三上智也。
右手には金属バット。左手には愛。
そしてポッケには秘密兵器を。
彼は最近できたばかりの、愚連隊の事務所の前に降り立った。
愛用のママチャリ(29800円也)から舞い降りて。
やれることは全てやった、準備は終わった。
神にも祈った。遺書も書いた。
あとは、ただ。
戦いの地へと赴くだけだった。
愛すべき購買のオバチャンを助けにいくだけだった。
・・・・。
「おっらああああああ!!」
フォンッグシャッッッ!!!
事務所の前でヤンキー座りをしながら地面に広げたスポーツ新聞を
読んでいたチンピラ(牧野修一、17歳。特技はピアノ)は突然の金
属バット後頭部直撃に脳!震!盪!
ドウッガシャーーーーーン!!
チンピラが倒れこむのと同じタイミングで、智也はバットで暴力団
の、事務所の扉を破壊した。
「!?」
「っだぁあっ?」
「カチコミかあ!」
玄関先は湿ったカビのにおいがし、無人だった。が、廊下の奥の方
から殺気立った声がいくつも上がった。
敵は最低三人―智也はそう悟った。
ゴトッ、カチチッ、ムワァアアア
智也は懐から信から借りたガスマスクとバルサンを取り出し、後者
に真っ赤な火をつけた。白い煙があふれ出す前にガスマスクをつけ、
煙を吐き出すバルサンを数個、廊下の奥へと放った。
「ゴホッ!!ブヒャッ、ブベエエ」
「っだっらあああああああああ!!ブベラッ!グフフッ!!」
「〜〜〜〜〜〜〜ッツツ!!」
白い煙の海の向こうで、なにやら蠢くシルエットが見えた。
智也の待ち構える玄関へと向かってきた。
「ドアぁあけろっ、三瓶!ギヒッ」
「う、ウッシ!ブシュン!!」
ぬぞ・・とデブが煙を掻き分けて玄関へと出た瞬間、
智也の横薙ぎのMIZUNOが三瓶の顔面の骨を叩き割った。
グシャゥッ
『がんばれっ・・』
「うわああああああああ!!!」
雄たけびを挙げた智也は返す刀の勢いを生かし、煙の海へと特攻し
た。そして、手当たりしだいバットを振り回す!振り回す!!
フォンッ、ゴンッ!
「びゃっ!!」
フォン、ミチィッッ!
「ごんげっっ」
手ごたえが二つあったところで、智也の周りはおろか、その建物全
体から殺気が消えた。
所詮ヤクザもどきのチンピラ。残りはどうせパチンコにでもいって
るのだろう。
が。
智也のすぐ横、二階へとあがる小汚い階段の上に、何かが気配を放
っていた。
「おばちゃん・・?」
返事がない。
(仕方がない・・町田中尉の助けを借りるか?)
智也は、ヤッケのポケットの中でもぞもぞと動いている、ネズミ花
火を装備した町田中尉に手をやった。
しかし、もう一度だけ呼びかけた。
「おばちゃん、いつものね」
「うわぁ、智ちゃああああん!!」
階段の上から、肉付きのよい、豊満な購買熟女が智也の胸に飛び込
んできた。
そして、泣きじゃくった。まるで、赤ん坊のように。
・・・・・・。
カラカラ・・と、町田中尉がハムスターケージの中のランニング・
ホィールの中で元気に駆け回っていた。
「あっきれたあ!智也君頭大丈夫?」
「へへっ・・前の期末は赤点だったけど・・」
「まあまあ、そんなにしからないで頂戴、智也くんはあたしの為に
やってくれたことなんだから。それに、あんな連中のところにあれ
以上いたら、なにをされたか分かったもんじゃなかったでしょお」
ボリボリ・・と吉四六漬けをかじり、かじり終えるとチュッパチュ
パと漬物汁の付着した指をしゃぶりながら購買の母は言い返した。
「でもお母さん!智也君にももしものことがあったら・・!」
「小夜美、智也君は正しかったよ。あの事務所の二階から死体がい
くつも見つかったらしい。どの組織の末端だか知らないが、あの連
中、相当凶暴な連中だったらしい」
小夜美の父は、夕刊フジのエロ紙面をマジメ腐った顔をして読みな
がら娘を諭した。
(この女の乳でかいな・・揉みたい・・)
「お父さんまでおかしいんじゃないの?!そんな連中だったらなお
さらじゃない!智也くんっ、もう行きましょっ」
「うぇ、ご、ごごちゅ・・」
オレンジジュースの氷をガリガリとかじりながら、智也は小夜美の
後を追った。
これから彼を待ち受ける、めくるめく快楽の世界のことを知らず、
なにも分からずに・・。