『♪泣ーかなーいフーリをしてーたらー…』  
 
不意にカーラジオから流れてくる、自分の声。というか歌。  
少しビックリ、そして少し不快。  
すぐに消す。  
自分の歌が流れてくるまで、意識がどこかにいっていた。  
ちょっと、思案に暮れていたみたい。  
多分、彼は今日も一人なのだろう。  
それは、ある程度予想も出来ることだし。  
彼には悪いけど、私と彼の二人きりな状況が少し楽しみだったりする。  
そして、その状況がやっぱり不憫で。  
不安で。  
それでも、私は行く。  
夜のお茶会。  
ただ一人だけが待つであろう、閉店後のならずやへと。  
それを思案するうち、意識をまたそちらへ飛ばした。  
 
明かりが灯ったならずや。  
彼の誠実さに感慨を覚えつつ、ドアを、静かに開く。  
その彼は…うなだれていた。  
「ハイ」  
いつも通りの、軽い挨拶。  
私は彼の向かいには座らず、カウンターに寄りかかる。そういう気分だった。  
「カナタ……」  
彼は…イッシューは顔を上げ、こちらを見る。  
ホッとしたように微笑むと、また、寂しそうな、やり切れなさそうな顔をした。  
少しだけ…胸が痛む。  
「ずいぶんヘコんでるじゃん」  
軽く茶化してみる私。これでも元気付けようと気を使っているつもりだ。  
「……オレのことはどうでもいいんです」  
自重気味なセリフの陰に、少しだけ攻撃的な色が垣間見える。  
誰に対して?  
…言うまでもなく、私に対して。  
「葛西陽心のオーディションのこと、聞きましたよ」  
言葉が、私を責め立てる。  
それはあまり痛くなく、それでも少し悲しくて。  
それは少し悲しいけれど、それでも私に向けられた言葉。  
だから少しだけ心地良いけれど。  
「りかりん、ショック受けてた。なんであんなことするんです?」  
やっぱり、少し辛かった。  
彼の心は、私の方には向いていないから。  
だから、私は。用意されていたセリフを吐こう。  
 
「さあ?」  
 
イッシューの為に、憎まれ役になろう。  
心から、辛いけれど。  
 
「あんな、火に油注ぐようなことして……」  
イッシューは止まらない。  
火に油を注いだ…わけでは無いみたい。  
ただ、ぶつける。吐き出す。  
私の意図は、汲み取ってもらえなかったようだけど。  
イッシューが救われるのならば、それでも、構わなかった。  
「りかりんが中途半端なこと言うんだもん。あったま来たからさ、ライバル宣言ってヤツ?  
 こう見えてもわたし、仕事に誇り持ってるから」  
私の本心。  
「……おかげでみんなバラバラだ」  
言った後、苦悩の表情を浮かべるイッシュー。  
本心…ではないと思う。  
言ってしまっている、といった表情から、そう取れる。  
ただ、どうしても誰かに と、その想いをぶつけているだけのようで。  
だから、受け止める。  
本心だったら…すごく悲しいけど。  
「カナタがあんなことしたら、ますます離れていくって、分かるでしょう!?」  
イッシューは、まだ幼い。  
きっと理不尽と分かっていながらも、私にぶつけられるだけ、素直で、弱くて、危なっかしくて。  
その幼さが、愛おしい。  
「もう、元に戻れない……」  
勢いを止め、最後にそう吐き出した。  
辛そうな表情。見たくない。  
助けてあげたいから。  
「ねえ」  
訪ねる。  
「イッシューは、どうしたいわけ?」  
訊くのは…正直怖いけれど。  
 
「…………」  
考えこんでいるのか、唐突すぎたのか。イッシューはすぐには答えなかった。  
何を想っているのかは…正直私にも分からない。  
暫くの間の後、返ってきた答えは、予想していないものだった。  
「だから、オレは……みんなの前から消えればよかったんだ。オレが消えれば、それだけでよかったんだ……  
 そうすれば、カナタとりかりんとのんちゃんは、今でも……」  
悲壮を帯びた言葉。きっとイッシューはそれを望んでいないはずなのに。  
「違う。ぜ〜っんぜん違う。今さら、誰に遠慮してんの?」  
「だってオレは……みんなの関係を、壊してしまった……」  
確かに、イッシューの存在は大きかった。  
りかりんにとっても、のんにとっても。そして勿論…私にとっても。  
けれど、それは違う。イッシューは何も、そして誰も悪くない。  
消えたいだなんて、言わないで欲しい。イッシューにはいつもみたいに、アホをやっていて欲しい。  
だから、私は本心からこう言った。少し表情を引き締めて。  
「それって傲慢」  
「え?」  
「何様のつもり?はっきり言って、君ひとりに壊される程度の関係じゃないの、わたしたち」  
少し辛辣だったかもしれない。私の悪い癖。  
けれど、だからこそ正直に伝えられると思う。  
「壊れたんじゃない。変わったんだよ」  
「変わった……?」  
「りかりんも、のんも、勿論わたしも。 望んで、そうした。その結果でしかない」  
だからこそ、今、私はここにいるのかもしれない。  
イッシューの為に、ひとり、ここに。  
大切なイッシューの為、私はこう言う。  
 
