「はぁ…」  
吐く息が白い。  
冷たい風が吹く度、ヒメノは身をちぢこませながら家路を急いでいた。今日はクリスマスイブ。引っ越ししてすぐに出来た友人とさっきまでわいわい騒いでいたのだが、こうして一人で夜道を歩いていると何となく寂しい。  
どんなにきれいな電飾も夜の闇と凍てつく寒さで楽しむ余裕もない。ましてや側でカップルが寄り添い合っているのをみれば余計にだ。  
 
(早くみんなの所に帰ろう。)  
そうしてヒメノは歩くスピードをあげた。  
 
 
コッコッコッコ…  
先程から自分の後ろを誰かがつけて来ている。  
いや、誰かというのは正しくないか。何故なら…  
「ガクりん!」  
「マイスィートハート」  
ぃきなりヒメノが振り向くと、そこには予想通りガクがいた。  
 
いつもヒメノの帰りが遅くなるとガクは迎えに来て後ろにいる。様なのだが、こちらが気づいて声をかけるまでは絶対に声をかけてこないのだ。  
「何もしてないのに気がついてくれた。  
やっぱりひめのんは俺のスィートハートだ…」  
多分こうして彼なりの愛を確かめる儀式なのだろうが、やられる方にはたまったものじゃない。  
「まぁ、でも、今日は良かった。」  
ヒメノの小さな呟きを聞きつけガクが問うてくるが、なんでもないとごまかした。  
「ねぇガクリン、手ぇつなご?」  
 
最初ガクは何を言われたのかわからず、めをぱちくりさせるだけだった。  
「ほら早く」  
目の前で差し出した手をひらひらふってみる。  
「もぉ〜手が寒い〜」  
とうとうぶうたれるとガクは慌ててヒメノの手を握り、一瞬の躊躇の後そのまま自分のコートのポケットにつっこんだ。  
「えへへへ。あったかい」  
実際にあったかいわけでは無いはずなのだが、ガクの細くゴツゴツした手にしっかりと包まれているとなんだか自然と笑みがこぼれた。  
調子にのってガクにぴったり寄り添う。  
なんで街角のカップル達がくっついているのか、何となくわかった気がした。  
 
 
「あ、ガクリン雪、」  
 
 
いつの間にか二人の周りに、空から白い結晶が降りてきていた。  
「きれい」  
そういって見上げる少女のどこかどきりとする表情に、ガクは捕らわれて目が放せず、また放す気もなく凝視する。  
「ひめのんの方がきれいだ…」  
そういうとぽっと赤くなるのが可愛い。  
「一緒の墓に入ってくれないか?」  
もう何度問い掛けたかわからない、お決まりになったプロポーズを口にする。  
返事は期待していないけれど、自分の感情の発露だから気にしていない。ただ何時も口に出せて、聞いて貰えるのが幸せなんだから。  
 
「いいですよ。」  
 
 
聞いた瞬間目がかっと開いたガクにたじろぎながらも、ヒメノは言い切った。  
「充分生きた後なら。」  
 
(あぁ、やっぱり。  
今なわけじゃなくて、いつものごまかしか。)  
 
「そしたら何時死んでも一緒になれるように、ガクリンがずーっと一緒にいてくれるでしょ?」  
 

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