智也。童貞。彩花の肉の味すら知らない。  
その若き血潮は、今・・・目覚めの時を、迎えようとしている・・。  
 
〜若き智也の肖像〜  
 
●●第一話  魂の臨在  
 
やってやる。ああ、やってやるとも。  
俺はもう我慢はしない。我慢できるはずがない。  
 
みなもちゃんはもうすぐに死ぬ―医者の言いたいことは、要は、そういうことなのだ。  
重い病気だかなんだか知らないが、俺にできることはもはや何一つとしてない。  
みなもちゃんを犯すこと以外は。  
彼女の肉を味わいつくし、一生の思い出とすること以外には。  
 
これは、考えに考え抜いた結論なのだ。  
 
みなもちゃんだって、俺と一緒にならないまま、俺という名の男を知らないまま死ぬのは  
絶対イヤに違いない。  
あんな熱っぽい、ドロのような感触のベッドの上で、あのまま、やせ衰え死ぬだけ、  
そんな生き様がみなもに許されるはずがないのだ。愛すべき三上智也に抱かれて、  
中田氏されてこそ、浮かぶ瀬があるというものだ。  
 
彩花だってそういってくれた。そうだ、これは彩花の願いでもあるんだ。  
俺の傲慢や性欲や独占欲や独りよがりじゃない。  
それも多少はあるが、これは彩花からの、みなもに対する、そして彩花自身に対す  
る手向けなのだ。  
 
・・・・・・・・・・・。  
・・・・・・。  
・・・。  
 
彩花の遺体はきれいだった。  
事故で死んだ―そう訊いた時、俺の脳裏にはグチャミソになった彩花の顔が浮かんだ。  
しかし、彩花は美しいままだった。霊安室で見た彼女の亡骸は。  
詳しく聞いたところによると、首の骨を一発でおられ、即死だったそうな。  
苦しまずに死んだそうだ。  
 
俺と彩花は霊安室で二人きりだった。いや、正確には俺一人きりが彩花という名前の  
肉袋を眺めていた。  
 
彩花の両親はショックのあまり、入院したらしい。無理もない、あれだけ溺愛し、そ  
して誇りに思っていた娘が死んだのだから。  
クズがっっっ・・・!!  
そんなんで、彩花がどうして安らかに眠れるというのだろうか。  
FUCK YOU・・・!  
ブチ殺すぞ・・・!!  
俺はそんな怒りに震えながら、たれ流れる鼻水を舌でベロリと舐め取った。  
鼻水でグチャグチャになっているにも関わらず、霊安室に所狭しと置かれた百合の花  
のニオイが俺をたまらなく悲しくした。  
 
薄暗い霊安室の扉の内鍵を閉めた。  
内鍵・・・。なんのための鍵なのだろうか。  
死人、もとい冷たい肉袋には鍵なんて必要ないのに。  
<カチャン>  
なんにせよ、鍵は閉まった。これで、本当に一人きりだった。  
一人きりになると、俺は思い出した。  
一人きりで、彩花の痴態を想像しながら、自慰に耽っていたあの幸せな日々のことを。  
 
あの頃は、彩花は生きていた。その肉に触れることはできなかったが、確かにあの時  
彩花は生きていて、俺もそんな彼女のことを思いながら白濁液を迸らせることができ  
たのだ。彩花の写真の上に。  
 
俺は彩花の死体と一人きり。そのような絶望的な世界があっても良いのだろうか。  
俺はそう強く思った。  
だから、俺は服を脱ぎ捨てた。  
そして、彩花にかぶせられた白い布と彩花だったモノにまとわりつく服を剥ぎ取った。  
そう、何かがおかしかったのだ。  
俺と彩花が一緒になれなかった世界など、おかしすぎたのだ。  
だから、俺がその世界を作る。  
例え、一人きりでも、俺と彩花が一緒になれる世界を!  
世界を!!  
 
