You and me.
―It is every day when it was able to actually feel that it is about the
multiplication substitution of memories at only one and time.
The beauty for everyone to understand only day when subtle colors were seen
usually of be repeated.
The certainty seen when valuing it.
Not thinking, because the positive of summer that the body certainly
felt makes memories the most certain.
*
「…あっち〜。アリカー、少し休憩しようぜ〜…」
イッキが、気だるさを微塵も隠さない声を上げて、その場にぺたりと座り込んだ。
「ちょっとイッキ、道の真ん中に座るの止めなさいよ」
「いいじゃんか、どうせ車も人も通ってないんだし……はぁ。」
前後をかったるそうに見回してから、イッキはため息をついた。
陽炎で揺れる風景は、緑一色。
舗装されていない分だけ道路から立ち上る熱気もいくらかはマシらしいが、
目の届く範囲には人影も建物も一切見当たらない。
ゆっくりと曲がる道の遥かむこうに、バス停のような陰が陽炎に揺れて見えるが、
それを目印にして進むにはあまりにも遠い距離だった。
「なーアリカー、なんでこんな田舎に来なくちゃなんないんだよ」
「しょうがないでしょ。もう誰も片付ける人がいないんだから。」
「だからって、こんなこと小学生にやらすかなあ、普通。」
ぼやきの止まらないイッキに、アリカはやれやれと言った面持ち。
「…まあ、こんな田舎だからね。」
そう言ってから、アリカは改めて周りの風景を見渡す。
うっそうと生い茂る木々に、道端の延び放題の雑草。
風が吹いたかと思えば、むせ返るようなみどりのにおい。
「……やっぱ、少し休憩しよっか。」
「だからさっきから俺が言ってんだろー?」
「あんたは休み過ぎなのよ。男のクセに体力ないんだから。」
そう言いながら、アリカは鈍重な動作で道端に丁度いい格好で突き出た岩に腰掛けた。
「あんたもこっち来なさいよ。いくら人がいないからって、そんなとこで休んでたら日射病になるわよ。」
アリカに促されると、イッキはまるで老人のように声を上げながら、その方へと向かった。
「…よっこらしょ。」
イッキがそう声を出しながら座るのを、アリカは訝しげな視線で見ていた。
「まるでおじいさんね…」
「疲れたんだよ。こんの暑い中、かれこれ2時間は歩きっぱなしだしぃ〜…」
そう言うと、へばるようにイッキは岩に背中を預けた。
「………ううーん、いい気持ち…。」
背中のひんやりとした感触を楽しみ、イッキの口から思わず感嘆の言葉が漏れ出た。
「何日間だっけ」
イッキが岩にもたれたまま、思い出したように言った。
「10日よ。」
「うぇー…、10日もこんな田舎で過ごすのか……」
そうぼやいて、イッキは上体を岩から起こすと、改めて周囲を見渡した。
視界の中には、近代的な建築物はいっさい存在しない。
コンビニはもちろん、ゲームセンターなどの娯楽施設も見当たらない。
代わりに目に入るのは、そのむき出しの土をぎらぎらと太陽に照らされている道に、
周囲を囲う山野、そして田園といったような、日本の原風景。
こう暑くてはどこかへ入って涼をとりたいと思うものだが、そもそも涼をとるといえば木陰程度しかない。
しかも、蒸すような外気の中では、木陰もせいぜい気休めにしかならないのだ。
「ま、ガマンするのねー。あんたみたいな都会っ子は、たまにはこのくらいやらなきゃダメよ。」
「アリカだって都会っ子じゃんか」
