※ifストーリー  
  もし戦挙が夏休み以前に全て決着していたら&安心院が来てなかったら  
 
 
「…これで仕事おーわりっ!」  
そう言いながら善吉が資料を机に叩きつけると、阿久根、喜界島はタイヤから空気を抜くようにプスーと息を吐く。そしてドタン!と音を立てて机に突っ伏す。  
それもそのはず、たった今夏休みの真っ最中なのだが、  
・「7月の月末」 ・「それぞれのクラブの合宿の処理」 ・「めだかの『7月中には全て終わらせたいな』発言」  
この三つにより生徒会は、平常登校時でさえありえない仕事量をかせられていたのである。そしてそれがたった今終わった。ちなみに球磨川は夏バテにより入院中。  
 
「うむ。三人ともご苦労だな」  
めだかもペンを置き三人を労わる。一番の激務だったはずのめだかが 何一つ堪えていないことに少々理不尽さを感じる生徒会メンツだったが 今更なので気にしない  
「…これで明日からは夏休み相応の仕事になるんだね」  
その喜界島の言葉からは疲れが見える。だが、同時にうれしさも顔を出していた。  
「そうだね。休日は数えるぐらいしかないけど、仕事と言える仕事は終わってしまったから 明日からは気を抜いても大丈夫だよ」  
腕を回しながら阿久根が答える。  
「夏休みじゃさすがに投書も来ないでしょうし…一応ポストみてきますね」  
肩をこねこねさせながら善吉が言う。ちなみにポストは生徒会室の前に1つ設置されている。  
善吉はドアを開けて すぐのポストの鍵を開け、中を確認する。  
「うぉっ…くるときゃ来るんだな…」  
中には可愛らしい封筒に入れられた「生徒会様へ」という投書があった。善吉はそれをつまみあげ、生徒会室に戻る。  
「一枚ありましたよ」  
と言いながら善吉は封筒を開け、中から紙を取り出す。  
「どれどれ…  ん、これはシンクロ部からの投書だね」  
阿久根は近づいてそれをつまみ上げると広げ、読み上げる。  
「生徒会のみなさんにお願いがあります 今度私達 女子シンクロ部は発表の場があるのですが、どうしても全員のスピードがいまいち足りません  
 そこで、競泳部の喜界島さんに速度上昇の指導をしていただきたいのですが よろしいですか?1週間ほどお願いをしたいです」  
机に突っ伏していた喜界島が反応する。  
「…あれ?珍しく個人への要求なんだね 私としては構わないけど…生徒会の仕事もあるし…どうしたらいい?」  
喜界島はめだかのほうを向いて問いかける。  
 
「ふむ、そうだな。 喜界島会計もここ最近の激務で疲れてはいるが 体自体は動かしてないであろう。アスリートにとってそれは致命的だ   
 ストレス発散もかねていってくるがよい 私が許可する!」  
どやぁっ という効果音とともにめだかが返事する。一通り仕事が終わったことはどうやらめだかにとっても嬉しいようだ。  
「やった!じゃあ、早速明日から行って来るね!」  
そうして満面の笑みでめだかに向けて喜界島が言った。生徒会室に戦いではなく笑みがこぼれ、しみじみと生徒会勢は平和を感じていた。  
ああ、こんな平和が続けばいいのになぁ と全員が思っていたことだろう。生徒会室がなごやかなムードに包まれる。  
その途端だった。  
 
「たのもー!」  
バタン!という音とともに生徒会室のドアが勢い良く開けられた。  
生徒会の面々がドアのほうに向くと、誰もいない…かと思いきや  
「もう少し見下げろ」  
目線を下げると、その先には 風紀委員長 雲仙冥利がいた。  
「ケケッ! 久々に訪ねてみたらなんか全員シケ疲れたツラしてんな!どうせ仕事が多かったんだろ?風紀委員みたいに人員もさけねぇから そんなことになんだよ!」  
手を頭の後ろにやり 目を閉じながら笑う雲仙。  
 
「なんだ、わざわざそれだけを言いに来たのか?雲仙二年生」  
いつのまに出したのやらコーヒーを飲みながらめだかが言う。すると雲仙は片目を開いた  
「違う違う!まぁそう身構えるなって! なんつーか、単刀直入に言うとな?今回はお前らに頼みごとがあってきたんだ。」  
そしてさらにいい笑顔で、かつ悪い笑顔でそう言った。  
「まさにお前らにしか頼めねぇ。いや、お前らだからこそ頼みたいって感じだな」  
(…絶対 ややこしい何かを持ってきた…)  
阿久根 喜界島 善吉が一斉にそう思う。  
「ケケッ!なぁになに、お前らがそんな意気消沈するほどややこしいモンは持ってきてねぇよ そんなたのしそーなモンなら自分で解決すらぁ  
 それとも何かぁ?敵対する風紀委員の頼みだからって生徒会は聞き入れてくれねぇ、って言うんじゃねぇだろうな?」  
挑発するような雲仙のその言葉にいち早くめだかが反応する  
 
「そんな訳がなかろう! たとえ敵であろうとも 我々として実行可能な頼みごとであれば、いやそうでなくとも受け入れるのが 生徒会の私達だ!」  
凛っ!と効果音を出しながら言う。  
「よく聞きもしないでめだかちゃん、また安請け合いを・・・」  
そこでため息をつくのは善吉。大抵いつも、投書などの無茶ブリで最終的に苦しむのは善吉なのだ。  
「まぁそう落ち込むなよ!別に今からお前ら全員死ねとか言う訳じゃねぇんだしよっ!」  
(本当に言いそうだから怖い…) と全員が思うがそこは口に出さない。  
「っとっと、つい話し込んじまったな まぁこのままじゃ埒があかんし   
 待たせすぎてもあれだし早速本題に入るわ。 5487、775859696(ねーちゃん、入ってきてくれ)」  
生徒会全員が凍りついた。雲仙が言い放った、通常であれば意味不明な数字の羅列。急に言い出して雲仙の頭がどうかしたのかと疑う場面だ。  
だが、そういう訳にもいかない。生徒会の面々はこの数字の羅列に聞き覚えがあった。  
そしてドアノブがガチャリ、となって回る。そしてゆっくりとドアを開くと…  
「5448255、785877884」  
独自に開発した数字言語で話し 日本語が一切通じない 雲仙冥加 通称「雲仙姉」 弟と同じ銀髪のゴスロリ女がそこにいた。  
今回鉄球はどうやら抱えていないようだった。  
「嘘だ、絶対ややこしい・・・」  
もともと大分諦め気味であったが、姿が見えた途端に その諦めが一気に加速する善吉。  
「ケケッ!お前ら1回会った事あるし 改めての自己紹介はいらねぇな?見ての通り俺のねーちゃんだ   
 …特別な事が無い限りいつもは家の中で引き篭もってるんだが… 872474 7454?(普通に説明していいか?)」  
雲仙が姉にボソっと尋ねる。  
「45」  
姉はハッキリと答えるが めだかと雲仙以外に言葉は通じない  
ちなみに今のは意味合い的には「いいぞ」だ  
「バカでも分かると思うが ねーちゃん、聞いての通り日本語通じねェだろ? 俺とかはもともと不便じゃね?と思ってんたが  
 最近そろそろ本人もやっとこの状態を不便に思ってきたらしくてな…」  
生徒会メンバーに嫌な汗が浮かぶ。この状況で、この説明で次に出てくるであろう言葉を予想するのは容易すぎたからだ  
全員の姿勢が一気に変わる。めだかは乗り出し、善吉はジョウロを持ち上げ、もがなはクラウチング体勢、阿久根は空を見る。  
 
「まぁ詰まるところねーちゃんに日本語教えてやって欲しいって訳だ」  
 
「その通りだな。私に教わらないほうが良い 13組生に私が教えると むしろ変なことになってしまうやも知れん。  
 解析は得意だがどうやら私は説明がヘタクソらしい」  
センスを口元にやりながらめだかが言う  
「だろ?お前もわかってくれるんならそれが手っ取り早い」  
開いていた片目を閉じながら雲仙が言う。どうやらめだかがやる気だったとしても説得する気だったようだ  
「…となると… 俺ですか?」  
阿久根が心配そうな声で雲仙に尋ねる。 まぁめだかが無理でもがなもいない、順当に行けばそうなるのだが…  
「あぁ、心配スンナ。お前でもない」  
その軽い調子の雲仙の言葉を聞いてホッとして大きく息をつく阿久根。そんなホッとした様子を見て、雲仙はいつも通り余計な一言を付け足す。  
「お前はなんか嫌なんだとさ」  
崩れる阿久根。  
 
「あ!私 シンクロ部の下見にいってこなきゃ!」  
いち早く反応したのは喜界島だった。だらけきった体を俊敏に動かし荷物をカバンにまとめて肩にかけると、すぐさま生徒会室を飛び出していった。  
「そういや俺も花の水遣り途中だったなぁ!」  
第2に善吉だった。手に持っていたジョウロを構えると、すぐさま生徒会室を…  
「お前出て行ったら爆破するからな」  
「まずは室内の花からだな!」  
出ることなど出来なかった  
 
その慌しい状況の中で 空を見上げ事を冷静に見ていた阿久根が ハッと思いついたかのようにしゃべりだす。  
「あのー それって… 詰まるところ めだかさんに任せれば良い訳ですよね?向こうの言語も理解しているようですし…   
 めだかさんが本気で教えれば13組生なら1日もかからないでしょう?ていうかあなたが教えれば…」  
案自体は完全に他人任せだったが一番の正論だった。だが雲仙は首を横に振る。  
「そう思っていたんだがな…」  
めだかを一瞬チラ見する雲仙。  
「…どうやらねーちゃんな、プライドの問題で黒神にだけは教わりたくないって言ってるみたいなんだ。同じ理由で俺にも、な」  
それをきき、乗り出していためだかが椅子に戻る。  
その事にに対し、怒り狂い不快になるめだか…とはなるはずがなく、むしろ「うむうむ」と納得している  
 
「み〜ずや〜りた〜のし〜な〜」  
すでに現実逃避を始めている善吉。平和そうに花に水をやっている。が、花に目が向いておらず 植木鉢が水で溢れてしまっている  
「ケケッ!もう既にわかりきっちゃいると思うけどよ 人吉、お前にこの役 頼 ん だ わ 」  
ピタッ っと善吉の動きが止まる。そしてジョウロを床に落とすと、OTZ←こう床に倒れこんだ  
「なんで俺なんですか…!せっかく楽な夏休みだと思ったのに…言語の解析なんて 本当に無茶苦茶じゃないですか…!」  
そう言った善吉の肩にポン、と手を置く雲仙。  
「まぁそう言うなって。ほら、女の子に頼られたんだからもっと嬉しそうにしろよ」  
床を殴りつける善吉。だが割といたくてすぐやめた。  
「それにお前、アレだ。あんまり拒否反応見せると 言葉わかんなくてもねーちゃんが傷ついちまうぞ ああ見えて割と繊細なんだから」  
「…ん、まぁそれもそうですね」  
雲仙の忠告を素直に聞いて立ち上がり 膝のゴミをぱっぱと払う善吉。女の子を傷つける事は信条として嫌なのだろう。  
「…それにさ、実はオマエはねーちゃんの指名なんだよ」  
と、ニヒヒヒと笑いながら小さな声で善吉につぶやく雲仙。ちょっと善吉もテンション上がってる。  
そのあと間をおいて ふー、と一息ついて頭をぐしゃぐしゃとかき回すと、観念したように雲仙に向けて声をあげた  
「…わかりました  できるかわかんないですけど…  雲仙先輩のお姉さんの為、そして生徒会の名にかけて、お姉さんに日本語を教えてみせます!!」  
 
 
 
「ん、じゃあ夏休みの間中 ねえちゃん頼むな」  
 
「・・・・・・・・・は?」  
笑顔だった善吉の顔が一挙に硬直する  
「いやー 助かった助かった 実は夏休みの間 風紀委員は強化合宿やら人員確保やらで忙しいんだよ  去年は俺、副委員長だからなんとかなったんだが、  
 今年からは委員長だし流石にねぇちゃんの面倒まで見きれる気がしねぇと思ってたんだ ほら、どうせ日本語教えるんなら1日中つきっきりのほうが効率良いし  
 これから日本語覚えるまでつきっきりになるんだから ついでだ!ついで」  
弾幕のように話し出す雲仙。  
「え、ちょ、雲仙せんぱ」  
「ああああ、金の事なら心配すんな お前んちにねえちゃんの服とかは送っといたし、 ついでにそん中に夏休み中の食費もろもろも入れといたぞ  
 かなり多めに入れてあるから残りはお前の小遣いにでもしろよ …んじゃ俺は忙しいしもう行くわ!またな!」  
さらに善吉のしゃべる暇もなくしゃべり通し、しゃべり終わると 火薬を上手く使い綺麗に逃げていく雲仙。  
「じゃあなー!ケケケ」  
「……」  
開いた口が塞がらずパクパクしている善吉。  
「…」  
冥加は少し驚いた表情をしたあと、状況を理解したのかジト目で冥利の去った方を見た。どうやら冥加にとっても不測の事態だったようで、  
生徒会の面々と冥加に微妙な空気が流れる。  
 
「全く…もう少し静かにできないものなのか それに人にモノを頼む際は頭を下げるのが礼儀であるというのに…  
 それにしても雲仙同級生…この世界の中でも随一すばらしき言語である 日本語を話せないのは確かに辛いものがあるであろう  
 よし、決めたぞ善吉よ、私は今回の件に関して全面的に協力するぞ!」  
めだかが椅子に座りながら上機嫌な調子で言う。おそらく敵対する勢力との和解のチャンスと見込んだのだろう。堂々と打算的だ。しかし他人事だ。  
そして阿久根が崩れ落ちた姿勢から復活する。  
「…そ、そうだ、人吉君 どうやらこれから一緒に暮らすことにもなってるみたいだし… それでお互いのことを知らないのも大変だし、  
 とりあえず今日はここで上がって 雲仙さんと おしゃべりでもしてきたらどうだい?意思疎通ができるかどうかは別としてだけど、ね」  
どうやら精神的ダメージにも阿久根は強いようだ。崩れ落ちた割にしっかりとした案を提案する。だが声に覇気がない。  
その発言に対し、ニヤついていためだかが思いのほか食いついた。  
 
