「お嬢様、それでは私は店へ棚卸しの作業に行って参ります」夕暮れ時は逢魔が時。  
とうに亡くなった建築家の手によるような──それにしてはあたらしい──お館に、お嬢様と呼ばれる  
女性と執事が、二人テーブルでお茶を楽しんでいた。  
「……そうだったわね。」パタン、と読みかけの本を閉じながら『お嬢様』。  
真っ黒な長髪をサラサラと落とし、顔を上げる。  
「いつも手を入れてはいるけど、本はくれぐれも大事にお願いするわ」  
「もちろんです。」  
『執事』の仮面の男は慇懃に答える。  
「泊まりはきつくないかしら」  
「いえいえ、そんなことは! ううっ、お嬢様のお優しさに私めは〜っ」  
「そうすると数日間何をしようかしらね」  
年で涙もろい執事の言葉を引き取り、お嬢様は指先を口元へ持っていく。  
「普通に学校へ行けばよいのでは」とも言えない仮面の執事だったがその片一方の表情筋が動いた。  
「あ!そうでした、私がいない間、代理の家政婦をお願い致しましたのです」  
さも今気が付いたという体だが、勿論今気がついた訳ではないだろう。  
 
「……あなた……そんなことを勝手に決めたの。」  
「あわわ、そんなふうに指を差さないでくださいお嬢様、その……先日このようなチラシを受け取りまして」  
ピラリッ。  
安っぽいつくりのチラシだ。真っ白に黒の井桁模様。中央に「家政婦斡旋」とある。よくよく見ると手書き。  
「「〜♪今なら無料で数日間貴方だけのお手伝いさん♪〜」か……数日間はアバウトよね…。」  
お嬢様の気がそれたのを機に執事は玄関まで出かかっている。  
「あ、ちょっと待ちなさい」  
「では行って参りますお嬢様。あっ」  
電灯が明滅し一帯が反転したように黒くなったその時白い人影が浮かび上がる。  
「もうお着きでしたか。今回は無料お試しコースとはいえ、お嬢様をよろしくお願いしますぞ!」  
「承知しております」  
「そういえば、あなたのお名前を伺っておりませんでしたな」  
「私の名は加護女」一礼して「この家の大事なお嬢様は私が責任を持ってお預かりします」  
頭をあげる加護女。伏せた睫毛をもたげさせ真っ直ぐこちらを見てくる瞳は、無表情。  
無表情なのだが、何故か底に違和感を感じるような瞳で見てくる『家政婦』だった。  
 
「あ、こら、待ちなさいまだ」右手を差し出し、すぐに追いかける。  
「ダメです」  
家の外に出ようとするお嬢様を、加護女は肩を掴んで制止する。  
「もうすぐ夕ご飯のお時間ですよ。お嬢様」やんわりと微笑み見上げてくる。  
……身長はいくらかこちらの方が高いようだ。が──  
……自分を制止できる人間はこの世にはいないはずなのに。  
腕力の問題ではないのだ。まして上背があったところで何も脅威ではない。  
なのに、何故かこの『家政婦』は自分を抑止できる力を持っている。  
「──あなた、厄いわ──ね──あ!」  
「人に、指を向けてはいけません」  
加護女の口元に自分の指が導かれ、ぱく、と赤い唇の中に食われた。  
「そんな指はこうです」  
「────っ!?────何を!?」  
自分の白い指が加護女の舌に、唾液にまみれていく。手首を掴む加護女のその指も白い。  
あむあむと舐められ、ちゅるんと出される。  
指先から透明感のある筋が引いて床に消えたのを見た。  
「────」  
「悪戯は駄目です、お嬢様」メッ。  
少しだけ眉間を寄せ、加護女はまるで子供をあやすようにお嬢様に向かって言った。  
「私の名は加護女。加護女とお呼び下さい。あなたの身の回りを完璧にお世話いたします」  
「わかったわ……私は深泥明日香。どうとでも呼びなさい」  
まだ動悸する心臓を宥めながら、それだけ言って加護女を捨て置きあてなく自分の家の中へ進んでいった。  
 
じゅうじゅうじゅうう。  
「♪かーごめかご…かごのなかの…」  
煮炊きする音と共に、物騒な童謡が聞こえてくる。  
しばらくすると──  
……ドバァン!!  
「お嬢様、ご飯ですよ」  
「…ひゃ!」  
「明日香お嬢様?お夕飯が冷めてしまいますので」  
「わ、わかったわ」びっくりした肩の形のまま、腰を上げたみどろ。  
どうしてかピンポイントで探し当てられた一室に「ドバァン」と入ってきた加護女は、まわりを見回す。  
綺麗に結ってある頭をくるりと回し「本がお好きなのですね。」  
そう言って、口元に上品な笑みを浮かべた。  
そう、ここは数室ある書庫の内のひとつだ。隠れ場所にはもってこいである。  
初めて来た人間にわかるような場所ではないが──みどろは、それを指摘しようか迷った。  
加護女を改めて検分してみる。  
まずはその格好。井桁模様というべきか、変わった模様が散らばる着物。  
裾は動き易さ重視なのか端折っている。素足が、目に痛いほど白い。  
太めの帯が締まって細い腰を強調している。目線を上げると、中身の重量を感じさせ緩くカーブを描く胸。  
和装にふさわしく黒髪はアップで、サイドはふわりと形をつけてあり、細面を可愛らしく見せる。  
全体にきてれつな印象は否めないのだが、恐ろしく整った顔と纏う雰囲気で、不思議に調和を見せている。  
……可愛いかも。  
……かなり変わった服を着ているけど、メイド服なんかも似合うんじゃないかしらね。  
いつの間にか見入っていたようだ。  
はっと気が付くと、加護女がお返しするように、じぃぃっと覗き込んでくる。  
ととっと寄ってくる。  
「……お嬢様」  
瞬時。ぼんやりして間の抜けた顔を見られていなかったかしら?──みどろはあわてて顔を背けた。  
「うふふ。うりこひめとあまんじゃく。」  
すると、すっとそのまま通り過ぎ、みどろの肩の辺りの本の背をつつ、となぞる。  
「え?」  
「あんじゅとずしおう」  
「赤いろうそくと人魚──この話はちょっと怖いですね」  
「……。それがどうかしたの?」  
確かにこのスペース一帯には童話や絵本が置いてある。  
初版本や豪華本なので子供に与えるような類ではないが。  
「そうですね、お嬢様はここの物語の、どのお話が好きですか?」  
「……そうね」  
唐突だが、こういう話のとば口は嫌いではない。むしろ好きな方だろう。口元に手を持っていき答えた。  
 
