彼女の前で二人の男が土下座せんばかりに懇願していた。  
 二人の話は女の子に声を掛けられたら因縁をつけられて袋叩きにされたという  
ことらしい。本当のところはナンパをして上手くいかなかったので乱暴しようとしたら  
反撃されたか見咎められてシメられたかのどちらかだろう。何しろ大勢の男に  
袋叩きにされたのに報復の対象となるのは少女ひとりだけだった。  
 そんなことだから呆れられ、報復を頼んだ相手からは女一人に衆を頼んで  
出張るのはみっともないとシカトされたりつまはじきにされたりと散々な有様。  
周りから白眼視され、なおかつ引っ込みが付かなくなったこの連中は最後に  
彼女の元に来たのである。もっとも彼女の方もそんな二人を鬱陶しく感じ始めていた。  
「ハイハイ。で、貴方たちの復讐したい人って誰なのかしら」  
「・・・・・・」  
 返答はなかった。二人ともその相手の名前すら知らないのである。彼女は  
呆れながらディスプレイに向かっている少女に目配せをした。その少女は一礼を  
して、彼女の元にお盆を持ってきた。お盆の上には写真をクリップで留めた書類が  
山と積まれていた。  
「貴方たちの言う特徴にあう娘をピックアップさせたわ。さあ探しなさい」  
 大急ぎで書類の中を漁り始めた二人はまもなく一枚の書類を探し出した。  
 
「こいつです!この女です!!」  
「この女に俺たちは酷い目にあったんです!」  
「どうか、この女を痛い目を・・・」  
「シャラップ!!」  
 彼女の声に二人は口を閉ざした。  
 写真には長身のスラリとしたボディに端正な顔立ちの少女が写っていた。  
何かのスポーツをしているように思える少女の身体はまるでムチのように  
しなやかで、こいつらが叩きのめされるのも道理だ、と彼女は思った。  
 彼女はその少女のプロフィールに興味を覚えたのか食い入るように見つめた。  
「いいわ、やってあげる」  
「ありがとうございます」  
「とりあえず礼はいい。準備できたら連絡するから今日は帰りなさい」  
「ありがとうございます」  
 二人は最大のおじきをした後、彼女の前を立ち去った。  
 彼女は二人のために動こうとしたのではなかった。彼女はその写真の少女に  
興味を持ったのである。  
「可哀相にね、"男嫌い"の鷹乃ちゃん・・・」  
 彼女はそう呟くと目を細めた。  
 
 
 寿々奈鷹乃は浜咲学園水泳部のエースである。彼女は夏休み中の水泳部の  
部活日はほぼ全て参加しており、他の部員が部活を終わって引き上げた後でも  
なお一人居残り泳ぎ続けていた。教師や周りのものたちはその猛烈な練習量に  
驚嘆し、その実力を裏打ちするものとして賞賛を贈るのであった。もっとも鷹乃に  
とっては泳いでいる間だけが彼女の抱えた悩みから解放される時間であり、その  
多大な練習量は彼女の悩みの大きさを表していた。  
 その日、鷹乃はいつものように部活が終えた後も一人泳ぎ続けて、いつもの  
ように学校から帰宅を促すアナウンスが流れるのに合わせて練習を切り上げて  
帰宅の途についた。  
 夏休みも終わりに近付いて新学期を控えて学校の夏期講習に参加する生徒も  
増えてきていたが、この時間まで残っているものは流石に少なかった。この日も  
鷹乃が校門を出た時に一緒に出て行く生徒はいなかった。  
 校門を出てしばらく歩んだ鷹乃は言い争う声を耳にした。そのうちの一人が  
明らかに少女であったため、鷹乃は声のする方向に向かっていった。  
「いいから来いよ!」  
「いやです!離してください!!」  
 そこでは二人の男が一人の少女の腕をつかんで引きずっていこうとしている  
ところであった。  
 
