「志雄、ちょっといいかしら」  
塚本志雄がクロエからそう声をかけられたのは、  
付き合うようになって一ヶ月と少しが経った、十二月半ばのことだった。  
「志雄は、クリスマスはもう何か予定は入ってる?」  
「いえ、今のところ特には」  
いちばん一緒に過ごしたい相手とどうなるか分かってませんでしたから。  
志雄はそう思ったが、恥ずかしくて口には出さなかった。  
「そう、ならちょうどよかった。ウチは毎年、クリスマスは家族で過ごしてきたんだけど、  
今年は父が『病気で休んでたぶんも取り戻す』って張り切っちゃって」  
「だから今年のクリスマスは、志雄の家に行ってもいいかしら?」  
「是非いらしてください」  
「そう、じゃあ放課後にお邪魔するわ」  
その後、クリスマスの料理をどちらが作るかで揉めるという一幕もあったが、結局2人で作ることになった。  
 
そして当日の放課後、2人でスーパーにて…  
「メインは…ホントは七面鳥なんだけどチキンにするとして…。他にシチューを作ろうと思うのだけど」  
「はい」  
「普通は牛か豚なのだけど、ここは少し趣向を変えて、  
 牡蠣のクリームシチューで精をつけるなんてどうかしら?」  
「牡蠣ですか。良いですね。じゃあこの2割引の加熱用を2パックくらい…」  
「そうね、後はルゥを買って…」  
「ところで先輩、『精をつけるために』って…。もしかして、受験勉強で疲れてたりします?」  
「……そんなことないわよ」  
志雄は一瞬だけクロエが不機嫌になったように見えたが、  
理由が思い当たらなかったので気にしないことにした。  
「……志雄」  
「何ですか、先輩?」  
「ニンジンは、入ってないわよね」  
「家にありますから」  
「……私は食べないわよ」  
 
そんなやりとりもあったが、無事に買い物も済ませ、スーパーからの帰り道。  
特に言葉を交わすこともなく、二人は歩いていた。  
クロエも志雄も、口数が多い方ではない。付き合いだした最初の頃は二人とも  
「何か話さないと」と焦っていた部分があったが、現在ではこのような沈黙も心地よい。  
ふと、クロエが思い出したように言った。  
「そういえば、今日はクリスマスよね」  
「何を今さら言ってるんですか」  
「二人きりよね」  
「いくらなんでも、亨とかりりすを呼んだりはしてませんよ?」  
「別にそんなことは気にしてないのだけど」  
先ほどと同じようにクロエが少しだけ不機嫌になったのに志雄は気付いたが、  
やはり理由が思い当たらなかった。  
 
家に帰り、二人で協力して食事を作り、それを二人で食べる。  
進路のこと、学校のこと、生徒会のこと……色々な話をしながら時間が過ぎていった。  
二人とも食事を終え、話が一段落した頃。ふと、クロエが言った。  
「志雄、今日はね」  
「はい」  
「友達の家に泊まってくるって、父に言ってあるの」  
どきり、とする。  
クロエは以前、この部屋に数日泊まっていたことがある。  
だが、あの頃は単なる生徒会の先輩と後輩だったが、今は恋人同士だ。状況が違う。  
そういう意味なのか、それとも単に一緒にいたいだけなのか……  
そんな想いを一瞬で巡らせ、志雄はつとめて平静を装った。  
「泊まりですか。前の部屋で良いですよね―」  
「志雄」  
強い口調で、はっきりと名前を呼ばれ、志雄は体を振るわせた。  
「志雄は私のこと、好き?」  
「もちろんです」  
「……じゃあ、私が泊まるって聞いても、何も思わない?」  
「……実は、結構意識してますよ」  
「じゃあ、どうして……」  
して、くれないの? クロエはそう伝えたかったが、  
流石にそれをはっきり口に出すのははばかられた。  
クロエも女の子だった。普段は先輩ということもあって主導権を持っていても、  
できればこういうことは男から言いだして欲しかった。  
流石にここまでくれば志雄も、クロエが何を求めているかは分かった。  
それでもなお、若干の戸惑いがあった。  
『女の子にも性欲はあるし、人によっては彼氏が体を求めてこないことを不安に感じる』  
志雄はそのことには思い至らなかった。それを理解するには、まだ若かった。  
「先輩が嫌がってるかもしれないのに無理に誘うのもどうかと思って…」  
「志雄、私はね、行きたくないところには絶対に行かないし、  
 したくないことはきっぱり嫌って言うことにしているの」  
「……それって……」  
『嫌なら嫌と言うから、誘ってきなさい』そういうことだと志雄は受け取った。  
志雄も男だった。長い間憧れていたものが目前にあるとなっては、抑えることなど不可能だった。  
「先輩…」  
『抱いて良いですか?』そう聞こうとして止めた。今必要なのは相手の意志を確かめることではなく、  
自分の思いを口に出すことだと思った。  
「俺、先輩を抱きたいです」  
「…良い、わよ」  
 