「『シンデレラ』かしら」  
 
夕ご飯は何だろう。  
ろくでもないものだったら即刻、クビを言い渡そう。  
そう思っていたのに、その加護女の手料理は、実に美味しい。  
いつもは夜は簡単に摂るのだが、軽めのコース料理になっているそれは、少なめの盛りとあわさり上品だ。  
それにしても、簡単なフレンチとはいえこのフォンドボーから作られている品々は  
一体どこからの食材で作られたのか。  
厨房は人の手に任せているのだが、いつもの食材でなんとかなる……のだろうか?  
それを質問すると、加護女はふふ、と笑って  
「執事の方──お名前はお訊きしていませんが──あの方が「お嬢様に美味しい食事を是非に!」と」  
「え?」  
「そうなんです。あの方が、冷蔵庫をありとあらゆる食材で満たしていかれて」  
はぁ。なんとなく楽しそうな相手の顔を見るとはなしに見る。  
「男の手料理で、いつもお嬢様には味気ない思いをさせておりますので、どうか数日間は美味しいものを  
作って供されますように──くれぐれもお願いしますぞ、と言っていかれました」  
「……そうだったの」  
別にいつもの料理で問題はないのに。  
……むしろ「男の料理」のようなダイナミックなものも食べたいと時々思うのだが。  
「さすがに生きた鮫とか、血の卵とか、カエルの卵管まではないようですけどね」  
それって一体どこの黒い中華料理人?と眉を寄せつつ、さっきまで帰ってきたら  
100パーセントとっちめようと確約中だった執事の不器用な姿を思いうかべ、やれやれと息をつく。  
「まぁ、感謝するべきかしらね」  
我知らず、口元に微笑みを漂わせた。  
 
「お食事が終わりましたので、お風呂のご用意を致しますね」  
「お任せできるかしら?」  
「さっき見てまいりました。お嬢様はゆっくりおくつろぎ下さい。」  
わかったわ、と言ってみどろはまた本に没頭する。  
高い位置にある採光用の小さな天蓋窓。  
そこから漏れる月の光が、埃をきらきらとちらつかせ、ソファーの背にこぼれる。  
満足そうに加護女はその姿を見、下がっていった。  
 
「お湯加減はいかがでしたか?」  
「よかったわ」  
返答に、にっこりと笑う加護女。  
ありがとうと目だけで言って、みどろは差し出された水を飲む。  
冷たくて、大変気持ちいい。  
カップを返すと、不思議そうな声で「お寝間着に着替えられないのですか」と問いかけられる。  
「ええ、使用人がちゃんと服を着ているのに、主人がそんなもの着てられないでしょう?」  
──これは嘘だ。いつもはもちろん風呂上がりに窮屈な服など着ない。  
初対面の者の前で寝間着など見せられない。という羞恥心があったからだ。  
──まぁ、寝間着の上からガウンを羽織るので、元々恥ずかしくはないのだけど──  
……しかしなんとなくこの家政婦の前では、パブリックな姿でいないといけない気がした。  
白いブラウスに裾を引き摺る黒の長いスカート。  
汗が完全に引いてないので、この姿だ。  
「あなたは?お風呂、どうなの?」  
「私はこちらに来る前に頂きましたので」  
「そう」  
汗を流すぐらいしてもいいのではと思ったみどろだったが、殊更不思議でもないと思い、頷いた。  
「とりあえず、今夜は客間を使ってちょうだい」  
「イヤです」「最近使ってないけど、掃除はしてあると思うし、シーツ換えれば──……っえ?」  
「明日香お嬢様。」ぐいっと寄られ、鼻白む。  
まさか遮られるとは思っていなかった。思い切り目を開いてしまう。  
 
「な、なによ」  
近い。ほとんど鼻がつかんばかり。  
と、そっと目を伏せ、加護女は哀しげな口調で  
「『私は加護女』です。責任を持ってお預かりした以上、夜はお嬢様をお放ししません。」  
「何が?放さないって、フフ…まさか一緒に寝るとかじゃないわよね?」  
「その通りです」にっこりと花がほころぶように微笑う加護女。  
「…………あ、あのねぇ。わたしは子供じゃないのよ。  
第一、あなたに私の事が分かるかしらね?」  
殊更に冷めた調子で言い放つ。服の下の均整のとれた身体はしなやかだが  
だからと言って年相応であるという事では、ない。  
きょとん。目の前の相手は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔。……美形だけに少し間抜け。  
なんとなく嗜虐心を掻き立てられて、矢継ぎ早に「あなたは分からないでしょうが、私はこう見えてもね」  
言い足そうとすると、きょとんとした顔からおずおずとした顔になった加護女はあっさりと  
「でも、子供ですよ」。  
──みどろはがっくりと項垂れた。  
 
「だから、あなたには分からないだろうけども……  
はぁ……  
そうね、わからせるにはこれが一番かしら」  
すっと加護女に指を差し出す。  
「お嬢様、それが子供だと言うのです」  
あ、という間に指を絡ませられ、指の間を触られる。  
「んッ……!」  
「人に、指を向けてはいけません」  
「…………ぁ」  
やわやわと揉まれる。加護女の指と自分の指だけが視界に入っている。  
「ひとさし指を、そんな事に使ってはいけませんよ」  
「な……何……や……ぁ!」  
「気持ちいいですか?」クスッと笑う。キッと顔をあげて、目で不快の念を込めた。  
「さっきせっかく綺麗にしたのに……!何を、するの」  
「さっきのはほんの挨拶でしたのに、お嬢様、そんなに顔を紅くするほど良かったのですか?」  
ぐっと詰まる。顔が赤いなんて嘘だろう。絶対に。  
「それとも、そんなに怖かったのでしょうか?」  
「──そんなことはないわ」  
かっとなった頭がその言葉で冷静になっていく。怖いなんて事はない。  
 
