【風と翼のロンド】
「・・・いい風ね」
南つばめはそよそよと吹く春風を見つめ、ポツリと呟く。
少しばかり伸びた髪が、ほんの少し靡いているのがまた美しく見える。
「あぁ、いい風だな。・・・優しい、風だ・・」
隣にいるのは、三上智也。
昨年の夏、とある事故で彼の親友が住むアパートが炎上した時、あわや焼死する寸前だったつばめを助け出した青年だ。
きっかけは、本当に偶然だった。
智也は、親友に貸していた金を取りに行き、偶然に火事に遭遇したのだ。窓から人影が見えた瞬間、智也は駆けだした。
もう、後悔はしたくない。
彩花への償いと言う訳でもないが、何もせずに後悔だけはしたくなかった、と言うのは事実。
結果、智也は右腕と背中に軽度の火傷、つばめは酸欠という奇跡に近い生還を果たした。
すぐさま病院に運ばれた二人は、それぞれ一月の入院になった。
部屋は、同室。
つばめたっての願いだった。
「・・・」
「もう、智ちゃんのバカ!死んじゃったらどうするんだよぉ・・・・」
「全く、無謀にも程がありますよ?」
「留年もほぼ決定だし」
智也が少女達に責められているのを、つばめは微笑みながら見ていた。
彼女自身、忘れていた微笑みという表情。
だが、智也といればそれさえ自然に浮かんでいることに、今度は苦笑した。
「どうして私を助けたの?」
つばめは一度、智也にそう尋ねたことがあった。
「・・なんでだろうな?身体が勝手に動いてた・・・ってな感じだな」
そう言って、彼は笑った。
「下手していれば死んでいたのよ?」
「・・でも、もう後悔はしたくなかったからな」
どこか自虐めいた笑み。智也の心には、未だ彩花が深く根付いていた。