分量を確保できるようになったが、今ガクが集中的に攻撃しているのはその皮膚の上・・・  
大きくはない乳房なのだから嫌になる。  
細めた舌先で先端をかすめ、かと思うと片方を細いながらも力強い手で揉みあげる。  
予想するとか応じるとか、そんなレベル以前の姫乃はどうすればいいのかわかるはずがなかった。  
「やだ・・・ぃあっ・・・あァッ!!」  
抵抗はしてみる。首を激しく振り乱して、卑猥な緩急差で胸を揉み続ける手首を捕まえようと両手を使うが、  
そのたび空を切った自分の手を見つめ、いや・・・と結局哀願の言葉を募るしか出来ない。  
―――先ほどから何度繰り返しただろう。  
その度にガクは陰気に微笑むのだ。まだだよ・・・と。  
 
上半身に与えられる快感から逃れるため、広げたコート一枚分の面積の中で身をよじるが、  
姫乃に比べ、ずっと上背のあるガクにしてみれば、抵抗のうちにも入らない。  
「あっね、・・ねぇ・・・ガクリ・・っヒッ!」  
姫乃はビクリと大きく震え、無意識に身体を頭の方にずらそうとした。  
先ほどは未遂に終ったスカートの中を、冷ややかな感触の指が這い出したためだ。  
太ももの外側をじっとり撫でる手は徐々に内側に侵攻していく。  
「―――ッ・・・」  
恐ろしさから思わず大腿に力を込めるが、ガクの細い指は難なく中心にたどり着いてしまった。  
「大丈夫・・・優しく・・・するから」  
言葉通りそっとショーツの上から中心部を撫でる。  
「いっ・・・あぁ・・ん・・・ゃああっ」  
胸を責められて感じるじわっとした快感とは違う、くすぐられたような、しびれるような感覚が姫乃の全身を取り巻いた。  
「・・・邪魔。」  
思わず両足をつった様に真っ直ぐ伸ばしてしまった隙に、ガクはするりとショーツを剥いでしまう。  
十分真っ赤だが、更に色を強くして、ぎゅっと目と口を引き結んだ。  
ガクは無表情に姫乃の足をそれぞれ掴み、自分の身体を割り込ませる。  
こうなるともう姫乃に足を閉じることは許されない。羞恥と恐怖から、固く瞑った瞼から涙がこぼれた。  
「やっぱり・・・薄いね・・・ここ」  
「・・・ぅっ・・・。」  
薄い茂みを梳くように撫でられて、姫乃はあまりの恥ずかしさにヒクリと小さくしゃくりあげる。  
先ほどからのそんな恥らう行動がガクの支配欲を無闇に刺激するのだが、ガクはガクで耐えていた。  
陰魄に限りなく近づいた今なら、姫乃の抵抗を全て封じた上で少女の身体を意のままに蹂躙出来る。  
だがそれは同時に彼を受け入れてくれた姫乃を失うことに直結しているのだ。  
たとえ同情だとしても、こんな自分を受け入れてくれた少女をどうして裏切れるだろう。  
体中の筋肉を強張らせている姫乃を複雑な心境で見下ろして、ガクはもう一度、今度は本当に優しく口付けた。  
「ふっ・・・うぅっ・・は・・・ぁっ」  
先ほどの激しいキスとは違う労わる様な甘い動きに、姫乃は無意識に力を抜いてガクに身を任せ始める。  
(この位なら・・・怖くないのに・・・)  
そう思った瞬間、魚のようにビクンと身体が跳ねた。  
「っああぁぁっ!?」  
思わず下方に目をやると、ガクの指が自分の両足の付け根に埋まっていくのが辛うじて見えた。  
「や・・・なに・・・?」  
不安そうな瞳で自分を見つめる姫乃の問いには答えずに、ガクはゆっくりと細く長い中指を出し入れさせる。  
「んっ・・・あ・・・んンっ・・・」  
体内を何かが満たす感触と喪失する感触が交互にやってきて、くすぐったさを感じた。  
自分の身体に海があったなら、潮の満ち干はこんな感覚だろうとぼーっと考える。  
それなりに冷静でいられるのは、まだ身体が快感を認知できないためだった。  
先ほどまでは恐怖で震えることしか出来なかったが、先ほどのキスで随分と落ち着いてきた。  
(まだ・・・終らないの・・かな・・・)  
男女のことなど殆ど知識がない。だから姫乃には終点がどこなのか、皆目見当が付かなかった。  
 