「私は子供を護るのが仕事。  
家を守り、そして子供を守る場合が多いのですが、大人を守る場合も多々あります」  
今まで真っ直ぐに見ていた視線をずらして、加護女はとつとつと言う。  
「それはどうしてか、わかりますか?」  
「……さぁ。  
……そうね。  
「大人を守る事は「仕事」ではない逸脱事」か「その大人は大人じゃない」か、かしら」  
「お嬢様。  
後のが当たっています。  
そう、『大人』も昔は『子供』だったからです」  
こちらをキラリとした瞳で振り向いた。  
黒い深い瞳は、からかいをかけらも含んでいない。ただキラキラと、綺麗に見える。  
「もっと言うと、大人には、皆、段々なっていくものです。  
こうしていても、なっていくものなのです。」  
──言っていることは解るが、加護女がこんな事を言い出すのが解らない。  
「お嬢様はそういう意味では大人ではないでしょう」  
「つまり精神が成熟していないって事かしら」  
「今までの、これは例えです。私をわかっていただく為の。お嬢様はそうではありません」  
「……?」ますます言わんとしている事が解らない。  
「処女でしょう」  
 
「あ、あのねあなた──」  
「お嬢様からは子供の匂いがします。責任から放たれている遊民の香りもしますが、」  
首筋に息を当てる。熱い。  
「それとは違う、この世の客のような匂いがします。」  
いい匂い……聞こえない程の声が掠め、そして離れた。  
「私も同じなので」  
「あぅ」また首筋に息がかかる。  
 
────ふと気が付くと、後ろからやたら細い腕が伸ばされていた。  
さっきまで読書していたテーブルに救いを求めて手を延ばすが、残念。  
「やっ!」みどろの顔が瞬時に赤く染まる。  
見た目よりもおおきい胸が、加護女の指でゆっくりゆっくりと揉みしだかれていく。  
「ひ、ぁあ……ぁ……っ」こんなふうに触られるのは初めてだ。  
加護女の白い指が肉を持ち上げ、複雑に形付けられる。  
もちあげて、ゆらして。  
もちあげて、ゆらして。  
右の乳房を上向きに上げられ、つきん、と尖った乳首も揃えて上向かせられる。  
左の乳房は、乳首に指を優しく当てられ、そのまま柔らかい肉の中にずぶずぶと埋められた。  
自分のムネ……こんなに柔軟性があるなんて。  
ン、ン、とまるでデタラメな楽器のような声を聞きながら  
みどろは加護女の思うまま任されている  
自らの胸を見降ろして不思議に観察する。  
こんなに近いのに、まるで自分のものではないような気がするわ──  
頭の中も、ぼうっとしてきて──  
「あぁ……これ邪魔ですね」  
「んっ」  
「首もと、お苦しくはないですか」  
慇懃に労られ、半ばまでボタンを取られたブラウスを強引に鎖骨の上に押し上げられた。  
加護女の手で反応して、乳腺が敏感になっているみどろの乳房はぱつりと張っていて  
いつもより上向きで、白く薄い生地は複雑なシワを作って簡単にそこで纏まってしまった。  
空気に触れた両胸は、狭い空間から弾かれたかと思うと、  
すぐさま「ぴとん」と両の乳首の真ん中を押さえられる。  
じらすようにゆるく円を描かれる。  
……もう、耐えられない!  
「あっ、ふぁ、やっ、ふぁあん!  
もぅ……嫌!変な事を言ってしまいそう……でっ」  
「……お嬢様」  
「ふぁあ、んっぅ」  
優しく髪を撫でるが、逆にビクッとさせてしまう。  
「私は加護女。加護女とお呼び下さい。  
どうしても声が出てしまう時は、私の名前をお呼び下さい」  
壁に押さえられ、細い肩は縮こまっている。片一方の頬はひんやりとした壁紙に押しつけ  
少しうつむく形は、恥じらっているようにも見えた。  
初めは戸惑っていただけだが、しだいに生理的な涙で濡れて、黒目がうるんで大きくなる。  
その様子を見ていたら普段とのギャップに驚くだろう。──読者ページのみどろさんほどではないが。──  
スカートは加護女に押しつけられ少しだけ裾が乱れた。  
が、それ以上侵そうとはしていない。  
スカートを乱そうとは思っていない  
ましてや中を乱そうなどと思ってもみない  
まるでそう言うかのように。  
そしてそこは聖域のように、寄り添う加護女によって『護られて』いた。  
 
ぴったりと太ももが当たって、細いが弾力のある二本の脚が  
がくがくと動く脚をやんわりと押さえつける。  
トロリ、トロリと溢れて、それはごく素直に、まっすぐ脚を伝って足元まで降りていく。  
こぷっ。痙攣をした瞬間、たくさん落としてしまった。  
「下に触れてもよいでしょうか」  
みどろはたくさんの愛液を流しつつ、それでも  
「……ン」  
強情にふるふると首を動かすのみだ。  
「私が致しますね」  
後ろからスカートをたくし上げ、そのまま左手でツン、と前の敏感な部分をはじく。  
「んっ」  
「あ……ここ……お気に召されましたか……?」  
「やっ…あ、あのね!そんなこと……ン!?ん、ンンっ!」  
口は動いてはいるが、実際的な抵抗がないのを見て  
加護女はそうして右手で後ろの狭い部分に指を置く。  
くちっ。  
「ごめんなさい、お嬢様」  
「……ひぁんっ!!……な、なに……っ?」  
くちくちと自分のソコが音を立てる。あふれているので当然だ。  
くちゅん、くちゅん。この上なくいやらしい音。  
それでも息だけは殺して後ろを振り返ると、指を動かしながら加護女が神妙に睫毛を伏せていた。  
少しだけ、嫌な予感がした。もしかして、もしかして。……そんなの、嫌。  
「その、私、お嬢様よりも背が低いので」  
「……」  
(それが何か……?)  
思わず、ぼうっとしたまま間の抜けた返答をしそうになる。  
 
加護女はなんとなくもじもじしている。その間、時間はそれ程経ってはいないのだが  
お嬢様が我知らず無意識に発している  
『使用人の発言は簡潔であれ』  
という視線を受けて、ふぅと諦めたように言った。  
「察して下さるとは思いませんでしたが」  
「?」コクンと首をかしげ、眉を寄せる。こんな時のみどろは意外に可愛らしい。  
蒐集家の鬼にしか今のところ発揮されてはいない、超レアな能力。  
 
