震えてる……無理無い。  
ていうか、僕が震えてるのかも知れないし……  
 
それ程に二人は密着していた。  
繋がる口唇は震え、鼻孔から漏れる息づかいが産毛がくすぐる、握られた右手には序々に力が籠もっといく。  
まだ、か細い少年の手を、それ以上に細く汗ばむ手が締め付けていた。  
「……っ……痛いよ」  
押さえつけられる様に白いベッドの上に組付せられた少年は、首を動かして唇と唇の触れ合いから逃れたが。  
少女は少年の柔らかさに堪能したり無いのか、唇と唇をただ重ねる。  
大人、数年後の二人ならばまだしも。十年程度しか生きていない二人では、重ねるコトがキスだと、それ以外のやり方等知る由も無い。  
しかし、それより後の、「本番」とでも言うべき行為を。二人は知っていた。  
単純な理由だ。  
簡単過ぎて話にすらならない、しかしそれは大人ならばであり、只の少年と少女にとっては。  
興味と好奇が湧くのも仕方がなかった。  
 
 
ベッドの横の床には、一冊の開かれた教科書が落ちていた。  
 
 
夏の暑い日中。  
ゴミや雑誌、衣服が散乱に近い状態の室内の中央に。教科書プリント類が散乱する小さなテーブルを挟んで、少年と少女が頭の登頂を向け合っていた。  
窓硝子を開け放っているというのに、室内は蒸して、二人の額からは大粒の汗が流れ続けている。  
半袖から伸びる細い腕で額についた汗を拭い、イッキは再びプリントに視線を落としたのだが。  
息を吐くと、視線を上げた。  
静かにシャープペンシルを机の上に置き、再び息を、少し深く吐いた。  
朝からずっと勉強した性で疲れた目を泳がし、部屋を見渡した後、目の前に座るアリカを見たが。  
アリカもイッキ同様に汗を流し続けていたが、集中している様でイッキの視線には気が付かない様だ。  
イッキはこの部屋の主である怪盗レトルトこと、ヒカルが出してくれた、硝子のコップに半分程残った麦茶を飲み干す。  
ぬるい麦茶は体を冷ます事無く、ただ味が薄いだけ。  
視線の先、アリカは真剣な顔つきで、スラスラとまではいかないが、テンポ良く算数のプリントを解いていっていた。  
イッキは暇潰しに漠然と、視線を幼なじみの上を這わせてみたが。  
しかし、それは直ぐに止めた。  
前屈みになっているアリカ、Tシャツの胸元から覗き見えた。柔らかそうな肌、なだらかな起伏、小さな桜色の突起。  
確かに今でも時折、母親と風呂に入っている為。  
アリカの以上に大きな物を見知っていたが、良く知る幼なじみの小さな乳房は、見るだけで気恥ずかしい様な。  
そんなまどるっこしい情念に襲われてしまう。  
そんな事を考える自分から逃げる様に顔を逸らすと、追い打ちをかけるかの様に。  
「どうしたのよ?」  
 
少しイライラとしたアリカの声に、イッキは顔をアリカに向け、直ぐ様横に振った。  
「な、なんでもない」  
「……ホントォ?」  
「ホントだよ」  
アリカはクスッと笑い。  
「なら、いいけどね」  
その段になって、からかわれていた事を悟ったが。笑い返すだけにして、反撃しない事にした。  
「それにしても」アリカはンッと、腰を伸ばし「ヒカルさん何時頃帰ってくるのかしらねー」  
「六時頃、とは言ってたけど」  
「ふーん」  
夏休みの終わり間近、というか前日である今日。  
二人は『頼りになる』ヒカルに宿題を教えて貰おうと、ヒカルのマンションを訪れたが。ヒカルは  
「ごめん、バイトあるから。でもなるべく早く帰ってくるから」  
と、二人に留守を託して行ってしまった。  
入って直ぐに気づいたが、ヒカルはクーラーをつけてなく。  
一応……いや、立派に乙女なアリカの前でパンツ一丁、という姿で暑さに耐えている所を晒し。それを見たものだから、二人は無邪気にクーラーつけてとは言えず。  
今もクーラーをつけずに、暑さに耐えていた。  
アリカは壁にかけられた時計を見たが、まだ三時。後三時間もある、と考えて気が滅入るのを感じた。  
 