「で?イッシューは、どうしたいの?」  
 
もう一度、問う。  
 
「イッシューは、何を望むの?」  
 
イッシューはハッとしたような、それでいて複雑な表情を浮かべる。  
きっと、考えているのは、あの二人のこと。  
そう、りかりんと、のん。  
きっと、私のことは。  
今まで発した自分の言葉が、私自身を追い詰めている。  
答えを訊いてしまえば、どうしようもない、もどかしい立ち位置に。  
それでも、私は、想いを抑えて。  
「イッシュー!」  
「え?」  
 
刹那の心の交差を、優先させる。  
 
「昨日の友は?」  
「…………っ!」  
 
合い言葉があれば、きっと。  
瞬時だけでも心は、交わる。  
そう信じて、強く言葉を、もう一度。  
「昨日の友は!?」  
「今日の友……」  
ゆっくりと返ってくる言葉。  
少しだけ感極まっていた私は、それでも続ける。  
「親しき仲に?」  
「……礼儀なし!」  
嬉しくて。  
「そういうこと」  
笑み二つ。  
ウインク付き、私のオリジナルスマイル。明るく純粋な、イッシューの晴れやかな笑顔。  
イッシューの笑った顔を、久し振りに見た気がした。  
 
そして。  
その笑顔を見た瞬間…抑えたはずの想いが暴発しそうになった。  
イッシューが、大好きだった。  
そのアホなところも、どこかヘタレなところも、そして何故か魅力があるところも。  
想い出にかわった、ショーゴに似ているけれども。  
それとは別に、イッシューが大好きだった。  
けれど、今は迷いの無い、晴れやかで、然し真剣な表情をしているイッシューは。  
その心は、想い人の処にあるのだろう。  
 
「オレは……」  
 
イッシューが口を開く。  
何を言おうとしているか、分かっている。  
だから、なのかもしれない。  
 
「…………ッ!?」  
 
私は、自分の唇で、イッシューの言葉を塞いでいた。  
 
紡ぎ出されるであろう、言葉は別離。  
物理的にでは無く、友達と云う概念が でも無く、もともと存在しなかった私への想いの完全な別離。  
その前に、唇を塞いだ。  
けれど、本当は分かっているつもり。  
イッシューは、自分の心を、想いを、曲げないだろう。  
それでも、私は、そうしていた。  
 
――Shining Star。  
ショーゴとの別れを元に、歌った歌。  
 
――Shining Star。  
この歌は、また私を、謳うのだろう。  
 
「ん………っふぅ……」  
長いような、短いような口付けの後、互いの吐息が漏れる。  
「カ、カナ…タ……? 何を………?」  
戸惑うイッシュー。疑問の色に満ちたまなざし。  
至近距離で真剣に見据え、私は応える。  
「イッシューがさ…大切なんだよ」  
心から、そう思うこと。  
「でも、オレは…」  
「分かってる」  
そう。分かってる。  
「だから、このカナタさんが、イッシューに勇気と度胸をあげようって言ってるんじゃない」  
嘘。  
けれど、言えるはずも無い。  
遠慮してるのは、私の方だったみたいだね、イッシュー。  
こんな私じゃなかったら、イッシューの彼女候補に、私も入れてもらえたかもしれないのにね。  
けど。  
もう、遅いから。  
最初で、最後の機会を。  
チャンスじゃ無くて、触れあう時間を。  
「分かったんならボケーッとなんかしてないでねン、アホイッシュー♪」  
下さい。  
 