一体、何を言い出すのだろうか?  
「後ろからわたしがしますと、どうしてもこう、つま先立ちになってしまうのです」  
「ですから、腰を降ろしていただいて、脚を広げて頂きたいのです」  
こんなふうに──と、突然、指を抜かれあっと声を上げる。  
加護女は実際に腰を降ろして、自分の脚を膝をたてて広げてみせた。  
「できますか?お嬢様」  
冷静な声ではあったが、見えなかった加護女の頬は上気し、赤い唇はますます紅い。  
恥ずかしそうに下目を使い。  
不安そうに「こんなふうにしていただきたいのです……が……」。  
加護女の着物は只でさえフロントが割れているのだ。その淫猥な姿にくらっとした。  
そして、あろうことか、その姿を自分にせよと言うのだ。  
なんてこと。  
しかし自分に選択権はない。もう、指を抜かれた所が熱くてたまらないのだ。  
今すぐもう一度埋めてもらいたい。本当はねだってしまいたい。  
「わ、わか…っ」  
「そうですね、やはりお嬢様には恥ずかしいでしょうか……」  
自分はその「恥ずかしい格好」のまま。みどろに目線は合わせず、指で自分の着物の裾を割る。  
影になっていて見えない部分を、そっとめくり、少し腰をずり下げ、上体を後ろに。  
「こ、こんな格好……できませんよね……」  
ちゅ、と密かに水音をさせ  
加護女は眉を困ったように下げ、頬をますます染める。  
「ん…っ」さっきまで自分のソコを弄っていた指が、今度は加護女の中に入っていく。  
指の味はさっき自分で味わっている。  
その指が魔法のように中に入っていくのを、ただただ、見ている。  
止められなくなったように、指でくちゅくちゅとかきまぜ、けして目線は合わせない。  
──まるでおねだりするように。  
「あ……っ……」  
 
床に広がったスカートをぎゅっと掴みながら、ぶるぶる震えてそのまま動けなくなった。  
 
頬を染めて独り脚の付け根を弄ぶ加護女。  
更に自らの指に没頭するようにうつむき、泣きぼくろにそっと睫毛の影を落とす。  
同年代と言ってもよいくらい肌が瑞々しいが、ふとする所作や表情が大人の女性を思わせる。  
結果的に、少女と大人をいいバランスで割ったような、あるいはアンバランスな加護女だ。  
だから年齢はわからない。  
わからないが、きっと年齢はあるだろう。おそらく。……とは違う。  
ちゅ、と指先に付いた滴りを口元へ持っていくその姿を見「あ」と思わず声が出た。  
視線をやられて慌てる。──自分とは違い、つやりと濡れただけの指が口に含まれるのを確認してしまう。  
ばばっ。黒髪を翻し、後ろを向く。  
息を漏らす加護女の姿が一瞬激しく網膜に焼き付いた。  
「!……んっ、ん」  
涙目でびくびく耐えながら、とにかく『何か』が通り過ぎるのを待つ。  
いったい、何が過ぎるのだろう。  
「……お嬢様?」  
その『何か』が身体を走る瞬間、加護女が後ろから覗き込み、しっかりと目線がこちらを捉えていた。  
「あ、嫌っ」  
半ば恐慌状態で首筋まで紅く紅く染めながら。  
『それ』は、何故か加護女に見られたくないと自分は思う。  
ビクン、と大げさに肩がぶれ。  
「ふぁ……ンンッ!」  
瞬時、自分の声とは思えないような声が高く抜けてしまう。  
ぴくとも出来ない最奥。ただソコだけ音もなく熱い液体がとろける。  
ソコが空気に触れ、床にまっすぐこぼれるのを止めない。  
こぷ、こぷん。  
一本の透明な線で、床と自分を繋げているように感じられて、このまま加護女が去るまで  
ここにこうしていなければならないのではないだろうか。そんなことを思う。  
 
「お嬢様」  
「……んんっ…………や、だから、み、見ないで…………っ」  
はぁはぁと息をつき、先ほど弄られたせいで溜まった涙が、大きく開いたままの目から流れ  
またそれをぽろぽろんと白肌がはじく。  
そのままの姿勢で手をつき、息が収まるのを待つ。  
ひとりで、なんとか。耐えられる。──このままならば。  
「んんっ…んっ。ぁ……ぇ?」  
が、目の前の相手は許さなかった。  
あたたかい。加護女の細い腕がふわりとみどろの髪を覆った。  
怖いとは感じない。いつもなんでも供されたものは甘受してきたのだ。恐怖も混沌も業も。  
簡単で明快な基本構造に従い、それは常に発揮される。  
「──お嬢様」  
目を上げると、加護女は睫毛を揺らせながらこちらを見てくる。  
少しだけ首をかしげながら、目元から慈しむように微笑って、つられて、唇もほころんでいく。  
そのたとえようもない笑顔は、何故か最初に見た姿を思い出させた。  
「私でイッて下さったのですね」  
まるで童女のように無邪気な笑顔だ。  
そう言って、白い生地に包まれた二の腕をごく無造作にさわられ、思わずビクッとなる。  
「い、いく、って、あの」  
みどろのとっさの返答にはただ、困ったような形に眉を下げ応えるのみ。  
 
「お嬢様。  
そういう時は、私の名を呼んで下さらないといけません」  
加護女は何か神妙だ。まるでそれが呪文であるかのようにも聞こえる。  
「やっ……はっ、んっ……!  
……な、なまえ……を……?」  
そういう作法なのだろうか。  
それを訊いてみたい。  
そんな事を考えつつ上目で加護女を見ると、眉を寄せて少し中空を見つめ  
──あっという間に押し倒されていた。  
 
