『心を揺さぶる映画』
「いい映画ってのはな、いい素材と脚本、それに監督の腕、これがキモだ」
男は自分が一端の映画監督であるかのような口調で話すと周囲を見渡した。
「ハハア・・・・その、西山さんが映画業界で働いているってのは散々聞かされたんで、もうわかっているんですがね」
正面に座った猫背気味の男が早く先を言えとばかりに相槌を打つ。欲望が先走るのか、少し焦点のずれ気味な目を見張りながら。
「西野、あせるな。計画をじっくりと聞くんだ。西山さんは素材について誰よりも詳しく知っているんだぞ」
猫背気味の男に西野と呼びかけた人物−この男は背筋をシャンと伸ばし精一杯威儀を取り繕っている様子であるが、やはりこみ上げる感情を抑えかねるらしく、時折両方のまぶたをヒクつかせている。
「よくわかっているな、相川さんよ。そのとおりだ、何しろ今回の素材はな、俺が10歳のときから面倒を見てきたんだ。今年で11年目になる
「でも去年逃げられま・・・・いえなんでもないです、続けて、先を」
いらぬ事を言いかけた西野を一睨みさせて黙らせると、西山は話を続けた。
「そうだ、あのじゃじゃ馬がよ・・・。お前らもあの女にしてやられたそうだな」
「そうなんですよ!!」西野が甲高い声を張り上げる。
「あ、あいつは誰にでも笑顔を振りまいて、人をその気にさせておいて(?)
いざ交際を申し込んだらそんな気は全くないってしらばっくれやがるんです!
最悪ですよ、その様子をたまたま見ていた頭の弱いクラスの女子がしゃべりましてね。今日まで学年のいい笑いモンですよ!!」
西野の話を聞いた西山に相川と呼ばれた男が無意味に胸をそらし、あごをグッと引き締めて話し出す。
「私の場合はね、真(まこと)の理、陰陽二気の妙玄の追求を、彼女に実践しようとしたんです。
知行合一っていう言葉があるでしょう。私は『学んだことは必ず実践すべし』という聖人の教えに従っただけなのに・・・。
あの女、この俺を変態呼ばわりしやがったんです。そもそも鬼神は・・」
まだまだ続きそうな意味のわからない話をさえぎるようにして、西山が場をまとめるように話し出す。
「お前らの話はよおく分かった。つまりはこの俺に協力して映画を完成させる過程であの女、音羽かおるに復讐したいっていうんだな?」
その言葉に西野、相川両名は深く頷いた。
(全く逆恨みもいいところだぜ・・・。でもな、かおるよ。この俺を裏切って逃げたお前の罪は相当に重い。
お前はものすごく可愛い女だが、『可愛さ余って憎さ百倍』っていうだろ?お前は最高の映画を撮るための素材になってもらうからな)
胸のうちでこうつぶやいた西山はかつての恋人、音羽かおるの笑顔を思い出し、思わず口中に湧き出た唾を飲み込んだ。
その面影を追っ払うかのように腹から声を出す。
「ようし、決まりだ。俺たちは自分の特技を活かして最高の映画をつくりあげるぞ!」
西山が差し出した拳に西野、相川の手が重なった。
西山入間は生涯最高の映画を作り上げるために
西野頼通は芸術と、復讐のために
相川白石はひたすら儒学の実践のために
こうして3人の男達は一致団結し、かわいそうなターゲット、音羽かおるを陥れるための行動を開始したのである。
「行動に取り掛かる前に改めて自己紹介といこうじゃねえか」西山が部屋の中央にどっかと座り、他の二人を見据えて言った。
ここは澄空市内某所にあるアパートの一室で、西山は仕事の都合上ここに引っ越してきたのであった。
部屋の中には撮影機材と思しきデジタルビデオカメラ、PC、他には何に使うのかわからない道具の数々
−曲がりくねった棒状の蝋燭や、鉤棒、金盥、漏斗、竹竿、ロープ、麻袋等−が無造作に置いてある。