「それはよいな! 主な仕事はもう終わったのだ 後処理は私たちがやるから、貴様は雲仙同級生とともに遊んでくるがよい!」  
 
 
「途中からしゃべる暇すら無かった…」  
校舎の横を歩きながら善吉がつぶやいた。結局流れに流れ、遊ぶといっても何をしていいか分からないので、とりあえず散歩をすることにしたのだ  
事情についてはめだかが簡単に数学言語で説明した。そのまま通訳をしてくれれば楽だったが、そうは問屋が卸さない。めだか通訳に冥加が納得しなかったようだ  
という訳でその際に散歩のことが決定し、ただいま善吉の隣には冥加が歩いている。  
「どうすればいいっていうんだ…」  
となりあって二人 平坦な調子で歩き続ける。お互いの中に交流は一切無い。  
遊ぶ、と軽々しくは言ったが 実際のところそれは成立しない。高校生が言う「遊び」とは、結局のところ言葉が通じることが前提とされている。当たり前だが  
「「…」」  
お互いの間に気まずい沈黙が生まれる。 まぁしゃべったとこで通じないから意味はないのだけど。  
そんな状況の中で手も足も出ない善吉はどんどんネガティブへとなっていく。  
(言葉が通じないって初めてのパターンだなぁ…13組生の特性からして向こうからこっちに接しに来るなんてことはないだろうし…)  
これまで 半袖や宗像、江迎と、ややこしくも刺々しいメンツとも関係なく友達になってきた善吉。だが、言葉が一切通じないのは流石に堪えたようだった  
冥加と交流できないと言うことが、善吉の”友達は絶対に作れる”という無意識の自信を一気に打ち壊したのである。  
どうやって日本語を教えようか、教えるしても意味が伝わらなければ意味ないし、誤解が生まれればそれを正すのにとても時間がかかってしまう。  
自分の話す言語と全く共通点のない言語を話す人間に日本語を教えることは 生まれてから一度も誰とも話したことがない人間に言葉を教えるのと同義なのだ  
「ちきしょう…」  
そしてつい声に漏らしてしまっていた。冥加は一瞬素っ気なく善吉のほうを向いたが、すぐに前を向きなおす。  
善吉は相手に不満を漏らしてしまったことに失敗を自覚したが、それを気にすることもできないほど落ち込んでしまっていた。  
ずんと、負の重い空気が流れる。すでに校舎は一周したし、だからといってこの散歩にゴールが見えるわけでもない。  
(歩みよるなんてのがもともと無茶だったのかなぁ… それに、あの雲仙先輩のお姉さんな訳だし…)  
善吉は最初、話を聞いてからでも冥加とも仲良くしようとしていたのだ。  
言語が通じない上に 一度幼馴染を傷つけた冥加とも。だが珍しくネガティブが発動し、いつものように行動的になることができない。  
「…」  
相変わらず冥加はしゃべらない。善吉の横でただ平坦に歩くだけ。その歩き方はまるで善吉が見えていないかのようだ。  
このまま長らく、気まずくやりづらく終わりの無い散歩が続くかと思われた。  
…だが、突然前を向いたまま冥加がポツリ、と何かを呟いた。  
「…78」  
それを聞いた善吉は、意識不明の状態から突然意識を取り戻したかのように冥加のほうに向き直る。だが冥加は善吉に向き直らない。  
そのままの状態でしばらく二人は歩き続けた。相変わらず会話はない。  
「78」  
またつぶやく。善吉は何事か、という顔で冥利を見ている。冥利は相変わらず善吉を見ない。  
またしばらく歩く。その時、不思議と二人の間に気まずさは感じられなかった。というより、気まずさというものを全く持って忘れていたのである。  
「78。」  
また先ほどと同じ事を冥加は口走った。今度は立ち止まり、視線を一転に集中させている。  
必然的に善吉は冥加の視線の先を追う。そこにはある。冥加が再三呟き、自らの言葉で発していたものが…  
「・・・木・・・?」  
それは何の変哲もないただの木であった。冥加どころか普通の人間すら見向きもしないようなただの普通の木。  
普通に見れば意味不明なこの行動。だが、たった一つのこの行動が、この木が、全てを大きく揺り動かしたのであった。  
「78」  
冥加がさらにもう一度言う。善吉に確認させるかのように。今度は善吉の目を見て。  
「・・・78?」  
木を指差しながら善吉が尋ねる。冥加は善吉の指の先を見て、確認するともう一度善吉のほうを見る。  
すると、その無表情な顔のままで一度小さく頷いた。  
その後、また冥加は1人で歩き出した。善吉はそれに続く。  
 
「456」  
また冥加が視点を集中させてつぶやく。今度は立ち止まらない。  
「456…?」  
冥加の目線の先にあったものは今度は自転車。1機しかないが、形から察するにおそらく自転車部の誰かが置いていったものだろう。  
1度言うと冥加は止まらずに視点を移す。歩きながら視点の先を模倣しているようだ。  
(これは…もしかして…)  
 
善吉は思考を巡らす。  
13組生とは基本、孤立した存在である。それは、異常すぎたゆえ迫害されたり、自ら他人を拒み受け入れなかったりするからである。  
それゆえ誰にも理解されず、また誰にも理解されようとせず 自分のみで作り上げていくのが13組の13組たるものなのである。  
例外も存在するが、それは宗像のような体質ゆえ人間を避けるほかならないか、異常者同士で理解しあう名瀬と古賀のような場合のみである。  
が、例外のさらに例外な行動をしているのが冥加だった。  
 
「5671」  
「5671…」(今度はゴミ箱・・・)  
冥加は自分で作り上げた言語の単語を呟き、それを善吉が理解できるようにわかりやすく視線で示している。  
わかりづらくやりにくい。  
 
「6482」  
「…6482」(椅子か?今度は)  
つまりこれは「私にそちらの言語を教えるならまずお前が私を理解しろ」という最強のエゴイスティックなのだ。  
だが、それはそうとしてもこれは13組生にとって絶対にありえない行為。  
たとえ譲歩といえど、他人に理解を求めようとするなど 絶対にありえないのだ。第一にプライドが許さない。  
 
(そうか…)  
善吉はやっとそこで気づく。自分の大きすぎる勘違いに。  
(歩み寄ろうとしてないのは 全くもって俺のほうじゃないか…!)  
最初のほうから勝手に善吉が決め付けていたせいで、なかなか気づくことができなかった。  
冥加もこれをすることにプライドを削っているようで、なかなか善吉のほうを向かない上に 言葉を放つたびにそっけなくなっていく。  
だが、それに反比例するように善吉のモチベーションは大きく向上していく。今までのネガティブ分がまるでバネだったかのような跳ね上がりだ。  
 
 
「6678」  
「6678!」  
「…? 2284」  
「2284!」  
善吉のテンションの上がりように冥加も違和感を感じたようだが、善吉のブルーオーラが完全に消えうせたおかげか 声に感情が戻っていく。  
「2238」  
「2238!」  
「574」  
「574!」  
二人の会話(?)のペースも大きく跳ね上がる。ぐいぐい来る善吉に、対する冥加は棘棘しいオーラがなくなっていた。  
自分の求めていることが達成されていっているのが少しうれしいのだろう。善吉もそのことに内心喜んだ。すべてはプラスの方向に進んでいた。が…  
「あれ人吉だよな…?ナニいってんのアイツ…?」  
「何言ってんだオマエ、人吉が変な女つれて変な事してんのって」  
「普通だな」  
「普通だよな」  
善吉の行為は奇行として学園中に広まっていっているようだった。  
 
「2…」  
「2…? 状況と発音的に『ふぅ…』か」  
そのまま善吉は冥加の言語と繋がるために校内を何週もしたが、流石にネタが切れてしまったので生徒会室に戻ってきた。  
冥加は部屋の前で1度立ち止まると ほんの少しドアを見上げた。そしてノックを2回する。  
「44114」  
ガチャ、と扉を開ける。  
(今のは感じ的に『入るぞ』か)  
そう思考しながら善吉が生徒会室に入ると…  
「「…」」  
誰もいなかった。見回してみても 私物ひとつ見つからない。阿久根とめだかと喜界島は素で帰ってしまっていたようだった。  
それもそのはず、もう午後7時30分である。  
 
「…5478」  
生徒会室に背を向けて冥加は歩き出す。別に堪えてはいないようだった。  
(今度は『帰るか』みたいな意味だな)  
善吉も一言一句逃さない。  
 
 
「善吉くん おっかえりー」  
その後本当にめだかにメールしてみると「もう帰ってよいぞ」とのことだったので 二人で善吉の家に帰ることになった。  
その帰り道の道中、善吉は引き続き数学言語を聞き漏らさず聞いていた。  
が、それに夢中になりすぎていた。そのせいで、今夜から冥加がウチに泊まることを忘れていて、冥加がいるにもかかわらずいつも通り家のドアを空けてしまったのである。  
たった今そんな大ピンチである。瞳はおかえりを言った後 善吉の横にいる冥加をじっと見た。  
(…なんていわれるんだろう…!)  
善吉は若干どころかだいぶ不安だった。自分の家に女の子を上がらせるのはめだか以外では初めてで、  
しかも泊めると言った時に母親がどういった反応をするか予想がつかなかったからだ。  
善吉がどう言おうか悩んでいると、不意に瞳が微笑み、腰に手を当てて元気よく話し出した  
「そーんな心配そうな顔しないで!荷物に雲仙君(?)からの手紙は付いてたし、めだかちゃんが電話してくれたらから 事情はちゃんと知ってるよ」  
それを聞くや否や 善吉の肩の力が急速に抜けていく。  
 
「45566」  
「その娘が冥加ちゃんね よろしく! …て話が通じないんだったわね」  
さらに瞳は冥加を不思議がるどころか 普通の友達が来たかのように接した。やはり元異常病院勤務である。  
「部屋には空きがあるし、それなりに綺麗にはしてあるから自由に使ってね。ってわからないのよね」  
と、瞳は再び頭の中だけで解決すると、 身振り手振りで冥加にその旨を伝えた。  
冥加はぴょこぴょこ跳ねる瞳をしばらく見つめていた。  
 
「778」  
冥加は頷きながら瞳に答える。どうやら「わかった」のサインのようだ。  
「やっぱ13組生だけあって理解は早いわね この様子ならお母さんも安心できるわ」  
そういって一息つく瞳。善吉はそれを見てさらに深く安心した。  
「何を言われるか心配だったけど…めだかちゃんナイスプレーだな」  
口笛を鳴らし感心する。その様子はちょっとウザイ。  
「別に言われてなくても受け入れたわよ。善吉君の友達に悪い子はいないもの」  
そう瞳は片目を閉じながら言う。善吉はその母の何気なく暖かい言葉に感動した。涙が出そうだったので下唇を噛んだ。  
矢先のことだった。  
「…ん? …お母さん、その、今もたれかけてる大きなカバンは何?」  
冥加の荷物とは明らかに別の、茶色くゴロゴロ式のカバンが玄関にあった。そして善吉はそれに見覚えがある。  
「ああこれ? 善吉くんみたことあるでしょ?これは…」  
瞳が指差し説明を始める。善吉にまた嫌な汗が浮かぶ。 またまた次に出る言葉を予想するのは たやすかったからだ。  
 
 
「旅行用のカバンよ」  
 
瞳の顔が一気に笑顔になる。  
「いやね、お父さんったらこれから一ヶ月間 ハワイに海外出張に行くっていうのよ いつも忙しくてただでさえ一緒にいる時間が短いのに   
 1ヶ月も離れるなんて酷じゃない?でね、お父さんにそういったら『じゃあお前もついてこい』なんて言うのよ!こりゃ行くしかないと思って  
 でもそれはそれで 善吉くんが寂しがるかなーと思って考えてたんだけど、冥加ちゃんが来てくれたからそれに関しては心配しなくていいかなーと思って  
 それでもう思いきって今日からお父さんとハワイでアバンチュールしてきまーす!」  
と瞳はデジャブを感じるラッシュで話すと、ゴロゴロ式のカバンを上手く使って家から嬉しそうに出て行った。  
「いってきまーーーーす!!」  
ゴロゴロゴロゴロゴロ…  
「・・・、なにこれ?仕組まれてたの・・・?」  
善吉はため息すらつかない。呆れて&これから先が見えなくて ただひたすら呆然とするしかなかった。  
 
「55535…874」  
そして言葉も満足に通じない冥加と 突然二人っきりの生活が始まってしまった。  
 
 
「…じゃあ、とりあえずご飯でも食べましょうか」  
しばらく呆然としたあと、諦めがついたのか とりあえず善吉は 晩飯にありつくことにした。冥加をつれて玄関からリビングに入る。  
幸い 今日の晩飯だけは用意されていたようで、自分の分と冥加の分、両方が机にセットされていた。  
 
「8847 445」  
突然発せられる「文」にはまだ反応できない善吉。今のも冥加が何を言ったかわからないが、雰囲気的にとりあえず食べよう的な意味であろう。そう察する。  
二人とも向かい合わせに机に座る。  
「それじゃ…手を合わせて」  
善吉は言葉が通じないながらもジェスチャーでいただきますを促す。どうやらしたことがないようで、どこかその様子はぎこちない。  
ぎこちないながらも冥加が手を合わせたところで、善吉は目を閉じる。  
「「いただきます(25886)」」  
そうして1度食べ物に感謝すると、すぐに箸を持ち上げおかずのとんかつを口にほおりこむ善吉。冥加は料理の食べ方に四苦八苦しているが、一旦気にしないことにした。  
しばらくごはんと サラダととんかつを善吉はほうばる。しばらくして、善吉はご飯の横に置いてあった「人吉善吉様へ」の封筒に気がついた。  
「ん…?なんだろ、雲仙先輩からの手紙かな?」  
おそらく瞳が冥加の荷物を受け取ったときについていたのだろう。机に置いとくなんて自分の母ながらできてる。未開封なところもなかなか人間ができてる。そう思った。  
そしてとりあえずはそういったことを置いておいて、善吉は封筒を開封し中にある手紙をつまみあげ読み上げてみた。  
割と長い文で書き綴ってあったので善吉は流し読みをした。大体の内容はは「ねえちゃんは普通の生活にすら慣れてねぇからお前はねぇちゃんにしたがって色々とサポートしろ」  
ということが偉く丁寧に書かれているということだろう。あとは送られてきた荷物の中身のリストが添えつけられていた。  
「マジで生活する気まんまんの荷物だな… まぁいいや とりあえず今は 飯を食おう」  
と、とりあえず手紙を置いて箸を持ち、ごはんを口の中へ運ぶ。善吉はそうしているうちになんだか視線を感じる。その視線の方向を察知し、前を見上げると冥加がこちらを見ていた。  
「…?」  
善吉は謎を感じたが、よく見ると冥加は箸でぎこちなくとんかつを持ち上げている。おそらく箸を使ったことがないのだろう。  
 
「5568」  
と、言うと冥加は口のなかへとんかつをほおりこむ。それを見て、善吉は冥加の意図を察する。  
「食事中も休むなって訳か」  
つい善吉は笑ってしまった。  
 
「「ごちそうさまでした(22876)」」  
数学言語のやりとりもあり、多少は時間もかかったが二人は飯を食い終わることができた。  
冥加は割と満足げだった。普通においしかったのだろう。それを見て善吉も少し満足感を得る。  
フー、と二人は一休みする。そしてしばらくすると突然冥加は立ち上がり、一旦伸びをする。そしてその後、善吉に向けて手をクイクイ とする  
 
「77286」  
「来いって訳か…」  
と、冥加はそのまま廊下へ向かって歩き出す。そのまま善吉は冥加の後をついていく  
どこへいくのか、と善吉が思っていると、冥加は廊下の真ん中で止まる。そして廊下を見渡し、善吉のほうを見る。  
 
「6698774」  
善吉は何を言っているのか全くわからなかったが、見渡す動作と今の状況から 大体の答えは出すことができる。  
「あぁ、そういえばまだ家の中の案内はしてませんでしたね」  
大体冥加も伝わったことがわかったようで、いつもと変わらないがなんとなく満足そうな顔をする。そしていつのまにか意思疎通率がどんどん上昇していく。  
善吉は冥加に向けて手をクイクイ、として冥加を呼び、自らが前を歩き先導する。そして説明のため手始めにリビングの対面にある部屋を開ける。  
あけたその部屋に目立つものは 枕が二つある布団。冥加もその雰囲気からどういった部屋か察したようだった。  
「えーと…とりあえず お父さんとお母さんの部屋なんですけど…」  
父母の部屋である、と伝えようと思った善吉だが、なにぶん伝え方がわからない。よく考えれば自分から何かを伝えることなどできないのだ。部屋を見渡す善吉。  
 
「01」  
と、そこで冥加が善吉に声をかける。善吉がそちらに向くと、冥加が善吉の両親のツーショットの写真を持っていた。写真立てに入っている写真のようだ。  
 
「55668、22436」  
それで父、母の順で指を動かしながら数学言語を言う。 どうやらそれはそのままその単語が繋がっているらしい。  
「55668、22436…」  
と善吉も自分に言い聞かせるかのように復唱する。まぁこうしているからには冥加はここが誰の部屋かぐらいは分かるようだ  
と、数秒そうしたあと、善吉は思い出したかのようにまた動き出す。  
「と、まぁ早く回って済ませたほうがいいですよね。じゃ、次は…」  
そうして父母の部屋のときのように 善吉は新しい数学言語を得ながら部屋を紹介していく。  
そうして一通り部屋の説明が終わったあと、残す部屋は2階の善吉の部屋とその横の部屋のみになった。  
 