脚を覆っていたスカートは本来の流れとは逆に翻らせられ、後方へ。  
布地はたっぷりとある筈だが、そうやって纏められると身体を覆う面積としてはほんの少し。  
待ちなさい──そう制止の声を上げる間に愛液で湿りまくった箇所を割られる。  
「ひっ……や、いや!いや」  
「ん、美味しそうです」  
剥き出された乳房を、延ばした両指でゆっくりと押してくる。あっあ、と不随意に声が出る。  
つややかな太ももを内から抱えられ、日本人形のような頭がそこにうずくまる。  
「お嬢様」  
「ぃっ、ぃぅ、ぁ、ん」  
「何故、上もしたも、下着を纏ってらっしゃらないのでしょう?」  
「んっ、か、身体に、線が付くのが嫌で、だから……夜は……  
って、何が! んんっ、何を!!!!」  
「そんなふうに無防備で果たして宜しいのでしょうか」  
顔をあげ、少しばかり、柳眉を曇らせて。  
その言葉には何故かひっかかる。みどろが今まで考えたこともないことだ。  
──『無防備』。  
執事はまず論外であるし、こちらも男として軽く除外されるであろう少年人形も今は静かに眠らせてある。  
大体、内でも外でも何があろうと涅槃送りにすればいいので  
例えどんな格好をしようが構ったことではないのだ。  
黙考時間はそんなに長くはなかった。吸い込まれるように加護女を見る。  
加護女もそのみどろを覗き込む。──が、何も言わない。  
「ほら、こんなふうにすると」  
細い人差し指をみどろのワレメに置く。  
「もう、こうして指で押さえても、すぐに拡がっていきますね」  
置かれた指は実験器具を扱うかのようだ。  
「ぁぅ……やぁっ、もう…ン、んぅぅ……こ、こらっ!だめっっ!!!!」  
先程『イッて』、中からゆっくり抽出されていくだけだったのが  
快感に因って目から流れる涙と時を期して、こぷこぷと出てくる。  
「ん、これは美味しそうです」  
「ひゃ、ぁあ、ぁうぅ!」  
 
とたん「あ・あ・あ」と不随意に声が出る。  
剥き出された陰核を、舌先でゆっくりと押された。  
トロトロと流れる愛液は熱くて、どんどん新鮮なものが溢れ加護女が味わうだけになっていた。  
首まで紅く染め、相手の動きに敏感に反応しながら。  
両胸の先をいじらしげにつきんと尖らせ。  
膣口が自分の全てになったかのように感じて、由来はわからない切なさが胸にほんの少し、したたった。  
涙目で加護女を見、初めてその時、その瞳の中の『違和感』を目前に見た。  
──ような気がした。  
 
昨日が今日の連続なら、今の状況は昨夜の続きだろう。  
朝の鳥の声が聞こえる。チュンチュンと聞こえるので、スズメなのかも知れない。  
寝室──いつのまにか寝室だ──は、まだ水の底のように青い。  
白いシーツの端に先が丸まった黒髪が、ちょこんと見える。  
「……」  
(……うぅ。)  
そっと、開いている左手でシーツをめくってみる。やはり。  
本来いるべきでないところに、『家政婦』が猫のように丸まっている。  
両手はしっかりとみどろの右手を握って、やわらかい頬に当てたその姿は至極満足そうだ。  
しっかり折りたたまれて交差した脚は細く白く、ひざっこぞうが出し惜しみなく出ていて  
丸まっていて遠慮しているかと思えば、ただ単に奔放に惰眠を貪っているだけにも見える。  
いつもの着物は着ていなく、その代わりに、下着のような薄く柔らかいキモノを着ていた。  
「あぁ……お嬢様」  
目が合った。──ドキリとするが、おくびには出さない。  
「あ、じゃないわよ」  
ため息。  
「家政婦がそんなことでいいのかしら?」  
もう朝よ、と身体を起こそうとするが何故か起きられない。  
なによこれ、と思いぐっと力を入れようとするが──。  
「お嬢様、それは私がしました」  
 
何を。きょとんと首をかしげる。  
「その前にお嬢様。──  
「加護女の指が気持ちいい」  
「おっぱいを弄って下さい」  
「おまんこを触って下さい」  
──と言って下さい。」  
「〜〜〜〜〜なっ!!」  
かあぁっ、と首まで赤で染められる。  
「ゆうべ、コレを言ってくださいと頼みましたのに、お嬢様はイヤイヤするばかりで」  
「い、言えるわけがないでしょう……っ!」  
「お嬢様は、人の頼みを聞かず、自分の気持ちよさだけを貪っているだけなのでしょうか?」  
「うっ……そ…それは……」  
最後は泣き出して子供のように縋って頼むから、根負けして、して差し上げましたのに……  
加護女はお嬢様が何度も何度も、満足いくまでおっぱいを……  
 
わざとらしい繰り言に耐えられず耳を押さえる。髪で見えない耳はすでに真っ赤。  
背中ははり付けられたようにベッドに繋がれている。  
指先や足先などの末端は、みどろの意志によって、かろうじて動くのだが。かろうじて。  
「わ、わかった…わ。  
か、加護女の指が、……きもちいい……」  
目の前の相手は、瞳孔を大きめに開いて、言葉の次を待つ。  
「お…… あぅ、お、おっぱいを……い、いじって…!」  
やぁっ、と声が出る。その加護女が弄ったからだ。  
「はぁぁ…うぅ……」  
もうちょっとですよ、と言うように。こちらを見ている。  
だからそんな目で見られても全然勇気は奮い立たない。  
「……さ、最後のは言わないと駄目なのかしら?」  
すでに茫洋とした視線で、爽やかな朝の気配は払拭されまくりである。  
「お嬢様は下の口はあんなに素直でしたのに、この口はどうしてそう強情なのでしょうか?」  
そんなことを言いながら、細い指がみどろの太ももの内側へさわさわと走る。  
 
余程禁忌を破るのが辛いのか、油汗を浮かべている。  
とその時、加護女の瞳が一瞬複雑な色を持って、カゴの様な「紋」が浮かび消えた。  
みどろは丁度上手く目を逸らしていて見えない。  
「とす」と犬か猫のように手を置かれ、はっとして見ると「上に乗られていた」。  
ただし、真っ直ぐにではなく、みどろの左脚を軽く押さえ、横に。  
ちょうど太ももの付け根の間にまたがるような格好だ。  
「か、加護女……!  
っあぁっ!ん!ん、ん、んんっ!!」  
「ほら、ここですよ。わたしのも、当たってるでしょう?」  
にっこり。その花のような笑顔の下から、ぐちゅり、と大きな水音。  
「やぁ、っ、ん、んぅぅぅん、……ふ、ぁ、か、加護女ぇ」  
「んっ……。お嬢様、気持ちいいですか…………?」  
優しげな目だがあくまで冷静に見やる。しかし、加護女のソコもとても熱いのだ。  
「ふぁ、ぁああああん、ゆび……きもちいい……かごめの、かごめの」  
うっ、く。しゃくりあげる。  
「…………お嬢様」  
「お、おっぱい…も、きもちい、く、て」  
既に快感を受け入れて頬に血を昇らせる白皙は、快感を与える主にとっては何よりも美味しいご褒美だろう。  
ぐしゃぐしゃに濡れたおもては、隠すすべもなく晒される。  
「お嬢様」  
「──あぁんっ!!」  
上から降り、頭をかき抱く。  
「わかりました。お嬢様が加護女の事をこころよく思って下さって」  
つ、と長い髪を裾まで梳く。  
「加護女の名を呼んでいただけて、とても嬉しいです。お嬢様」  
やわらかく微笑んで、艶のある黒髪を撫でる。  
ねだった言葉は得られないままに、しゃくりあげる『お嬢様』を抱いた。  
可愛らしい顔にそぐわない程熟れた両胸を押しつけられ、息が苦しくなるみどろだが  
とうの昔に拘束が外れているのを知って、そのままゆっくりと息をつく。  
青く沈んだ部屋はやっとユラユラと、カーテンの底から光が差して来だしていた。  
 