「(あっ、あいつら・・・)」  
 鷹乃は二人の男に見覚えがあった。以前に彼女がブチのめした連中であった。  
彼らが連れて行こうとしている少女は鷹乃が今着ている浜咲学園の制服を着ていた。  
「や、やめてください!ひ、人を呼びます!!」  
「呼んでも誰もこね〜よ!」  
 学校の周辺はもともと住んでいる人が少なく、加えて通学路を少し離れた場所の  
ため、この二人が高をくくるのも理由のないことである。鷹乃はこの少女が危険な  
状態にあることを気づき、速攻の行動に出た。  
「その手を離しなさい!」  
 突然の声に驚いた三人は動きを止めた。そして二人の男はその声の主が以前に  
自分をブチのめした相手であることを思い出した。  
「ぼ、暴力女・・・」  
「に、逃げろ!」  
 鷹乃が自分たちの方に向かってきていることに気づいた二人は少女を離し、  
一目散に逃げ出した。鷹乃は酷い目にあった少女を気遣って逃げる二人を  
追いかけようともせず、彼女の方に向かった。  
「大丈夫?」  
「あ、ありがとうございます!なんとお礼を言っていいのやら」  
 少女は助けてくれた鷹乃に深々と何度もお礼をしていた。鷹乃の方はあまりの  
お礼ぶりに照れくさくなって作り笑いを浮かべた。だが突然のクラクションが  
その場の空気を一変させた。  
 
「あっ!私のポーチ!!」  
 二人の男はスクーターにまたがってクラクションを鳴らした。一人の男の手には  
可愛い柄のポーチが握られていた。そして鷹乃らを嘲笑うかのようにスクーターに  
乗って走り去っていった。  
「か、返してください!」  
 少女は電光石火の動きで倒れている自転車の方にダッシュした。  
「ま、待ちなさい!」  
「あれが無いとダメなんです!だから取り返してきます!!」  
 少女は自転車にまたがると制止を無視して二人の後を追いかけ始めた。鷹乃は  
少女の行動に舌打ちしたが、かといって見捨てるわけにもいかず彼女の後を  
追いかけ始めた。  
 スクーターは街の方ではなく、反対の山の方に向かっていった。少女の自転車は  
鞄の口が開いていたのか所々筆箱や教科書をバラ巻きながらスクーターを  
追いかけていた。鷹乃にとっては少女を追いかけるのに苦労はしなかったが判断に  
悩んでいた。  
 一旦、引き返して警察なりに連絡するべきか。しかし、それでは少女を見失って  
彼女を危険に晒してしまう。いやスクーターが自転車で追いかけれるということは  
速度を調節して少女をおびき寄せていると考えるべきであろう。携帯をかけようかと  
思ったが残念なことにそれを入れた鞄はさっきのところに置きっぱなしにして  
しまっていた。鷹乃は少女の追跡を続行することを決断した。  
 
「工場・・・」  
鷹乃は少女を追いかけているうちに廃工場の前にたどり着いた。門はバイク1台が  
通れるだけスライドされており、その鉄柵越しに少女の自転車が乗り捨てられて  
いるのが見えた。  
 そこは何年か前に会社の業績悪化を理由に閉鎖することを余儀なくされた  
工場の廃墟であった。中の機械類は閉鎖の際に撤去されたが、工場の建物  
自体は取り壊されることなく、今も残っていた。建物が取り壊されずに残っている  
理由は建物を取り壊す費用と跡地の利用で得られる収入を比較計算すると  
全然割りの合わないものになったためである。もともとは市内にあったのだが  
騒音やら悪臭やらで追いやられた経緯があり、そのため市街地から遠く離れた  
不便な立地となっていたのである。  
 しかし重要なのはそんな話の後に続くこの廃工場が族の溜まり場になっている  
という噂であった。ここにはそういう場所にありがちな落書きとかはないし、わざわざ  
こんな場所まで来る酔狂な連中もいるとも思えなかったが、それでも廃墟を  
見物にきた連中が身包み剥がされたとか女子高生が連れ込まれてレイプされた  
とかいう話は事欠かなかった。そのため浜咲学園の教師たちは近付かないように  
指導し、生徒たちも守っていた。  
 この辺りの事情は鷹乃もよく知っており、普段から近付こうとはしなかった。しかも  
今は夕方、夏の日は長いとはいえもうすぐに暗くなる時間である。こんな人家のない  
ようなところを帰っていくのは愉快な話とはいえない。そのため彼女は工場を前に  
して逡巡した。  
 
