ゆっくりと丹念に愛撫され、姫乃の奥底に眠っている官能の弦が  
緩やかに爪弾かれる。既に呼吸は浅く定まらず、時折くっと喉を鳴らして、  
じわりと体の中心に集まって行く得体の知れない不定形の熱源に  
怯えた。気持ちいいと認めるのは憚られたが、もっと触れて欲しいと  
思っていた。臍の下の部分、女の器官がじんじんする。  
 するりとガクの手が、今の今まで触れるのを意図的に避けていた  
下肢に伸びた。  
 デニム地のスカート、その両足の狭間に滑り込んで、肌理の細かい  
太腿の内側をこすった。じょじょに手の感触が上へと昇っていくのに  
耐えられず、思わず姫乃の腰が浮く。  
 そして辿り着いた薄い布地越しに、ガクの中指が秘裂をなぞった。  
「ひゃっ」  
 そんなささやかな刺激にも、今体の中で最も敏感になっている場所だけに、  
姫乃の声が跳ね上がる。  
 姫乃の反応に意を得たように、二度、三度と指がその部分を擦る。  
 その動きに、もどかしく、切羽詰った感覚が姫乃の中でせり上がり、  
息が途切れて苦しさに喘ぐ。  
「どう?ひめのん」  
と訊ねると、姫乃は不規則な呼吸を整えようと努力しながら、  
鼻に掛かったような甘い声で  
「わかんない・・・けど、変な、感じ・・・んっ」  
 一際強く股間の窪みにガクの指が押し当てられ、圧迫感が齎す痺れに、  
ひくんと姫乃の体が跳ねる。  
 と、不意に背中に当っていたガクの体の感触がなくなったかと思うと、  
肩と背中に腕を回され、ゆっくりと畳の上に押し倒された。  
視界が壁から天井へ、その端にはガクの黒い髪も映った。  
 体を入れ替えて後ろから前へと回り込んだガクが、姫乃の  
立てた両膝に手をかける。その意図を察して姫乃は  
咄嗟に足に力を込めたが、易々と足の間に割り込まれてしまった。  
 既に腰まで捲れたスカートの中から、一息に、パンティーが引き脱がされる。  
「や、やだ、そこ、見ないで・・・!」  
 滑らかに丸い膝小僧に手を置いたままの、ガクの視線の先を感じ、  
姫乃はいやいやをするように頭を振って身を捩ったが、どうにもならなかった。  
 下半身だけ生まれたままの姿にさせられて、申し訳程度の  
恥毛が生えたその下、薄桃色に色づいた秘所を見つめていたガクは、  
「濡れてる」と言った。真っ赤になった姫乃は両手で顔を覆った。  
恥ずかしくて気絶しそうだったが、それさえ許されないほど  
体に熱が篭っている。  
「感じてくれてるんだね。嬉しいよ、ひめのん」  
 
