規則正しい寝息に、温かい体、ふんわりと香る髪の匂い。そして、窓から差し込む夕日。
それが、今のイッキが五感で感じている全てだった。
最も、その殆どは幼馴染からのものだったが。
「……アーリーカー…」
小声でそっと呼びかけてみても、反応はない。
それどころか、ますます眠りは深くなっているような感じさえする。
試しに、ぽん、と本当に軽く頭を叩いてみた。が、無反応。
体を擦り合せるように少し体位を変えてみたが、やはり反応がない。
既にアリカが眠りに落ちてから、10分ほどが経過していた。
普通ならまだしおれたままの筈のペニスも、
間近に幼馴染を抱いていることもあって既に勃起状態を取り戻していた。
こうなると、やはり性欲を持て余して悶々としてしまうのが男子というものだ。
まして、腕の中には好きにしていい筈の幼馴染がいるのだ。
イッキは、興奮のせいでこころなしか粘着度の増した唾液を口内に蓄えつつ、
アリカの耳たぶに舌を当てた。
ぴちゃりといやらしい音を立て、唾液がアリカの耳たぶを濡らす。
しかし、アリカはやはり何の反応もない。
イッキは、それに気をよくして、今度は唇で耳たぶを食み、
チロチロと舌先で嘗め回した。
舌で直接感じる耳たぶは想像していたよりも柔らかく、また、その行為はひどく官能的だった。
唇を放すと、てらてらと濡れた耳たぶから唾液が細い糸を引く。
「アリカ………まだ起きないの……?」
そう聞きながらも、本心では言葉とは裏腹に、まだ起きないで欲しいと願ってもいた。
イッキは、続けてアリカの耳全体へと舌を伸ばした。
耳の窪みの中を、文字通り舌で嘗め回す。
耳ゆえに若干冷えた感触は、ひどく気持ちのいいものだった。
「……アリカ………」
耳元で名前を囁き、夢中でアリカの耳を貪る。
汚いとか、そういうことは一切考えられなかった。
イッキはまるで、母親の乳房を必死で子供が吸うように、
何かに憑かれたかの如くひたすらに耳を嘗め回し続けた。
耳たぶを食んでは舌でくちゅくちゅと味わい、
窪みの中に舌を入れてはれろりと味わう。
舌で、つまりは味蕾で、アリカを味わっているのだ。
イッキは出来る限りアリカを起こしたくはなかった。
漠然と理解しているフェティシズムに対する背徳感と、
また「寝ている」彼女を弄る、ということにも更なる興奮を感じていた。
初めは耳のあたりだけを弄っていたイッキも、
アリカの睡眠が予想以上に深まっていることに気をよくして
更に違う部分も感じてみたいと考えるようになる。
そうすると、当然といえば当然なのか、イッキはアリカの耳から口を離し、
うっすらと汗ばみ始めていたアリカの首筋へと口元を寄せた。
衣服に包まれていない分、立ち上る体温を直に感じることが出来る。
首筋ともあれば、尚更体温ははっきりとしたものになる。
イッキは、ちろっと舌先を出して、また一つ未知の行動への感慨を胸に膨らませつつ、
そっと先をあてがった。
味は、ない。あるとしても、本当に少しだけのものだ。
舌を動かし、下から上の方へと、アリカの首筋を舐め上げる。
すると、一瞬だが強くアリカはふっと息を吐き出して反応をした。
起こしてしまったのではないかとアリカの顔色を伺うも、
先ほどまでより少しだけ頬に赤みが差してはいるが、
相変わらずたおやかな寝顔を浮かべていた。
安堵の心地を覚えつつ、イッキは再び首筋へ戻る。
そういえば、テレビドラマの濡れ場で、
男性が女性の首筋に貪り付くような場面を見かけた覚えがある。
ということはつまり、それも性行為の一環なのだろう。
自分の中にある知識、そして記憶を総動員して、
そのときテレビの中の役者がどうやって「味わっていたか」を思い出す。
―確か、こうだ。
唇を、キスするみたいにあてがって――。
ちゅっという音を立ててアリカの首筋を吸い立てると、
口腔内にどうとも度し難い汗の味が広がった。
舌で触れてみた肌は想像以上に柔らかく、皮膚の起伏も殆ど感じられない。