「(一旦、引き返して警察に連絡するべきか・・・)」  
 つくづく携帯を残してきたことが悔やまれた。だが彼女は自転車に少女の鞄が  
残されているのに気づいた。もしかしたら携帯があるのでは。鷹乃は門をくぐりぬけ、  
少女の鞄を漁った。あった!鷹乃は喜び、警察に電話をしようとした。だが、それも  
すぐに失望に変わった。  
「圏外・・・」  
 考えてみれば、こんな人のいないところにアンテナを立てても意味などない。  
とはいえ電波の届くところまでいけば連絡できる、これで状況は著しく改善したと  
いえよう。鷹乃は携帯を拝借し、工場から出ようとした。しかし、その刹那・・・  
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」  
 工場中に響き渡るような悲鳴があがった。鷹乃は脱兎のごとく駆け出した。一刻の  
猶予もない、彼女は逡巡することはなかった。  
 幾たびか上がる悲鳴、意外と広い敷地内に戸惑いながらも声の上がる方向を  
見定めて走り抜ける鷹乃。やがて大きな倉庫のような建物の前に停められた  
スクーターを見つけ駆け寄る。鷹乃は重く閉じられたドアは嫌な音を上げながら  
開いた。  
 鷹乃は薄暗い建物の中で二人の男が少女を組み伏せている様を見た。一人は  
少女の手を抑え、もう一人はお腹の上に馬乗りに、二人の男に押し倒されていた  
少女は目に涙を浮かべていた。顔には叩かれたような跡があり、浜咲学園の夏服は  
胸の部分が引き裂かれ、少女の可愛らしい乳房が露になっていた。  
 次の瞬間、鷹乃は走り出していた。そして助走をつけてとび蹴りを放った。男たちは  
少女の身体から咄嗟に離れたため、とび蹴りは空を切って鷹乃は少し離れて着地  
した。体勢は崩れていたが、以前に叩きのめされた経験のために男たちは向かって  
こようとはしなかった。いや、その経験があったからこそ鷹乃の姿を見て咄嗟に  
逃げる判断をしたといえよう。少しでも反応が遅れていたら鷹乃の蹴りを食らって  
大変なことになっていたのは明らかであった。  
 
「(一旦、引き返して警察に連絡するべきか・・・)」  
 つくづく携帯を残してきたことが悔やまれた。だが彼女は自転車に少女の鞄が  
残されているのに気づいた。もしかしたら携帯があるのでは。鷹乃は門をくぐりぬけ、  
少女の鞄を漁った。あった!鷹乃は喜び、警察に電話をしようとした。だが、それも  
すぐに失望に変わった。  
「圏外・・・」  
 考えてみれば、こんな人のいないところにアンテナを立てても意味などない。  
とはいえ電波の届くところまでいけば連絡できる、これで状況は著しく改善したと  
いえよう。鷹乃は携帯を拝借し、工場から出ようとした。しかし、その刹那・・・  
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」  
 工場中に響き渡るような悲鳴があがった。鷹乃は脱兎のごとく駆け出した。一刻の  
猶予もない、彼女は逡巡することはなかった。  
 幾たびか上がる悲鳴、意外と広い敷地内に戸惑いながらも声の上がる方向を  
見定めて走り抜ける鷹乃。やがて大きな倉庫のような建物の前に停められた  
スクーターを見つけ駆け寄る。鷹乃は重く閉じられたドアは嫌な音を上げながら  
開いた。  
 
「あんたらは!!」  
 怒髪天を突くとか色々怒りの表現があるが、今の鷹乃にはどれでも当てはまり  
そうであった。もはや激怒という表現すら生ぬるく感じられ、むしろ殺意といった  
ほうが的確ですらあった。そんな鷹乃の姿に男二人はへたり込んで必死に  
逃げようとするばかりだった。  
「ひぃっ、ひぃ!」  
 にじり寄る鷹乃に情けない悲鳴をあげる男。今まさに正義の鉄拳が振り下ろされ  
ようとしたとき、拍手とともに緊迫感のない声が倉庫内に響いた。  
 