 
 
 
「先輩、綺麗です…」  
二人でベッドに隣り合って腰かけ、上衣を脱がせると  
その下から現れたのはレースがふんだんにあしらわれた黒のハーフカップのブラジャー。  
それを見て、志雄は素直な感想を口にした。  
「おだてても何も出ないわよ」  
「本心です」  
「……ありがとう。嬉しいわ」  
照れたように言うクロエの反応が志雄には少し意外だった。  
「先輩なら言われ慣れてるんじゃないですか」  
「私は好きな人にだけ『キレイ』って言ってもらえればそれでいいわ」  
「先輩はそういう所が可愛いですよね」  
「……志雄は、そういうところがずるいと思う」  
(すねてる先輩もかわいいな)  
そんなことを思いながら、一度クロエに口づける。  
「んんんっ……」  
そして、クロエのスカートを脱がす。  
クロエが着けていたのは、ブラとお揃いの、レースがふんだんに使われた黒のショーツ。  
大事な部分以外の生地は極薄で、ほとんど透けている。  
「それにしても先輩、セクシーな下着ですね」  
「興奮した?」  
「ノーコメントで」  
クロエの悪戯っぽい目と口調に精一杯の強がりを見せる。だが、それがクロエには不満だった。  
「ここまで来たんだから、私にはそういうことももっと素直になって良いのよ?」  
クロエは言うが、志雄としては『じゃあ、お言葉に甘えて……』と簡単にいく物でもなかった。  
クロエの言うことも頭では分かる。自分の彼女であり、本人が良いと言うのだから欲望をぶつけても許される。  
ただ、志雄にとっては長い間、クロエは憧れの対象だった。  
汚しても良いと分かっていても、気持ちの面では若干の抵抗があった。  
ただ、そんな理由で尻込みすることは、自分も相手も望んでいないことも確かだった。  
「んんっ……」  
おそるおそるといった風に志雄がブラジャー越しに女のふくらみに触れ、クロエがくぐもった声を出す。  
志雄はもちろん、ここまで女の体に触れるのは初めてであり、  
だから何をしても大丈夫で何をしたらダメなのかよく知っているわけではない。  
胸にも、反応を確認しながら少しずつ触れていく……そのつもりだった。だが、  
(柔らかい……女の人の体ってこんな風になってるんだ……。  
 それに、なんか触ってると気持ちいいのに、なんか落ち着く……)  
魅了された。男の体とはこんなにも違う物なのかと今更ながらに思った。  
しばし、我を忘れる。夢中になって揉み、ブラジャーに覆われていない部分を指でつつき、  
ブラジャーに指を沈み込ませる。世の中にこんなにも気持ちが良い物があるのかと思った。  
 