「自分の名前、特技、それとこの撮影にかける意気込み、抱負を語ってくれ、役割分担の参考にもするからな」そして待ちきれない様子で西野が名乗りを上げた。
「西野頼通、17歳です。特技は写真撮影、絵画等の芸術を少々、何より美の追求に目がないんです。ぼ、僕こそが音羽さんの魅力を最大限に発揮させられると思ってます」
何故か感極まった様子で息を荒げ、絶句してしまった西野を見て、西山が相川を促す。
「名前は相川白石、私は真人間になるために儒学を学んでおり、聖人の弟子であります。特技ではないが物事の本質を暴き、さらけ出すことを目標にしております。
音羽かおるは、あの明るい仮面の下に真の顔を隠していると見ました。何としてもその仮面をはがし、本当の顔を見てみたい、
これは私の興味本位でなく彼女のため、そう人助けでもある。
そもそも華夏において聖賢の系譜は途絶え、二千年の後、本邦に彗星のごとく現れました。それがこの私です」
キリのいいところで西山が割って入る。
「俺は西山入間、レルムスっていう映画会社でADをやっている。監督の傍で仕事をしてきたから、大事なポイントは押さえてるつもりだ。
今回の映画では『本当の恐怖』と『美の崩壊』、この2点を徹底追求する。お前ら、相手が俺の元カノだからって遠慮するなよ。
何しろ素材の魅力を限界まで引き出すのが俺たちの役目なんだからな」その言葉に奇人高校生二人は首を縦に振った。
「相川、お前の呼称は『先生』だ。ただの教師風情とは格が違う『本当の(狂った)儒者』だぞ。お前の格調高い論法でかおるを鎮圧しろ。迫真の演技でいくんだ。
西野、お前は『ガリ』だ。あのガリレオにあやかった名前だぞ。これで嫌でも自信がついただろう?」
勝手に決められた呼称のとおりガリガリに痩せた自称芸術家、西野は感激に身を震わせた。「素晴らしい・・・!」
西山が話を続ける「俺は演出、映像とか技術的なことにはイマイチ自信がもてないからな、ガリの手腕に期待してるぞ」
勝手な呼称で呼ばれたが西野はむしろ嬉しそうに口を歪ませた。その隣で相川は何やらぶつぶつとつぶやいている。
どの技法でかおるを追い詰め、圧伏させるか脳内で入念にシミュレートしているのだろう。別世界に行ってしまいそうな感じだ。
「それとだ、俺のことは西山さんでも何でも好きに呼べばいいが、撮影中には本名を出すのも冴えないからな、」
西山は少し考え込んでおもむろに口を開いた「『ヴィルマーさん』と呼べ」「はァ?なんですか、それ」
西野が間抜けな声で問う。「俺の名前、入間と好きな映画の主人公の名前が似ているんでな、そっちにあやかった。いいか、しっかり覚えろよ」
その言葉に他の二人は訳も分からず同意した。そして幾分すっきりした表情で西山が話し始める。
「さて、時間を食っちまったが、本題に入ろう。まずはターゲットへのアプローチだ」三人は輪になって細かい段取りを決めていく・・・。
ここ澄空駅付近のバーガーワックは下校した学生が溜まり、賑わっていた。その一角で澄空学園の制服を着た女子の二人組が話し込んでいる。
「かおるちゃん、どうしたの?なんか元気ないよ」おかっぱ頭に黄色いカチューシャを着けた女子が向かいのショートヘアの女の子に話しかけた。
「うん、ちょっと気になることがあって・・・」「どうしたの?唯笑でよかったら相談にのるよぉ」
唯笑の能天気な口調に、かおるちゃんは少し不安そうにしながらも話し出した。
「最近ね、誰かにつけられてる気がするの。学校にいるときもずっと視線を感じるし。気のせいかもしれないけど・・・」
