金曜日、もう外が少し暗くなってきた時間、喫茶店から出てきた2人が話している。  
「もう暗くなってきましたし、帰りますか志布志さん」  
「あー、どうすっかなー…」  
蛾々丸と飛沫だった。この2人は最近よく一緒に過ごしている。昼食を食べるにも2人でいたし、放課後になれば普通の高校生と同じように、ファーストフード店やゲームセンターなどにも一緒に行くことが多くなった。今も喫茶店に2人で入り、夕食まで済ませていた。  
球磨川禊は改心し、幸せになった。それによって過負荷でも変われるということが証明された今、−13組の面々も「球磨川が変われたのなら自分も」という希望を持ち始めた。  
蛾々丸や飛沫もまた「幸せになれる」という希望を持っており、そう思っていたら自然と互いに近くにいるようになった。なぜ幸せを求める心が一緒にいることにつながるのか、本人達にはよく分かっていないが。  
家に帰るような気分でなかった飛沫は、ふと思いついたことを口にした。  
「…蛾々丸くんの家、行っていいか?」  
これは今までも思うことはあったのだが、口にしたのは今日が初めてだった。  
「私の家…ですか」  
「ていうかもう今日泊めてくんね?」  
「…男性にそんなことを言うと変な意味に取られますよ」  
「いや、その『変な意味』で言ったんだけど」  
「…はぁ、志布志さんあなたねえ…」  
蛾々丸は呆れたように言うが拒絶はせず、その様子はどこか嬉しそうでもあった。  
 
2人は蛾々丸の住まいに向かって歩きながら話した。  
「小さいアパートですが…本当にいいんですか?」  
「いいんだよ。ってかアパートだったんだな」  
「本当に狭いですよ。家賃は安いからバイト代はそれなりに余りますがね」  
「自分で払ってんのかよ」  
「親はいませんからね」  
「…そういやそうだっけな」  
蛾々丸に家族はいない。そんな存在すらもダメージとして押し付けてしまったのだ。飛沫には親がいるが、ろくな人間ではない。彼女はその存在を良く思っていない。だが…  
(こいつはどうなんだろうな…)  
蛾々丸にはそもそもそんな存在がない。それを彼はどう思っているのか。  
ろくでもない親がいる自分と親がいない蛾々丸とどちらの方がマシなのだろうか、ダメージとして押し付けてしまったところをみると彼の親もまたろくな人間ではなかったのかなどと飛沫は考えていた。  
彼女は他人のことを考えるような人間ではなかったのだが、蛾々丸に関しては時々何かを考えてしまう。  
「着きましたよ」  
蛾々丸の声で思考は中断された。目の前には質素なアパートが建っていた。  
 
アパートの一室、ぴちゃぴちゃと水音が響く。2人はすでに衣服を取り去り、同じ布団に横たわり口づけを交わしている。  
「ん…ふ………あっ!」  
突然飛沫が唇を離して声をあげた。蛾々丸の右手が飛沫の胸の突起を弄び始めたのだ。そして左手は飛沫の秘部に伸びており、胸と同時にこちらも刺激する。  
「は……や…あ、ああ…」  
「敏感ですね…もう濡れてますよ」  
「ん……ひゃっ!あっ!」  
秘部を弄び続ける内に蛾々丸の指が最も敏感な部分にあたり、飛沫が一際高い声をあげる。  
「ここですか」  
「はっあっ!やめ…ががま…は、あああぁぁ!」  
蛾々丸はそこを重点的に攻め続け、その刺激に耐え切れず飛沫は絶頂に達する。  
「はあ…は…あ…」  
飛沫はなんとか呼吸を整えながらぼんやりとした目で蛾々丸を見つめる。いつもの彼女とは違う弱々しい様子に、蛾々丸は自分の胸の内に何か熱い物が膨れ上がるのを感じた。今までに感じたことのない感覚だった。  
飛沫が落ち着くのを待って蛾々丸は口を開いた。  
「志布志さん、そろそろいいですか?」  
「ん…」  
飛沫が頷くと蛾々丸は彼女に覆いかぶさるような姿勢になり、自身を彼女の秘部にあてがい、少しずつ入れていく。  
「う………ぎっい………あっ!」  
秘部は充分に潤っていたが、少し進めたところで飛沫の顔に苦痛の色が見てとれた。そこで蛾々丸はふと気付く。  
「あなた…初めてですか?」  
飛沫はこくりと頷く。  
「…大丈夫ですか?」  
「平気だ…だから…」  
そこで言葉を止めて飛沫は蛾々丸の背に手をまわして抱きついた。すると蛾々丸の胸をまた熱い何かが満たし、彼も自然に彼女を抱き締めた。  
 
「…残りも挿れますよ」  
「ああ………んっ…ぐっ…うっ!」  
より深く入ってくる異物に苦しそうな声を出しつつも、飛沫はなんとか蛾々丸を全て受け入れる。全部入ると蛾々丸はそのまま動きを止めた。  
「…動かなくていいのか?」  
「せめてあなたの痛みが落ち着いてからにしましょう」  
「あたしは大丈夫だ…蛾々丸くんの好きにしていい」  
「………」  
飛沫のその言葉を受けて蛾々丸はゆっくりと動き始める。彼女を気遣うようにゆっくりと。  
「ん……ん…」  
飛沫の声に艶っぽさが混じる。苦痛は大分薄れたようだった。  
「志布志さん…」  
「ふ…あ…あ…」  
彼女の名を呼んで蛾々丸は少しずつ動きを速め、飛沫は与えられる快感をただただ感じていた。やがて蛾々丸に限界がくる。  
「うっ…もう…」  
そう呟いて飛沫から自身を抜き取ろうとするが、その瞬間飛沫が両脚を蛾々丸の腰に絡めてそれを止めた。  
「!し、志布志さん、何を…ぐっうっ!」  
たまらず蛾々丸は飛沫の中で達した。  
「ふあっ、あ、ひあああああ…!」  
飛沫は自分の中に蛾々丸の熱を感じながら、少し遅れて彼女もまた絶頂を迎えた。  
 
飛沫の秘部の精液を拭き取った後、2人は蛾々丸が飛沫を抱き締める姿勢で布団をかぶった。飛沫は蛾々丸の胸に顔をうずめるようにしている。  
「…実は私も初めてでした」  
「あたしでよかったのかよ」  
「こちらの台詞ですよ。そういったことには女性の方が気にすると思いますが」  
「よくなきゃ泊めてくれなんて言わねーよ」  
「なら良いのですけどね…ところで中に出してしまいましたが…」  
「この前終わったばっかだから多分妊娠はしねーよ」  
「そうですか」  
「………なあ、蛾々丸くん」  
「なんですか?」  
「………また来てもいいか?」  
「…いつでもどうぞ」  
その夜、飛沫は蛾々丸の腕の中で眠り、蛾々丸は胸に飛沫の息遣いを感じながら眠りに落ちた。  
 
2人の心は満たされていた。彼らは、心を満たすそれが何なのかは知らなかった。けれど、そう遠くない日に知るだろう。2人の心を満たす物は同じだった。  
 
 
 
『幸せ』  
 
終  
 

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