唇をあてた痕がうっすらと赤みを帯びていた。
アリカは相変わらず規則正しい寝息を立てたまま、何の反応もない。
寝ている無防備な相手を弄るという行為はやはり背徳感があり、
それが却って更なる欲望をかきたてる。
アリカの顔に股間を多いかぶせるように、イッキは体勢を変える。
そして勃起した逸物を握り締めると、そのまま上下に扱き始めた。
時折、軽くアリカの肌に触れさせる。
肌の温もりに触れる度に、イッキの逸物がびくんと反応する。
「アリカ、………リカ、……ぅ…」
まるで動物のように繰り返す行為の快楽に溺れながら、イッキは何度もその名前を呼ぶ。
いつの間にか出ていた先走ったものが、アリカの頬に垂れ始めていた。
パンパンに膨張した亀頭を、ゆっくりとアリカの頬に押し付ける。
ペニスから垂れた液体が潤滑剤となり、その感触はすぐにでも絶頂を迎えてしまいそうなほどだった。
イッキは射精に達しそうになる度に一時的に行為をストップさせる。
息も荒げにペニスを持ち上げ、そしてまたアリカの頬へとあてがう。
そんな動作の繰り返しだった。
しばらくは押し付けるだけで我慢できたものの、
絶頂が近づくたびに、イッキは確実に更なる快感を求めるようになっていた。
ペニスを押し当てていたすぐ横には、艶やかな唇。
そしてその中には、粘膜がある。
イッキはつい先程、アリカの口内で一度果てたばかり。
ゆえに、その快楽がどれほどのものかというのも、鮮明に覚えていた。
その感触を確かめる意味で、自分の口内を嘗め回す。
イッキは、膨張したペニスに突っ張るようにして被っている皮を根本まで下ろし、
アリカの唇へそっと先端を触れさせた。
反射的にアリカの唇が動き、ほんの少しだが擦れた感触が伴った――その刹那、
一気に込み上げてくる射精感は、イッキの腰を突き動かした。
「…えぅっ?!」
いきなり口内に現れた異物に、さしものアリカも目を覚ます。
が、イッキはそんな事には構いもせず、更に奥までペニスを差し込んだ。
ぬるっとした感触と、熱い位の体温がペニスを包み込む。
そうなると、もうイッキには射精を耐えることは出来なかった。
「あ、アリカ、アリカ……」
うわ言のように名前を繰り返しながら、イッキはアリカの口内へ射精をする。
アリカは、どうすることも出来ず、うつろげな目線で、舌でそれを受け止めていた。
「……アンタねえ」
アリカは、口内に溜まった精液を吐き出しながら、じろりとイッキをにらみつける。
「ご……ごめん」
「謝るくらいなら、しないでよ」
不機嫌そうにアリカは言い捨てた。
「その………つい…」
「普通に考えて、寝てるところにいきなりこんなことする?」
「い、いや、……しない…」
「まったく……あーもう、口の中が変な感じする!」
そう言って、アリカはティッシュペーパーで何度も口周りをぬぐった。
「だいたいね、アンタはどう思ってるか知らないけど、そんなに美味しいもんじゃないのよ、コレ」
精液を包んだティッシュを、イッキの膝元へぽいと投げ捨てる。
「あ、あはは……そ、そうだよね」
「あんた、たまには自分で飲んでみる?そうすれば分かるわよ」
「い、いや!いいよ、え、遠慮しとく…」
「……別にさ、してって言えばするわよ。……だから、もうちょっとさ、やり方変えて」
「………う、うん……ごめん。」
イッキの返事を訊いて、アリカははーっと大きくため息を漏らした。
「もう、ほんっといつまでも頼りないんだから」
「は、はは…」
「笑ってないで、ちょっとこっち来なさい」
「え?」
「いいから来る!」
アリカの剣幕に押され、イッキはおずおずと近づいていく。
「もうちょっとこっち」
「な、何すんの?」
そう訊いたところで、イッキはぐいっと抱き寄せられた。
頭を胸元に押し付け、アリカは抱きかかえる体勢になる。
「罰として、一時間抱き枕ね」
「あ………わ、わかった」
FIN.