「ど、どおしてぇ? これさえ飲めばルーイ様は私にメロメロになるはずなのにぃ!」  
 フロアにマリーンの言葉が響く。エリカは顔を強張らせた。  
(マリーン、媚薬を…)  
 薬の入った小壜が、ルーイによりバルコニーへとほうり捨てられた。  
 
「マリーン、なかなか面白い座興であった」  
 つい、とルーイの右手がマリーンの顎を持ち上げる。  
「が、私を猿回しの猿扱いにするのはいただけないな」  
 
 目前の彼のすさまじい形相に、マリーンはガタガタと震えて声も出せないようだった。  
彼女の膝ががっくりと落ちた瞬間、エリカは二人の間に入り、マリーンの体を支える。  
「…ルーイ様、どうか友人をお許しくださいませ」  
 
 許してくれる人とはエリカも思ってない。が、案に相違してルーイは「ふん」と鼻で笑  
うと、マントを返して二人に背を向けた。  
「気分が悪い。帰るから供をしろ。エリカ」  
 
 エリカは近くにいた給仕に、放心してしまったマリーンを家に帰すための指示して彼女  
を託すと、先に会場を退出してしまったルーイの後を追った。  
 ルーイはいつもより歩みも遅く、時折小さく息をつきながら、廊下を進んでいた。おか  
げでエリカは楽に肩を並べられ、ルーイの様子を窺おうとした刹那。  
 
「きゃっ!」  
 いきなり肩を抱かれ、近くの部屋に押し込まれた。  
「ル、ルーイ様、これはいったい…」  
 ルーイは、エリカの問いには答えぬまま、部屋の奥にある豪奢なベッドに彼女を座らせ  
ると、自分も隣にかけてエリカを抱きしめた。  
 
「あ、あ、あ、あの…」  
「騒がしい、少し黙れ」  
 エリカはおとなしく黙ってみたが、今の状況になおさら叫びたくなってしまう。もぞ、  
とルーイの戒めが解けないか試みても、一向に解けないばかりか、ますます強く抱き締め  
られる。そのうちに自分の肌に触れるルーイの手や頬が異様に熱いのに気づくと、心配の  
方が先に立った。  
 
「熱が…」  
 そっと額に触れようとするエリカの手を逆に取られ、手首のあたりに唇が落とされる。  
その優しい感触から電気が走ったような心地を覚え、エリカの背が反りあがった。  
「ルー、イ様、お戯れを」  
「ふん。これもあの物騒な友人とやらのせい。そなたに落とし前をつけてもらわねば、な」  
「え、マリーンの薬、ですか。でもあれは失敗作では?」  
 
 つかまれた腕に落とされる口付けが次第に上へと這い上がる。思わず熱い吐息が漏れる。  
「くすぐっ、んん」  
「そなたの友人は勘違いしておる。媚薬とは惚れ薬ではない。そうであろう?」  
 耳たぶの下をひたりと舐め上げられて、エリカは身震いを押さえられなかった。腕の中  
の少女が眼差しを潤ませながら、必死に呼吸を抑えようとしているのを見て、ルーイは満  
足げに唇をゆがめた。  
「そなたも作ったことがあるのだ、その効能はよく知っているはず」  
 
 ルーイは懐から小壜を取り出した。それはエリカからの誕生日プレゼント。ルーイの気  
に入るよう必死だったとはいえ、なんと恥ずかしい事をしたものか。エリカは穴があった  
ら入りたい衝動に駆られたが、ルーイがそれをいまだに持っていたことには至上の感激を  
覚えた。  
「そのようなものをまだお持ちに…」  
「ふふ…これとて成分的にはあやつの作ったものとほとんど変わらぬであろう。が、惚れ  
薬というならこちらのほうが上出来であったな」  
 
 ルーイは壜の中身を口に含んで、エリカにキスをした。少しずつ甘い液体がエリカにも  
たらされる。彼の舌先に口中を刺激されながら、エリカは媚薬を嚥下した。  
 己になされていることに陶然として甘受する少女の姿を眺め、ルーイは胸がますます熱  
くたぎるのを認めた。  
 最早止めることはできない。エリカの口元から受け切れなかった薬液が一滴伝っている  
のをルーイは指で掬う。エリカの口に指ごと差し入れると、そっと呟いた。  
 
「媚薬としての出来、そなた自身で証明して見せよ」  
 
 唇を媒介にした儀式が終わっても、二人の口接はずっと続いていた。ルーイからの慰撫  
を受けとめるだけで精一杯なエリカだったが、次第に自分から求めて、瞳を潤ませる。  
 そっと唇が離れたとき、名残惜しそうにエリカが視線を送ってくるのを見て、ルーイは  
ふわりと笑った。  
 エリカが自分のあさましさに気づき、思わず顔を背けると、それを大きな手がそっと包  
み、紅潮する頬にそっと唇が触れた。  
 
「やはりそなたは私を愉しませてくれる」  
「いえ、は、はしたない真似をしてしまい、なんと…」  
 絶句して震えるエリカの喉にルーイの唇が落とされる。つ、ちゅ、と音が耳に響く。エ  
リカはどうにか声を上げまいと必死だが、執拗なルーイの口撃に甘い吐息が漏れてしまう。  
 透き通るように白かった少女の滑らかな胸元が、うっすらと薔薇色に染まり、そこに花  
びらのように、ルーイの刻印が散っていった。  
「そなたは楽器だ。爪弾けば甘美な音色をもたらす。私がそれを求めているというのに、  
何をはしたないことがあろうか」  
 
 必死にとどめようとするエリカだったが、いつの間にか胸も顕わにされ、ルーイの強い  
愛撫に息が乱れ、「あぁ」とひときわ高く鳴いてしまう。  
「いけ、ません。臣の身で王城の一室を汚すなど」  
 弱々しくも、まだ抵抗をあきらめないエリカを、ルーイは確実に追い詰めてくる。  
「心配するな。ここは陛下より母が賜りし宮室。今宵は私が使用の許可を得ている」  
 それに、とルーイは楽しげに胸の頂を啄ばみ、ひんやりとしたつぼみをゆっくりと  
暖めていく。  
「いずれは、この全てが我が掌に入る。預けてあるものを一時返してもらうだけだ」  
 
 エリカにはもはや抵抗する余地がなかった。理由もなかった。  
 
(了)  
 

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