 
ゆっくりとイッシューをテーブルに押し倒し、身体を密着させたまま。  
また、キスをした。  
 
「んっ……っ」  
イッシューの口に、舌を侵入させる。  
「!?」  
驚き、戸惑うイッシュー。  
「いのっちとは、こんなことしたことなかったのかな〜?」  
一旦唇を離し、からかう。  
「なっ…………!!!」  
顔を真っ赤にして、目を白黒させるイッシュー。さっきから驚きっぱなしだよ、君。  
「い、いのりのことは……っ!」  
「はいはい♪」  
そう、いのりには悪いけど、今はどうでもいい。  
そして、イッシューの想い人に対しても。  
罪悪感と後ろめたさが無いわけじゃないけれど、今は。  
「それじゃあ、続き♪」  
今だけは、イッシューは私のもの。  
今だけは、イッシューも私を見ていてくれているはず。  
「ふ……んむぅっ」  
再三、キス。  
再び舌を侵入させ、イッシューの口腔を弄ぶ。  
「ふぅ、はぁ……っ」  
漏れる呼吸が重なり合う。  
イッシューの舌も、ぎこちなく、けれど快楽を求めるように蠢き、絡まる。  
気が昂ってくる。  
「ぷあ………っ」  
長いディープキスの後、熱を帯びた互いの視線が絡まり合い。  
「イッシュー……」  
意味も無く、名前を呟くと。  
私は、イッシューの下腹部に手を沿え、身体を這わせていった。  
 
「え……ぅあっ」  
私の手がそこに到達すると、イッシューは身体を硬直させた。  
変な呻き声のおまけ付きで。  
それは既に硬くなって、ならずやの制服のスラックスを持ち上げている。  
何も言わずに、私はゆっくりと、スラックスからイッシューの男根を解放する。  
反動で、それは天を向く。  
「すごい……元気だね……」  
「カ、カナタ………」  
呆れるまでに色気の無い、言葉のやり取りの後。  
「つっ、ぁああっ……!」  
私はそれを口にくわえた。  
イッシューの悲鳴があがる。  
大きくて、口の中に収めるのがやっとのことで。  
根元に左手を添え、上の前歯で前を、舌で裏側を擦るようにして。  
先っぽを時々喉の奥に入れ、刺激を与えていく。  
「カナ……っ、そんな……っ!」  
女の子のような悶え方をする、可愛らしいイッシュー。  
熱くなってくる、私の身体。  
実際、私の秘部は熱を帯び、だらしなく濡れ始めていた。  
そして刺激を求めて…疼いている。  
意識した瞬間…空いた右手がそこへ向かうのを感じた。  
そして、私自体も。  
「んぐっ、ふうぅんっ!」  
この体制じゃあ、無理だから。  
それに…もしかしたら、イッシューは私と『彼女』を気遣い、攻めてはくれないかもしれないし。  
だから、自分で、愉しみ始めた。  
 
ぴちゃ…ぴちゃ、ぴちゃ…  
唾液の音と、私の秘部から溢れる液とが共鳴する。  
「くっ……カナ、タッ………!!」  
「ふぐっ、ふぅっ!んんっ!!」  
二人分の嬌声。夜のならずやに響く。  
イッシューのをくわえていることもあって、私の中をもの凄い興奮と快感が奔流しだす。  
下着の中に入れた右手が止まらない。むしろ加速していく。  
指先はピンポイントで弱点のクリトリスを刺激し、もっと快楽を求め、その強さも増していく。  
「うんっ、んっ、んんっ!ん、ぐっ、うううぅぅぅっっ!!!」  
だんだんと自分の喘ぎ声しか聞こえなくなっていって、意識が途切れ途切れになっていく。  
下半身に力が入らなくなっていく。  
添えていた左手をいつの間に離していたのか。  
気が付くと、テーブルからやり場の無いように垂れたイッシューの脚に強く抱きついていた。  
そして意志とは離れたかのように動き続ける、右手と頭。  
ピンと張った背筋が、震えてきて――  
 
「んっ、んんうっ!!! んんんんん――――――――――っっ!!!!」  
 
私の全身を、電流が駆け抜けた。  
突っ張っていた身体の限界を報せるように、跳ねるように痙攣して。  
崩れ落ちる、その瞬間。  
「カナ、タ…………ぁあああっっっ!!!」  
イッシューの悲鳴が聞こえたかと思うと。  
「! ふ、ああぁ……!」  
口の中に、苦いものが広がった。  
それを噛み締める余裕も無く――  
溢れ出た分を、拭うことも出来ず――  
私は、ぐったりとイッシューの脚にもたれかかった。  
 