唯笑はクスリと笑った。「気にしすぎだよ。かおるちゃん人気者だから、誰かに見られててもおかしくない思うよぉ。」
確かにかおるが澄空に転校してきてからの人気の上昇ぶりはなかなかのもので、クラス、学年の壁を越えてアタックする男子はかなりの人数に達していた。
「唯笑も知らない男の子から音羽さんを紹介してって頼まれて、断るのが大変なんだからぁ」
唯笑がことさらに明るい口調で言う。「でも、かおるちゃんは告白されても、お付き合いする気はないんでしょ?」
かおるは、うんと言いかけて唯笑の言葉に遮られた。「智ちゃんは別だけどね」
次の瞬間、かおるは手にしたオレンジジュースのカップをテーブルに落としていた。
「なっ、なんでそこで智也の名前が出てくるのよ!?」かおるは顔から首筋まで赤く染めてうつむき加減になってしまった。
「智也はいいお隣さんで話してて面白い人だけど、でもそれだけだよ。唯笑ちゃんはどうしてそう思うの?」
「二人を見てればわかるよ。『智也』『かおる』って名前で呼び合っちゃって、ホントお似合いの二人だよね。ねえ、ホントに二人はお付き合いしてないの?」
唯笑の心の中では黒い気持ちがほんの少しだけ湧き出ていた。
(あんなに仲良くして、まるで昔の智ちゃんと彩ちゃんみたい・・・)
かおるはオレンジジュースを飲んで少し落ち着いた様子で否定した。「本当に違うってば。智也とはいい友達だよ。名前で呼び合うくらい気安い仲間なの」
「ふーん、でも智ちゃんはどうおもってるのかなあ。音羽さんの話をする時の智ちゃんすごく楽しそうで、まるで・・・」
「まるで、何?」
再び昔の幼友達を思い起こしてしまった唯笑はそれ以上この話を続けることを避け、別の話題を振った。
「そうだ、今日学校に猫ぴょんがいたんだよ」
「猫ぴょん?」
「うん、ぷにぷにしててすっごくかわいいの!」学校にいた猫、明日の宿題、TVの話、二人はしばらく話していた。
傍からみれば二人はとても仲のいい友人同士に見えていただろう。やがてかおるが時計を見て言った。
「いけない、お母さんから夕飯の買い物頼まれてたんだ。私、もう行かなきゃ。唯笑ちゃんはどうするの?」
「うーん、唯笑はもうちょっとゆっくりしていくよ。まだ食べきってなかったんだぁ」
唯笑はハンバーガーの包みを手に持った。「うん、じゃあまた明日ね」
かおるはバイバイと手を振って店を出て行き、テーブルには唯笑一人が残された。先ほどのかおるとの会話が頭をよぎる。
(智ちゃんは彩ちゃんと付き合って、今度はかおるちゃんに取られるの?)
また黒い気持ちが湧き出てくる。どんどん思考が暗い方向に進もうとしたとき背後から声がかかった。
「ずいぶん長かったな。待ちくたびれたぞ」
後ろを振り向くとそこには長髪でヒッピー風(?)の服を着た年嵩の男と、同級生の相川の姿があった。
「…今坂さん。ちょっと話があるんだけど、いいかな?」相川が年嵩の男を紹介する。
「この人は西山さんといって澄空のOBで、僕や三上もお世話になっているんだ。今日はその…大事な話があって」
西山が進み出る。「西山入間だ、よろしくな」そう言って唯笑に握手を求めた。
その迫力に呑まれて思わずはあ、と手を差し出してしまう。
「三上から相談を受けているんだ。さっき出て行ったあの女、音羽かおるのことでな」
それを聞いた唯笑は思わず顔色を変えた。「なんの話ですか!?」
「まあ落ち着けよ。初対面の君にいきなり言うのもなんだが、あの女と付き合うのはやめておいた方がいい。あいつは人の心を弄ぶ悪いやつだ。性悪女ってやつだよ」
唯笑は反論せずにいられなかった。「かおるちゃんのことをそんなに酷く言わないでください。だいたい、あなたはいったい誰なんですか?」
