「危ない!」
最後に聞こえたのはそんな言葉だった。
宙に浮いている。
視線は遥か上方を向いてはいたが、足が地面に触れていないことはすぐにわかった。
下は水面。
後ろでは、一人の少女が両手を前方に突き出した状態で俯いている。
街中にはよくある小さな河、そしてそこにかかる小さな橋。
しかし飛び込む・・否、突き落とされるのは、恐らく自分の人生の中で最初で最後であろう。
(・・死にはしないだろうが)
本当に短く、しかし自分には遥かに長い時間に感じられたその一瞬、宙を浮いていた少年の体が、
重力に引かれ、段々と真下に向けて加速していく。
(マントが濡れるのは厄介だな)
少年は冷静だった、普段の生活からか、常に平常心を失うことだけはしなかった。
その冷静な思考の中で、少年はたった一つ、こう思った。
(この女は、自分がこの世で最も嫌いな類の人間だ)