「あたしはいーの。あんたと違って貧弱じゃないし。」
そう言いながら、アリカは意地悪そうに笑う。
「ちぇ、なんだよそれー。納得できねー」
イッキは口を尖らせながらも、どこか楽しそうにそう言った。
「そんなことより、ほら!さっさと行くわよ、どうせこのままじゃ動く気もないんだから」
「へ〜い……あっち〜」
「…もう、こっちまでだれちゃうからあついとか言わないでよ」
「へ〜い…」
イッキは、気の無い返事を返して、だるそうに岩から立ち上がる。
先へ歩くアリカの背中を追い、ゆっくりと歩を進めていった。
*
「ねえ、イッキ」
日差しの照りつける中で、アリカは突然歩を止めた。
「なんだよ、急に止まって」
「アンタさ、なんでメタビー連れてこなかったの?」
「へぇ?」
何の脈絡もなくそう聞かれて、イッキは呆気にとられたような表情を浮かべる。
「なんでっ……アイツ、暑いのダメだし。それに、元々メンテナンスもしてもらわないといけなかったし。」
「ふーん。それだけ?」
「そんなに理由なんかねーって。アリカこそ、なんでブラス連れて来なかったんだよ?」
「なんでって………ほ、ほら、やっぱり私もメンテナンスとかがさ」
「なんだよ、同じ理由じゃねえか…」
小一時間ほど野道を歩いて二人が到着したのは、
いかにもという感じのする、有り体な木造の純日本風家屋。
茅葺屋根でこそないが、今はその数も少なくなりつつある瓦の屋根に
最近ではほとんど見なくなったポンプ式の井戸、そして閂の付いた門。
「……うわあ、ボロっちぃ…」
「ちょっと、いきなりそういうこと言わないでくれる?」
惜しげもなく素直に感想を漏らすイッキを、アリカがたしなめる様にじろりと見る。
「だって、…俺、こーいう家って教科書以外じゃ見たことないからさあ…」
「…………それは………そうね…」
イッキをたしなめたアリカも、あらためて家の概観を見直すと、少し度し難い気分になった。
……築100年、と言われてもなんら疑うところなく頷けるだろう。
その家の概観は、いかにしても彼らの常識と知識の範疇を逸していた。
ともすれば、本当に此処で寝泊りをすることが出来るのかさえ疑わしくなってくるほどに。
「…とりあえず、…入るわよ。」
まるで魑魅魍魎の住み着く伏魔殿にでも入るかのように、アリカはそう恐る恐る言った。
預かった鍵をリュックサックから出し、それを大分錆付いている鍵穴へと差し込む。
「…あれ、…ちょっと固いかな?」
「えぇ?サビついてんじゃねえの…?」
「んー……しょっと………、あ、開いた」
がちゃり、というよりはぎりっと、明らかに異質な抵抗のある音を立てて、鍵は回った。
「……あー!」
「なんだよ……って、うわ」
鍵穴から取り出した鍵は、ぽっきりと折れてしまっていた。
見れば、先端の鍵穴に入る部分が、鍵穴のなかにすっぽりと飲まれるようにして残っていた。
「どうしよう……これじゃ、鍵閉められない…」
「………こんな田舎で、鍵閉める必要もないと思うけど。」
「………………、…それもそうね。」
半ば無理矢理に自分を納得させるように、アリカはしきりに首を縦に振った。
「じゃ、入るわよ」
「へーい」
がらがらと若干やかましい音を立てて、玄関の戸が開けられた。
「「うわあ…」」
思わず、二人して感嘆の声を漏らしてしまった。
玄関を開けてまず目に入ってきたのは、廊下に積まれた古新聞の山という山。
少し奥に階段も見えたが、そこも古新聞の束で埋め尽くされ、到底上れるような状態ではない。
「足の踏み場もないってやつね」
「…なあアリカ、ホントにここ掃除すんのかよ?」
「あんたねー、仕事もしないで小遣いもらおうって魂胆なワケ?」
「そうじゃないけど……ふつう、小学生にこんなことやらせるかあ?」
「…………」
問い詰めたつもりが逆に聞き返されてしまい、アリカは問答に窮した。
…普通は、こんなこと小学生にやらせないだろう。
だけど、どうしてもお小遣いが欲しいというイッキをみかねて、