 
 
昨夜の名残りは一掃されていて、無意識にいつもとの差違を目でサーチした。  
ティーテーブルに乗せられた本はしおりの位置もそのままに整えられている。  
床の一部はとっさに目の焦点をぼかさなければならなかった。  
他に変わった所はどこだろう。  
「おはようございます、お嬢様」朝の光をしょって。  
 
サイズを無視するかのような細身の曲線がセーラーをふわりとさせる。  
黒色と冷たい白で、身体のラインを描き上げた。  
「……ん」  
手首のボタンを留めようとする加護女に、そっと手を預ける。  
その時見慣れないスーツ姿の住人──というよりは備品扱いだが──を認めた。  
「あら」  
「ケっ」  
朝の光を背に小さめの人影。  
「あなた……ふぅん……なぜ起きているの?」  
「ケ──! 知─る─か─よッ!」  
「気が付いたら、あの女がいたんだよ!」  
 
壁から背を離し、プーッとぶすくれた顔で腕を後ろ頭に持っていく『少年人形』。  
こっちが訊きたいっつーの、と言いながら加護女を大きな目で睨み付ける。  
余程寝起きが悪かったのか、主であるみどろにもかみつく勢いだ。  
朝だから起きるのは当たり前という次元の話ではないらしい。  
また、起こしてもらってありがとうという話でもないらしい。  
加護女は「肉叩きを探していたら見つけたんです」としか言わない。  
肉叩きならしょうがないわねと鷹揚に呟きながら用意されたタイを結ぶ。…にくたたき?  
寸時「よろしいですか」と声がかかり、神妙にタイを直された。  
後ろから腕をまわし前合わせのボタンをとめ、スカートの裾を跪いて摘んで、チェックする。  
まだしかつめらしい表情で見上げているのでその場でくるりと廻ってみせた。  
「お嬢様ナイスですね〜」  
手を合わせて昔のAV監督のような事を言う加護女は、やはりいくつなのかは分からないが  
随分楽しそうだ。  
「何がナイスだっつーの。不気味な女共め」  
少年人形がまだぶつくさと壁に凭れふてくされる。  
 
ひとつ訊いてもよいでしょうか。  
 
加護女が白く反射するテーブルの向こうから声を掛ける。  
「お嬢様は髪を結われないのですか」  
自身はきっちりと結わき上げているからか、はたまた女性だからこその疑問か。  
静かに次の言葉を待つ様子に、加護女が「ご本をよく読まれておられますし」  
そして、視力が──と付け加える。  
「ああ、これは絶対領域なのよ」  
みどろは地球は自転している、というかのように言う。  
「絶対……りょういき、ですか」  
真剣な表情の加護女。  
「は──! ──お前バッカじゃね?  
ゼッタイナントカって要はスカートとエロイ靴下の事だろぉ──?」  
正確にはスカートとエロい靴下の間にある『間』の事だ。ワビ・サビにも通じる。  
加護女が運んできたティーカップを受け取り紅茶を飲む。  
カップは『モナミ』。白地に青い花が蝶のように舞うスエディッシュデザイン。  
「あなたも『目』を持ってるでしょう」  
加護女は虚を突かれた表情をする。  
「ふふふ……。 同じようなものなのかしら……」  
いって髪を背に流し、玄関に向かって行くのをあわてて追う。  
「いってらっしゃいませ、お嬢様」  
両の手を三つ指に。  
伏せられた顔は少しだけ紅い。  
「見えてるので心配ないわ」髪をかき上げ  
「メルトは面白のために置いているの。適当によろしくね」  
……テキトウと言っても超テキトーってわけじゃないわよ……?  
と、無駄に丁寧に念を押し出て行くお嬢様を加護女は長く長く見送っていた。  
 
加護女は今日は和食を作っているらしい。  
その間に読みかけの本を本を読んでしまおうと思うみどろ。  
『堕天使コード』最近改訂版が出たのでまた通読している。  
霊界の和泉白石が注釈を付けているというもので、いわゆるコメンタリー版だ。  
遠い歴史に思いを馳せるように、軽くおとがいに指をあてる。  
(`SHOUTOKU TAISHI'…)  
 
……ギャーギャーと争う声で立ち上がる。  
「何をやっているの」  
カラスかと思ったわ──殆ど無表情で唇を動かすのも億劫な様子で、みどろ。  
というかむしろ殆ど口を動かしていない。億劫なので。  
加護女は髪を無惨にたらし、野菜の切れっ端を頭に付けている。  
出汁のいい匂いが充満した厨房。  
「お嬢様に……ぜぇぜぇ……なんて口を……」  
夕食の準備が無茶苦茶だ。  
「メルト、封印するわね」即決。  
「いやだ、それだけは!」  
逃げる少年人形は指をびっと向け、この女は生意気だっ! とみどろにわめく。  
「フゥ…… 一体何を言い争っていたのよ」  
「──お嬢様に向かって『クサレまんこ』と言ったのですっ!!」  
「うるせぇ! お前だって今言ってるだろォ!  
この腐れまんこ! お前も一緒に腐れまんこだッッ!!」  
みどろの口元がヒクヒクと動く。  
「私はそれで結構ッ! でも、お嬢様は腐れまんこなどではありません!!」  
──みどろの肩が密かにビクッと動く。  
「二人とも、今後そんな言葉を使ったらクビにするわね……  
クビがとぶわよ……直接攻撃するわよ……?……いいわね」  
クールな目をさらにさらに底冷えさせる。びゅうと風が吹いた。  
まさか、『腐れまんこ言うな』とも言えないので、念を押しておくに留める。  
加護女が見るからに「えぇー」と残念そうな顔になり  
お嬢様は切れ長の目をますます切れさせたという。  
 