「さっき言っただろう、三上たちの先輩だよ。それとな、かおるとは近所で遊んだ仲だ。よく知っている」
「でもかおるちゃんは去年転校してきて…」「伊豆の韮山からだ、別に遠いところじゃない。俺も伊豆育ちだけど親の都合で引っ越してきたんだ」
嘘八百を西山はすらすらと並べ立てた。
「そんな…」
「あの女は作った笑顔で相手を安心させて人の秘密や弱みを握り、脅迫してその相手を支配することをしてきたんだ。俺も、この相川も被害者なんだ」
「唯笑、かおるちゃんにいっぱい相談にのってもらっちゃって…」
「これ以上大事なことを話すと大変なことになる。三上も昔交際していた彼女のことをうっかり話して、それをネタにさんざん振り回されているみたいだ」
「彩ちゃんのこと?そんな、酷いよ!!」
次第に話に乗ってきた唯笑の様子に心の中でほくそ笑みながら西山が続ける。「今坂さんよ、三上を助けると思って俺たちに協力してくれないか?」
その言葉に唯笑は西山に顔を向けた。「でも…どうやって?」
「あいつが三上をたぶらかしているところに乗りこんで皆で説得する。そう、俺たち『被害者の会』全員でな。俺はもうこれ以上被害者を増やしたくない」
「…」
「他にも被害者はいる。君の同級生も何人か混じっているぞ。双海さんと言ったかな?」
相川が重々しく頷いた。「友人の西野もそうです。あいつも一緒です」
このときの唯笑は心に黒い感情が降り積もっており、かおるへの敵愾心がほんの少しだけ芽生えていた。
そして西山の話をもう少し聞きたいと思ってしまっていたのだ。「詩音ちゃんも、ですか…」
「これから一緒に来て詳しい話を聞いてみてくれないか?協力するかどうかは、その後決めてくれていい」
唯笑はしばらく考え込んでいたが弱々しく頷くと立ち上がった。このまま一人でいるよりは誰かに傍にいて欲しい心境だった。その相手があまり面識のない男であってもどうでもいいほど心が弱ってきていたのだ。
西山は満足そうに頷き、バーガーショップを出ていく。そして唯笑は相川に促されるままにフラフラとその後をついていった…。
一方その頃・・・単独行動を命じられた西野はバーガーショップを出たかおるを追跡調査していた。
携帯電話に見せかけた小型のビデオカメラを片手に、かおるの後をつける姿はストーカーそのものである。
かおるの50mほど後ろを歩き、携帯電話のメールをチェックするふりをしてカメラのピントを必死に調節する。うまく調節ができると自然な風を装いながら対象の観察に入った。
(日が暮れてきて、やや見えにくいですが・・・たまりませんねえ)
何がどうたまらないのか。このときカメラの焦点は前方を歩くかおるの尻の部分を捉えていた。運動で適度に鍛えられ、引き締まりながらも大き目の尻が速めの歩調にあわせてクリクリと躍動している。
(去年の身体測定のデータでは、B81、W57、H85とのことですが・・・私の見るところあの尻は87か8はあります)
どういうわけか、この男は女子の身体測定のデータを把握していた。全く油断も隙もあったものではない。
カメラと一体となった西野の目は太ももに移る。
(フーム、何故黒いタイツを履くのか・・・生足をさらすのが恥ずかしいのだろうが、あれじゃ余計に男の目を集めるってもんですよ。まるで逆効果だ)
西野の妄想が膨らむ。(黒の下に透ける白。これはイイ。更に黒ストを丁寧に指で引き裂いた時の視覚効果は・・・白に近い肌色もミックスされて・・・こりゃたまらん!)
次第にヒートアップしてきた西野だが、かおるが不意に後ろを向いたのに気づき身を凍らせた。
(見つかった!?)