 弄られたことで敏感になり、緩やかにひくつくそこに顔を埋める。  
 ぬるい何かで襞に沿ってなぞりあげられ、姫乃は「ぁん!」と声を上げた。  
(が、ガクリン、舐め・・・て、る!?)  
 驚きと羞恥で頭の中が真っ白になる。知識として知ってはいるが、  
自分がその対象になるなどと考えたこともなかった。  
もし、そんなことになった場合、絶対に相手を撥ね付けると思っていたのに、  
今こうやって状況に晒されていると、思うように体に力が入らず全て  
ガクに委ねてしまっている。  
 何より、さっきまでの間接的なもどかしさではなくダイレクトに  
伝わる刺激に、姫乃は確かな快感を覚えていた。  
「あ、や、ぁ・・・あん」  
 自分のものではないような、高く甘えた声が溢れ出てくる。  
同時に、秘所から溢れ出る愛液の量も増した。  
 ぴちゃぴちゃとミルクを飲む犬のように音を立てて、ガクの舌が  
愛液を舐め取り、それを全体に塗りこめ、時に啜る。  
 丹念に、花弁の形をわざと姫乃に教え込ませるように舌が動く。  
可憐な雛尖はぷっくりと膨れ上がって、蜜を絡めると艶々と赤い輝きを放った。  
「はぁっ・・・あん、あっ、あ、ああ」  
 姫乃の小さな丸い膝がふるふると震え、爪先が強張って突っぱねる。  
姫乃の限界を感じ取ったガクは  
彼女を一気に上り詰めさせるべく、特に姫乃の反応が良い、赤く充血した  
突端を執拗に責めた。舌先に  
引っ掛けるようにして何度も弄る。  
 耳に届く彼女の悦びの混じった喘ぎが何よりも愛しく、  
聞いているだけで達してしまいそうになるのを押さえ、  
ざらついた舌で勢いをつけて雛尖を擦った。  
 その瞬間、一際高い声をあげ、姫乃の白い背中が反り返り、  
柔らかい内腿がガクを押さえつけるように挟み込む。  
 全身をわななかせて絶頂を迎えた姫乃は、ふつりと糸が切れたように  
脱力した。  
 薄い胸を大きく上下させ、荒い息を一生懸命整えようとして、  
時折んっと苦しそうに喉を鳴らして、  
渇いた喉に唾を飲み込んでいる。  
 ガクは姫乃の膝から手を離し、宥めるようにそっと彼女の  
脇腹の辺りを撫でさすった。半端に脱がされた姫乃の薄手のシャツが  
くしゃくしゃになっていて、背中に直に畳が当ってしまっている。  
 これからの行為で姫乃に負荷をかけぬよう、ガクはコートを脱ぐと  
それを畳の上に広げ、そこに姫乃を横たえた。  
 まだ息を荒げている姫乃が潤んだ目で見上げてつっかえつっかえに、  
「汚れちゃうよ」と言ったが、「大丈夫」と返した。  
 大丈夫、何故なら汚れはしないから。何より君に汚いものなんて  
何一つとしてない。  
 まだ快楽の余韻に浸る姫乃の両足をもっと広げ、更に体を割り入れる。  
ズボンの前を寛げて、とっくにいきり立って痛みさえ覚えている  
男茎を取り出す。手に持つそれが、まるで生きている頃のように  
脈打っているような既視感を覚え、動きが止まる。  
「ガクリン・・・?」  
 
 姫乃はガクを見た。ガクははっとしたように姫乃を見下ろし、  
そして微かに笑いかけた。  
 その笑いの意味が、姫乃には分からなかった。  
 膝裏を掴んで足を抱えられ、濡れそぼったそこにひたりと  
押し当てられた感触に、自ずと姫乃は覚悟を決めた。  
 初めてなら、最初のときはとても―――――――――そう、とても  
苦痛を伴うものだと聞いていたので、来るべき痛みに耐えるよう。  
 尻に伝うほど溢れた愛液を何度か軽く擦りつけ、用意を整えたガクは  
ゆっくりと動き出した。  
 襞と襞の間に自分自身を押し付けるようにして、だが決して  
膣の中に挿入することなく、蕩けた柔らかい場所に擦り付けてくる。  
 先程の快感から醒めきっていないそこは刺激にとても敏感で、  
白い喉を反らして声を上げながら、予想していたのとは違うガクの行動に、  
姫乃は戸惑った。  
 愛液で滑るそこをガクの男茎で擦られるたびにぬちゃぬちゃと  
卑猥な音がして、強烈な快感が電気のように背筋を奔る。  
 経験がないので、男の人はまず始めに「そうした」あとに  
本当の行為を行うのだろうかと思ったが、  
その瞬間鮮烈に脳裏にガクの言葉が甦った。  
「絶対痛いことはしないから」  
と、言ったのだ。  
(どうして・・・!?)  
 その後の、他愛ない自分の約束を守っているわけではない。  
あれは単なる言葉の綾のようなもので、  
こうなると決めたからには、多少の痛みなどむしろ当然で、  
それを受け入れてこそ一つになれると思ったのに、それなのに。  
 どうして。  
 そして姫乃はガクの先程の小さな笑いの真意を知った。  
 彼の名前を呼ぼうとしたを見計らったように、ガクは強く腰を突上げて  
ぬかるんだ秘所を擦り上げて  
姫乃の唇からは甘い嬌声しか零れなかった。  
「は・・・っ」  
 呼吸が・・・いや、勝手に呼吸と思い込んでるだけなのか?  
兎に角それに類するものが乱れ、掠れた  
吐息めいたものが口をつく。こんなことは何年ぶりだろうか。  
記憶を呼び覚ますのも無為だった。  
 本当は彼女の中に自分を埋めてしまいたかったのだけれど、  
心の奥で何かが制した。  
 認めたくはないが、決して認めたくはないが、姫乃の純潔を  
奪って苦痛と悦びの涙を流させるのは、  
既に死んでしまっている自分ではなく、彼女と同じように  
温かい血潮を持った生きた人間の男が、相応しいのではないかと、  
そう、思ってしまった。  
 思ってしまってからはそれが血の汚れのように染み付いて、  
どれだけ拭おうとも拭い落とせなくなってしまった。  
 所詮は、オレは、死人だ。  
 潤んだ目で、上気した頬で、見上げてくる姫乃の顔に劣情が渦を巻いて  
襲い掛かってきたが、ギリギリで押さえ込んだ。  
 