「ブラボ、ブラボ、ブラボ。かっこ良かったわよ、正義の味方見参!って感じで」  
 二階の高さにある足場の上で一人の女性が拍手していた。彼女は鷹乃に負けない  
くらいの長い髪、革製のジャケットにGパン、引き絞ったスタイル、美人だが冷たい  
顔立ちで、何よりも得体の知れない嫌な感じの女性であった。  
 鷹乃の注意がそれたため、男たちは悲鳴をあげながら倉庫の奥に逃げ出した。  
「あっ、待て!」  
「いいじゃないの、可哀相な人たちだから」  
「可哀相・・・!?」  
「そう、可哀相。こんな機会でないと女の子とHできないんですもの」  
「!!」  
「邪魔しちゃ可哀相よ」  
 女は二階の足場から飛び降りた。そして華麗に着地した。  
「貴女みたいに男を選り取りみどりできるような人たちじゃないもの」  
「男なんて嫌いだ!」  
「あら、そう?男好きするようボディだと思ったけど」  
「!!!」  
「じゃあ、女の子が好き?もてそうよね。なんなら先にしていいわよ、あの子と」  
 このやり取りを不毛に感じた鷹乃は女を無視して、二人の男を掣肘すべく歩み  
始めた。だが女は鷹乃の前に立ちはだかった。そして右に行けば右に、左に行けば  
左に、鷹乃がよけようとする方向に回り込んだ。  
 
「邪魔しないで!関係ないでしょ!!」  
「ないと言えばないけど、まあ貴女と同じかしら」  
「?」  
「可哀相な男の味方かしら」  
 何を言ってもダメだと思った鷹乃はニ、三回動いた後フェイントを入れて横を  
すり抜けようとした。が、女もそれに反応して立ちはだかる。ダッシュして横に  
行こうとしても同じくすぐ前に来た。カッとなった鷹乃は手で女を払いのけようと  
した。しかし、女は鷹乃の手首を握ると軽くひねり上げた。  
「痛い!」  
 バランスを崩して転倒しそうになる鷹乃。女はその前に持っていた鷹乃の手を  
離した。  
「言ったでしょ、可哀相な男の味方だって」  
 女は蛇のような目をして鷹乃に微笑みかけた。  
「どかないと痛い目、合うわよ・・・」  
「そう?どんな?」  
 鷹乃は振りかぶって女にパンチを放った。それは速度はあるが本気ではない、  
少し脅かすためのものだった。だが鷹乃の放ったパンチは何の効果もなかった。  
女はパンチをつかむと、そのままエイヤと鷹乃をひっくり返した。  
「おい白だぜ、白!」  
 男は鷹乃を囃し立てる。めくれたスカートを抑えて立ち上がった鷹乃の前に女は  
また立ちはだかった。  
「痛そうね〜」  
 怒った鷹乃は今度は本気でパンチを放った、がこれもはじかれてしまう。そのまま  
勢いをもってパンチやチョップ、蹴りまで組み合わせて攻撃を続けたが、そのいずれも  
捌かれてしまった。ムキになった鷹乃がその速度を上げても状況はまったく変わる  
ことはなかった。  
 
「じゃ、そろそろいくわね」  
 そう言って女は手を目にも留まらぬ速さで振り下ろした。鷹乃はその優れた  
反射神経で直撃は免れたものの、制服の第二ボタンまで引き裂かれてしまった。  
その速度に驚愕した鷹乃に次の一打が命中する。  
「かはっ」  
 振りぬかれはしなかったがお腹に命中した一撃のダメージは大きく、身体を  
くの字に曲げて倒れてそうになる鷹乃。だが女は今まさに倒れようとする鷹乃の  
髪をつかむと無理矢理立たせると平手打ちを一発、咄嗟に鷹乃は顔を抑えた。  
「隙あり!」  
 女はB86を誇る鷹乃のバストに攻撃を仕掛けた。プロボクサーに匹敵するほどの  
嵐のようなジャブが鷹乃の乳房をまるでサンドバックかパンチングボールのように  
襲い掛かった。  
「ああああああああ」  
 手を出すと払いのけられ、逃げようとするとそれに合わせて進まれて、鷹乃の  
バストは右に左に上に下に思うがままにはじかれた。  
「はぅっ!」  
 股間に蹴りが入れられた。今度は下にへたれ込む鷹乃、だが女はそんな  
鷹乃の制服を掴むと引き上げて正面に投げた。ビリビリビリと制服の裂ける音。  
 鷹乃は地面の上を数m滑った。男どもはそんな様子を見て歓声を上げる。  
鷹乃の制服の前の部分は完全に引き裂かれ、ブラのフロントホックの箇所も  
破壊されていた。女は地面に転がした鷹乃の方にゆっくりと歩み寄った。  
 