「んー…まぁこの部屋だろうとは思ったけど」  
 
「224」  
「ん、それもそうですね」  
おそらく今のは「はやくしろ」、である。善吉は冥加に促されるがまま、まずは善吉の部屋を開ける。  
「ここが俺の部屋」  
と、善吉は部屋を空けながら自分の胸近くを親指でトントン、と叩く。  
 
「24」  
冥加もわかったようだ。ちなみに今の数学言語は意味合い的に「次」だ。  
「んでこっちが 冥加さんの部屋」  
善吉はそう言いながら扉を開ける。すると中にはほとんど何も無く、真ん中にポツン、と冥加の荷物らしきものが置かれていた。  
 
「…125884?」  
「664」  
善吉と冥加は言葉を交わす。何気に会話が成立したのは初めてだ。  
 
「778」  
「ん、じゃあ下にいますね」  
わかった、と頷いた冥加に善吉は指で下を指し1階に戻ることを示した。冥加はまたさらに頷く。  
「部屋の片づけが終わったら また降りて来てくださいね」  
善吉はジェスチャー気味で冥加に伝える。そして上手く伝わったようで、冥加はまた少し頷くと部屋の中に入っていった。  
 
「ふぅ…」  
善吉は1階でアイスコーヒーを飲みながら一息ついていた。  
「やっぱ疲れるな、これって…」  
割とうまくいっているように見えたが、新たに言語を覚えようとすることは善吉の神経をすり減らしていっていた。善吉はアイスコーヒーを飲み終わるとソファーに倒れこむ。  
「とりあえず、一休み一休み…」  
そういうと善吉のまぶたは少しづつ閉じていった。  
 
その後3時間ほどたつと、善吉はなんとなく眠りから意識を取り戻していた。  
だがなんとなく起きるのが億劫で、「う〜ん」という声を出すだけで目を開けずにいた。  
が、だんだん意識がハッキリしてくると、体の近くに1人の人間の気配を感じた。名瀬仕込みの目隠し戦法の成果が今出たようである。  
起きたてということもあって、正常な判断ができない善吉は、一応敵襲を考え、とりあえず目を開けてすばやく上体を起こそうとした  
・・・ができなかった。  
 
「…4652」  
冥加が上から覗き込んでいたからである。ちなみに今のは「おきたか」みたいな意味である  
善吉は体の力がまた抜ける。起こそうとした体もまたソファーに戻す。  
「ん…ふわぁ〜… ああ、部屋の片付け終わったんですか…?」  
とアクビをしながら善吉は問いかける。もちろんそんな言葉など冥加には通じていない。  
 
「55670」  
冥加はそういうと善吉の体を引っ張り上半身を起こした。さすが鉄球を持ち上げるだけあって、善吉の体などひょい、と起き上がらせることができるようだ。  
そうすると冥加は善吉をまた引っ張り、今度は立たせる。眠たさMAXだった善吉も善吉も何事か、と目を完全に見開ける。  
すると冥加は引っ張り起こした時の手のつなぎ方のまま、歩き始めた。当たり前だが善吉もそれについていく。  
そのまま善吉はなされるがまま歩いていく。疑問を感じながらもついて行くと、あるドアの前で冥加の動きが止まる。  
「・・・風呂場?」  
 
善吉は起きたてということもあって連れてこられた意味が一切不明だった。何だ、ゴキブリでも出たから退治して欲しいのか、と13組生にはなさそうなアホな考えも思いつく。  
だが冥加がつれて来た理由は単純明快だった。  
 
「44114」  
冥加は着替え場に入り言う。急に善吉はそれを言われても理解できなかった。  
が、善吉はその言葉に覚えがあった。  
「ん?えーとたしかあれは…」  
善吉は前にこの単語を受けているのである。帰る前に立ち寄った生徒会室のドアの目前だ。  
それで冥加は生徒会室のドアを2回ノックし、この言葉を言い放ったのだ  
 
 
「…は?」  
善吉は一瞬頭が完全に停止した。そしてただの聞き間違いの可能性も否めないので、指を一本たて「もう一度」と促す。  
それを見た冥加が、伝わってないことを察したのかもう一度いう  
 
「44114」  
善吉は、冥加が聞き間違いでもなんでもなくこの言葉を発していることを理解した。  
「え…!ちょ、え、ちょっと…!」  
善吉は慌てだす。冥加は一切動じていないのに対し善吉の顔は真っ赤である。  
それもそのはず、あの時 冥加が言った「44114」とは「入るぞ」の意味で  
この状況においてそれが使われたと言う事は つまり女の子に「一緒にお風呂はいろ」と言われたということである。  
小6までめだかと一緒にお風呂に入っていた善吉だが、流石に思春期を越えてからのそれは危ない。  
だがそんなのおかまいなし、とばかりに冥加はおもむろに服を脱ぎ始める。  
「…!!」  
すごく慌てふためく善吉とは裏腹に超冷静な冥加。  
 
「…? 44、2263889?」  
しばらくぬぎぬぎしていた冥加は、自分が脱いでいるのに対し善吉が脱いでいないことに おかしさを感じたようで善吉に問い詰める。  
「いやっ… あの、その…」  
言葉を濁す善吉。  
そしてそんなハッキリとしないうえによくわからない善吉を 冥加はじれったく感じたのか、下着姿のまま善吉に近づく。  
そして慌てる善吉関係なしとばかりに 上の服のボタンを外していく。  
(何!?何なのこの状況!?)  
母親以外で服を脱がされるのは初めてで かつ脱がされるのは10年ぶりだ。  
そしてしかも、一人っ子なだけあって可愛がられていたため、服の脱がされ方などは無意識にかなりいい感じにマスターしていたために冥加にスルスル脱がされてしまう。  
「ちょ、ちょっと待ってください!」  
そのままの勢いでズボンも脱がされてしまいそうだったので 善吉は慌てて冥加の肩を掴んで止める。  
 
「22?」  
疑問符を浮かべる冥加。何故止められたのかわからない、と言った顔だ  
冗談じゃねえぞ、と善吉は内心思いつつも ココまで来ては逃げられないし止められない、と腹をくくることにした。  
「自分で脱ぎますから、お、お先にお入りください!」  
と伝わらないのに何故か丁寧口調でジェスチャーしながら話す善吉。冥加は続けて疑問符を浮かべながらも、なんとか意図がわかったのか善吉から離れた。  
と、瞬間に冥加が下着を外そうとしたので 善吉は反射的に後ろを向く。向き終わると同時に床に 下着が落ちる音が二つ鳴る。  
 
「1335」  
冥加の声がしたあと、風呂のドアを開ける音がして シャワー音が鳴り始める。  
そこで一旦善吉は安堵する。だが、束の間すぎる安堵だった。善吉はまた思考をめぐらす。  
「…このまま逃げるって選択肢は…やっぱなしっぽいよな」  
善吉は頭の中で激しく葛藤していた。 別にやましいことをする訳ではない(と思う)のだが、どうも自分に風呂を求める意図が分からない。  
だからと言って入らなければ おそらく自分との風呂を望んでいた冥加は不機嫌になるだろう。  
「何がどうなってやがんだ…」  
過去にないくらいの思考を張り巡らす善吉だが…  
「ええいままよ!」  
男とは勢いで生きる生き物である。  
 
風呂の戸がバタン、と開けられる。ちなみに戸を思いっきりあけても、シャワーの人には戸が当たらないくらいに風呂は広い。  
善吉は中に入りドアを閉める。 ちなみに腰にはタオルを巻き 目も閉じている。これが善吉の最大の譲歩だった。  
 
「554。 44578」  
すると冥加の声が聞こえる。見えはしないがおそらくこちらに来い、という意味であろう。  
善吉は 目を閉じているにしてはガッチリした足つきで冥加に近づく。  
 
(…ここから、どうするんだろうか…)  
近づいたは良いが 冥加の意図がわからないのでどうしていいか 分からない善吉。すると、タイミングよく冥加から声がかけられる。  
 
「11258? 88、8963634」  
最初の疑問系の部分は「なんで目を閉じてるんだ?」であろうと経験から善吉は察した。後半の文が全然よくわからない。  
このままではいけない、と踏んだ善吉は プライドが邪魔をするながらも 少しだけ半目で目を開けてちょっと見た。  
「…あぁ、なーんだ…」  
そのちょっと見ただけでで善吉は冥加の意図をやっと理解することができた。  
「わかりました。じゃあ洗いますね」  
と、言いながら善吉は シャンプーを手に取り冥加の頭を洗い出す。 そんな冥加の頭にはシャンプーハットがついていた。  
善吉がこの状況でつけた結論はこうだ。  
おそらく、言語すらも自分で作ったきた冥加だが、逆にそれ以外のすべての行動に疎く、自分で頭を上手に洗うことすらできないのだろう。  
だから、いつもは弟とともに風呂に入り 頭を洗ってもらっていたのだ。おそらく。  
つまり、善吉を風呂に誘ったのは 誘惑やそういった類のものではなく、単にいつも弟にしていることと同じ事を善吉にしているだけなのだった。  
それを察した善吉は いままで自分が考えていたやましい思考などは全て捨て、純粋な気持ちで冥加の頭を洗っていた。  
(…雲仙先輩も冥加さんも意外に可愛らしいところあるなぁ)  
善吉はつい頬を釣り上げてしまった。  
 
そうしているうちに頭を洗い終わり、シャワーで頭を流す。  
わっしわっしと髪の毛をかき混ぜ気味で泡を落とすと、終了したことがわかったのか冥加もシャンプーハットを外す。  
そして少し頭を振ってから冥加は善吉のほうに振り返ると、少し口角を上げて善吉につぶやいた。  
 
「77695」  
ありがとう、の意だろう。  
不意にも善吉はドキっとした。冥加は真っ直ぐ善吉を見つめている。善吉はそれに照れて顔から目を下に逸らす。こういうツンデレは素直な感謝には弱いのだ。  
 
しかし、下に向けた目線の先では冥加の二つの膨らみがこんにちはをしてしまっていた。  
 
というかいつの間にか目を開けていたようである。  
「〜〜〜〜っ!!!」  
善吉は大慌てで顔を逸らすが、さらに目が泳ぐ。冥加も突然の善吉の発狂に少し驚く。そして善吉は数歩下がると、頭がドアにぶつかった。  
 
「? 2242…」  
「お、俺はまた後で入りなおします!!」  
そういうと善吉は 冥加の疑問の言葉も少し無視気味で勢いよく風呂を出て行った。  
 
その後善吉はもう一度服を着てリビングに佇んでいた。それから2時間ほどたって、冥加が風呂を出ていることを確認した善吉は1人でもう一度風呂に入り、自らの火照りを収めた。  
いや性的な意味でなくて  
(ちょっとやっちまったかなぁ…怒ってるだろうな…)  
そして風呂から上がった善吉は1人歯を磨きながら後悔する。  
磨き終わった善吉は落ち込み気味で 自分の部屋のある2階へと向かう。  
その途中、仕方ないとはいえ、風呂の誘いを途中で放棄し逃げ出してきたことに、冥加が怒っていないわけがないと善吉は考えていた。  
(謝り方、わかんねぇなぁ…)  
そうして眠りに突くために自分の部屋の前につき、さきほどのことをさらに後悔しながらドアノブを横に回す。すると、開けてもないのにドアの開く音がした。  
不思議に思って ドアを見るが自分は開けてない。一応周りを見渡してみると、冥加の部屋(仮)が開いていた。もちろんそのドアから冥加も顔を覗かせていた。  
 
「「…」」  
そうして5秒ほどお互い妙な沈黙につつまれる。そんな中、冥加がまた少し口角を上げる。  
 
「7782」  
そして言い終わるとバタン、とドアを閉めた。その後 冥加の部屋から見えていた明かりがパチッと消えた。  
善吉はポカーンとしていたが、 電気が消えてから10秒ほどで冥加が言わんとしていたことを理解した。  
「いまのは『おやすみ』…か?」  
その13組の素直な行動に、驚きつつも嬉しさを感じる善吉であった。それと、怒っていないということにも。  
そして部屋に入った善吉は一度今日のことをすべて一度思い出し、 さきほどのことをまた思い出して嬉しさの余韻を感じつつも眠りにつくのだった…  
 
 
次の日の朝、善吉は視線を感じて起きる。  
眩しいながらも 少し目を開けて見てみると、そこにはパジャマ姿の冥加がいた。昨日と同じように、善吉の顔を覗き込むようにして。  
 
「5840」  
朝一発目の言葉だからおそらく「おはよう」であろう。  
おはようからおやすみまで手広くカバーされた善吉は、この状況が「冥加が起こしに着てくれた」ものだと理解する。  
「5840。なんで起こしに… そうか、ご飯か」  
善吉は冥加の左手にある茶碗を見て 冥加の用件をおおかた察する。  
「そうか、昨日からお母さんもいないんだったな んでまぁ冥加さんが作れたら…こうして来ないわな…」  
そういいながら善吉は頭をぐしゃぐしゃーっ と掻き、膝に手を置く。冥加は目をゴシゴシしながら善吉を見ている。垂れているナイトキャップが割とかわいい。  
そして善吉は意を決したように一気に立ち上がる。  
「よっし!じゃあとりあえず朝飯食って元気出すか!!」  
 
 
 
「979っ…」  
「さ、流石に作りすぎましたか…」  
現在登校中。すこし吐き気を催した冥加。実は朝から善吉がハッスルしすぎて朝飯とは思えない量の料理を出したのである。  
善吉もかなり腹がいっぱいになった。それを、そのレベルのものを 一応女の子である冥加はきちんと食べきったのだからこれは褒められてしかるべきである。  
冥加の背中をさすりながら歩く善吉。マシになったのか冥加はだんだん直立姿勢になっていった。  
 
その後何度かそのくだりはあったが、なんとか生徒会室にたどりつく。部屋に入ると、阿久根とめだかが定位置についていた。  
「おはようございます」  
「おはよう人吉君 …うえっ、本当に一緒に住んでるみたいだね」  
と、阿久根が心底不思議そうに覗き込む。それもそうだろう、敵対組織のボスの姉と同棲するなど、善吉ですら未だに信じ切れていない。  
 
「979っ…」  
再び冥加が吐き気を催す。善吉はそれを後ろからさすってなだめる。  
「ん?どうしたんd… はっ! 人吉君 もしかして…」  
その様子に阿久根が反応する。顎に手をあててしばらく思考すると、ボソッと呟いた。  
「つわり…」  
「本当にぶっ殺しますよマジで」  
 
 
「ふむ。どうやら1日で大きく距離も縮んだようだな。昨日遊びに向かわせて正解だったか」  
とめだかが自分の手柄のようにドヤ顔をする。いつのまに登場していたかは知らないが、  
会長の椅子に座っていた。どうやら敵方と仲良く慣れるチャンスが到来したため相当うれしいようだ。  
(あの質問は…今なら超許容的だから許してはもらえるだろう 聞いてみるか)  
タイミングを見計らう善吉。上機嫌なめだかを見て、今なら大丈夫と踏んだのか、さっきちょこっと気になった質問をめだかに投げかけてみる。   
「あのさー、めだかちゃん。 やっぱ冥加さんを生徒会室とかに連れて回るのって 駄目だったりするのかな…?」  
その言葉を聞いてめだかは一瞬思考をする。その後パチン!とセンスを閉じる。  
「そうだな…本来なら個人情報も管理しておる生徒会室に 他生徒を入り浸らせるのは言語道断なのだが… 雲仙同級生は字も読めんし、  
 何より善吉と雲仙同級生の個人間の親密度を上昇させることを優先したほうがよい!私が許可する!」  
まだ上機嫌を保ったまま センスを冥加のほうに向けるめだか。当の冥加は まだ吐き気に襲われている。  
「四六時中ともにいるがよい!」  
 
 
 
それから3週間、2人は本当に片時も離れなかった。善吉の横に冥加がいないのはトイレのときのみ。しかも横にいないだけだ。  
家は一緒で風呂まで一緒、登下校はもちろん学校内でも冥加がずっと付いて回る。  
学園内で「人吉が変な女と四六時中変な話をしてる」という話を、知らないものはいないレベルにまで善吉with 冥加論は上り詰めた。  
その3週間の甲斐あってか、なんと善吉は・・・  
「25458411?(そこの資料 とってくれません?)」  
 