入って直ぐに気づいたが、ヒカルはクーラーをつけてなく。  
言った次の瞬間、ブラスが転送された。  
「なぁに? アリカちゃん」  
「アイス買ってきてくれない、いつも食べてるの」  
正直生ぬるい水道水を飲む気も、冷蔵庫を勝手に漁るという世間知らずも出きる訳無いので。  
アリカはブラスに、ポケットから出した小銭を握らせ。  
「二人分ね」  
ブラスは小さく頷き。  
「うん、イッキさんの分だよね」  
「うん、そ……て、何か食べたいのある?」  
気怠げなの視線受け。  
「じゃあ、えーと……」  
イッキは顎に手を当て、少し考えようとした。  
今、自分は小銭しか持っておらず、それに小遣いはパーツ代に消える為家にもそれ程無いし、高い物を頼むのは気が引けた。  
となれば、安い物でコンビニにも売ってそうな物。  
「私と一緒ので良いって」  
「っ……ええ!?」  
「何よ?」  
視線を向けるよりも、反論するよりも早く。アリカの、暑さの性で気怠げで、それでいてちょっと挑発的な視線と言葉が、イッキを煽る。  
「文句ある?」  
口元に勝ち誇る様な笑みを浮かべながら、ハタハタとはためかせて襟首から覗く柔肌。  
先程、注視してしまっていた、白い小さな乳房を思いだし。反論する気が失せ、別の感情がふつふつと沸くのを感じてしまい、イッキはそれを自分の中で誤魔化す為。  
一つ頷くと。  
「い、いや。別になんでもないよ」  
苦笑する様に顔をひきつらせて笑うと、アリカは呆れた様な、反撃してこないイッキをつまらないとでも言う様な。そんな表情で視線を外すと。  
「じゃあ、ブラスお願いね」  
「うん」  
ブラスは明るく答え、直ぐに部屋から出ていった。「ちゃんと勉強しないと駄目だからね」と、一言残して。  
 
アリカはブラスが出ていくのを見届けると、小さくため息をつき。  
ヒカルのベットの上に乗っていた雑誌類、掛け布団を退かすと。  
「よし」  
イッキの不思議そうな視線を無視し、ベットの上に思い切り寝転がった。  
安物の堅い感触が、少し気に入らなかったが。ヒカルの恋人であるキララが手入れしているのか、それ程小汚く無かった。  
両手足を広げ、大の字になると。顔に影が掛かり。  
「勉強しないの?」  
何時の間に立ち上がっていたのか、イッキがベットの横に立ち、困ったような顔付きでアリカを見下ろしていた。  
アリカは迷うこと無く、自分自身可愛いと自信のある笑みを浮かべ。  
「ちょっと休憩、少しくらいならいいわよね?」  
「そりゃ……まあ……」  
イッキの淀む言葉が気に入らないのか、頬を膨らませ。  
「言いたいことがあるなら、ハッキリいってよ」  
一泊間を置き、イッキは苦笑した。  
アリカは気づいて無かったし、気づいた所でイッキ如きに見られてもさして気にしないだろうが。  
オーバーオールの肩紐がずれ、汗で張り付いた白いTシャツに透過された、桜色の登頂を見られている事は。  
言い淀むイッキに、アリカは何を思ったのか。  
イッキの腕を掴むと、思い切り引き寄せた。  
「わっ……わわ……っ」  
リアクションが取れず、力任せに引かれた体は、次の瞬間にはアリカの上に重なっていた。  
「一緒に寝たいんなら、そう言いなさいよねー」  
純粋で悪意無く、アリカは言ったが。  
引き寄せられた側は答える所では無かった。  
重なる胸の下に柔らかい何かの感触が伝わり、鼻孔をくすぐる様な独特な少女の汗と体臭が混じった香り。  
それに戸惑うばかりで、言葉を発する事等出来ないでいた。  
 
からからと笑うアリカも、動かず何も言わない乗っかっているまま動かない、幼なじみに異変を覚え、顔から笑みを消すと。  
イッキの背をさする様にして揺らし。  
「ど……大丈夫……?」  
「えっ……あっ、うん」  
イッキは直ぐに答え、体をバッと離すと。股間を抑えるようにして、ベットの横にしゃがみ込んだ。  
「ご、ごめん」  
イッキは硬直したソレが当たったのだと思ったが、アリカの様子は違っていた。  
離れて直ぐ、そっぽを向いたイッキの後頭部に、情けないアリカの声が掛かる。  
「ご、ごめん」  
「……え?」  
「痛かった……よね? ホント、ゴメン」  
「へ……」  
イッキはなんとはなしにアリカの気持ちを察すると、一つ頷き。  
「ああ、そっか」  
ベットの上に上ると、アリカの隣に、イッキは寝転がった。  
アリカは不思議そうな顔で、そちらに顔を向けると。  
20cmと離れていないイッキと目が合い、少年にしては艶やかな薄い唇がにんまりと笑った。  
薄い口唇は、おどけるように、  
「ちょっと休憩」  
言っても。呆けたままのアリカの頬をつねり、現実に引き戻すと。  
「ブラスが帰ってくるまで……なら、いいよね?」  
「……」  
アリカはもどかしげに、リップクリームが塗られた口唇を真っ赤な舌で、ペロッと舐めてから、微笑み。  
少しづつ顔を弛ませていきながら、目の前にあるイッキの額に、自分の額を合わせ。  
頬に朱色が混じった二つの顔は、互いに視線を交差し笑い合った。  
 