「(バット・・・?)」  
 鷹乃は起き上がろうとしたときに手に触れたものに気づいた。それは誰が  
持ち込んだのだろうか、木製のバットである。彼女が武器にしようと掴み、  
正面にかざした瞬間・・・  
「キャッ!」  
 電光石火、駆け寄ってきた女は蹴りでそのバットを粉々に砕いてしまった。  
「(勝てない・・・)」  
 目の前の女は自分よりも遥かに強い。どのくらい強いかは分からなかったが、  
少々小細工したところで返り討ちにされるくらいのことは鷹乃に理解できた。  
こんな相手に対して有効な手段はただ一つ「逃げる」ことだけであった。だが  
彼女にはその選択をすることができなかった。  
 鷹乃は粉々に砕かれたバットから視線を少しずらした。そこには少女が  
押し倒されていた場所で驚愕し、呆然と座り込んでいるのが見えた。彼女は  
自分を見つめている鷹乃の視線に気づいた。彼女が何か声を出そうとしたが、  
その動きは鷹乃の悲鳴により押し止められた。  
「ああっ!ああっ!ああああああああああ」  
「喧嘩に武器を使おうなんて・・・呆れた子ね」  
 女は仰向けに倒れている鷹乃の股間をグリグリと踏み付けた。  
「痛い?それとも気持ちいい?」  
 自分の股間を踏みつけている女の足首を持ってずらそうとする鷹乃、だがその  
程度の力ではグリグリと動かす足を止めることすらできなかった。少女はそんな  
鷹乃の姿を見て、座り込んだまま耳を塞ぎ、目をつぶった。  
 
「!!?」  
 鷹乃は砕かれたバットの柄を投げつけた。女がそれにひるんで鷹乃の股間を  
踏みつけていた足を離した。それを見逃さず、鷹乃はそこから脱出すると這って  
少女の方に視線を向けた。少女は鷹乃の元に行こうと身体を浮かしたが、鷹乃は  
首を振って制した。代わりに彼女は声を発さずに口の形で彼女に伝えた。  
「(に・げ・て)」  
 少女はその指示に従うのを躊躇した。だが鷹乃は再度シグナルと送る。  
「(は・や・く・に・げ・て)」  
 少女は鷹乃に目礼をしたのち、密かな動きを始め、方向を定めてダッシュした。  
男たちは姿勢を崩した女に気遣いの言葉をかけており、少女が走り去ったことに  
気づいてはいなかった。鷹乃はホッと安堵の息を洩らしたが、まもなく自分の身に  
降りかかる災難の予感に恐怖した。男たちの声が歓声に変わっており、背後に  
プレッシャーを感じたのである。  
「武器使ったんだから使われても文句は言えないわね」  
 女は四つん這いになっている鷹乃を見下ろすように背後に迫っていた。その手には  
ナイフが握られていた。まさか!と思った鷹乃を察するかのように女は語りかけた。  
「大丈夫、刺したり傷を付けるという無粋なことはしないわよ。喧嘩に武器を使った  
ペナルティを貴女に与えるだけよ」  
 そういうと女は鷹乃の背中にナイフを振り下ろした。それは鷹乃の制服にだけ  
切れ目を入れた。ついで横に振る、鷹乃のスカートのお尻の部分を横に切り裂いた。  
更に下から上に、鷹乃のパンツのお尻の部分に切れ目を入れた。  
 
「このっ!」  
 鷹乃は後ろに向かって蹴りを放つ。大振りであったが、もとより命中することなど  
期待していない立つきっかけを得るための蹴りであった。女がバックステップを  
踏んで蹴りをよけた隙に鷹乃は立ち上がることができた。しかし今度は鷹乃が  
よける番であった。女は鷹乃の正面に跳躍し、尋常でない速さで四〜五回ナイフを  
横に振った。バックステップで避けた鷹乃だったが、制服とスカートには数箇所の  
切込みが入っていた。二人は少しの距離を隔てて睨み合った。  
「ナイフはもういらないわ」  
 そう言って女はナイフを遠くに投げた。そして、獲物を見るような目で鷹乃を  
ねめつけた。鷹乃の背後では男たちは大きな声で囃し立てていた。  
「ペナルティ!ペナルティ!」  
 そんな喧騒とは正反対に女は、そして鷹乃も冷静であった。  
「図太いというか、強気というか。でも、そんな子は私も好きよ」  
 女は目を細めていやらしく笑う。鷹乃はそんな女の嘲笑を無視して呼吸を整えていた。  
 

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