「665? 41(これか? そら)」  
発音におぼつかない部分はあるものの、完全に冥加の数学言語をマスターしてしまっていた。  
「465321(ありがとうございます)」  
「4135510(まぁ、少しは私を頼ることを許してやってもいいぞ)」  
そしてどうやら冥加ともかなり仲良くなったようだ。善吉はハハハと笑う。  
これに関しては、特別であり 善吉よりも明らかに学習能力は上であるはずの阿久根も驚かざるを得なかった。  
「うおお…すごいですね、人吉君…0から会話だけで言語を習得するなんて…   
 俺の隣のクラスにいる言語解析者志望の人でも0からコミュニケーションまでは1ヶ月はかかるって言ってたのに」  
善吉に素直に感心し その感想を球磨川に漏らす。ちなみに夏バテ球磨川は4日前に退院していた。  
しかし、驚く阿久根に反し 球磨川は なんだそんなことか、と言わんばかりの表情だった  
 
『やっぱ高貴ちゃんは高貴ちゃんだね。 あまりにも善吉ちゃんをわかっちゃいないね…善吉ちゃんは多分、あの数学言語じゃなきゃあんなことできないと思うよ』  
その球磨川の発言に は?と阿久根が首をかしげる。またもやそれに反しめだかが頷く。だが何やら1週間前のような軽快さがない。  
「あれは善吉の才能だよ。アヤツは相手を理解するということにかけては 私でも真似ができないほど飛びぬけて長けておる  
 江迎1年生しかり、宗像3年生しかり、だ。相手の中身や性格、苦しみや悲しみといったものまで 無意識に短時間で理解しおる」  
そうしてめだかはため息をつき目を閉じる。それにさらに球磨川が付け加える。  
 
『しかも普段使わない頭を こういったときの相手の最善の理解のためにすべて使い切る。多分雲仙ちゃんの数学言語を 善吉ちゃんは  
 雲仙ちゃんの一部と認識したんだね。だからあんなにもすごいスピードで数学言語をモノにすることができたんだ』  
それを言い終わったあとに球磨川はため息をつく。  
『ほんとに…勝つ奴はいつまでも勝ち続けるんだ』  
そして小さな声で ポツリと呟いた。  
 
「65468… 8978664(うーん…もうそろそろですかね)」  
その脇で、資料の整理中に善吉が冥加に話しかける。  
「6894?(何がだ?)」  
冥加も普通に返事する。声のトーンが少し高い。そしてこれは実は冥加が冥利に話しかけるときと同じトーンなのだ。  
「89756234678996544523(いや、そろそろ本筋の日本語を学ぶ頃なんじゃないかなーって…)」  
善吉が控えめ気味にそういうと、冥加は目を開いた。どうやら本人もすっかり忘れていたらしい。  
 
「6654327…9543432742761(そういえばそうだったな… しかし、急に言葉を学べといわれて、具体的には何をすればいいか全く分からん)」  
冥加はさっぱりといった表情で善吉を見つめる。  
(よく言ったな…)  
善吉は一瞬あきれるも、体勢を立て直し10秒ほど考える。  
生徒会室に沈黙が走る。ただ単に阿久根と球磨川とめだかがしゃべらないからなのだが  
「42542!46686431024054!(あ、そうだ!俺と同じことすればいいんですよ)」  
すると突然頭の上に電球でも浮かびそうなぐらい 思いついた!顔で善吉は言った。  
「465321?65464687868(同じこと? あぁ、オマエが私の言葉を反復したように 私がお前の言う日本語を繰り返せばいいということだな)」  
冥加も腕を組みながら善吉の言葉の意味を確認する  
「466874637468…565455(そうですそうです  ということで今すぐ日本語を…と思いましたが資料整理とかいろいろあって今はムリですね  
 業務終了後にまた校舎を――)」  
善吉がそう言いかけると、  
「5353。4563513(ならん。すぐにいってこい)」  
めだかが会話に乱入してきた。明らかに不機嫌そうである。  
「546568474543412(前にも言ったが日本語を一切話せないというのは悲劇だ すぐにでもその状態を改善し修繕するべきだ)」  
めだかが1週間前に見せていたような余裕がない。っていうか不機嫌だ。  
 
「654375545654854221369(私はいま善吉と話しているんだ。それにお前に言われるまでもない。 善吉が忙しいのなら私は1人で学びに行く。)」  
それに対する冥加もなかなか不機嫌になる。  
「54654364646(まぁそう邪険にするでない その忙しい善吉に暇を与えてやるというのだ)」  
なかなか険悪なムードの二人。いつもなら不知火以外に見せないその表情をめだかは冥加に見せていた。  
善吉は二人の間であたふたしている。  
 
「4857685(…なんだ? まさか仕事をサボらせるという訳じゃあるまいな)」  
すこし冥加の関心が引かれる。  
「582424668767286(なぁに、簡単なことだ。生徒会長の仕事の1つである「校内の巡回」を今日は善吉に任せてやろうというだけだ)」  
めだかが外を見ながら言う。冥加はすこし黙って聞く  
「852786664564532(普段なら私の義務であるから他人に任せるわけにはいかんのだが…手っ取り早く日本語解読を済ませるためだ ついでに善吉の業務は代わりに私がやっておく)」  
めだかは遠い目をしたまま続ける。冥加はそれを聞いて5秒ほどめだかを見ると、「54(ふん)」と言って扉を開け、生徒会室を出て行った。  
「あ…ちょ、待ってくださいよ!!」  
善吉は扉を見て なぜか日本語で叫んだ後、冥加を追いかけるように生徒会室から出て行った。  
 
「…修羅場、ですか」  
『多分 違うね あとわからないならしゃべらないで』  
数学言語を理解してない二人がつぶやく。だが球磨川は空気の読める子だ  
『(…なーんだ。 めだかちゃんが嫌いになる女の子って 単に本当に善吉ちゃんを持って行きそうな子ってだけじゃないか)』  
言葉は分からなくとも状況をよく理解している球磨川は一人心の中で つぶやいた。  
「…54」  
めだかもつぶやいた。  
 
 
「58752745−!(ちょっと待ってくださいよ!)」  
廊下で善吉が慌てて冥加を追いかける。善吉の声が聞こえるや否や 冥加は振り返り、立ち止まって善吉を待つ。  
 
「198(いくぞ)」  
善吉が追いつくと、冥加はまた前を向いて歩き出す。 善吉も冥加の横に並び歩調を合わせて一緒に歩く。  
善吉は走ってきたため少しだけ息が荒い。ゆっくりとその息を整える。  
「47367687421020(なんかよくわからんことになりましたが… とりあえず、日本語、頑張りましょうか)」  
そう善吉が笑顔で言うと、冥加は一瞬善吉を見る。そして、目が合った途端すぐ顔を前に向ける  
(あれっ…?)  
予想外の冥加の反応に 拍子抜けする善吉。だが別に怒り系のオーラが感じられないので怒っている訳ではなさそうだ  
(最近こういうの多いな)  
この3週間のうち、ここ最近1週間、今と同じようなことが善吉には起こっている。  
善吉が何故だろうと 首をかしげていると冥加が立ち止まった。善吉も同時に立ち止まる。  
すると、冥加は腕を挙げ、廊下の窓から見える 何の変哲もない木を指差した。  
「…?」  
善吉はその意味を考える。2秒ほど考え、ハッと初日のことを思い出す。  
(あの時は冥加さんがこんな感じで俺に「木」を教えてくれた… つまりこれは…)  
善吉は初日と同じ事をしている冥加の意図を理解し、冥加と同じく木を指差す  
「木!」  
日本語で善吉は冥加に向かって言う。善吉がそのまま冥加を見ると、冥加も善吉を見て同じように言う  
「き」  
初めての発音だからか、木だけとはいえすこし舌足らずな感じはあるが、冥加は日本語をしっかりと発音し 言うことができた。  
「37492!!384782740(そうですそんな感じ!!これからも同じように、俺が言う単語、そっくりそのまま発音してください!)」  
そう善吉が言うと冥加は腕を下ろし、頷いた。  
 
「窓!」  
「まど」  
「階段!」  
「かいだん」  
「机、椅子!」  
「つくえいす」  
「箱庭学園風紀委員会第四支部!」  
「はこにわがくえんだいふうき…しぶ」  
「48676(無茶言うな)」  
「58774(すみません)」  
 
そうして2人は校内を、校庭を歩いていく。今度の善吉の噂はどうなるのだろうか  
そして、先ほど声に出した風紀委員第四支部を通ろうとドアの前を歩く。  
すると、支部のドアがギィィィィと開く。少し待って見ると、中からすこし小さめの女の子が出てきた  
 
「ふ〜きふ〜き♪…?あれ、人吉くんじゃないですか」  
「あ お前は…鬼瀬?」  
支部のドアから出てきたのは普通に鬼瀬だった。  
「おにがせ」  
その善吉の言葉に反応し冥加が 鬼瀬の名前を言う。それに気づいた鬼瀬が、善吉に話しかける  
「あれ?誰でしょうかこの人   …はっ!!」  
1人で?マークを浮かべて思考すると、突然思いついたように鬼瀬は口に手を当てる。  
「人吉さん…まさか、黒神さんというものがありながら・・・」  
鬼瀬が一瞬貯める。 善吉は なんだ?と言わんばかりの表情で鬼瀬を見る。  
 
 
「彼女さん…ですか!!?」  
「ぶんどらっふぉっ!!! 彼女ぉ!?」  
それを聞いた善吉が驚き吹き出し、一気に顔が真っ赤になる。鬼瀬は相変わらず口に手を当てている。  
「そ、そんなわけ…」  
手をぶるぶるとふって 否定する善吉。これから否定しようと言葉を考えていると…  
 
「かのじょ」  
グッドタイミングでの冥加のリピートが始まった。  
鬼瀬は「キャーーーーッ」と言わんばかりの表情だ  
「ちょ…っ」  
善吉が慌てていると、冥加は善吉に「発音が違う」といわれていると思ったのか、もう一度リピートする。  
 
「かのじょ」  
善吉はあうあうなっている。その前では鬼瀬がすこし顔を赤くしている  
「やっぱりそうだったんですね!!まったく、生徒会は風紀が乱れまくりですね!?」  
鬼瀬が興奮する。この鬼瀬は風紀委員として怒っているというより、半分くらい善吉のことをからかっている。そのせいか、さらに善吉は慌てる。  
「違うって!?」  
慌てたせいかイントネーションがおかしくなる ち↓が↓う↑って↓ みたいな感じ  
それを聞いた鬼瀬は「えー…ちがうのー…」と素でつぶやきテンションが下がる。「えー」と口をあけて残念そうだ。  
が、それだけでは終わらなかった。それぐらいで終わってくれるわけがなかった。  
 
「ちがう?」  
冥加がまた 善吉の言葉のリピートをする。しかも、善吉のイントネーションを完全にコピーしている。さすが13組と言わんばかりだが…  
変に「う」の部分が上がったせいで 疑問系のようになってしまった。  
もちろん、鬼瀬がその言葉を聞き逃すわけがない  
「ーーーーっ!!! まさか!!人吉くん、認知してないんですね・・・!!?」  
「ちがう?」  
二つのことを一気に言われて処理しきれない善吉。スキあらばと鬼瀬がさらに追加。  
「なんて遊び人!これは風紀委員のみんなに知らせねばなりません!」  
鬼瀬は完全に興奮しきっている。やはり鬼瀬も女の子で、この手の話題には興味津々なのだ  
「ち、ちがっ・・・!」  
 
「ちがう?」  
善吉がしゃべろうにも、冥加は善吉が慌てた表情をしているため発音が間違ってるのかと思い、何度でも同じ事を繰り返す。  
またその顔がさらに不安そうなため、鬼瀬は最高潮にヒートアップ。  
「ちょ、呼子さあああああああああああああん 聞いてくださああああああああい 生徒会がああああああああああああ」  
走ってどこかに行く鬼瀬。善吉も真っ赤になった顔で鬼瀬を追いかけようとするが、冥加が善吉の手をつかんで止める。  
 
「かのじょ ちがう?」  
不安な2語の発音を確認するため。  
 
 
その後、なんとか赤い顔を落ち着けて冥加と一緒に校内を回りきった善吉。途中で図書館も行った甲斐あってか、下校時間の7時になる頃には…  
「きょうは もう かえるのか?」  
「そうですね さっきめだかちゃんから帰宅命令もメールで来ましたし、生徒会室に荷物置いてませんし…帰りましょうか」  
会話できる程度にまで冥加は日本語を習得していた。言語を開発するだけあって、やはりその辺も異常なのだろう  
 
「きょうだけで しゃべれるように なったな」  
冥加が帰り道で前を向きながら言う。発音は割と怪しいがなんら支障は無い  
「そうですね。まさかこんな一瞬で習得されるとは思いませんでしたよ…さすが13組」  
嬉々として話す善吉。だが、それに比べて冥加がすこし活気ない。  
そこは善吉、すぐ気づき尋ねる。  
「? どうしたんですか 元気ないですね」  
冥加はそれを聞いたあと、また前を向いたまま言う。  
 
「もくひょうたっせいしたから これで もうおわりなのか?」  
それを聞いた善吉は目を開く。3秒ぐらい詰まる。  
冥加はこの泊り込みの目的を理解し、達成した今がどういう状況なのか今わかったのだろう。  
「…もしかして、さみしいんですか?」  
それに対し素直にストレートな質問をする善吉。 冥加は善吉を見て考え込むと、静かに言う  
 
「・・・ そうだな さみしい このじょうたいがおわることが」  
冥加は正直な気持ちを善吉にさらけ出した。その顔は悲しげだ  
「できればまだもうしばらく このじょうたいが つづいてほしかった」  
さらに追加で心の中を曝け出す。  
「しょうじきにいって わたしは さんしゅうかんの おまえとのせいかつが たのしかった」  
冥加は下を向く。自分が悲しい顔をしていたことを悟ったのだろう。  
「できれば もうすこしながく おまえといたかったな」  
善吉はその冥加の下を向いたままの発言にグラッとくる。 当たり前だ、女の子にこんなことを言われてしまえば。  
おそらく冥加は普通の人に比べ恥ずかしいと思う基準値が高いのだろう。 割と平気ですごいことを言える。  
不意にドキっともした。  …だが、善吉はそれで全然センチメンタルにならなかった。  
 
「…プッ…クックックックwww」  
それどころか笑いを堪えていた。  
「…?」  
真面目に言っていた冥加が おかしいと思って善吉を見る。すると、目が合った瞬間 善吉は大声で笑い出した。  
「だ、大丈夫ですよ 冥加さんwww あなたが家にいるのは夏休みが明けるまでですwwめだかちゃんそこまで説明しませんでしたかwww」  
笑いながら説明する善吉。 よっぽど意外な言葉だったのだろう。  
冥加は それを理解すると一瞬 ぱぁっとなる。・・・が  
「いひひwwwwそうですかwwwさびしかったですかwwwww」  
自分の悲しみをあまりに善吉が笑うので…  
 
「おい」  
流石にイラッと来たようだ。あと顔がちょっと赤いので やっぱりちょっと恥ずかしかったようだ。  
善吉の胸倉を掴む。  
「あっ ちょ すみません ちょ かまえないで」  
善吉も胸倉をつかまれてすこし焦る。 一見まるで修羅場のようだった。  
が、この二人どちらかと言うとじゃれているといったほうがいい  
 
「よくもわらったな」  
冥加はそういうと善吉の頬を引っ張る。  
「いてててててて」  
そういう善吉は痛がりながらもすこし楽しそうな顔だった。  
そうして2人はしばらく道端でじゃれていた。  
 
「ほら ほら ほら」  
「うぐあああ!?鉄球ふりまわす力で・・・!?」  
冥加は善吉を強く強く引き寄せながら ちょっと恥ずかしげに笑う  
そしてそうしばらくしたじゃれあったあと、2人はハッ と我に返る。  
先ほど冥加が胸倉を掴んで引き寄せた後に、ほっぺたを両手で掴んでまたさらに引き寄せたのだ、もちろん二人の距離はとても近くなる。  
善吉は 今日鬼瀬にからかわれたこともあってか、余計意識するようになってさらに恥ずかしさを増していた。  
 