西野は慌てて近くの電柱に身を隠した。時間をおいてそーっと頭を出して様子をうかがう。
かおるはしゃがみこんで民家の軒先にしゃがみこんで子猫と遊んでいた。西野の尾行に気づいたのではなく、猫を見つけて振り返ったらしい。
子猫は草むらを転げまわって4本の足を振り回してかおるの人差し指を捕まえようと頑張っている。ぴゅーんという子猫独特の鳴き声がとても可愛らしい。西野も思わず子猫の動きに見入っていた。
「・・・」
かおるは穏やかな表情で子猫と戯れていたが、鋭い観察眼を以ってすれば穏やかな中にも若干の不安、疲れ、苛立ちといった負の感情が含まれていることに気づくだろう。
そして毎日かおるを観察してきた西野にもそれは可能であった。
(ただ可愛いだけでは物足りない。やはり憂いは美に欠かせない要素の一つです。毎日の観察、不審電話、奇妙な手紙・・・少しずつ負荷をかけていった甲斐があって、音羽さんの美が増してきている・・・。あと少しで収穫の季節です)
かおるがうつむき加減にしているのをいいことに西野は安心して電柱の陰から観察を続けた。今度は上半身に焦点を合わせる。
(これはこれは・・・また一段と膨らんだようで。去年の81cmから大躍進して今では、ウム、88cm以上というところ・・・カップはDかEか。いやいや、こればかりは直接触れてTとUの差を測ってみないことにはなんとも・・・)
確かに制服の胸元を盛り上がりはなかなかのものであった。
(さすがに成長期の体は発展がすばらしい。あとは中身を一刻も早く拝みたいものです。私はブレストマンとしてあの肢体を放っておく訳にはいきません。必ず収穫しますよ!)
西野は決意を新たにし、更に観察を続行する。
(今度はなんとかしてその、パ、パンティを、撮らなくては)
そう意識すると呼吸の乱れ、手ブレを精神力で押さえ込み、熊を狩るマタギの如く身を彫像のようにして決定的なチャンスを待つ。
やがてその時は訪れた。猫ちゃんがころころと地面を転がりかおるも体の向きを変えたのだ。
(おお・・・!)
尻を浮かせて座っているためM字に開きかけたかおるの股間がファインダーに入ってきた。
(み、見えますよ黒タイツ越しに、緑の縞々の入った、白いパンティが!)
焦点を股間の二重底の部分に合わせ、ズームをアップする。タイツ越しではあるが、まだ明るい太陽光にさらされ、緑の縞々が微妙にくねり、緩やかにカーブのふくらみをもつ部分がしっかりとカメラに記録されていく。
(あの、小山の中身は一体何が入っているのか・・・何故あの形にふくらむのか、早く中を拝みたい!)
その先を想像しようとしたところで、かおるは小さくため息をつき立ち上がって再び歩き出した。
西野も慌てて、しかし慎重に後をつけていった。しばらく歩き、かおるはやがてスーパーマーケットに入った。
母親から頼まれた夕飯の食材を買い込む為だ。そうとは知らない西野はかおるがどんなものを買うのか知らずにはいられなかったので、見つかる危険を承知でスーパーに入っていった。
店内でカメラを持ち歩くのは目立つと判断し、肉眼にかおるの姿を焼き付けるべく彼女をつけまわす。
(食べ物やら台所用品やら、あまり面白いものは買いませんねえ)
そうぼやきながら自分も買い物をするふりをして観察を続ける。別の商品置き場に移動したかおるを追った西野はそこで足を止めずにはいられなかった。
(なんてこった・・・)
かおるは生理用品の棚の前で可愛らしいあごをつまんでどれにしようかと迷っている様子だった。
(せせ、生理用品をか、買っていかれますか。どうするんだろう。やっぱり自分用なんだろうな。ウム、そうに違いない!)
西野は体温が上昇し、全身が汗をかきはじめたのを自覚し、深呼吸して落ち着きを取り戻そうとした。しかし、
(一体どっちを買うんだろう。無難に『NPK』か。ま、まさか『TPN』ってことはないよな!?
万一『TPN』であった場合・・・なんというか、その・・・既に開通済みということであって・・・つまり清純なふりをして男を騙しているってことになるのか!)
一瞬、思考がカッと沸騰する。(誰だ、開通した犯人は誰なんだ?ド畜生!!)