「んくっ……っはぁ……」  
何とかイッシューの精液を飲み込んでから、  
「はぁ……はぁ……」  
乱れた呼吸を整える、私とイッシュー。  
余韻が長く心地良く、身体を少しずつ少しずつ冷ましていく。  
冷ましたいとは思わないけれど、こうして二人ぐったりとしていたい気もする。  
けれど、その反面。  
暫くすれば、イッシューは『彼女』の元へ行ってしまうかもしれない。  
勿論、これでイッシューが私に心を寄せてくれれば嬉しいけれども。  
それは二人に対して罪悪感を感じるし。  
『彼女』は親友。裏切れない。  
そして何よりも。  
イッシューには、そんな心変わりは似合わないし、そんなイッシューは見たく無い。  
答えが決まっているような、無意味な葛藤の後。  
「ねぇ…イッシュー」  
「……ぇ?」  
まだ放心気味だったのか、気の抜けた返事を返してくるイッシュー。  
「『……ぇ?』じゃ無いわよ、アホ。ほら、シャンとする!」  
「え?え?」  
「第二ラウンド、いくよ!」  
おちゃらけたように。  
イッシューと過ごすこの時間を、少しでも引き延ばす為。  
交わりを、貰う為。  
こんな時だけは、自分の性格がありがたかった。  
 
「まだ元気じゃん?」  
イッシューのそこは、先程性を放ったにも関わらず、硬く天を向いたままだった。  
「お、おい…」  
また戸惑うイッシュー。それも当然だと思う。  
イッシューにだって、後ろめたさが無いはずが無い。  
それでも、さ。  
「なぁにぃ?このカナタさんを前に敵前逃亡するって言うの?  
 据え膳食わぬは何とやら……」  
「いや、ちょっと待て」  
お願い、今だけは。  
「ここまで来てバッハハ〜イ!って!イッシューのすっごい秘密だねン♪  
 あ、これ面白そう。のんに話したら食い付いてくるだろうね♪」  
「だから…」  
夢を、見させて欲しい。  
「そうよ、いっそ4人だけの秘密ってことに……」  
 
「カナタ!!!」  
 
からかうような、悪い笑顔は出来なかった。  
辛かったし。  
イッシューだって、辛そうだった。  
泣きそうな顔が二つ。  
空気も止まって。  
そして。  
唇で塞いだはずの、言葉が紡がれようとする。  
 
「……オレは……」  
 
「………知ってるよ」  
「えっ……?」  
 
顔を背けた。  
この瞬間は、これ以上、イッシューを見ていられそうになかったから。  
「アホだね、イッシューは。分かりやすすぎ。  
 イッシューが誰のことが好きかなんて、分かるに決まってんじゃない」  
震える声を抑えながら。  
聞きたく無かった言葉を、私自ら、吐き出す。  
「でも、さ……?」  
でも。  
「りかりんやのんだけじゃないの、イッシューのことが好きな変わり者は」  
「……ぇ、ぁ……」  
私だって。  
「………………好きなんだよ、イッシューが……」  
「…………」  
だから。  
「今だけは……お願い……だから…………」  
気が付かないうちに、視界が歪んでいた。  
イッシューに背を向け、堪える。  
涙。  
もう、無くなったものだと思っていたけれど。  
しゃがみ込んで俯いて、けれど顔だけは覆わないようにして。  
泣きそうなのがバレバレなのに、それでも悟られないようにと。  
落ち着くのを待っている、その間に。  
 
「カナタ……」  
 
ぬくもりが、背中から私を包み込む。  
それを感じた私は……声もあげず、涙を流し終えることにした。  
 
黙って包み込んでくれる、優しいイッシュー。  
今だけは、少しだけ甘えて。  
そして、心を整理しよう。  
自分がこんなに弱いだなんて、思ってもみなかったから。  
そう。決まっていたはず。  
私が一番、望むことは。  
イッシューの為、それだけ。  
想いを暴発させたのは……ま、イッシューがいけないんだ、きっと。  
だから、私は。  
もう、甘えちゃいけない。  
 
けれど、最後に。  
 
「さて、と……」  
「カナタ?」  
「んじゃ、続き♪するよ♪」  
「……へ?」  
「ホラホラ、なぁ〜にポカンとしてんのよ?まさかここまで来て捨てるつもり?」  
「捨てるって…人聞きの悪い」  
「んじゃあ、決まり!サクッと終わらせるよ!」  
「……は、はぁ…………」  
 
