この前、通販で注文したという大きな箱が届いて以来、いつもにここにしている姫乃の機嫌は
更に良いように見える。
部屋から鼻歌すら聞こえるのだ。
そして今日の朝早く、唐突に明神の部屋のドアが叩かれた。
「はいはーい」
まだ寝ていたせいで寝ぼけまなこの明神がドアを開けて見たものは、今までにないほど可愛ら
しい姫乃の姿だった。
「えへへー。どうかな、これ」
ピンクの花柄の、えらくふわふわしたワンピースを着た姫乃が、くるくると足元まである長い裾を
翻しておどけている。羽のように薄い記事から細い足首が透けていて、くらくらしそうだ。
そんな明神の心の中も知らず、姫乃は花のように笑う。
「これ欲しかったの、シフォンのマキシワンピって今みんな着てるし。似合ってるかな」
「へえ…すげー可愛いね」
「ありがとう、これからお友達と映画観に行くの。お土産買って来るね」
やはり姫乃はまだ高校生の普通の女の子だ。お洒落もすれば友達にも会いに行く。そんな風に
普通の顔が今日は特に眩しい。
「そっか、楽しんでおいで。車には気をつけるんだよ」
「はーい」
身を翻そうとしたのか裾がふわりと舞い上がりかけたが、姫乃は再びこちらを向く。何故か少し
頬が赤い。
「明神さん、後で脱がそうとか考えてたりして」
「うん、ちょっと想像した」
「…エッチ」
もっと赤くなりながらも、その笑顔は曇りがない。少女の姫乃も少しずつ大人になりかけている
のだ。そんな変化を間近に出来るのが妙に嬉しい。
「帰って来たら、いいよ」
「えっ?」
「じゃあ、遅れたら大変なんで行ってきます!」
妖精の羽のようなワンピースをひらひらさせて、元気良く姫乃は出かけて行った。夢のような
光景が今日はずっと続いていくのだと思うと、今から夕方になるのが待ち遠しく感じる明神で
あった。
終わり