すると冥加のほうが突然善吉から離れる。そして、善吉とは別の方向を向いてしまった  
善吉はちょっと意外だった。そして離れられたことについて考える。  
(い、嫌がられている…訳じゃない…よな?)  
善吉は少し不安になったなったが、冥加が歩き出したので つられて一緒に歩き出した  
 
2人はしばらく無言で歩く。気まずいのか違うのかよくわからない雰囲気だ。  
「え、えーと…」  
耐え切れなくなった善吉が話しかけようとする。が、次の言葉が出てこない。冥加からの返事もなし。  
しばらくさらに無言で歩く。善吉は改めて少し気まずいと思った。  
その後も間がさらに続く。そして、ついに歩き歩いて善吉の家についてしまう。そして善吉が頭をボリボリかき、家に上がろうとする。  
と、前を歩いていた冥加がドア直前で立ち止まる。そして、いつもの表情で善吉のほうに向きかえる。  
善吉が口をポカンとあけて冥加を見る。それを見て冥加はまた少し口角を上げた。そして、善吉にハッキリと言い放つ。  
「おかえり。これからもよろしくな」  
おかえり。改めての同居宣言だ。言った冥加は少し満足げな表情をする。。  
それを聞いた善吉は 一瞬さらにポカンとなると、一気にわれを取り戻す。そして、冥加に向かって最大級の笑顔と言葉で返す  
「ただいま! これからもよろしくおねがいします」  
 
 
「ふぅー…」  
リビングに入るや否や善吉はソファーに座り込む。その横に冥加もちょこん、と座り込む  
「きょうは わりと つかれたな」  
冥加が話しかける。どうやら覚えた日本語が割と楽しいらしく いつもに比べ饒舌だ  
「そうですね 計5、6時間歩き回ってましたしね」  
善吉も目を閉じながら上を向く。  
「つかれたぶんの しゅうかくもあったけどな」  
「そうですね 1日で日本語話せるなんてマジ豊作ですね」  
それを聞いて冥加がフッ と笑う 日本語のギャグもちょっと分かるようだ  
善吉はそれを見ると、安心したのか突然眠たくなった  
目をゴシゴシとこすり眠気をごまかそうとする。が、どうあがいても眠気は取れない。  
「ああ、なんかもう瞼が…  やっぱ俺、ちょっとばかし寝ますね…」  
そういうと善吉は体の力を全て抜いた。冥加はソファーをどくと、善吉に寝転ぶよう促す。本当に疲れていたようで、  
冥加をどけたことも気にせず善吉は寝転び、10秒もかからないうちは眠りに入っていった。  
「おやすみ」  
そういって冥加は善吉が瞼を閉じるまで 見つめ続けた。そして、瞼が閉じてからもしばらく見つめ続けたのだった。  
 
 
 
「おはよう」  
その一言と揺すられたことによって善吉は目が覚めた。  
時計を見て時刻を確認すると 先ほどから1時間半ほど経っている。90分で起きたことで寝覚めもいい。  
「あ…おはようございます…」  
アクビをしながら言う善吉。冥加はそのアクビを見届けると、善吉の手を引っ張る  
「?? どうしたんですか」  
起きてすぐでよくわからない善吉が冥加に尋ねる。  
「ふろわかした つかれているなら ふろがいちばんだ はいるぞ」  
と言って冥加は善吉を引っ張り立たせる。そして廊下に向かって歩く。  
「あ、そうですね… じゃあトイレ行くので先に入っててください…」  
「わかった」  
そういうと2人は廊下で分岐した。  
風呂に入ることについて初日 二日目は抵抗を感じた善吉だったが、目を閉じれば割と大丈夫なことに気づいたため、最近は普通に冥加と風呂に入っている。  
と言っても 冥加の頭を洗って自分の体と頭を洗えば出て行くので、一緒に湯船にまでは浸かっていないが。  
 
「よし… タオルオッケー、目も閉じて、と…」  
トイレを終えた善吉は着替え場でスタンバイしていた。この動作も慣れた物である。  
「冥加さーん 入りますよー」  
善吉が一声かけると、風呂場の中から冥加の「ん」という声が聞こえた。  
善吉は風呂場のドアを開ける。入るといつものポジションに冥加がいる気配がする。名瀬修行の成果だ。  
気配を感じ取り近づいた善吉は、いつもどおりの言葉を冥加に投げかける。ただし、いつもは数学言語だが今日は日本語だ  
「よーし、頭洗いますよー」  
 
そうして善吉は見えないながら 慣れた手つきでシャンプーを手に取る。そして手で少しシャンプーをこする。  
そうして冥加の頭を洗おうと手を伸ばした。  
 
すると、その両手をガシッ とつかまれた。  
 
「…?」  
状況が理解できない善吉。なんでつかまれているのか、どうしてこのタイミングでつかまれているのか全くわからなかった。  
すると、手を持つ感触からだけだが 冥加が立ち上がるのがわかった。冥加の関節も変な方向に向いていないし、おそらくは善吉を向いているのだろう。  
そうしたあと善吉の手が少し押される。いや、正確には冥加が善吉に近づいた。  
 
「やっぱり」  
少し見られた(感じがした)あと冥加がそういう。何がやっぱりなのか やはり善吉はわからない。  
すると冥加は、少し怒った口調で善吉に言う。  
「おまえ、なんでめをとじてる」  
善吉は心底ドキっとした。もちろんトキメキ的なのではなくてだ。  
「ちょっとまえに きがついた」  
善吉はハラハラが止まらない。目を閉じている。言い訳が何一つみつからないからだ。まぁ本来は言い訳をする必要などなく、感謝されるところなのだが。  
そして、冥加の声は何故かトーンが少しづつ下がっていく。  
「おまえがめをとじて わたしとふろにはいっていること」  
ハラハラを感じていた善吉だが、この冥加の言葉は想像していたものと違ったニュアンスだったことに気づく。。  
冥加にしては珍しく、何か不安そうだ。あのときの日本語もなかなか不安そうではあったが、それとは違う。不安というか不安定だ。  
「いや…あ、その…」  
善吉が目を閉じたままあわてる。手を押さえられてるからにげる事もできず、またその事に大きく慌てる。  
そんな様子の善吉を見て、冥加はさらにグッと力を入れた。そして、少し間を空けたあと小さくつぶやく。  
 
「…そんなに、わたしをみるのがいやか」  
善吉の動きがすべて止まる。それを察したのか冥加は力を少し弱める。  
「そんなに、わたしのからだをみたくないのか」  
善吉は思考をリセットさせる。1からすべてを考え直した。冥加はさらに続ける  
「しょにちも、そうだった。 わたしをみるなりなんなり、おまえはすぐにふろをとびだしていった」  
最初に風呂に入ったことについて話す冥加。そこで善吉は気づく。冥加が勘違いをしていることに。  
 
「さいしょはなんともおもわなかったが、まいかいふろでめをとじてはいってくるおまえにきづいたとき わたしはこうおもった」  
物悲しげな声で話す冥加。手の力がどんどん弱まっていく。  
「・・・もしかして、わたしのからだは おまえがみるのもいやなぐらい へんなんじゃないのか って。」  
それを聞いた瞬間、善吉は冥加の手をガシっと掴む。  
「そんなことはありません!」  
善吉が少し大きな声で言う。冥加はビックリして目を見開いている。  
「冥加さんの体が変だなんてことはありません!!それは俺が保障します!」  
力強く冥加の体を肯定する善吉。冥加はだまってそのまま見つめる  
「じょ、女性の裸を見るのに慣れていなくて… 目を瞑らないと、その…俺がどんな行動するか分かりませんし…」  
「…」  
冥加が黙る。なにやら満足いっていない様子だ。何より証拠が無いからだ。  
それを感じ取った善吉はさらに言葉を追加する。  
「…そ、それにその、むしろ…」  
その後少し しどろもどろする善吉。少しためらったかと思うと 意を決したかのように顔をあげた。  
「き…きれいです!」  
バッ!と、強調するかのように目を開ける善吉。その後、一度上から下まで冥加の体をあますことなく見る。  
手をつかまれたまま黙っていた冥加は、日本語の「きれい」の意味を頭の中で翻訳し終わり、今 何を言われたのか理解する。  
そして、そのまま手を振りほどき善吉に背を向け 椅子に座り込む。  
「…」  
謎の沈黙だ。表情も見えないため感情もわからない。その急激な変化に 善吉はまた怒られてしまったのかと思う。  
そして善吉が戸惑っていると、冥加は善吉に向けて指をクィっとする。直後、  
「あたまあらえ はやく」  
といつもの調子で声が聞こえた。その言葉を聞き、安堵する善吉。許してはもらえたのだ。  
そうして善吉もいつもの笑顔に戻る。そして、いつも冥加の頭を洗う定位置にまで移動する、  
「はい! ただいま!」  
と、その後 善吉はそのまま手に取っていたシャンプーをまたこすりなおし、冥加の頭を洗い出した。  
ゴシゴシゴシゴシと。  
そのとき、善吉は気づいていなかったが、鏡越しに見える冥加の顔は少し赤かった。  
 
「ふぅー…」  
冥加の頭を洗い終え、自分の体と頭を洗う善吉。 冥加に再指摘されると困るので、一応目は開けている。だが焦点を合わせていない  
冥加のほうも体を洗っているようだ。ゴシゴシと音が聞こえる。  
しばらくして体の隅々まで洗い終えた善吉は、泡を流すため、湯船の湯を洗面器で掬い取り体にかけた  
冥加も時を同じくしてシャワーで体を流し始める。  
「ふー」  
流し終えたので 落ち着いたのか声を出す冥加。善吉も体の泡をすべて流しきる。  
「 よーし、もう上がるか」  
洗面器を床に置きそういいながら立ち上がる善吉。ちなみに腰に巻いたタオルはつけたままだ。  
もう用はないので扉を開けて 風呂を出ようと 取っ手に手をかけた…  
 
瞬間に冥加に肩をつかまれた。  
 
「…なんでございましょう」  
善吉は早くここを出ようと扉を開けようとする。なんで掴まれたかはとっくに分かっていたからだ。いや、掴まれることもわかっていた。  
だが冥加がそれを許さない。もう片方の手で扉を閉める。  
善吉は後ろから声が聞こえる。  
「『つかれてるときはふろがいちばんだ』…あれ、おまえにいったんだぞ?」  
わかってる。善吉はわかってる。だからこそ逃げたかったのに これでもう逃げ場は無い。  
冥加は肩をさらに強く握り、脅しかけるように善吉にささやく  
「あとで、なんてゆるさないぞ  いますぐにだ じゃないと きょうはねれるとおもうなよ」  
善吉はだらだらと冷や汗を流す。肩が割と本気でいたい。  
しばらく停戦状態が続いて、善吉も観念したのか扉から手を離す。それに気がついた冥加も肩を掴む力を弱くする。  
「わ、わかりましたよ…」  
善吉は冥加のほうに向き直る。同時に冥加も肩から手を離す。その時、冥加の口角はまた上がっていた。  
「…じゃ、俺から入らせていただきますね」  
そういいながら風呂に入ろうと足を上げる善吉。  
 
「まて」  
そこで冥加がパーを前に出しストップをかける。突然話しかけられた善吉は足をもとに戻す。  
「はい?」  
入れと言われたのに今度は待てといわれて意味がわからない善吉。冥加はパーだった手を人差し指以外全て下ろし、その人差し指で善吉の腰のタオルを指す。  
「ふろにたおるは、まなーいはんだ」  
それを言った途端、冥加は善吉のタオルに手をかけ、バッと引き取る。もちろん、善吉の息子が外気に晒される。  
「えっ!? ちょっ」  
と善吉が言ったときにはもう遅かった。タオルはすでに冥加の後ろだ。  
「すなおにそのままはいれ」  
冥加は一切動じず 善吉を見据える。別に善吉のソレを見るわけでもなく、ただいつも通りに善吉を見る。  
(い、意識してるのは俺だけなのか…)  
善吉はすぐにでもムスコを隠したかったが、なにぶん隠すものは全て冥加の後ろにある。手で隠すのもなんだかみっともない。  
「わ、わかりましたよ…」  
善吉は慌てる心を落ち着けて、少し急ぎで風呂の中に入った。ジャバン という音が鳴る。  
善吉がこんなにも湯船につかるのが嫌だったのには訳がある。  
善吉の家の風呂はなかなか大きく、善吉の大きさでも2人分ぐらいなら向かい合えば簡単に入ることができる。  
そしてそんな大きな風呂に入れば嫌でも落ち着いてしまう。そしてその落ち着いた目線の先に冥加の裸があれば、だ。  
興奮しモノをおっ立てずにはいられなくなってしまう。そんなモノを女の子に見せるわけにはいかないし、見せたくもなかったからだ。  
タオルを取らなかったのも、万が一興奮した際にモノを隠すことができるからである。  
「ふー…」  
しかしそこで善吉は、あえて本気で落ちつくことにした。心頭滅却すれば火もまた涼し、本気で落ち着けば裸ぐらいでおっ立つことはないと踏んだのだ。  
善吉は落ち着けようと一旦目を閉じる。冥加に怒られるかも知れないと思ったが、同時に落ち着いたときぐらい目を閉じても許されると思った。  
そうして目を閉じてさらに心を落ち着けていると、冥加からの声が聞こえた。  
 
「きもちいいか?」  
冥加の声が割と近くで聞こえる。善吉は夏はシャワー派なので久々に風呂に入ったこともあり、本当に気持ちよかった。温度もぬるくちょうどいい。  
「あ〜…いいですね 今日の疲れなんかふっとんじゃいます。」  
「そうか」  
善吉が言うとフッと笑いながら冥加も答える。その状態に善吉はどんどん力が抜けていく。  
「それはよかった」  
冥加の声も嬉しそうだ。善吉はさらに力が抜ける。おそらく久方ぶりの抜き方だ。  
 
そうしていると、ふっと冥加が立ち上がる気配がする。そして冥加の声が聞こえる。  
「じゃ、わたしもはいろうか」  
それをきいた途端、善吉は「ブーーーーッ!」と息を吐く。  
「え、ちょ、ちょ、なんで」  
善吉は目を閉じたまま慌てる。エロパロ的には当然だが、善吉は冥加が一緒に風呂に入ってくることを全く予測していなかった。  
たしかにこの風呂であれば対面なら2人は入れる。だがそれを女の子とともに入るなど考えたこともなかった。  
善吉は落ち着いた状態から一気に慌てる。だが暴れすぎると冥加にまた怒られるため中途半端な暴れだ。  
「よい、しょっと」  
冥加がついに入ろうとしている。慌てて慌てて慌てまくった善吉。そこで、善吉は行動の選択を誤り、善吉は目を開けてしまった。  
 
すると、目の前に冥加の綺麗な毛のない割れ目があった。  
 
一旦思考停止。そして状況を理解した後、一気に顔を赤くする。  
「ーーーッ!」  
善吉は心頭滅却どころの話ではなかった。やましい思考が頭の中を飛び交う。  
少しずつ冥加も湯船の中に入ってくる。善吉は思考を止めようとするのに必死だった。  
(ん?)  
途端、違和感に気づく。  
よくよく考えてみれば 対面で風呂に入るとき、目の前に割れ目が登場する訳が無い。見えたとして風呂の一番向こう側でチラっと見える程度だろう。  
しかしそれが顔面間近の目の前で登場している。  
(これは…もしや…!)  
善吉は今冥加がしようとしていることに気づく。しかし、もう既に遅かった。  
「ふー…」  
冥加が善吉の上にちょこんと座った。もちろん、善吉どころか冥加もタオルはつけていない。  
生の体と体が触れ合い、こすれあう。お互いの肌のぬくもりを交換しあう。  
「…………………」  
善吉は声も出ない。今の自分を抑えるので必死だ。 自分の息子に冥加の生尻の感触がずっと伝わり続けている。それでも立たせないのは流石善吉と言ったところか  
 