想い出を、下さい。  
 
 
「ふむっ…ふぅん」  
二人立ったまま、唇を重ねる。舌を侵入し、口腔を刺激し合う。  
それだけで私の秘部は、またトロトロと濡れ始める。  
「ぷ、ふぅ……っ、イッシューも、準備オーケーだね……」  
私の太ももに触れる、脈打つ熱いモノ。  
それが余計に、気を昂らせてくれる。  
「それじゃあ……」  
そう呟くと、私は、再びイッシューをゆっくり押し倒す。  
今度は椅子に、座らせるようにして。  
「カナタ…本当に……」  
「は〜い、それ以上言わないの」  
イッシューの左の太ももに、私の右手を。  
右の太ももに、左手を添え。  
それを支えに、そのままイッシューの上にまたがって。  
向かい合う。  
「んっ……それじゃ、頑張ってねン、イッシュー♪」  
気の抜けた確認と共に、イッシューのそれを私のそこに当てがい。  
「ん、ああぁっ………っ!!!!」  
腰を深く落として、私自身を貫いた。  
 
イッシューの熱いモノと、快楽で感じる熱さが、私を責める。  
一瞬で感度が増大したように感じた。  
「あっ、あふっ!あぁっ!!」  
貪るように腰を押し付け、そして上下させる。  
「んあっ、いっ、いい…っ!! 気持ちいいよ、イッシュー……っ!!」  
身体の奥の方が熱い。  
イッシューの肉棒を、一番熱く、感じる場所に到達させて、刺激する。  
「あうっ、ふああぁっっ!!!」  
意識せず、叫んでしまう。  
「カナタ…………っ、……くっ!」  
感度が上がってきたのか。  
「……っぁあああぁぁんっっ!!!!」  
腰を浮かせたイッシューが、私の奥を強く刺激する。  
身体も思考も、白へ飛びそうになる。  
「くはっ……あっ、あんっ!!」  
快感に、頭がふらつく。平衡感覚が無くなる。  
安全を求める為にか、快感を求める為か、その両方か。  
イッシューの首の後ろに、腕を回して抱きつく。必死にしがみつく。  
「イッシュー……イ、イッシュー……っあぁ!!!」  
叫ぶことしか出来ない。  
貪欲に、腰を振り続けることしか出来ない。  
イッシューの方からも腰を動かしてくれ、お陰で乱れ狂ってしまう。  
「っう、っはあぁぁぁっ!!!」  
押し寄せる快感に耐えるかのように。  
背筋をピンと張って、のけぞった。  
 
「く………ぁあぁぁぁぁ……………」  
イッシューからの攻めが落ち着き、私は息を漏らした。  
「あっ……っはぁ、はぁ…はぁ………」  
随分と呼吸が乱れている。  
動きは休まっても、私たちの身体は結合したまま。  
そう状況を分析している間に、すぐに動きがあった。  
「あっ!」  
私の背中に腕を回し、抱きかかえてくれるイッシュー。  
私の中が一瞬刺激され、思わず声を上げてしまう。  
そのまま、イッシューは私をテーブルに押し倒し。  
「ん………っ、くうぅぅぁぁぁあああああっっっ!!!!」  
イッシューの方から、激しく攻めてきた。  
自然、互いに抱き合った腕が力を込める。  
根元まで引き抜かれ、そしてまた奥まで貫かれ。  
「はっ、あっ、あんっ!! イ、イイ……イイよおっ!!!」  
奥まで突かれる度に、込み上げてきそうになる。  
振動で、テーブルの上の調味料やカスターが落ちるけれど、気にしていられない。  
快楽を求め、迫り来る何かに耐え。  
視界を、頭の中を、白い閃光が幾度と無くよぎる。  
「あっ、はああっ!! イッシュー……っ!!! すごっ、凄い…凄いぃっ!!!!」  
ただ、叫ぶ。  
自分の喘ぎ声が響く。  
イッシューの攻めは激しさを増す。  
「うあっ、ああっ!!! あっ、ひあっ、ああっ、あああっ…!!!!!」  
もう、何も考えられない。  
 