「ねえ、志雄」  
声をかけられて、はっとした。つい夢中になってやり過ぎたか。  
そんなことを思ったが、次のクロエの言葉は志雄にとっても予想外だった。  
「直接、触ってみる?」  
ごくり、と生唾を飲み込む。思うように言葉が出ず、大きくうなづくことしかできない。  
だが、クロエにはそれで十分だった。  
自分で両手を背中に回し、ホックを外す。片方ずつ肩紐を外していく。  
そうしてはらり、と落ちたブラジャーの下にあったのは、同年代の平均よりは一回りほど大きな、  
でもハリがあって垂れる気配など微塵もない美巨乳。  
「凄い……」  
それ以外に形容のしようがなかった。グラビアでも、ここまで完璧なスタイルはなかなか見ない。  
それが今、自分の眼前にある。  
志雄は手を伸ばそうとして……途中で引っ込めた。汚すのがためらわれたからではない。  
手を伸ばす代わりに、右胸に手を近づけ、純白の丘の先端に息づく  
サクランボのような突起を口に含んだ。同時に、右手を左の乳房に当て、揉みしだく。  
「あんっ……吸ってもでないわよ……。んんっ……」  
クロエの声に嬌声が混じるようになる。吸っても出ないことくらいは志雄も知っているし、  
正直何か出られても困る。ただ、味わってみたかった。思うままにむしゃぶりつきたかった。  
乳首を舌で転がし、ふくらみの至る所に吸い付く。しばらくしたら左右を入れ替え、  
左手を美巨乳に沈み込ませながら左胸を吸う。  
志雄が特に乳房に執着するのか、それとも男子は皆そうなのか、クロエは少し不思議に思った。  
だが、不快ではなかった。好きな人に体を求められるのが嬉しいことだと、クロエは初めて知った。  
「はあん……。志雄……。ああっ……。」  
もはやあえぎ声が抑えられなくなっていた。体が快楽を求めている。  
さっきから足をこすり合わせているのに、志雄が気付いてくれないのがもどかしい。  
でも自分からはとても言えない。  
一方、志雄としては。クロエの秘所などまさに聖域であり、簡単に手が出る物ではない。  
とはいえ、いつかは触れることになるとは承知していた。そして、それ以上に――欲望が、理性を上回った。  
柔らかいふくらみに触れているうちに、情欲が膨れあがっていた。  
胸乳を触ってこんなに気持ちが良いなら、秘められた場所に触れたらどんなだろうと、好奇心を抑えられなかった。  
再び顔を右胸に移し、そして右手をおそるおそるクロエの股間に近づけて行き―ショーツの上から触れる。  
―ぬちゃり―  
湿っているのが分かる、どころではない。ショーツの上からでもはっきり分かるほど濡れていた。  
志雄が少し驚いてクロエの目を見つめると、クロエは赤面しながら目を反らした。  
「先輩……」  
呼びながら、クロエをベッドに横たえる。そして志雄が両手をショーツのサイドにかけると、  
クロエはわずかに腰を上げて無言で協力した。  
ついにクロエの女の部分が露わになる。志雄は直視する勇気はなかったが、  
気にはなるし興味もあるのでちらちらと視線をやっている。  
しばし躊躇いを見せた後、志雄の右手がゆっくりと、露わになったばかりの部分に触れた。  
 
「ひゃうん!」  
クロエが頓狂な声を上げ、志雄は慌てて手を引っ込めた。  
「スミマセン、先輩。痛かったですか?」  
「そういうわけでは、ないの、だけど」  
「じゃあ、何かありましたか」  
「それは、その」  
クロエの返答は歯切れが悪い。志雄はわけが分からなかった。  
「どうかしま―」  
「そこは、女の子が、一番感じる、所なのっ!」  
赤面し、はあはあと荒い息を吐き出しながら叫ぶように言ったクロエの言葉で、  
ようやく志雄も事情を理解した。  
(あれが、クリトリスなのか。触られると女の人はものすごく感じるって聞いてたけど―)  
志雄はそんなことを思った。  
とにもかくにも、原因は分かった。志雄は敏感すぎる部分に触れないように注意しながら  
―その過程でどうしても、クロエの大事な場所を注視することになる―  
クロエの合わさった花びらに触れる。  
手で全体を包み込み、マッサージするように揉む。  
「あっ……」  
「こうしておいた方が、痛みは和らぐらしいですよ」  
志雄が中指を膣口に入れるとクロエが声を上げた。それに対して志雄は優しく答えた。  
志雄にも性への興味は人並みにある。  
もちろん実践するのは今日が初めてだが、知識も年相応に持っている。  
昔、雑誌で読んだ「初体験で失敗しないためのポイント」と言う記事を思い出していた。  
あの頃はクロエに対して漠然と憧れていただけで、こんな関係になるとは思いもしなかったが……。  
「んんんっ……」  
今日二度目の口づけは、いつもより唾液が甘く感じた。  
口づけをしながら、膣口に入れた指を蠢かせ、入り口の肉をほぐす。  
「んんっ、んんんっっっ……」  
口づけをしたままで指を動かすと、クロエが感じるたびに体としたがぴくりと動く。  
そのことが志雄には何となくおかしかった。  
口を離し、それと同時に指を女の入口から少し奥へと進ませ、先ほどまでと同じようにほぐしていく。  
十分にほぐれたら、さらに奥に進ませてほぐしていく。その繰り返し。  
―『初体験で女が痛がるのは、濡れているとかではなく、中の筋肉がほぐれていないからだ。  
だから挿入の前に十分にほぐしておけ』―  
昔記事で読んだ内容を、志雄は忠実に実行しようとした。  
実際、クロエには効果があった。嬌声を上げる回数が多くなり、愛液の分泌も増えていく。  
もう十分だろう……。志雄はそう判断した。ズボンを脱ぎ、トランクスも脱ぎ―そこで、重大なことに気付く。  
「あ、先輩……。ゴムがありません」  
「大丈夫よ……。今日は、安全な日だから」  
そこまで考えてくれていたのかと感謝しつつ、そそり立つ肉棒の先端をクロエの蜜口にあてがう。  
 