彩花の肉は冷たかった。そして、ズシリと重かった。  
幸い、彼女の肉体には大きな外傷もなく、生前は一度も見たことはないが、恐らく生前  
のそれのままの美しさだった。  
しかし。  
所詮遺体であった。  
俺のペニスはさすがに反応しようがなかった。  
一人きりで、彩花と一緒になれる世界など、作れるはずがなかった。  
吐き気、怖気、百合の臭い。  
全てが、俺に、死姦するな、と伝えてきた。  
そう、彩花はもはやいなかったのだ。いないものはいない。いないものといる世界、  
そんな矛盾した世界は作れなかったのだ。  
 
俺は服を着て、彩花だったものにも綺麗に着せなおし、最後に彩花の冷たい唇にキスを  
して、霊安室からでた。  
霊安室の扉を閉めた瞬間、確かに冷たかったはずの彼女の唇が、何故かとても暖かい  
ものであったような錯覚を覚え、無性に悔しく、そして悲しくなり、病院の廊下を、  
出口へと向かい駆け出していった。  
 
・・・・・・・・・・・。  
・・・・・・。  
・・・。  
 
彩花との世界が終わってしまってから、俺は妄想の世界へと逃げ込むことしか出来な  
かった。すっぱくて香ばしい臭いのする布団に包まり、彩花との楽しい思い出をリフ  
レインしながら、自慰に耽る毎日。シーツの上にそのまま射精する毎日。  
 
唯笑が毎日のようにきてくれていたが、彼女の声は俺をバカにしているようで堪らな  
かった。  
 
「彩ちゃんはいるんだよ・・智ちゃんと、私といっしょに・・だから・・」  
 
黙れ、黙れ!!  
いないものはいないんだ。彼女は死体になり、灰になり、そして消滅したんだ!  
俺は何度も、唯笑に反論した。心の中で。黙りこくって。  
唯笑はバカだ、アホだ、ゴミだ、戦闘力5にもみたないクズだ―そんな彼女になにが  
わかる?  
俺は、そう思った。  
 
しかし、悲しいかな、俺は唯笑の情にほだされてしまった。  
その良し悪しは別問題として、唯笑のおかげで、俺はまたまともな世界へと戻ること  
ができた。彩花のいない世界がまともかどうかは別として。  
 
そんな世界でいきていくうちに、伊吹みなもという少女とであい、恋に落ちた。  
そして、彼女の死が近い、ということを知ると、俺は悟ったのだ。  
今度こそ、彩花の悲しみを繰り返さないと。  
 
彩花だって、俺と死ぬ前に一緒になりたかったに違いないのだ。  
中田氏されて、その膣をキュウと締め付けたかったに違いないのだ。  
うわさでは、彩花は処女ではなかった、というが、そんなことはどうでもいい。  
とにかく、俺とセックスがしたかったに決まっているのだ。  
 
だから、みなもちゃんもそうに違いないのだ。そうに決まっている。  
唯笑はいった。  
「彩ちゃんはいつでも、どこでも、私たちの側にいるんだよ」  
と。  
そう、彩花の望みや願いはあまねく世界に満ち満ちているのだ。みなもちゃんもその例外ではない。  
みなもちゃんは、彩花でもあるのだ。  
だから、俺に犯されたいに決まっているのだ。  
それに俺たちは恋人同士だ。自然の摂理でもあるのだ、俺がみなもちゃんに中田氏するのは。  
 
ああ、彩花はなんて優しいんだろう。自分と同じく死ぬ運命にあるみなもちゃんに、自分の  
望んでいた世界を見せてあげるなんて・・。  
一人きりじゃなく、みなもちゃんと一緒に、俺が一番望んできた世界を作ってくれるなんて、ああっ!  
 
・・・・・・・・・・・・。  
・・・・・・・。  
・・・・。  
 
 
そんなことを思いながら、俺はみなもちゃんの病室の簡易イスに座っている。  
みなもちゃんが午前の検査を終えて、ここに戻ってくるまで。  
俺におかされるために帰ってくるまで。  
 
彩花との約束を果たすまで、失われた世界を取り戻すまで、あと何分?  
俺はそんなことを思いながら、今、ペニスにチンカスが溜まっていないかを確認して  
いる。  
 
                                                続く  
 

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