「〜♪」  
それに比べ冥加は気のいいものだ。善吉を椅子代わりにして風呂に入っているからか、落ち着いて目を閉じてとても気持ち良さそうだ。  
善吉はその様子の冥加に、やっとの思いで声を出し、質問をする。  
「あの…冥加さん…」  
その善吉の声を聞くと冥加は目を開け、善吉のほうを向く。  
(うわぁ…ち、近い…)  
もちろんそんな密接した0距離で振り向けば顔も必然的に近くなる訳で。冥加も振り向いてからそれに気づいたようだ。また顔が少し赤い。  
だが善吉はめげずに続ける。  
「な、なんで俺の上なんでしょうか…?」  
最大限に我慢しながら言う善吉。それを聞いた冥加は、一旦考え込む。そしてその赤い顔のまま、善吉に言葉を返す。  
「そ、それはだな…」  
冥加がごもる。珍しいなと善吉は思う。しばらく冥加は目を泳がせると、そのまま善吉と目を合わせないまま、  
 
「わ、わたしがこうしたいから…だ」  
といって顔を前に向ける。さっきまで鼻歌を歌っていたのに今度はもう歌わない。  
実は冥加は 思考や行動を言葉にして、初めて恥ずかしがるタイプなのだ。帰り道で「さびしい」と言えたのも、言うまではあまり恥ずかしくなかったからだ。  
今回の善吉椅子も、やってるときは恥ずかしくなかったが 善吉に改めて尋ねられたことで やっと恥ずかしさがこみ上げてきたのようだ。  
それを見ていると善吉もなんだか恥ずかしくなった。お互いの間に沈黙が走る。  
そんな中、突然冥加は善吉の手を取る。突然触られて驚くが、善吉もなされるがままにする。  
それから、冥加は善吉の手を自分の肩に乗せる。ちょうど関節のところに乗せたため、善吉の手が冥加の前に落ちる。  
そうして善吉が冥加を抱く(ハグのほう)姿勢になると、冥加は背中も善吉に預ける。  
善吉と冥加の距離が本当に0距離になる。しかも善吉が後ろから覆いかぶさる姿勢だ。  
もちろん、善吉もここまでされれば 冥加が自分のことをどう思っているか分かる。これで分からないのはラノベの主人公ぐらいだ。  
しかし、それが分かってしまうと、 その気持ちがわかってしまうと、善吉の感情もただではいられない  
そんな女の子が、裸で自分と接触しているのだ。さっきの焦りとは違う。今度は高揚だ。  
(こ、これは…ほんとに…)  
善吉は下半身に血液が集中していくのを感じた。 もうこの時点で 抗えないことはわかってしまった。  
善吉のムスコが冥加の下で肥大化する。  
 
片手を持ち上げ顔に手を当てる善吉。冥加は自分の尻に少しずつ違和感を感じる。  
それが何であるか気づくと、さっきよりさらに近距離で善吉のほうに顔だけ向き直る。  
「…すみません」  
善吉は手を当てたまま心から謝る。仕方ないとはいえ 女の子に自分の大きくなったモノを当てているのだ。罪悪感でまみれてしまう。  
冥加はそんな善吉を近距離でみる。じーーーっと見る。善吉は顔から手が外せない。そうしている間に、冥加の口が開く。  
 
「…おまえ」  
そういっただけで善吉は全身に力が入った。この状況で女の子に言われる言葉に覚悟するためだ。  
もしかしたらこれで冥加も自分のことを一気に嫌ったかも知れない。そう考えるとまだまだ手を外すことはできなかった。  
しかし、冥加から帰ってくる返答は またも意外なものだった  
「わたしで、こうふんしているのか?」  
向きながらそうたずねる冥加。その言葉に、善吉は手を外し冥加のほうを見る。冥加は近距離で善吉を見つめ続ける。  
善吉はその言葉と目にうそをつく事ができないと思った。いや、ついてもバレてはいるしつく意味もないと思った  
「…はい」  
素直に冥加の目を見て答える。冥加はそのまま善吉を見つめ続ける。善吉も目を離せない。  
すると突然、冥加がくるっと善吉に向き直る。横幅も割と広い風呂なので簡単に回ることができた。  
そうして冥加は善吉の後ろに手を回す。今度は冥加が前から善吉を抱く形だ。  
 
「…うれしいぞ」  
その言葉を言ったとたん、冥加は善吉に勢いよくキスをした。歯と歯がぶつかったが、そんなことは気にしていられない。  
善吉も最初は驚いた。が、頭の中での整理が終わった後は 冥加を受け入れて冥加の背中に手を回す。  
 
「んちゅ…んむ…んふっ…ん…」  
そうして舌まで入れる冥加。善吉も戸惑いはあったが、すぐに受け入れる。  
「んっ…はむ…ん…」  
激しくお互いの口の中を舐めあう。歯の端から端までじっくり舐める。  
ときには舌を絡めあい、ときには相手の口の中を味わう。どちらの唾液かわからないほど二人は口の中を交換し合った。  
 
「ぷはっ」  
散々舐めあった後、苦しくなったのか二人同時に顔を離す。息を整えた後、二人は無言で見つめあう。  
その沈黙を破ったのは善吉だった。  
「…その、俺で…いいんですか?」  
善吉がおそるおそる尋ねる。それに対し冥加は顔を下に向けると、顔を見せないまま話し出す。  
 
「…おまえだからいいんだ」  
その言葉に善吉は グサっと心を突き抜かれたかのような気持ちになる。無理もない、生まれてはじめての告白を受けたのだ。  
その言葉を聞いてさらに善吉の心は高揚する。そんな高揚した善吉の息子が大きくならないわけがなかった。  
そしてさらに徐々に大きくなる善吉の息子。なりゆきで下を向いていた冥加はその変化に気づく。  
大きくなっていく善吉の息子をみて、冥加は上目遣いで善吉のほうを向く。その冥加の顔は間違いなく赤かった。  
 
「おまえ…くるしいか?」  
冥加は 少し心配そうな声で尋ねる。善吉はその冥加の声と言葉を聞き、冥加の言葉の意図を察する。  
それを素直に受け取ろうか、やはりそこはためらうべきなのか 迷ってはいたが  
「…はい」  
もうそんな冥加をみて善吉はガマンができなくなってしまっていた。  
 
「よし…」  
湯船の中ではやりづらいため、二人は流し?のほうにうつっていた。  
善吉が椅子に座ると、冥加はその善吉の前に座る。というよりしゃがみこむ。  
そうして冥加はいきり立つ 善吉の息子をじっくりと見つめていた。  
「…やはり なかなか おおきいな」  
冥加は素直に関心している。善吉はというと、なんだかもどかしげな表情だ。  
無理もない、見つめられた上に ずっとじらされているのだ。善吉とはいえなんだかガマンならない。  
そうしている間に、見つめるのに飽きたのか、冥加が下から善吉を見上げる。  
「…さわっても、いいか?」  
そうしてゆっくりと善吉に質問する。もちろん善吉の答えは決まっている。  
「よろしくお願いします。」  
それを聞いた冥加は一度頷く。その後、ゆっくりと善吉の息子に手を伸ばす。直前まで近づけてためらったが、思い切ったのか一気にギュッとつかむ。  
「んっ…!」  
善吉は少し声を漏らす。感度がいいとかそんなわけではなく、単に他人に触られるのが初めてだから緊張しているのだ。  
 
「なかなか さっきよりあったかいな」  
と冥加が掴んだまま独り言のようにつぶやく。さっきとは尻に当たっていたときの話だろう。  
「…で、これをどうすればいいんだ」  
そのまま続けて冥加が質問する。手に握ってみたはいいが 何もやり方がわからない。というか何がどう気持ち良いとかすらわからない。  
善吉はそれを聞くとあごに指を当てて悩む。実は善吉自身はここからどうすればいいかは分かっている。だが…  
(しごく…なめる…)  
二つある選択肢のうちどちらにしようか で迷っていた。  
「…決め切れませんね」  
「?」  
善吉はつい声に出す。だが今はそれほど気にならない。  
善吉はまたしばらく悩む。そして掴まれた状態で10秒ほどたった頃、善吉は今日2度目の思いついた!顔をする  
「それでは…そのまま両手でもって上下に動かしてくれませんか?」  
そのまま善吉は冥加にやり方を説明する。冥加はどういうことか分かってないが、それで良くなるならいい、と、ばかりに頷く。  
 
「それじゃ、はじめるぞ」  
といいながら冥加はもう片方の手も善吉の息子に添える。善吉は両手に握られていることでさらにもう少し興奮し 息子を大きくする。  
それを確認した冥加はいつもの無表情で善吉の息子を上下する。上げ下げ上げ下げの繰り返しだ。  
普通の動きに比べやはりどうもぎこちない。が、両手で力強くガッチリ掴んでいるため、1回1回の上下の威力はとてつもない。  
「さ、さすがです…」  
その威力に善吉も無音で もだえるしかなかった。 体が少しだけ震えている。  
「…こういうかんじで、いいものなのか」  
上下させながら心配そうな声で冥加がいう。善吉は悶えているが、なんとか冥加に言葉を返す。  
「全然OKです  (というか本当にこれはやばい…)」  
善吉はしごかれながら既に込み上げてくるものを感じていた。このままいけば、もう10秒もたたないうちに射精してしまうだろう。  
だが、善吉の目的はこの手コキでイってしまうことではない。  
 
「ふー、」  
結構な力を込めてしごいている冥加が息を吐く。かなり集中していたのだろう。  
そのタイミングで善吉はここぞとばかりに冥加に話しかける。  
「…okです いったん手を離していただけますか?」  
善吉は冥加に向けて中止を促す。冥加は最後まで行ってないのにやめさせられて意味がわからない。だが善吉の言うことは割と素直に聞く。  
冥加は不安げながらも善吉の息子から手を離す。  
善吉は離された後、フー、と一息をつく。そしてイキそうだった息子を一旦休めて静める。少しして落ち着いたあと、冥加のほうに顔を向ける  
「 それでは、今度は舌で舐めたり…なんて」  
ちょっと恥ずかしげに言う善吉。これは童貞の性とも言うべきだが、して欲しいプレイの内容を初めて口に出すときは なんだか恥ずかしい。  
それを聞いた冥加は善吉を見た後 善吉の息子を指差し、「これをか?」といわんばかりの顔をしている。  
「はい、そうです …その、嫌ならいいんですよ」  
善吉は不安げに声を出す。なんだか冥加を相手にすると善吉はなよなよしい。  
いや、というより初めて近接したの「姉」属性に少し戸惑っているのかもしれない。名瀬?知らんよ  
そんな善吉に冥加は フッ と微笑みかけると 息子に顔を近づける  
 
「いやなんてことはない わたしに、えんりょするな」  
というと冥加はペロっと善吉の息子を舐める。その瞬間善吉の息子がビクっと震える。  
その反応が面白かったのか冥加は 続けて 3回舐める。それにあわせるように善吉の息子も反応する。  
「う…」  
善吉は片目を閉じている。初めての舌の感触に、どう耐えて良いか分からないのだろう。  
冥加はその様子を見て、善吉がしっかり感じていることを確認すると、善吉の竿をガシっと掴み 今度は舌を離さずに舐め続ける。  
もちろん、亀頭部分を中心的にだ。  
 
「うおっ! ちょっ、これは…」  
善吉は心底驚いた顔をする。童貞にとってこの行為はあまりにも衝撃的であまりにも気持ちよすぎた。先ほど落ち着けた息子が また暴れだそうとしている。  
「ん…んぁ…」  
冥加もその善吉を糧に必死になって舐め続ける。必死すぎて、少し声も漏れてしまう。  
冥加の舌は善吉の亀頭を1周すると、カリの部分を上に上げるように舐める。カリをすべて舐め終わると今度は逆に1周する。  
「んっ」  
善吉の顔が少し歪む。冥加が予想以上に上手すぎて、声を出すことしかできなかった。ただただ気持ちいい。  
 
「へぁ…ん…」  
冥加は善吉の息子をひたすら必死に舐め続ける。時には横から、時にはカリから、時には尿道を舌でほんの少しこじ開けて舐める。  
「ぐっ…んく…」  
 
多種多様な冥加の攻めに、善吉の息子はもう爆発寸前だった。善吉の息子が熱を持つ。冥加はそれを舌で感じていた。  
その温度の上昇を冥加は善吉の限界だと感じ取る。そうなるや否や冥加は徐々に舌の回るスピードを落としていく。  
 
「…?」  
イく寸前まで追い込まれていたのに 急に勢いがなくなり 静まっていく善吉の息子。寸前だったこともあり、善吉はとても物足らなそうな顔をしている。  
最初にがんばりすぎて疲れたんだろうか?と善吉が思考していると、先ほどまで一生懸命舐めていた冥加と目が合う。  
今、冥加は先ほどまでの勢いでは舐めいていない。なのに、疲れたというような表情を見せている訳でもない。  
そして、その状態から冥加は舌を1周させると、ついに息子から舌を離してしまう。その際、冥加の唾液と善吉の我慢汁で糸を引く。  
「え…」  
離されるとは思ってもみなかったので とても意外そうな顔をする善吉。ついでに物足りなさそうな顔もプラスされている。  
冥加は善吉の息子を握ったまま善吉本体を見つめる。その表情は笑っている。しかも、今度の笑みはなかなかあくどい。  
 
「たりないか」  
笑顔で善吉に問いかける。どうやら今 行為をとめているのは善吉への意地悪をしているようだ。  
「たりないんだろう?」  
さらに追い詰めるように問いかける。心なしか声も少し笑っている。  
「…」  
これも童貞の性だ。こういった状態において自分の状況を相手に言葉にして伝えるというのは 非常に恥ずかしく抵抗がある。  
「ふっ」  
その童貞をみて一度笑うと、握っていた手を握りなおし、今度は搾り取るように強く握る。かなり強くしているので、締め付けとしては万力に匹敵するだろう。  
「んっ!」  
何度もイキかけていたせいで反応がよくなっている善吉。そして冥加はさらにまた握る力を強くすると、  
突然、今度はパクッと ほおばるように息子を咥えた。  
急速な勢いで咥えつかれたため 体が驚き 一瞬 ビクンと震える。  
そのまま冥加は追い討ちをかけるように 頭をなめらかに上下させながら舌を勢いよく回す。  
「んぐぁ!」  
思わず大きな声を出した善吉をよそに、冥加はただひたすら舐め続け、動き続け、勢いを増す。  
その動きは素人のそれではない。やはりさすが十三組といったところか。  
 
「む、んむ、むぉ」  
勢いを増しすぎて 声が出るというか息が漏れる。しかし少しの疲れも冥加は見せない。  
その勢いにどんどん善吉はゴールへと駆け上がっていく。  
「ぐっ・・・!」  
もう根元まで熱さが込み上げている。このままいけば 善吉は冥加の口の中にすべてを放出する・・・はずだったが  
「ふぅむ!」  
咥えたまま握る手をさらに、今度は締め付けるように本気で握る冥加。  
「がぁっ!?」  
それにより善吉は根元で込み上げるものを押さえられてしまっていた。  
しかし、冥加は口の動きを止めることは無い。それどころか またまたさらにヒートアップしていく。  
 
「ふむぁ、ふぅ、ふん、ふぁ!」  
冥加の口から漏れ出す息も激しくなる、もう善吉の息子はよだれですべてびっしょびしょだ。  
口の中から出し入れされるたびに善吉の中から何かが込み上げる。ものすごく気持ちいい。だが限界を超えられないもどかしさはそれ以上の地獄だった。  
「ぐぁああ!?」  
善吉もついに声が漏れる。天井を向き焦点が合わないままの状態が続く。  
すると冥加は突然善吉の息子からスポっと口を離した。また糸をひく。  
「はぁ はぁ、はぁ」  
息が荒い。おそらく途中からは息を止めてずっと動いていたのだろう。  
「…いきたいか?」  
冥加は息を乱し赤く頬を染めながら問う。ここまで来れば童貞の性だのなんだの言ってはいられない。  
「…お願いします」  
「なにを」  
「…俺を、です」  
「ちゃんとにほんごはなせるんだろう?」  
「はい」  
「じゃあ、ちゃんと だれがどうしてほしいのか しっかりぶんをくみたてて いわなくちゃなぁ」  
「・・・します」  
「きこえない」  
「俺をイカせてくださいお願いします!」  
「よろしい」  
 