「行きますよ、先輩……」  
「ええ。来て、志雄……」  
その言葉に応えるかのように志雄は腰を進ませ、硬く膨張したものの先端部分を  
クロエの中に進入させる。十分にほぐしたはずだったが、それでも中は狭く、キツかった。  
「んっっ……」  
クロエが顔を歪ませる。失敗した、早かったか。そう思って志雄の動きが止まる。  
「先輩……」  
「大丈夫よ、志雄」  
気遣おうとしたのを機先を制して止められる。それでも志雄は少し不安だったが、  
クロエのことを信じることにした。それがクロエの想いに応える一番の方法だと思った。  
円を描くように腰を動かし、改めて媚肉をほぐしながら、少しずつ腰を進めていく。  
相変わらず中はキツく、もっと指でほぐしておくべきだったかと思ったが、今更な話だった。  
腰を進めていくと突然、さらに抵抗が強くなる。それでも腰を進めると、何かを破ったような感触があった。  
(ひょっとして、今のが処女膜だったのかな)  
志雄はそう想像したが、すぐにそれが正しかったことが分かった。  
結合部から零れる液体が、それまでは若干白く濁った液だったのが、ピンク色に変わっていく。  
「あああっ……」  
志雄が腰を一気に突き出し、分身の根本までがクロエの中に埋まる。  
女洞の締め付けは相変わらずキツいが、痛いというほどではない。  
全方位から刺激されるのは当然、志雄には初めての経験であり、  
今まで味わったことのない快感がわき上がってくる。  
すぐにでも精を放ってしまいそうだが、自分だけ気持ちよくなるのでは申し訳ない。  
クロエにも気持ちよくなって欲しい。そう思いながらクロエを見ていて、ふと胸が目に留まる。  
(そういえば、挿入始めてからこっちはご無沙汰だったな。……)  
空いた手で、クロエの胸を揉もうとする。だが、快楽に気を取られて力加減を間違った。  
揉む、と言うより鷲づかむ、に近い結果になる。  
「あああっ……」  
「ゴメンナサイ先輩、痛かったですか?」  
「大丈夫よ……。続けて、ちょうだい……」  
だがそれでもクロエにとっては気持ちよかったらしく、続きをリクエストされる。  
若干の戸惑いを覚えつつも、志雄はクロエの言うとおり、  
荒々しいかなと思える手つきでたわわなふくらみの感触を味わう。  
クロエが感じていることはすぐに分かった。  
女の器官の蠕動が細やかになり、志雄の欲棒を歓待しているようだった。  
快感が頭の中をかけめぐる。放出したい欲求を志雄は必死にこらえていたが、それも限界に近かった。  
「先輩……もう、我慢できませんっ……」  
「いいわよ、志雄……来てっ……」  
「あああっっ……先輩いぃぃ……」  
「私も……。イク、イクぅぅぅ……」  
志雄はいったん腰を引き、そして再び大きく突きだした。  
肉茎が置くまで届き、そして先端から勢いよく男の欲望が吐き出された。  
はあはあと荒い息をしているクロエの横に、ぐったりとして倒れ込む。  
二人は視線を交わし、しばらくそのまま見つめ合っていた。  
 
 
 
ベッドの中で二人とも裸のまま、思い出したように、少し悪戯っぽくクロエが言った。  
「ホントはね、志雄」  
「はい?」  
「初めてここに来たときからずっと、私は志雄とこうなっても良いって思ってたのよ」  
「あの日から、ですか」  
あの日のことは志雄にとって一生忘れられない思い出だった。  
常に凛々しいと思っていたクロエが、あのときはひどく弱々しく見えて…  
「あら、もったいない事したって思った?」  
「……いいえ、別に」  
それが志雄にとっては精一杯の強がりだった。  
「でも」  
「今度は何ですか?」  
「あの時、私にそういうことをしない志雄だったから、今こうしてるのかもしれないわね」  
「……どういうことですか」  
その志雄の疑問には直接答えず、クロエはくすりと笑った。  
「どちらにせよ、今こうして志雄の腕の中にいられるのが幸せなのかなって」  
「俺も今、幸せですよ。先輩」  
志雄はそう言って微笑んだ。  
 
 

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