しかし、とアリカは思った。  
笑い合ったのは良いが、何故だかアリカの頬に触れたままのイッキの指先が、ふにふにと頬を押し続けているのだ。  
イッキの顔を見ると、変わらず楽しげに微笑んでいる。  
だが、無言で頬を触られ続けている側は、たまったものではない。  
「ね、ねぇ。イッキ……?」  
「え、なに?」  
指はふにふにと押し続けている、やはり楽しげに。  
「なにしてるの? さっきっから私のほっぺた押して」  
「へ? ……ああ」  
一瞬間が空いたものの、イッキは軽く頷いたが、押すこと自体はやめずに。  
「いや、アリカのほっぺた柔らかいなぁ、て思ってさ」  
「……ハァ?」  
「なんかプニプニしてて、こう……やわ気持ち良い、みたいな」  
今一つイッキの真意は掴めなかったが、まあ気にしない事にして、アリカは目を瞑って寝る事にした。寝てしまえばイッキのプニプニ攻撃も気にしないでいられる。  
必要な時に必要なだけ睡眠を取れるのも、ジャーナリストとして大事なスキル……らしい。  
ブラスが帰ってくるまで大体後15分、それだけしかない。  
そう考えると眠って集中力を落とすのは非行率的だが、もとより高い室温湿度の性で集中力なんてものは、壊滅的にすり減っているのだから。  
 
そうアリカが自分に言い聞かせていると。  
イッキの指先が頬からゆっくりと、滑り落ちていき、唇に触れたのを感じた。  
目を開けて怒ろうとしたが。  
「うわ……やわらかいなぁ……」  
呻きとも嘆息ともつかぬ呟きに、一瞬頬を弛めそうになったが止めて、心の中で笑った。  
いつもながらにアリカの幼なじみが『おまぬけ』で、ちょっと安心できたのだ。  
最近はロボロボと戦ったり、川に二回も流されてしまったり、宇宙に行ったりと。  
ある意味『普通の男の子』で無くなってしまったように見えるイッキに対して、少し、ほんの少しだけではあったが。寂しいとでも言うような感情が、芽吹いていたから。  
「……寝てる、よね……アリカ」  
小さい頃、メダロッチも買って貰えなかった頃。  
イッキはいつもアリカの後ろをついてまわり、どんな無茶な願いでも叶えようと、努力してくれた。  
そんなイッキの事は、まるで弟の様に考えていたが、最近はなんだか違っていて。  
 
イッキのことを想うと、何故か落ち着けた。心が暖かく、まるで優しく抱きしめられているような、そんな感情が。  
(これじゃ、まるで……)  
イッキの細い指が口唇から離れ、彼自身の唇をなぞると、指先についたアリカのリップクリームを舐め。静かに、顔を寄せていった。  
 
不意を突かれたような感触がアリカを襲った。  
それまで触れていた指先ではなく、柔らかく、熱い、何かが触れ。アリカの呼吸を止めた。  
(ちょ……えっ……え……えぇっと)  
まるで口唇の柔らかさでも確かめるように、それはアリカの下唇をついばみ、背には細い腕が廻され、アリカの体に何かが密着する。  
(冗談だよね……あはっ……あはは……は……ははは)  
脚と脚とが絡み合い、無い胸が圧迫されるほどに体が引き寄せられ、下腹部に堅い何かが触れていた。  
唇の動きに合わせるように、体も揺すられ、Tシャツ越しに擦られてるようで。胸の敏感な部分が小さく、とても小さくだが勃起し。  
さらに敏感になって、体同士の擦れにまるで背中に冷たい物でも入れられたかの様な感触が僅かに走る。  
(い、いや……いや……ンンッ)  
頭の中では必死に快感に抗おうとする自分が居る事に、僅かにアリカは驚いた。  
快感が、気持ち良い事自体が嫌。それならば目を開けてしまえば、この状態は終わるのだろうが。  
理解しているのに、それを実行しようとは考えなかった。  
熱い吐息が口の中に溢れ、涎と涎が混じりあって、こぼれベットに染みを作っていく。いつのまにか、背に廻された手が、ピンクのジーンズ生地越しに尻を撫で回している。  
 
