「あのメスブタが」
俺は悪態を吐きながら、誰もいない廊下を歩いていた。
俺がむかついているのは、いのりが学校を欠席したからだ。まだ少し肌寒い気温の中、わざわざあの女に会うために(会って犯すために)
登校してやったのに。面倒な女だ。せっかく用意した媚薬も持って帰らなければいけない。
この媚薬は粉末で、冷水にも瞬時に溶けるように加工されている。溶けてしまうと、味はもちろん色もほとんどない。速攻性が高く、
主に性感帯の働きを亢進させる効果がある。五百円玉大の袋に入っているため、大した荷物にもならない。だが、わざわざあの女のために持ってきたことを思うと、やはりむかついてしまう。
『このイライラを何かで解消したい』
そう思いながら、ふと、窓から校舎の屋上を見ると、偽りの恋人が俯けに柵にもたれ掛っていた。
「ちょうどいいところで見つけたな」
俺にべた惚れのあの女なら、なかなか楽しめるだろう。
俺は雅で遊ぶ方法を考えながら、屋上に向かった。
俺が屋上の扉を開けても藤原 雅はそれに気付かず、扇子を片手にぼんやりと街を眺めていた。足下には四段の重箱と水筒が置いてある。
俺は雅に気付かれないように静かに近付き、いきなり後ろから抱き締めた。
「えっ」
雅は驚きの声をあげると、首だけを動かして、自身を抱き締めている主を見た。そして、それが
俺だと分かると、顔を赤らめて、俺の腕を振り解いた。
「こっ……このうつけ者! 何をするのです!」
雅は裏返ったような声で俺に言った。
「ごめん。あんまり綺麗だったからさ。つい抱き締めたくなった」
ありきたりな台詞だが、今のこの女を相手にするには、十分な威力だ。
赤くなっていた雅の顔が更に赤くなって、まるでトマトのようだった。
「ひ……人を馬鹿にして……この愚か者!」
そう言って雅は持っていた扇子で、俺の手の甲を叩いた。照れを隠すのは結構だが、こういうことはやめてほしいものだ。
「ごめんごめん。じゃあ少し早いけど、お昼にしようか」
腹が空いていた俺は、少し強引に昼に誘った。
「ご馳走様でした」
俺たちは色とりどりの弁当を全て平らげた。
「今日もおいしかったよ。ありがとう」
「当然です」
雅は俺と視線を合わせずにそう言うと、広げた重箱を片付け始めた。俺は何も言わずに片付けを手伝った。ときどき、お互いの手が
触れたことがあった。その度に、雅は手を引っ込めて、恥しげに俯いた。その反応を見る度に、俺は心のなかでほくそ笑んだ。
片付けを終えると、雅は二つのカップにお茶を注いだ。
雅がカップに気を取られているうちに、俺はズボンの後ポケットにしまっておいた媚薬を取り出した。