その瞬間 紐をとくように冥加は指を離す。そして勢いよく、喉まで突かんとする勢いでかぶりつく。  
「ふぐっ!?」  
そして今度は吸う、という行為も追加される。冥加は頬をへこませ勢いよく吸い込む  
そんな勢いでまたしゃぶりつかれては、もともと限界が近かった善吉にとってはたまったものではない。  
「これ…はもうやばい…!…!」  
善吉の息子が根元から膨れ上がる。それを感じて冥加はさらに口を絞り、上下運動を早くした。  
「で…出ます!!」  
そして膨らみが亀頭までくると、冥加はさらに口を全力で閉じた。  
 
その刹那、どぴゅどぴゅどぴゅっ!と善吉の息子から大量の精液が水道のように冥加の口内に流し込まれる。  
尋常な量ではない。何しろ善吉は冥加が来てから一度も抜いていないのだ。これまでのツケが一気にここで払わされる。  
「むぐっ…」  
それを冥加も全力で口で受け止める。さっき口をしっかりしめておいたおかげで口から精液が漏れることはなかった。  
「んぷっ」  
そしてそのまま息子から口を離すと、口に精液を含んだまま善吉と目を合わす。  
そうして、善吉の目の前で一気に精液をすべて飲み干した。  
「…ぷはっ」  
全部飲み干したからか、冥加はパカァっと口をあける。その際精液で糸を引いているのがなんともいえずエロい。  
「おまえのなら、なんだってうけいれてやる」  
「…冥加さん」  
そうして冥加は口を手で拭きながら 立ち上がろうとする。善吉もその冥加のもう片方の手をとる。なかなかの二人の熱いシーンだ。  
…しかし、ここが風呂場で下に水が広げられているということもあり…  
 
「うわっ」  
「わ、っとっと!!」  
立ち上がろうとしたときに水ですべり 冥加は善吉の手を引っ張り倒れ、善吉もそのまま冥加につられてドッテーン!と前に倒れてしまった。  
「いたっ」  
「っつってってってって…」  
そうして二人同じ方向に倒れる。冥加は後頭部を少し打ったがあまり深刻に痛くは無かったよう。  
善吉は座った体勢から前に転んだために状況もわからない。前が真っ暗で見えないが、下に地面がある、ということがわかったので とりあえず立ち上がろうと地面に手を置く。  
そして前を見るため一気に顔を上げると…  
 
「ひゃんっ!」  
っと、予想だにしていなかった なにやら可愛らしげな声が聞こえた。何事か?と思い善吉が目の焦点を合わせてみると…  
そこにはまた、 「冥加の綺麗な毛の無い割れ目version前から」が、どアップで映し出された。  
「!!?」  
驚き声を出しそうになるが、そこで今聞こえた可愛らしい声の正体がハッキリとする。実は、善吉は鼻に何か 粘液的なものが当たるのを先ほど感じていた。  
つまり、今 善吉は鼻で冥加の割れ目を ちょびっと刺激したのである。そして、それはイコールで冥加の割れ目に無許可で触ってしまったということになる。  
「あ、すみません冥加さ――」  
と謝ろうと善吉が冥加のほうを見ると…  
手をギュッと握り、腕の内側を見せ付けるように腕を広げ、顔を横に向けて真っ赤にしている 可愛らしい女の子がそこにいた。  
まるで何かを我慢しているかのような表情で、いつもの冥加からは想像もできないような しおらしい女の子の雰囲気をかもしだしていた。  
「ひぁ…」  
そのモードはまだ続いている。冥加は たった一度善吉に鼻で触られただけで、とてつもなくふにゃふにゃになってしまっていた。  
「…」  
そこで善吉はここぞとばかりに目を光らせる。というより、今のおとなしく可愛い冥加に何かを少し試してみたくなったのだ。  
ペロっと 一回舌なめずりすると、善吉は冥加の太ももにそっと手を当てる。その感触に冥加も気づき、バッ と善吉の方を見て首を上げる。  
 
「ば、ばか… やめろ そ、それいじょうやったら… ひゃうっ!」  
話の途中で善吉は 冥加の足の付け根と割れ目の間をペロっと舐める。冥加はまたしおらしい姿勢に戻ってしまう。  
本格的に善吉の目が キラァァァンと光る。  
「さっきあれだけ ノリノリで俺を攻め立ててたのに…自分は自分でそんなにふにゃふにゃになっちゃうんですね」  
さっきと同じ位置を重点的に攻める。同じ場所だからか、冥加も理性を保ち 善吉に反論する。  
 
「それはっ…んぁ…だって…ぇっ…だなっ…!」  
とはいえところどころ 区切れてしまって何を言っているかわからない。  
本当の割れ目には一切触れていないのに体じゅうをピクピクさせる冥加。先ほどまでの勢いはもうない。  
「じぶんでも…ぁっ…さわった、ことは…んんっ…ない、んだ…ぁ」  
と首を横に我慢するように振りながら理由を説明する。それを聞いた善吉は一瞬舌を離し冥加を見る  
 
「…じゃあ、初めて触るのが 本人を差し置いての俺、ってことですか?」  
「…そういうことに、なる。」  
「俄然燃えてきました」  
というと善吉は冥加の足をさらに大きく広げる。広げられた冥加の姿は、善吉のアングルからだと尻の穴まで見えた。  
 
「…な、なにをするんだ」  
冥加は明らかにしどろもどろしている。 中途半端にやることがわかっているからだろう。  
善吉はニヤリ、と微笑むと冥加の割れ目に顔を近づける。  
「受けてみてのお楽しみです」  
といって舌を出し 割れ目のラインに沿う様にペロっと1舐めすると…  
 
「ひゃあああああんっ!」  
ちょっとした悲鳴にもなりかけてる冥加の声が聞こえた。力んでいるのか背中が上に向け沿っている。  
(こ、これは・・・予想以上に楽しいぞ)  
調子に乗った善吉は 2舐め、3舐めと追加していく。  
「ひゃぁああっ!あっ!ぁぁあぁっ!ひぃっ!」  
1舐め1舐め本当に体を跳ねさせる。手も先ほどと違い完全に脱力していて本当になされるがままといった感じだ。  
次に善吉は1舐め2舐めと言わず、一気に連続で舐めにかかった。すると、冥加の姿勢が背中が沿ったままで固定されて…  
「ひ、ひぁああ!?ひあぁ、ぁん、んぁ、あ、ぁんぃ、ひぁんぁっ!」  
よだれを垂らしていても 気にならない程度にまで気がぶっ飛んでいた。  
そんな様子の冥加を見て、舐めながら善吉は 先ほど自分を冥加に重ね、仕返しを思いつく。  
さきほど冥加にされた善吉の屈辱、それをまんま返そうと思念する。  
「よし」  
善吉は冥加の割れ目を、指で少し広げる。すると、中にピンク色の綺麗な肉壁が見えた。  
 
「ふぁ…ふぁ…」  
冥加はさっき軽くイッてしまって痙攣しているみたいで、その善吉の行動にも反応することができない。  
すると、その状態の冥加の肉壁を 善吉はペロリと舐める。「んっ!」と反応する冥加。  
だがさっきイッたのに比べれば甘かったのか先ほどまでの大きな反応はない。  
だが善吉の仕返しとはこのことではない。そのまま善吉は笑顔になる。  
「冥加さん、どうですかー?」  
いつも善吉が風呂で冥加に語りかけるのと同じ口調だ。痙攣がおさまってきた冥加は善吉の話を集中して聞き始める。  
「いま、どういう状況かわかりますか?」  
善吉はわざとらしく冥加に問いかける。冥加は聞けても答えることができない。善吉は一人で続ける。  
 
「はじめて触るのに気持ちよくなるなんて…しかも広げられて… これ、まさに変態って奴ですね」  
やっとの思いでその言葉に冥加が反応する。  
「ち、ちがっ」  
「何が違うんですか 舐められて感じていたのは事実でしょう?」  
本気で立場がすべて逆転する。まぁ初めてで気持ちよくなって変態というのは善吉のこじつけなのだが、そんなの冥加に気づけるはずもない。  
「ほら、今もイッたばかりなのに… こんなに溢れて来てますよ?」  
といって善吉は冥加の愛液を指に絡ませ持ち上げる。それを冥加の前で くちゃくちゃこねてみる。  
「ん…」  
抵抗できずに顎を引いて下を向いてしまう冥加。顔は今までにないくらい まっかっかだ。善吉は満足する。  
「よーし…」  
といって善吉はまた指で冥加の割れ目を広げる。今度はガッチリ、外さないように広げている。  
「頑張ります」  
そうして善吉は肉壁の中に舌を突っ込む。  
 
「!!??」  
さっきまでの舐められるのとは 格が違う感覚が冥加を襲う。中身をエグリ倒しているのだ、それは仕方ない。  
冥加は全身がかき回されているかのように体を全力でもじもじさせる。が、善吉がガッチリキャッチしているため動くことすら許されない。  
「あぁああ!ぁあ、っぁああああっ!!?」  
声を抑えるなどもう頭の中になかった。もう快楽におぼれるための「あ行」と「ん」しか発音することができない。  
「あっぁっあっあっあああああっ!!」  
善吉も全力で舐めまわす。息をしていない。それぐらい集中して舐めまわしているのだ。  
 
「いいあああぁ、ああぁっ!あんあっ、あいあっ!!?」  
冥加の全身がピーンと張る。もう完全にこれは何かの予兆だと善吉は確信していた。  
案の定冥加の声のボリュームが少しずつ大きくなっていく。なんとなく、絶頂が近いことは善吉も理解していた。  
それでも善吉はずっと攻め続けた。冥加の目は見ているのか見ていないのかわからないぐらいになっている。  
そして、最後に善吉が奥に舌をキュッと押し込むと…  
 
「いいぁぁあああぁあいあああああああああああ!!!!」  
プッシャアアアアアアアアと、完全にイキきると同時に冥加の割れ目から黄金水が飛び出してきた。もちろん目の前にいる善吉にモロすべてがぶっかかる。  
シャアアアアアアアアアアアアと、しばらく放水が続く。冥加は手で顔を隠している。善吉は真顔でその黄金水を受け止める。  
そして、最終的にはチョロ、チョロ、っとなると蛇口を閉めたかのように放水が止まる。  
放水を終えた冥加の体はピクッ、ピクッと震えていた。  
「たくさん出ましたねー」  
そうして冥加に話しかけるが、返事が無い。そしてピクピクも止む。だがまだ冥加は答えない。  
「…冥加さん?」  
そうしているうちに善吉はどんどん心配になってくる。もしかして自分は大変な事をしてしまったのではないのかと。  
よくよく考えてみれば無理やり女の子の割れ目を広げて放尿させるなんて 普通に最低だ。普段の善吉ならしない。  
「み、冥加さん…」  
どんどん善吉に冷静さが戻る。冥加は相変わらず手で顔を隠したままだ。  
「あ…あの…」  
申し訳無さそうに善吉が言うと、冥加はその隠している手をどけて善吉を見る。  
冥加の目には涙が溜まっていた。善吉はやってしまったとばかりに青ざめる。  
「そ、その…」  
手をわなわな振りながら弁明しようとする善吉。だが、この完全に自分が悪い状況で見つかる言い訳などある訳が無い。  
とりあえず、この場は謝ってどうにか罪を軽くするという選択肢しかなくなっていた。  
「ほ、本当に申し訳ございま…ふぐっ!?」  
謝ろうとした善吉に突如襲い掛かる衝撃。善吉はドン!と音が鳴る勢いで地面に倒される。  
「いてて・・・ふぐ!!?」  
そうして何かと思い顔を上げようとすると、また何か腹辺りに飛び乗ってくるような衝撃があった。  
そう、冥加が善吉を押し倒し乗り上げたのである。  
 
「よくもやってくれたな」  
涙目ながらに強気に言う。そうすると、冥加は少し腰を持ち上げる。  
「ここからのしゅどうけんはおまえには わたさない。 ぜったいにだ」  
そういって1度二ヤリと笑うと冥加は善吉の息子に自分の割れ目をあてがう。  
「ん、んっ」  
前、後ろと冥加は体を揺らす。こすれるたびに冥加から声が漏れる。  
善吉と冥加の間では、粘液と粘液が絡まりあい混ざり、どちらがどちらのかもわからなくなっていた。  
「無理はしないほうが」  
「しずかにしろ  …ん」  
心配する善吉など関係ないとばかりに冥加は続ける。しかし、表面と表面でねちゃねちゃといじりあうだけで 挿入へと向かう様子はない。  
善吉は やはり怖いのだろうと心配になり、声をかけようとするが その瞬間に冥加にキッと睨まれ、結局声をかけることができない。  
冥加はそのやりとりを続けると、ようやく覚悟ができたのかにフーーーッ…と息を抜く。  
そして、こんどはこすりつけるのでなく、真上から善吉の息子に向かって体を少しずつゆっくり落としていく。  
粘液の影響で何度かズルっ、と横にそれてしまうが 2回ほど繰り返した後に 冥加は善吉の息子を手でガッチリと掴んだ。  
 
「…こんどこそ」  
そうして今度こそ固定された 善吉の息子へ向かい腰を降ろしていく。最初はやはりキツキツで、善吉の先っぽすら入ることはなかったが…  
「んぁっ!」  
それを続けることにより出てきた冥加の愛液で、割れ目の締め付けが緩くなり先っぽが少し入る。  
「うぉっ」  
先っぽしか入っていないのに 、善吉は先ほどのフェラよりもずっと気持ちいいと感じていた。  
「…しあわせだな、わたしは」  
「はい?」  
「なんでもない」  
冥加はポツリと呟く。善吉は聞き取れなかった。  
そして冥加はそこで止めず、さらに奥へ奥へと善吉の息子を自分の中へ侵入させる。  
「〜〜〜〜っ!!」  
ほぼ善吉の竿の真ん中まで入った頃か、冥加がギュウっ!と目を瞑る。その刹那、冥加の割れ目から赤い液体が垂れてくる。  
ついに処女膜ラインまで到達してしまったのだ  
 
「みょうがさ…」  
傷ついた冥加の肉壁を心配する善吉。だが冥加はその善吉を手で制止すると、半泣きの目を見せながら笑いかけた。  
「だいじょ…うぶだ…ねじにくらべればどうってことはない」  
といいつつその姿勢で両膝をつき、一旦休憩をする冥加。確かにネジに比べれば痛くはなさそうだが…  
しばらくその状態で2人は静止する。どうやら冥加は血が流れ終わるのを待っているようで、しきりに善吉と結合している部分を見ている。  
そして血が流れ終わると、冥加は再び先ほどの挿入をする姿勢に戻る。痛みも完全に引いたようで、その頃には冥加の目の涙も収まっており、いつもの冥加の顔であった。  
 
「…つづけるぞ」  
そういってまた一息深呼吸する。そして今度は少し自分の腰を持ち上げると、一気に息子の付け根部分まで自分の腰を下ろした。  
「っ!!!!」  
冥加は瞳孔をも開けて驚いた顔をして停止する。そうしてもう一度腰を持ち上げるとさらにもう一度腰を下ろす。  
「ふぁああああ!!」  
冥加は目の焦点があっていない。おそらく、今の冥加は頭で何も考えていない。いや、というより考えることができないのだろう。  
そうして冥加は腰を上げて下げる動作を何度も何度も繰り返していく。  
「ふあああっ!ひぁっ!ひぃあっ!」  
そうしてどんどんそのペースも速くなっていく。腰使いもぎこちないものから、どんどんどんどん手馴れた滑らかな動きに変わっていく。  
一方善吉はというと、その冥加の激しい動きに 不動で耐え、悶えるしかなかった。  
「ん、ぐぁ!」  
さっき大量に出したばかりだというのに、善吉の息子はさっきよりさらに冥加の中で肥大化する。  
 