ぐちゃ・・ねちゃ・・・と粘液の音が出てくるのに比例して姫乃には、こそばゆさとは別の感覚が芽生え始めていた。  
「あっ・・・んぁ・・はぁ・・・んっ」  
いつもは青白いガクの顔がうっすら赤みを帯びてきている。  
指はいつのまにか二本に増やされていたが、自分の神経を駆け回る感情が何なのか懸命に思考していた姫乃は気づかなかった。  
身体の下のガクのコートを握り締め、名の知れない心地に支配されまいと必死に耐える。  
「ひめのん・・・もう・・いいかい?」  
「・・・え?」  
言われている意味が分からなかった。そもそも、男と女のなんたるかを知らない。  
(・・・なんだ。よくわからないけど・・・終わりってこと・・・だよね?)  
正直拍子抜けした。てっきりもっと何か、すごいことをされるのだと思っていた。  
だがこれで終わりならもちろんその方がずっと良い。  
これ以上恥ずかしい格好をしなくて済むなら、さっきから自分を取り巻く感情の正体などどうでも良い。  
姫乃は強張る顔の筋を必死でコントロールしてガクに微笑んだ。  
「うん・・・いいよ。―――ガクリン・・・」  
「・・・わかった」  
ずっ・・・と指を引き抜かれたのを感じる。ひくっと身体が震えるが、まあ仕方がない。  
やっと開放された・・・という安心感から、姫乃はほうっ大きく息を吐いて、全身の力を思い切り抜いた。  
「・・・いきます」  
「・・・・・はい・・?」  
意味不明のガクの言葉に首をかしげ、彼を見上げることに遅れて一秒、ズン・・・という衝撃と共に、姫乃の身体が仰け反った。  
「ひっ・・・あぁぁ・・・・っ・・・!!?」  
身体を二つに裂くような、信じがたい痛みだった。もう終わりだと思っていた分余計に酷い。  
あまりに突然の事に姫乃は混乱するばかりで泣き叫ぶ。  
「な・・・何っ?やだっ・・・これ・・・なんなの・・いやあああぁぁっ・・・・!!」  
必死に首を振る姫乃には見えてはいないが、姫乃の中心にはガクの男根が突き刺さっていた。  
「ごめん・・・もう・・・ヒューズ飛びそうなんだ・・・」  
「やぁ・・やだよぉ・・・ガクリ・・・やだあああっ」  
姫乃はガクのセーターを掴もうとして失敗し、せめて自分の指を噛み締めて声を殺そうとした。  
ところがガクはそれすら許してくれない。  
「駄目だよ・・・自傷癖は・・・治さないと・・・」  
「ふあ・・・んぁっ・・・んゃ・・ぁあぁっ」  
姫乃の華奢な両手を片手で戒めながら、大木が倒れるようなめきめきという音を伴ってガクは身を進めた。  
自由を奪われた少女は唯一主張を許された口で、呂律の回らない哀願を唱える。  
「ガ・・・クリっ・・・やだぁ・・・ね、いや・・痛いよぉっ」  
「・・・ひめのん・・・本当に、痛いだけ?」  
何を言っているのかわからない。痛み以外に何があると言うのだろう。  
苦痛に思考を占領され、じたばたと暴れようとするが、ガクは容易に抵抗を押さえつける。  
「まだ・・・半分も入ってないよ・・・」  
 
暴れる華奢な身体を身体で押さえつけ、ガクは自分を無理やり根元まで捻じ込んだ。  
「っあ・・・・・・・ッ」  
あまりの衝撃に、姫乃は思わず息を詰まらせ背筋を張る。  
ガクはコートと腰の間に出来た隙間に手を差し入れ、上体を屈めて白い首筋にチュッと痕を付けると荒い息をつきながらゆっくり尋ねた。  
「ひめのん・・・平気?」  
痛みに飛びそうな意識の下でただ、ひどい・・・と思った。  
(こんな・・こんな痛くて・・・酷いこと・・・っ)  
知らなかったのに。こんな仕打ちを受けるなんて。  
それでも彼を、自分のピンチを身を呈して救ってくれた彼をどうして消してしまえるだろう。  
ガクを否定したい気持ちと、強い感謝とが鬩ぎ合い、結局涙を流して感情を嚥下するしかできないのだ。  
「ねぇ・・・お・・わり・・・?」  
脈を打つ結合部の熱さを必死に無視して、自分が見上げるガクに姫乃は聞いた。  
だが自分を見下ろす男は無常にもゆっくりと頭を振る。  
「・・・動くよ」  
「えっ・・・ひゃっ・・・んああぁぁっ!!?」  
グプッグチュッと粘性のある水音を立てて、ガクが自身を打ち付けてくる。  
頭のほうに体がずり上がり、痛みに占領されてうまく言葉が紡げない。  
「いやぁ・・・っつ・・あぁッ・・やだああぁぁッ!」  
「んぁ・・・っ、ヒメノッ・・」  
耳元で囁かれる声が甘い。ゾクリと背筋が振るえるが、首を振っても開放してくれるわけがない。  
「やだっ・・・やめてよぉッ・・・いやあァッ!やあぁ!!」  
拒絶の言葉しか紡げないが、ガクはやめようとしない。  
「もっと・・・気持ちよく・・してあげる・・・」  
「ひっ・・・!!」  
クリトリスを摘まれ、快楽より痛みに脳が痺れる。  
「・・・イッて」  
ガクの声がフィルターを通したように霞んで響いて、姫乃は絶頂に達した後、意識を失った。  
 
「・・・ん・・」  
気がつくと自分は元通り服を着て、下水道のコンクリートに寝そべっていた。  
「おはよう・・・ひめのん」  
すぐ傍から降った声に、姫乃は驚いたがなんとか笑って応える。  
「あ・・・うん・・・ごめん。寝ちゃった・・・」  
脚の付け根から響く鈍痛が、夢ではないと知らせている。  
のそりと近寄るガクに身を固くしながら、姫乃は憎らしいほどマイペースな男を見つめた。  
「・・・行こう。ツキタケ達が待ってる」  
そうだ。思い出した。急がなければ。  
「うん・・・。早く明神さん探そう!」  
口にした案内屋の名にガクはにわかに顔を歪めたが、握れない手の代わりにピコハンの柄を差し出した。  
「愛の障害は・・・必ず排除するからな。ひめのん」  
・・・それって何気に明神さんも入ってない?とは聞けずに、姫乃はだるい身体で無理やり走り出した。  
 
 
end  
 
 

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