結局。  
夕食と、それからその後の読書でもう夜は更けて、明日になろうとしている。  
「お嬢様、こちらに置いておきますね」  
そう言って加護女が置いていった着替えをとり、身につけ始める。  
しかし、靴下しか、ない。  
こんなのあったかしら、と眉を顰めつつ、白黒のニーソックスを履く。  
自分で用意した服はもしかしたら  
加護女が間違えて洗濯してしまったのかもしれない。  
夜は自分で準備するから次からはいいわよ──  
まぁ、初めて家なので加護女も戸惑っているのかも知れないわ。  
バスタオルを巻き、つと次の部屋に入り、加護女の姿を探す。  
「加護め…  
 
 
「「覗くな小僧ォォ!!」」  
ギョロ──がしぃ!!  
声は重量を持って肩をつかみ、ぶんっと圧力をかけて部屋の隅に吹っ飛ばされる。  
──ワイヤーアクション並にありえない軌跡を描いて叩き付けられた、少年人形。  
メルトはまるで壁の花のように釘付けられ、気絶をした。  
 
 
 
「ふふっ……。十二時──魔法の時間です」  
カッ、と目をひらく。指はそう、空中に印を作り、籠のような軌跡を描いてそのまま静止する。  
 
どろん。  
一昔前のアニメチックな効果音を伴ったかと思うと  
デロデロ・ドロドロと怪し〜いケムリが充満する。  
視界が薄墨に染まり、まわりの様子はまだ掴めない。  
なにが起こったかは──まだわからない。  
わからないということは……これは私の物語ではなくきっと加護女のものだ。  
そうみどろは確信する。  
『物語』に途中で入るのは危険だ。  
罠は巧妙に廻らせて待ち、物語に介入する資格のある者はなまじ自律できるのが命取り。  
それはわかっているのだが、召使いにかしずかせるだけかしずかせておいて  
自分だけ逃げるような事はできないだろう。  
決して。  
 
ケムリでにじむ涙を堪える。隠れている左目も凝らして、見廻す。  
どこにいるのだろう? 加護女。  
……あ  
……よかった。  
……まぁこれなら無事ね。  
無事な召使いの姿にホッとし近寄ろうと走り……  
そして、つんのめった。  
「ぁきゃっ!?」  
「お嬢様!」  
はし、と手を捕まれる。  
加護女、ナイスキャッチよ──ふふ。イケてるわ。  
がしっと捕まえてくる手が頼もしい。  
……加護女の手は、こんなに大きかったかしらね。  
そこでそうっと目線を降ろす。とても床が近い。  
近すぎる気がする。  
これは加護女の手が大きくなったのではない。  
そう、自分の手が小さくなったのだ。  
 
  ふにっ。  
 
「はぅ〜〜お嬢様〜〜とってもとっても、可愛らしいです〜〜」  
マシュマロのような頬についと手が出、なぜてしまう。ふにゅん。ふに。  
普段魔女魔女しいみどろなので、今は魔女っ娘……  
いや正確にいうと「魔女っこ」だろうか。  
しましまくつ下はピッチリと脚をくるみ、纏うものはそのくつ下のみ。  
その他のは左目を隠す真っ黒な長髪のみだ。自前。ミルク色の肢体を更に際立たせる。  
青筋がビキビキ浮かびそうになりながら『みどろちゃん』は『加護女お姉さん』に詰め寄る。  
 
「は、「はぅ〜〜」っじゃないわよ!  
──あぁあなたいったい、何をしたの!!」  
薙ぐように片手を相手に向けるいつもの決めポーズ。  
 
「はぅ〜〜ん。歩き方もぉ〜〜。んとぉっても、お可愛らしいですぅ、お嬢様ぁ〜〜」  
「かごめ」  
「今のお嬢様は、さしずめ『涅槃姫☆みどろ』ってところでしょうか?」  
にこにこ笑って「誉めて、誉めて」オーラ全開で言ってくるが  
字面はむしろあまり変わっていないだろう。  
 
「髪の長さは変わらないのですね。っもぅ……不思議ですねっ……  
ほら、床に届きそうですねぇぇ〜〜〜〜」  
 
「……か……かごめ……」  
 
 
 
  “ 不 思 議 な の は お 前 だ ッ ッ ”  
 
 
 
──とツッコミしたくなるが、耐える。  
ひとまずは涅槃城の城主としての誇りに賭けて。  
もはやその屋台骨は崩壊しているも同然なのかもしれないが  
拠り所なく生きていける者などは存在しないのだ。そう、涅槃に行かぬ限りは。  
 
落ちてきた長髪のひと房がちいさな乳首にかかる。  
明確かつ敏感に反応するが、密かに眉をしかめ、噛み殺された。  
幼児特有の──俗に言うイカ腹って奴でございますね──を思うさま頬ずりし愉しむ加護女。  
ウウッと上からいささか人間的でない唸り声が聞こえるが  
今の加護女には玄関のチャイム程の抑止力も持たない。ギボーーン。  
 
正面では内情がまったくぜんぜんわからない幼女みどろの合わせ目は  
果たして、一体どうなっているのだろう?  
加護女の遠慮のない目線で、開かれていた脚が  
内股にそぅっ……そぅっ……と合わされていく。  
「あぁ、ちょっと狭そうだけど、これなら」  
うふふふふふふふふふ。  
突如うっとりと洩らされた声は、ヒッと本気の悲鳴を上げるのには充分。  
(このままじゃ……犯り殺されるわ……)  
ずさずさとにじり下がるが、すぐに足首をとられ頭を丁寧に押さえられ床に沈まされる。  
すべすべなめらかな両足を左右に、ぐいと拡げられた。  
 
「いやぁん」  
 
意に反して「可愛い」声が漏れてしまい、はっと口を押さえるみどろちゃん。  
「このくらいのお嬢様は濡れるのかしら?」  
一人言のように言う加護女に、ぶるぶるぶるぶると首を振る。  
肩などは小刻みに震え。下半身に行くにつれて、押さえきれない程ガクガクと。  
喉からの「コクン」は身に及ぶ理不尽なプレッシャーで出た生唾を嚥下した音だ。  
 