メダロット博士が実家の整理のアルバイトをくれたのだ。
アルバイトといっても、実際交通費やお小遣いなんかはすべてメダロット博士のポケットマネーだから、
単なるお使いのようなものなんだけど。
ただ、その単なるお使いが、まさかこんなに先が思いやられるようなものだとはさすがに思わなかったけど。
「……と、とりあえず………なんとかして奥の部屋にいこ。」
「……。」
イッキは黙ったまま首肯した。
いざ古新聞の上を進もうとすると、それは存外なまでに至難なものだった。
いくら積み重なっていようとも、紙は紙。
踏めば潰れるし、束とはいえどぐらつくこともある。
「きゃ…」
その時、アリカが小さく悲鳴を上げてバランス崩し、転んだ。
後ろを歩いていたイッキは、とっさにアリカを支えようと手を出す。
「アリカっ」
手を差し出すというよりは、半ば体で支えこもうとするようなイッキの体勢。
古新聞が敷き詰めてあっても、狭い廊下で転べばどこを打つかわからない。
そういうことを心配してのイッキの行動だった。
どすっ、とイッキがしりもちをつく音。
鈍い痛みと急激な体勢の変化に、イッキは思わず目をつぶっていた。
舞い上がったほこりで咳払いをする二人の声が廊下に響く。
「………あ。」
思わずそう声を出してしまったのは、まずその違和感からだった。
新聞の上に転んだと思っていたアリカは、手をついて立ち上がろうと両手を突っ張らせていた。
だが、手を突っ張った場所は生物的な柔らかさがあり、また温もりもあった。
「…………」
アリカが、イッキを組み伏せるような形で上に覆いかぶさっていた。
「…………なにしてんの?アンタ」
「………アリカこそ、それ、どういう体勢だよ…」
イッキが微妙に顔を引きつらせつつ訊く。
イッキの上に、丁度またがる様な姿勢で鎮座するアリカ。
幼馴染ゆえか、その至近距離に対する羞恥心はさほど無かったが、やはり違和感は拭えないらしく、訝しげな表情。
「あたしは……単純にアンタが引っ張るから」
「引っ張るからって…アリカが転ぶからだろ」
「なんでアタシのせいなのよっ」
ぐいっと顔を近づけて、詰め寄るアリカ。
いよいよもってそれらしい様相を呈してきたその状況は、
事情を知らぬ他人が見れば如何わしい想像のひとつやふたつ、有り体に浮かぶかも分からない。
「とりあえず、アリカ離れてよ」
迷惑そうな表情でそう言うイッキに、
アリカは上に座ったまま、むっと顔をしかめた。
「言われなくったって離れるわよ」
そう言い捨てて、アリカは壁に手を突っ張らせて立ち上がる。
そしてそのまま、イッキが起き上がるのを待たずに足早に居間へと歩いていった。
「俺が悪いわけじゃないだろ…まったく」
*
随分と散らかっていた玄関先からの廊下と違い、
居間は打って変わって整然としていた。
端々に荒く木目を残した漆塗りの卓、白磁らしき高価そうな壷。
その後ろに隠れるようにして掛けられているのは、由緒の正しさを見るからに感じさせる水墨画の掛け軸。
数多くの古流な調度品が並ぶ様は、そう言ったものに造詣のない凡夫が見ても、
明らかに雰囲気を感じさせるものだろう。
「…ここ、ほんとにメダロット博士の実家?」
整然と並ぶそれらの調度品を見て、アリカは感嘆に浸っている様子だった。
あちらこちらに視線を向けて、ひとつひとつ物珍しそうにため息を漏らす。
そして、そんなアリカを横目で眺めているイッキ。
アリカとは対照的に、並ぶ調度品のどれにも興味がないらしく、
頭の後ろで手を組んだままかったるそうな視線で部屋の中を見回していた。
せわしなく部屋の中を歩き回るアリカの瞳が、いつになく輝いているようだった。
「アリカって、こーゆーのに興味あったんだ…」
「こーゆーのとは失礼ね。日本人のクセに良さがわからないワケ?」
「小学生でそんなの分かる奴いないって。ていうかさ、メシ食おうぜメシ!腹減ったよ、俺。」
イッキは自分の腹をさすり、自分の空腹状態を今一度確かめた。