尻の谷間を指先でなぞる。  
薄く、気づかれないように目を開けば。真っ赤な顔をしたイッキが、アリカの眼前に居て唇を弄んでいる。  
いつものイッキならば考えられない大胆な行動……いや、違う。アリカはそう、考えた。  
(イッキだって、もう……なんだし。無防備に寝てる女の子居たら……手、出したくなるよね)  
ロボトル以外では気が小さいイッキが、激しく求めてくれている。  
それが興味本位でも、下半身の赴くままでも構わなかった。  
(イッキが求めてくるのなら、なら私は…………  
 
 
もどかしくたどたどしい唇の重なりは、そのくすぐったい感じや、絶え間無く攻め続ける唇の性で満足に呼吸すらできない事も経験のないアリカにとっては未知の快感だ。  
ザワッとする心地よい感触に、アリカの胸はどんどん、どんどんと高鳴っていき今にも破裂しそうで。  
思わず……  
「……ひっ……いっきぃ」  
思わずアリカの桜色の口唇から、吐息と共に初めての快感による喘ぎがこぼれた。  
しかし何故か、アリカが喘いだ次の瞬間、濡れる互いの唇は、イッキ側より離れていってしまった。  
アリカはとろけていた思考を止めて、イッキが重なりを止めた理由を考えた。それは直ぐに思い当たった、簡単で単純明快な話だ。  
(……ま、まずい……声、出しちゃった……)  
思考が急速的に展開していく。  
最初に、喘ぎを漏らした事への恥ずかしさが、次に「感じて」しまった事自体への羞恥。それに対する言い訳と、とろんとした感想が湧きだし。  
そこからイッキの、口に出すこと自体少し照れてしまう……キスの、その上手さ。  
そして最後に。  
(声出さなきゃ、もっと、もうちょっとしててくれたよね……?  
私の……バカ)  
されど、アリカの思考以上にイッキの脳内では、ロボロボ団が大量に湧きだし、「ろぼろぼ」言いながら駆け回っていた……  
……もとい、混乱していた。  
(……ま、まずい……起きてたんだ……)  
思考がレクリスモードに変形し高速運動を始めた。  
なんて言い訳したら許してもらえるか?  
いや、それ以前にアリカの事だ。下手すれば死ぬより恥ずかしい目に遭わされる、確実に。  
学級新聞にでも「寝ているところを無理矢理」した事を書かれでもしたら、卒業まで……いや卒業しても、おみくじ町に居る限りからかわれ続けるだろうし。  
なにより、これまで比較的良好な関係を築けてきたアリカに嫌われる。その事が一番恐れる展開だ。  
そんな事を考えていると、アリカの瞳がゆるりと開き。二人の視線が重なった。  
余程怒っているのか? アリカの瞳は涙で濡れ、その瞳がイッキの恐怖を煽る。  
(ヤバ、い……殺される)  
頭は恐怖に怯えているというのに、だというのにその瞳の色に心が躍り、興奮してしまっていた。  
余り、アリカは涙を流さない、人に見せないと言った方が正しいが。その強い瞳に涙が満ち、まるで惚ける様にとろんとこちらを見ている。  
唇を好き勝手に弄んでいる時の興奮よりも、激しい興奮に踊らされる様に、再び顔を近づける。  
喋らせなければ良い、喋られても、それでも一回でも、一秒でも多くしていたい。一秒でも多く触れていたい  
「あ、アリ……」  
「トイレ、私ちょっとトイレに行ってくる」  
「へ」  
起き上がってベットから降り、流れるような動きでアリカは部屋から出ていった。  
イッキはポカーンと呆けた顔で、それを見送った。  
「……へ?」  
 
バダンッとトイレのドアを閉めると、便座の蓋を下ろし、蓋の上に座して。  
「ああんっ……もおっ」  
直ぐに頭を抱え、ガリガリと掻きむしり或いはバンバンと叩いた。  
先程、イッキにされていた行為のせいで体が興奮し上気していて、顔が真っ赤に染まっているかと思うと、かなり腹がたった……自身に対して。  
(あそこは私の方から……こう、もう一歩進む所でしょーに)  
ある意味、勇気を振り絞ったイッキ。  
というかイッキが自分の事を一人の少女として、女として見ていてくれている事が嬉しかったし。  
マンガとかに載っていたのより、当たり前だがそれ以上に興奮した。  
親しい人、身近な人に犯される。そのシチュエーションはメロドラマの様で、少し言葉は違うかも知れないが、ロマンチックとすら言えた。  
あのまま自分さえ声を出さなければ、イッキは布一枚隔てて胸を触り、直ぐに私の服を脱がせて直に揉み。  
そして……その、大事な、自分自身おしっこの時以外触れた事の無い……あそこへ手を滑らせてくれたかも知れない。  
 