「うっ、かごめぇ……っ。お、お願いよ、お願い、ひどいことしないで」  
「かわいい、美味しい、ぱく」  
「──き、きいてよぉっ! ねぇ! か、かごぉ、──んぁああああああん」  
「んふっ、おっぱいがほんの少しふくらんでいますねぇ」  
「ひゃぅん! んっ、あん、ああん、ぁぅん!」  
「おしりの穴も、かわいいのが丸見えですよ」  
「ひっ、だめあんっ、そこはっ、……き、きたないのぉ……ひゃぁぁぁぁぁぁっ。」  
「汚いなどということはありません……ほら」  
「あっ! あぅうん」  
「指、入れちゃいます。はい」  
「あっ、やなの、そこ、やなのぉ」  
「うふふ……お嬢様、そんなに気持ちいいんですか……?」  
「……ん…あんっ……」  
「ぎゅうって締め付けてきますよ、指、出ないでぇって。かわいい」  
「やぁん、やんっやんっ」  
「脇の下もこんなに汗をかいてますよ、加護女が綺麗にいたします……」  
「んん」  
「ひっくりかえして〜〜はい、わんちゃんみたいですよね」  
「やだぁ、かごめ……うぅ……こんなかっこう……い、いやなのぉ……」  
「よつんばいになるとおっぱいがちゃんと形になるんですね。指で押すとほら、ぷるぷる」  
「あ!あ! あぁあ!」  
「一番お好きな所、拡げてみちゃいますね」  
「かごめやめてぇ、ひっひろげないでぇ、みないでえぇっ」  
「お嬢様のお小さい頃のおまんこ」  
「!! ゃっ」  
「かふ……んっ、ちゅ、くちゅ……っ」  
 
あんあんあんあんあんあんあんあん、ともうそれこそ獣のような声を出して  
みどろちゃんはドギースタイルで加護女お姉さんの手や指や舌やら受け入れる。  
 
「もうそろそろいい頃でしょうか」  
「ぁん……かごめぇ……なに……?」  
床に座り込み、コクンと首をかしげ、はぁはぁと上気させた頬は真っ赤だ。  
お嬢様──恥ずかしいので少し待っててくださいね──  
加護女は後ろ向きになり、何事か呟く。  
「召喚!!」  
印を描き、そこにあらわれたモノは……  
裾を摘み、差し出されるものを見、10秒くらい静止して──みどろは悲鳴を上げた。  
「お嬢様……舐めてください……」  
ほら……と凍ったようになったみどろの口元にぴたりっ。  
あまりに衝撃過ぎて何もできない。  
くぃ、と口元に侵入していくソレを震える舌で押す。  
 
「んっ!!」  
口を割って入るモノは先端に樹液のような汁をつけていて、それを味わう。  
幼児特有の瑞々しい唇はさらにグロスを塗ったかのように濡れ  
咥内の圧迫に耐えられずつうぅ──……と唾液がこぼれ落ちる。  
ベルベットのような粘膜だ。さらに柔らかく、繊細なみどろの粘膜を容赦なく犯す。  
「んふぅ……」  
目を一杯に開き、その口はもう受け入れる事しかできないまま。  
「あん、お嬢様ぁ」  
腰を使い、みどろちゃんの頭を押さえ、加護女は瞳を潤ませる。  
「加護女はもう……はぁっ……限界です……」  
耐えきれないように。焦燥に駆られたように。  
思い詰めたように加護女はひしとこちらを見る。  
「お嬢様。  
『加護女さん 加護女さん カゴの中に お入り』  
と言って下さいませんか」  
お嬢様。加護女の声にハッとし、光のない黒い目を少しだけ瞬かせる。  
……この綺麗な声とアレが同一のものとは思えない。  
…………言うことを聞いたら、もとに戻ってくれるのだろうか。  
 
「加護女さん 加護女さん カゴの中に お入り ……  
 
んん……。  
「はぁあ、お、お嬢様ぁ……」  
白い肌は上気して、さらにほわっと頬がピンクに染まる。  
少しだけ首をかしげ、うっとりとみどろを見て。  
「嬉しいです……加護女は、加護女は」  
あ、という間に手首を引っ張られ、加護女の上に──座らせられる。  
「うふっ。こちらでいたしますね」  
「……! …………ぁ!」  
凶悪なモノをみどろちゃんの直腸に深く、深く沈ませていく。  
あばかれ、ほどかれていたみどろのソコは  
異物を押し返す運動と「くわえ込みたい」運動でせめぎ合う。  
あっあと声を出し、その痺れを、しだいしだいに──たっぷりと、淫蕩に頬張っていく。  
ちいさな身体は加護女の上で、おもちゃのようにガクガクと揺さぶられ  
その姿は影絵のように外から見えた──見る者はいなくても。  
「お嬢様の誰も入らないところ……一番奥に入ってます……」  
「……っぁ……おしり…こんな、の、いやぁあ……!」  
 
トロリ、トロリとピンク色の唇から愛液が零れ、幹にからみつく。  
トクントクンっと中のモノが吐精し、奥の奥まで熱いものがかかり  
ガクガクと身体が崩れる。  
 
ゆさぶられ、乱れる髪の隙間から、赤い光が瞬いては、消えを繰り返す。  
半開きの口元からチロ、とのぞいたピンクの舌は  
加護女の口に吸われ、やがて声も奪われ、「ん……ふぅ……」とため息になる。  
左目がルビーのように赤く明滅して、そして消えた。  
──今度は長く。  
 
 
固い壁に何度も後頭部を打ち付ける余韻は、夢うつつの中では現実的に、痛い。  
その頃、少年人形が気絶から覚めていた。  
棒を飲み込んだように静止して、やがて徐々に徐々に、頬が紅潮し苦しそうな表情になる。  
「な、ン…っ」みじろぎもできず、目を閉じることも出来ない。  
甘い声で鳴く自分よりも少し小さい女──それこそ人形のようにちいさい──に目が釘付けにされる。  
……この小さい女。  
初めて見るが、どこか懐かしい。  
(??どこで見たんだ……この女……)  
その懐かしさは居心地の悪さと親しみをもたらし、少年人形は無心に記憶を掘り起こす。  
その後、鼓膜を破るかのような「明日香お嬢様ぁああ」という加護女の叫びに  
朝まで気絶していなかった自分を後々まで呪うことになった。  
 
 

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