 真っ当でない存在だから、何も彼女にしてやれることがない。  
 そんな自分が、彼女に血を流させることは取り返しのつかない瑕疵だ。  
 だからここで踏み止まる。  
 目の前で喘ぐ姫乃の唇から僅かに覗く舌先が桃色に濡れ光っていて、  
無垢な少女が垣間見せる一瞬の  
淫らがましさにガクはぞくりと背筋を震わせる。  
こうやって上下に男茎を擦り上げ、細い姫乃の体を揺さぶっているだけでも  
充分な快感が与えられているのだ。蜜の溢れる箇所に押し当てて、  
まだ誰も犯したことのない蕾の中へ押し入れば、どれほどの。  
 捨てきれぬ欲望を無理矢理に握りつぶし、行為に没頭しようと、  
漲ったものを更に姫乃の股間に押し当てて扱く。腰の辺りに  
募る衝動が切迫し、気を抜けば今すぐ果ててしまいそうなほど  
間隔が短い。そろそろ自分も終わりに近づいている。  
 彼女は気づいてしまっただろうか。恐らく、いや、多分あの目は。  
「んぅ、ふ、ぁあっ、ん、あん!」  
 押さえようとしてどうしてもおんなの声が漏れてしまう。  
ガクが動くと、丁度かさの部分が姫乃の雛尖を擦るのだ。  
その度に、とりわけ刺激的な官能が全身を貫いた。感情とは裏腹に  
体は素直に肉の悦び  
に反応して、ガクの律動をもっと受け止めようと本能的に腰を浮かして  
更に密着しようとしている。両足がガクの体を強く挟んで、  
快楽を掻き立てる元を離すまいとしている。  
 背中を丸め、姫乃の上すれすれを覆って動くガクの黒い髪が、  
露わにされている喉元や首筋の肌を擽り、その些細な  
刺激さえもが姫乃の熱を駆り立てた。粘着質な水音に混じって  
聞こえるのは押し殺した  
ガクの呻きだろうか。  
 ガクを、ガクの行動をもどかしく思う気持ちと、体に齎されている  
甘い責め苦とに鬩いで、姫乃は朦朧とした意識の中、畳の上を彷徨っていた  
両腕をガクの首に巻きつけ、その頭をぎゅっと掻き抱いた。  
 そして灼き切れそうな心の熱の発するまま、途切れ途切れに  
わななく声で言った。「嘘つき」そして  
「好き」と。  
 今日、ガクが姫乃から奪おうとしなかったものは二つだけだ。  
そのうちの一つを姫乃は無理やりガクに  
引き渡した。驚きに目を見開いたガクの顔がすぐ傍にあった。  
 意識を手放す寸前、初めて触れたガクの唇は、充分に温かいと思った。  
 
 目が覚めたとき、傍には誰も居なかった。  
 のろのろと起き上がった姫乃は、自分の服が一応  
整えられていることに気が付いた。シャツのボタンが留められて、  
スカートもちゃんと下ろされている。腿の付け根が多少べたつくのは、  
それは多分しようがなかったのだろう。気を失うようにして眠っていた、  
その夢うつつの中で、誰かの手が髪を撫でて  
いたのを微かに覚えている。  
 その手の感触が離れたとき、とても大事そうに撫でてくれる  
優しい手つきが、長く骨張った指が泣きそうなほど名残惜しくて、悲しかった。  
 敷き布代わりに使われたコートはそのままで、姫乃は手繰り寄せたそれを  
ぎゅっと抱き締めた。  
 これを着ずに、ガクは何処に行ったんだろう。うたかた荘の自室で  
あの青白い顔のまま、ぼんやりと  
しているのか、それともふらりと散歩にでも出てしまったのだろうか。  
長い散歩に。  
 それでも、これを置いていったということは、いつかは  
必ず戻ってくるだろう。今日か明日かひと月後か。その時、  
コートを返すとき、なんと言ってやろう。想像してみたが、何も  
思い浮かばなかった。  
 きっとその時にならないと判らない。  
 やっぱりガクリンは嘘つきだと姫乃は思った。  
痛みは与えないと言いながら、それならこの胸の奥、  
締め付けられるような気持ちを覚えさせたのは誰。  
 
終  
 
 

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