年齢的には早すぎるし、人の家だ、良心はそう言うが。  
私はその、あれ、イッキの事が……だから。年は関係ないし、ヒカルさんは六時まで帰ってこないのだから場所も関係ない。  
なのに……  
なんで声だしちゃったんだろ……  
「……はぁ」  
そこまで考えてアリカは自身に落胆するように腕を頭から離し、ため息を吐くと。  
すると、テンパっていた頭が少し鎮まり、落ち着けた。  
「ふぅ」  
もう一度、今度は大きく吸い、大きく吐いた。それを二回繰り返すと随分気が落ち着き、流石に部屋に戻っても赤面するような事は無いだろうと、確信した。  
落ち着いたら突然尿意が湧き、立ち上がってオーバーオールの肩紐を外してパンティと共に下ろして。便座の蓋を上げ、座り直すと、おかしな事に気がついた。  
「あれ……? おしっこじゃ、ないよね……?」  
無毛の秘所には光る粘液性の液体が滴っていた。  
 
部屋に戻ると、イッキはプリントと教科書に向かい、アリカを見ようとすらしない。  
アリカも黙ったまま、机を挟んでイッキの正面に座り、中断していたプリントへ向かった。  
沈黙とシャープペンシルの踊る音だけが室内に響き、ミーンミーンと蝉の鳴き声が耳に触れる。  
ふと、後頭部に視線を感じ、アリカが顔を上げると。イッキと一瞬目が合い、直ぐにイッキは俯いて視線を反らした。  
(……なによ)  
再びプリントに目を落とすと、一分もせずに後頭部に視線を感じ、顔を上げると反らされた。  
(なんなのよ?)  
アリカは軽く頬を膨らませたが、怒るのも違う気がしたし、ここで喧嘩にでもなったら。それこそ疎遠にでもなりかねないので、何も言わない事にした、が。  
(……また)  
(また……)  
(また)  
余程何か言いたいのか、アリカの神経がささくれだつ程に、イッキの視線が幾度と無くアリカを見て、そして俯いた。  
しかし、やはり怒ってはならないと自分を諫め。  
イッキが何を考えて、何をいわんとしているのかを考えてみると、直ぐに思い当たった。  
(……ハハーン、謝りたい訳ね。でも、言い訳されるよりも……)  
「あ、ねぇアリカ……あ、あの……さ」  
「何よ」  
 
アリカが顔を上げると、イッキは一瞬顔をそむけようとしたが、なんとか気を保ちアリカの目を見据えた。  
「あ、あのささっきのことなんだけど……」  
「言い訳なら聞かないわよ」  
「へ」  
アリカは眼光を鋭く細め、シャーペンを机の上に置いた。  
「自分がした事わかってるわよね? なら、聞くわけ無いって……わかってるでしょ?」  
予測しても居なかった鋭い言葉に気圧され、視線が宙をさまよう。  
「えっ、へっ、えぇと」  
「言葉じゃ聞かないって、言ってるの」  
「え? えぇと、その、だから、ボクとしては……」  
「だーかーらーっ、言い訳は聞かないって」  
苛立つようにアリカの眉間に皺が寄り、長年の付き合いによる判断は「マジギレ」を示している。  
(マズイマズイマズイマズイ……どうしよう)  
「な……ならどうしたら……?」  
言い訳なら何パターン、何十パターンと用意していた。けどアリカは言い訳は聞きたくないという。  
アリカを見ると、アリカの桜色の口唇が一瞬笑み。  
「……こうしたら良いのよ」  
有無を言わせず、二人の唇は再び重なった。  
甘い香りが鼻をくすぐり、柔らかい唇は微かに震えていた。  
イッキの手にアリカの手が重なり、からまってくる。  
アリカは唇を一旦離し、荒い息を漏らしながら。頬を桃色に染め、潤んだ瞳が子犬の如くのぞき込むようにしてイッキを見つめる。  
「あ……アリカ……」  
「……しよ、イッキ……気持ちいい事、しようよ」  
 
〜続く  
 

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