「メシって……まさか私が作るわけ?」
「いやぁ、だってオレ作れないし」
「はぁ……そんなんだとカリンちゃんに嫌われちゃうわよ」
アリカは、あくまでも軽口で言った。
幼馴染との、とりとめのない駄弁りの中での、ほんの軽口として。
だが、イッキはその言葉を聞いた途端に、表情を少し強張らせた。
「オレ、別にカリンちゃんのこと好きじゃないけど」
予想に反して真面目なイッキの口調に、アリカは思わずその方へ振り向く。
「…そ、そうなの?」
「ああ。」
間が持たないイッキの答え方に、アリカはどう返して良いか困惑した。
「オレは……アリカのこと、好きなんだよ」
「は、えっ!?ちょっと、一体何?!!」
何の脈絡もなく藪から棒にイッキの口から出てきた言葉に、アリカは心底動揺した。
「(ほ、本気なの、アンタ?)」
「オレは…アリカのことが好きだ。愛してる。だから―――」
「だから、メシ作って」
「………」
…ノせられた。
「…あのね、アンタ……」
アリカは拳をぎゅっと握り、ぎろりとイッキを睨む。
「そーゆー冗談を言うなーっ!!」
そう叫んで、アリカはイッキの頭に拳骨を一発、思い切り振りかぶり、入れた。
「っ痛〜〜〜〜っ!」
頭を押さえながら、イッキは畳の上でのた打ち回る。
「頼むから止めてよホント!一瞬頭の中ぐっちゃぐちゃになったじゃないの!」
「ってことはぁ、オレと付き合おうと思っ」
「思ってない!!」
あらん限りの声でイッキの言葉を遮り、もう一発いいものをイッキの頭に打ち込む。
「痛っ!おいアリカ、少しは手加減」
「あーもーうるさい!!もうしーらない!」
いーっと歯をむき出してイッキに悪態をつき、アリカは乱暴な足取りで居間を出て行った。
地元の人間にすればひどく失礼な話かもしれないが、
こんな僻地においてもスーパーというのはしっかりと存在していた。
アリカとイッキは、人間の開拓精神というか、そういうものにはなんとも敬服する心地だった。
典型的な作りの店内は、野菜を冷蔵している棚から吐き出される冷気と室内の冷房があいまって、
涼しいを通り越して肌寒いほどに冷やされていた。
「……コレと、…あと、コレね。」
陳列された食材をひとつひとつ確かめながら、イッキの持つかごにそれらを放り込んでいる。
「アリカー、重いんだけど」
「男の子でしょ?文句言わない!」
「へーい…」
「あ、あとコレもね」
「へーい……って、なんかさっきから、俺の嫌いなもんばっかりじゃない?」
「好き嫌いしないの」
「へーい……」
いつものようなやり取りをしながら、二人してスーパーの中を連れたって歩く。
親しげなその様子は、年齢こそ足りないが、ある意味ではまるで夫婦のようだった。
「2000円になります」
人のよさそうなレジのおばさんが、何やら二人を微笑みながら見ていた。
「すいません、5000円でもいいですか?」
アリカが訊く。
「いいですよ。」
差し出された5000円札を手際よくレジに挟み、順序良く千円札を3枚、取り出す。
「こちら3000円のお返しになります」
お釣りを受け取り、アリカは財布の中にそれを入れる。
袋に入れられた荷物は当然、イッキが持っていくのだ。
「あんたたち、見かけない顔だね。引越しでもしてきたのかい?」
レジのおばさんが、優しそうな笑顔のまま聞いた。
「あ、いえ。ちょっと親類の家のお掃除に来てるんです。」
「ふうん、そうかいそうかい。そっちの男の子は彼氏かい?」
面白いものでも見るような表情で、少しだけ意地悪そうに微笑んでそう聞いた。
「か、彼氏?! 違いますよー、ね、イッキ!」
「んー、あー」
「ちょっと、しっかり否定してよ!」
そう言いながら、アリカがイッキの頭を小突く。
「いってーなー!」
「あんたね、人の話はしっかり聞きなさいよね!」
「だからって、いきなり叩かなくてもいいだろ!」
「なによー!」
言い争いを始める二人を見て、おばさんはまた楽しそうに微笑んだ。