「あっ、んあぁああっ!!! いっ、しゅ…んっ!い、イッシュー…っっ!!!」  
「っは……カナタ……っ」  
「ひっ、ひぐっ!!! も、ダ……っ、駄目、駄目ええぇぇぇぇっっっっ!!!!」  
「カナ…っ、俺も、もう……っ!!!」  
「あっ、やっ!!! ひあっ、イッ、イクうっ、イッちゃうぅぅっっっっ!!!!!」  
「ああっ、か、カナタっ!!! ぐっ、ぁぁああああっっっ!!!」  
「おっ、願いっ、な、中にっ………っあ!!! 中に、中に出し…てええぇぇぇ!!!!!」  
「………っ!!」  
「あっ、イクッ!!!! イクううぅぅぅっっ!!!!!  
 ひっ、っああぁっ、っくあああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁ―――――――っっっっっっ!!!!!!!!」  
 
身体が弾けたように跳ね、痙攣する――  
目の前が真っ白になり、何も見えなくなる――  
身体の奥から、稲妻が全身に走っていくかのようで――  
一瞬だけ、意識を無くす――  
 
「くっ………ぁああ!!!」  
遅れてイッシューが、自らの限界を告げると。  
 
「…………ぁ………………」  
私の中から自身を引き抜き、私のおなかに性を放った。  
その精液の部分だけ、とても熱かったけど。  
外に出してくれて、イッシューの優しさを感じたけれど。  
イッシューの総てを、私の中で受け止めたかった。  
お願いしても叶わなかったそれが……悲しくもあった。  
 
 
 
 
 
行為の後、乱れたたテーブル。  
というか……ならずやの一部分。  
「あちゃ〜……」  
カスターは床の四方に散らばっている。  
こんなん拾って戻しても、お客さんがこれで口を拭くわけだから…  
「……ポイね」  
使用自由なシュガーポットは、中身をぶちまけて転がっている。  
破損が無いのが唯一の救い…かな。  
「ホウキも使わないと駄目か」  
苦笑しつつ、適当に掃除道具をあさる。  
全て用意し終えて、それじゃあ後始末開始。  
 
私は掃除を始めた。  
一人で。  
戸締まりも頼まれていたっけ。  
 
何故ならば。  
 
他には誰も居ない、深夜のならずや。  
気楽に、楽しくやろうと。  
口笛を吹いた。  
不思議と流れたメロディは……Shining Star。  
私にとって、切ないこの歌は。  
今も、皮肉のように切なくさせる。  
 
それは。  
 
でも、やっぱりそれは空元気で。  
口笛は掠れて。  
止まる、その瞬間。  
 
「ぁ……………れ……………………………?」  
 
視界が滲み……雫が生まれた。  
 
 
イッシューは、やはり行ってしまったから。  
 
 
「あ…れ………変な、の……あは、はは………は……ひっ、ひぐっ…………!!」  
顔を覆う。  
しゃがみ込む。  
嗚咽が止まらなくて、立っていられなくなる。  
声を上げて、泣き続ける。  
ただ、泣き叫ぶ。  
 
――さあ? 私、食べたく無い気分なの  
   初めて、ならずやに来た日。不機嫌な出会いの日。  
 
――カ・ナ・タ・さ・ん〜〜?  
   まともに話すようになった、数カ月前。  
 
――じゃ、今日はアホイッシューの傷心パーティだ!  
   初めての、夜のお茶会。乾杯の合図。  
 
――そうそう、明日、行くから。卒業記念パーティ!  
   イッシューのアパートでバカ騒ぎした、イッシューの卒業記念パーティ。  
 
イッシューを描く日々の場面が、急に舞い込む。  
どれもが大切で、暖かくて――けど今は切り裂かれるように切なくて。  
それらの日々に想いを馳せつつ、ただ私は泣き続ける。  
そして想い出は近くあった日々を映し始め、先程へと。  
 
『カナタ……ありがとう』  
 
二人、身体を交えた後。  
 
『そして…………ゴメン』  
 
悲しそうな顔で、謝った後。  
 
「いやっ………!!!」  
本能のどこかで、ずっと、塞いでおきたいと願っていた言葉。  
私の想いを想い出に変える、素直な言葉。  
音が聴こえるはず無い、頭の中のリプレイマシンが再生する。  
最後に残る、最後に聞いた言葉に、抗うように耳を塞いで。  
 
「イッシュー………大好きだよ……………っ!」  
 
涙声で、それだけ呟いて。  
誰も居ないから、心のまま、今だけ弱虫でいることにした。  
 
 
『オレは……りかりんが好きだ』  
 
 
  ――――――このフィルムは……消えるかな…………?  
 
 

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