「あ・・・やぁ・・・」
やわやわと胸を揉み、その先のさくらんぼを摘まれ、彩花は小さく喘ぐ。背中を愛しい智也に預け、脚をだらりとさせた楽といえば一番楽な格好で愛撫される。
「やぁぁ・・・智也ぁ・・・・意地悪しないでよぉ・・・」
呼気が乱れたまま、智也に嘆願してみる。
背中から強く抱き寄せられた後、優しく激しい口づけをプレゼントされた。
あの、運命の雨の日。
彩花は、奇跡的に助かることが出来た。
というのも、偶然通りかかった稲穂信という少年が車に轢かれそうだった彩花の手を引っ張り、危機一髪車との接触がなかったのだ。
高校に入ったとき、同じクラスに稲穂信という男がいたと知った彩花は、智也が見たことのないような笑顔を見せた。
(そろそろ潮時かな・・・・・?)
智也は、真剣にそう思った。
本来只の幼なじみなだけの自分に、彩花が惚れる要素というものは全くあるはずがないと思っていた。
しかし、稲穂信は彩花の命の恩人。
彩花の心が離れていくのを、智也はつなぎとめようとは思わなかった。
場所を今に戻す。
「ぁ・・・」
情熱的なキスの跡か、智也と彩花の唇に銀の糸がかかり、すぐに途切れてしまう。
彩花は既に臨戦体制を整えており、すぐにでも智也を受け入れることが出来る。
しかし・・・。
「え・・・?」
彩花は背中にあった温もりを感じられなくなり、小さく声を出す。
「もう、やめよう」
立ち上がった智也は、やはり優しい笑顔のまま。
「彩花。心ここに在らずだと解らない俺だと思ったか?」
彩花に、そう告げた。
「心・・・ここに在らず?どうしてそんなこと・・・いうの?」
一方の彩花は、まるで訳がわからなかった。
恋人同士の逢瀬の最中に、よもやそんなことを言われるなんてと思った。
「彩花の心は、信の方を向いてる。俺には・・・お前の隣にいた俺には、痛いぐらい分かるんだ」「ど・・・どうして?」
言葉に力が入らない。
智也がどこか遠くにいるような錯覚。
しかし彩花には、何故か智也の言の葉の意味が分かってしまう気がした
彩花は、服を着て去っていく智也の背を見守ることしか出来なかった。
そりゃあ稲穂君のことはいい人だと思うし、仲良くしてはいる。
しかしだ。
彩花にとっては、智也は別格の存在である。
ずっと同じ時を過ごそうと誓いあった仲なのに。
どうして・・どうして。
彩花は、自分の瞳から涙が一粒すらもこぼれないことに気付いた。
翌日、智也は学校へは行かなかった。
彩花は彩花で智也のことから話を逸らそうとしてばかりなため、二人の間に何かがあったというのは最早明確だった。
「桧月さん、本当に・・・智也さんと何かあったんですか?」
「三上君はメールも返してこないしさ?」
放課後。
痺れを切らした詩音とかおるは、彩花を問いつめることにした。
待つだけでは埒があかないと判断してのことだったが。
「私、智也にフられちゃった。私、稲穂君のことが好きなように見えたんだって・・・」
彩花の口から漏れた言葉は、二人を動揺させるには十分過ぎた。