「あっはっは。ケンカするほど仲がいいってね。あんたち、お似合いだよ。」
「お似合い?! あ、あたしとイッキはそんな仲じゃないですってば!」
この上なく分かりやすいほどに混乱するアリカ。
その横で、仏頂面のイッキ。
「そーそー。俺がいっつもいじめられてるだけですよ」
「あんたがしっかりしてないから、あたしが言ってあげてるんでしょー?」
「なんだよそれ、なーんか押し付けがましいな」
「人の親切にそういう言い方するわけー?!…って、もうこんな時間。そろそろ帰らなきゃ…。」
ふと視界に入った時計は、既に12時を回っていた。
「あはははは! あんた達、見てて飽きないよ。また機会があったらいらっしゃいな。」
「「はーい」」
二人して元気な返事を返し、ぱたぱたとその場を後にする。
パート店員のおばさんは、その後姿を嬉しそうな笑顔で見送った。
「あっつー!」
アリカが、ピンクのオーバーオールの下に着たシャツの襟首をぱたぱたと広げる。
そのせいで時折覗く薄い胸板は、遠目からでも分かるほどにじっとりと汗ばんでいた。
メダロット博士の旧家の中。
時計は正午過ぎを指している。
外は地面が白く照り返し、屋内から見るその様相はまるで別世界のよう。
唯一の涼はといえば、時折吹き込む風が汗の浮いた額を撫でる程度。焼け石に水とはまさにこの事だろう。
スーパーで食材を揃えたイッキ達は、アリカ主導でようやく昼食にありつけようかというところだったのだが、
肝心なところで肝心なものが欠けていたのだった。
「…でもさぁ」
「…」
「ガスが着てないなんて、さすがに私も想定しなかったわ」
「………はぁ」
イッキがしゅんとした様子でうなだれる。
今アリカが言ったとおり、この家にはガスが来ていないのだ。
家の周りをみると、元々プロパンガスのボンベか何かが置かれていたような場所があった。
そのあたりから察するには、恐らくガスそのものは使えたのだろう。少なくとも、ここが人家であった時は。
ただ、プロパンともなれば都市ガスのようにそのままにして出て行くことも出来ない。
ゆえに、ここが人家でなくなっていた現在、ガスという、この上なく利便性に長けた長物は使えないのだ。
「……メダロット博士に聞いておくんだったな…」
「………ホントね…」
買ってきた食材も今のテーブルに投げ出し、
畳の上に二人して背を向かい合わせ、足を投げ出したまま座り込んでいる。
「…あついわね」
「……あついな」
「……何度くらいかしら…」
「……30度は超えてると思う」
「…妥当な数字ね……」
まさに無気力と形容できる弛緩しきった表情で、ただ畳の上に座り込んだまま。
「…プールとかないかなあ」
「…あるわけないでしょ。そもそもアンタ、水着どうする気よ」
「え?俺は男だからそのままでも別に」
「……そういうこと、あたしの前で平気で言わないでくれる?」
そう言いながらも、嗜めるアリカの表情にはいつもの覇気がない。
この暑さがいかに殺人的なものかを、それが雄弁に物語っていた。
「…ガスが着てないってことは、さあ…」
「ああ…」
「…お風呂も入れないわよね」
「ああ…」
「…シャワーだって水よ」
「ああ…」
「…聞いてないでしょ?人の話」
「ああ…… ?!」
アリカの鉄拳が、イッキの後頭部に制裁された。
「いってーな!」
「適当な返事をしたバツよ」
「…ったく、…あついんだからさぁ、あんまり動かすなよ…」
かったるそうにそうぼやき、イッキは畳の上にごろっと横になった。
「あーっちー……ハラへったー…」
「エアコンもない、ガスもない…おまけにコンビニ、ファミレスの類は一切なし…」
「クーラーが効いてるところといえば、ふもとのスーパーと村役場だけ…」
「…もう一度あのスーパーまでいく?あのおばさんなら、休ませてくれるかもよ」
「……行くまで持たない。ムリ。」
「………私も、…右に同じ、…かも。」
力なくつぶやき、アリカはイッキの横に勢いよく横たわった。