「ひぁぁぁ!」  
それを感じたのか、冥加の肉壁は逆に善吉の息子をさらに締め付ける。  
2人はさらに絶頂の階段を駆け上がっていく。冥加の腰の動きもさらにまた激しくなり、善吉も少しずつ下から突き上げるようになる。  
だが、オナニー1つも経験したことのない冥加にとってこの刺激は常人よりもキツすぎた。  
「ふあぁっ!ひあ!んあぁっ!んぎぃぁっ!」  
快楽に抗う術を知らず、それを我慢する術も全く知らない。ある程度 息子に力をこめている善吉とは違い、快楽へと一直線で向かう冥加。  
おそらく今の冥加は止めようと思っても腰が止まらない。もはや冥加の意思とは別に冥加の腰が動いていた。  
また善吉も善吉で、冥加の腰振りだけでは我慢することが出来ず、ついに勢いよく下から冥加を突き上げるようになった。  
「ひぁっ…!う、うごくな…!ぁっ!」  
さらに冥加の快楽は加速する。動くなとは言ったが、善吉の動きにあわせて冥加の腰の動きもさらに激しくなっている。  
そして、そんなに急に激しくなっては、冥加の抗う術を知らない体が耐えられる訳がなかった。  
 
「ひゃぁあ!ああっ!ひぃあ!あああ!んああぁあぁああああああ!!!」  
大きな声を挙げて上を向く冥加。肉壁もさらにキュウキュウと善吉の息子を締め付ける。  
…というか、もう冥加の体すべてが痙攣をおこしていた。  
「はぁああ…はあ…」  
冥加は上を向き放心した状態のまま息を荒げる。  
そして冥加の割れ目からはさらに新しい愛液がドロドロと流れ落ちてきて、善吉の息子をさらにぬらす。  
そして、その愛液が流れに流れ、善吉の息子の付け根部分にまで到達したとき、  
 
「!?!!?!??」  
善吉は冥加を下からまた一気に突き上げた。  
「まだまだですよ、冥加さん…俺が満足していません」  
冥加はさっき放心するほどイキ狂ったが、それに比べ善吉はまだまだ余裕でまだまだ満足していないようだった。  
冥加は顔を善吉に向ける。  
「わ、わたしはいま、いったばかりだぞ…?」  
「でも、始めたのは冥加さんなんで…最後まで、ちゃんとやりきってくれないと」  
「それはそうだが…  んぁっ!」  
言い訳を始めようとした冥加を善吉は下から抱きかかえ そして一気に、そして痛くないように押し倒した。  
わかりやすく言えば今日は善吉2度目の形勢逆転である。  
「そうなんでしたら、続けさせていただきますね」  
そういって善吉は笑顔になると、冥加の片足だけを持ち上げ、もう片足は地面につける。  
「も、もうわたしはげんか…ひゃぁっ!」  
そうして善吉が冥加の股の間から一突きする。  
「俺はまだまだイケますよ」  
そうして今度は善吉が冥加に向かって腰を振る。善吉の腰のスピードは先ほどとは比べ物にならないくらい速くなっている。  
「しゅどうけんは…んぃあっ!…わたさな…いって…いっただろうがぁっ!この…ひきょうものがぁあっ!」  
 
冥加はもがき、下に手をつけながら叫ぶ。だが全く見当違いの方向で、もはや善吉を見る余裕すらないようであった。  
そうしている間にも善吉はさらに腰を早く動かす。冥加の股からはさらにまた愛液が流れ出てくる。  
この二人の間にローションは必要ないと言わんばかりに二人の間はぬちゃぬちゃだ。  
そうして善吉の滑らかですべらかなピストン運動が続く。冥加はもはやその動きを受け止めるだけの人形のように動きがなくなっていた。  
すると突然、善吉がそのピストン運動をピタっとやめてしまう。  
しばらく気持ちよすぎてどうなっているかすら分からなかった冥加だが、その異変に気づき善吉のほうに向く。  
 
「ふぁ、ふぁ、はぁ…  お、おわったのか…」  
そうして動かなくなったことに落ち着きを取り戻す冥加。その声からは「ようやく終了」というより「もう終わってしまったのか」といったニュアンスが受け取れる。  
そうして冥加がさらに落ち着きを取り戻そうとする。が、何かがおかしい。冥加は同時に違和感を感じていた。  
「…ぜんきち」  
その体勢で動かなくなった善吉に冥加は問いかける。  
「おわったなら、なんでそれをぬかないんだ…?」  
善吉の動きはとまったはずなのに、善吉の息子は冥加から抜ける様子を一切見せない。本当に静止した状態だ。  
冥加の中で思考が走る。もしかして気絶しているのか?いやいや、善吉は目も開いている。  
じゃあ何だ?足でも攣ったのか?いや、攣ったなら真っ先に抜いて足をなだめようとするはずだ。  
となると…  
まだ終わっていないという可能性が一番高い。  
その思考に落ち着くと、冥加の体はフライパンで返すかのようにくるっと回転させられた。  
胸から上の体の前面がすべて地面についている。いわゆるうつ伏せという奴だ。そして善吉は冥加の腰をガシッと掴む。  
 
「ま、まだつづけるのか…!」  
「むしろここからが本番ですよ」  
「わたしのからだがもたない」  
「俺も限界近いんで大丈夫です」  
そういうと善吉は腰を一旦引き、そして一気に冥加の奥まで突いた。  
 
「んああっ!!ふかすぎ…るぞっぉっ…!」  
一回突いただけで大きく感じる冥加。だが善吉はそんなこと気にしないとばかりに何度も何度も突き始める。  
「んあぁ! ひぁああっ!! あぁいあっ!」  
「さっきよりさらに締め付けがすごい…!」  
そういいながら善吉は冥加の背中にピッタリくっつく。まるで犬の交尾のように。  
それから腰に当てていた手を外すと、今度は冥加の胸の前に手を回す。  
そして、コリコリっと冥加の乳首をつまみはじめた。  
 
「ひぁあ!ぁあっ!やぁっ!」  
「上でも下でも感じちゃってますね…これ、両方でイッちゃうんじゃないですか」  
声を荒げる冥加に耳元でささやく善吉。的確に冥加の頬を赤らめる。善吉は冥加が言葉にされると恥ずかしがるということを、もう既にわかっていたのだ。  
しかし、余裕をもった風に冥加を攻め立てる善吉だが 彼にも本当に限界が近づいていた。  
もうすぐそこにまで射精の感覚はせまってきている。今にもはちきれんばかりの勢いだ。善吉はなんとか精一杯力を込めて耐えている。  
そして善吉はもう10秒もこうして力を込めて耐えていられない。それぐらい冥加の中は気持ちよかった。  
「もうそろそろ限界です… 抜きますよ!」  
乳首をいじりながら冥加の耳元で言う善吉。さすがに妊娠はまずいので、一旦 冥加から息子を抜こうと腰を引く。  
だがその瞬間、冥加は器用に息子を抜かないまま善吉のほうにくるっと向きかえった。  
善吉はその一瞬の行動に驚く。だが引く腰は止めない。  
冥加はだらんとしていた腕に力を込めると、善吉を抱くように自分のほうに引き寄せようとする。  
 
「しゅどうけんはわたさない…そういったはずだ…んあっ!」  
冥加は、最後の最後でまだ善吉に逆転しようとしていた。自分が下にいるこの状況下においてもだ。  
「さいごぐらいかおをちゃんとみせろ」  
そうして冥加は善吉に微笑む。  
そして冥加は、両足を一旦広げると善吉の腰の後ろに足を回した。そしてガッチリと引き締め、善吉の腰を元に戻す。  
「うぁっ! それはさすがに…!」  
「うるさい おまえがすきかってしたばつだ」  
そうして冥加は下にありながらもさらに腰を振る。善吉からすべてを搾り取らんとばかりに。  
最初は善吉も抵抗していたが、冥加の足の力はとても強く、とてもじゃないが引き離せるようなものではなかった。  
 
ここまで来ると善吉も諦めがつく。一旦 息をふーっ…と吐くと 腰を降り始めた。  
そして、二人同時に動いていることもあり、善吉の息子はもうピークを迎えようとしていた。  
「もう俺…出ますよ…!」  
そういうと善吉の動きは激しくなる。もうフィニッシュを迎える気満々の勢いだ。  
冥加はまたその勢いに グラつくほど感じてしまう。だが意図的に、感じて出る喘ぎ声を押し殺す。  
そして、なんとか平常心を保った振りをする。善吉に自分の言葉を伝えるために。  
 
「いっしょにいくときぐらい、ぜんぶつながっていたい  ぜんきちぃ…」  
そういうと冥加は左右の腕を内側に絞って善吉を引き寄せる。  
「冥加さん・・・」  
善吉はその冥加の行動を愛おしく思う。そして、自らも冥加のしようとしていることを望み、そして受け入れる。  
「冥加さん!」  
「んむっ」  
勢いよく冥加の口を自分の口で塞ぐ善吉。そうして始めのときのように深く、そしてしつこく舌を絡ませあう。  
そして冥加の締め付けも強くなり、善吉の息子も少し膨張すると…  
 
「んむぅ!!」  
「んむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」  
ドピュドピュドピュドピュー! と勢いよく善吉からねっとりと濃い精液が冥加の膣に流し込まれた。  
どっ、どっ、どっ、どっ、と一定的に流れこみ、溢れかえるのではないかと思うぐらい大量に流し込まれる。  
冥加も自分の中にたまる熱い液体をお腹で感じていた。  
そして結局、冥加の膣から善吉の精液があふれ出る。それでも善吉の射精は止まらない。  
二人は互いに頭が真っ白になるような快楽を感じながらも、無意識に舌を絡め無意識に求め合っていた。  
そして、どっ、どっ、どっ…どっ……どっ………と善吉の射精が少しずつ収まり、やがて止まる。  
息もせずディープキスをつづけていた二人は、射精がやんだことで 息苦しさを思い出す。  
そして勢いよく糸をひきながら離れると、二人はむさぼるように空気中の酸素を求め激しく呼吸する。  
善吉も疲れたのか、呼吸をしながら よだれを垂らしている冥加のよこに目を閉じてゴロっと寝転ぶ。  
そうしてしばらく二人して息を整える。しばらくして呼吸が落ち着いてくると、冥加は善吉のほうに首を向ける。  
目を閉じていた善吉だが、その冥加の視線を 感じ取ると、ゆっくりと目を開けて冥加のほうを見る。  
そうして何をするでなくお互いが見つめ合うと、いつの間にか息の荒れも収まってしまっていた。  
長い間二人まだまだ見つめあう。かける言葉がないだとか、恥ずかしいからしゃべれないだとかそういう訳でもなく、実は二人は心地いい沈黙を少し楽しんでいた。  
そして、十分に満足したのか、冥加は一旦目を閉じると、微笑みながらまた目を開ける  
 
「もうはなれられないな」  
そういうと冥加は今度は軽くチュッとキスをした。  
 
 
 
善吉は自分の部屋に戻っていた。  
あのあと冥加と顔を合わすのも恥ずかしい晩御飯を終えると、歯を磨いて即効で部屋に戻ったのだ。クーラーが涼しい。  
改めて自分でもなんてことをしてしまったんだろうと思う。下手をすれば2年生から一児のパパかも知れない。  
となりの部屋からバタン、という音が聞こえる。どうやら冥加も自分の部屋にインしたようだ。  
隣同士の部屋だというだけなのに善吉は意識してしまう。そういえば今まで自分はなんて生活をしていたんだろう、と改めて実感する。  
一つ屋根の下に年頃の男女が一組。よく母親もこうやって自分たちを残したな、としみじみ思う。  
「考えていても仕方ない、か…もう寝よう。」  
そうして善吉は立ち上がるとパチパチ、と部屋の電気を切り替え、豆電球の淡く薄暗いオレンジ色の光にすると、静かにベッドに入った。  
 
そうしてしばらくすると、となりの部屋からガチャ・バタン、という扉の音が聞こえた。冥加が部屋から出たんだろうか。  
善吉は意識しないように自分を無意識に持っていく。すると、不思議と体の力が抜け、フッと眠気が襲ってくる。  
このまま寝れるな…と思った矢先にもう一度ドアの開閉する音が聞こえる。  
冥加が部屋に戻ったんだろうか、それにしても早いお帰りだったな。  
そう思っていると善吉はまた眠気が覚めている自分に気づく。もうそろそろ本当に寝よう、と今度は壁に向けて寝返りを打つ。  
そうして再び善吉は体の力を抜く。またまた眠気が フッと襲ってくる。もう今度こそ周りの雑音程度なら気にならない。  
体の感覚もどんどんなくなっていく。久々にどんどんゆっくり眠りに入っていくのを実感していた。意識も少しずつ薄れていっている。  
意識がこれでブラックアウトする…と思っていた矢先、  
急に善吉は後ろからギュっと抱きしめられた。もちろん、その驚きに眠気など一気に吹っ飛んでしまう。  
え?と思って慌てて布団を少しめくると、そこには自分に抱きついている冥加の姿があった。  
そう、さっきのドアの開閉の音は、善吉の部屋のドアを開閉する音だったのである。  
「・・・・なにやってるんですか」  
善吉は少し恥ずかしげに問いかける。さっきまでしていた激しいことに比べればたいしたことはないが、  
しかし女の子に突然抱きつかれるというのはどのタイミングでもドキっとする。  
 
「きょうはいっしょにねたいんだ  …いやなら、でていくがな」  
と冥加は善吉の背中に顔をうずめたまま言う。そんなことされてそんなこと言われて、拒否できるはずがないしする訳もない。まったく卑怯な方法だった。  
「…はぁ。 嫌な訳ないでしょう。別にいいですよ ただ、クーラーついてますけど暑いですよ、その距離じゃ」  
「かまわん」  
「俺はかまいます。寝づらいのもいやですからね。…仕方ないし、クーラーの温度下げときますね」  
そういって善吉は枕元にあるクーラーのリモコンを取るとピッ、ピッと操作する。心なしか、それでさらに温度が下がった気がする。  
「それじゃ、明日もありますしさっさと寝ちゃいましょう」  
「ん」  
そういって二人は落ち着く体制に戻る。善吉は壁を向き、冥加はその後ろで善吉に抱きつく。善吉は一瞬恥ずかしかったが ええいままよと目を閉じる。  
そうして善吉の動きが止まる。寝たのかと冥加は善吉に耳を当てる。心臓の音がバクバク聞こえる。まだまだ善吉は初々しいようだった。  
冥加はそのことを知るとプッと少し息を漏らす。そして耳を当てて聞いていた心音がどんどん小さくなってやがて落ち着くと、  
冥加は善吉に抱きついていた手をどんどん下へとずらしていくのだった。  
 
そしてこの後二人は2時間に渡りクーラーの中で汗を掻くことになる。  
 
 
 
 
 
「くしゅん!」「くしゅん!」  
早朝8時、二人はくしゃみをしながら朝の通学路を歩いていた。  
無理もない、クーラーの中で2時間汗かいたあとに 疲れてそのまま眠ってしまったのだ。ヘタに冬より寒い。  
「暑いのやらさむいのやら」  
「けっかてきにちょうどいいのかもな」  
風邪…とまではいかない程度の症状で、二人は少々寒気がする程度だった。まぁ屈強だしね  
そのまま二人は学校へ歩き続ける。特に会話が止まることも無く、今まで通りの何の変哲も無い普通の朝だ。  
ただなんとなく冥加と善吉の位置が近いこと以外は。  
 
そうしているうちに学校につく二人。校門で入門手続きをした後 まっすぐに生徒会室へと向かっていく。  
それに比例して、学校に入っていくにつれてどんどんしゃべらなくなっていく冥加。  
「…どうかしたんですか?やっぱ気分悪いですか?」  
「いや、だいじょうぶだ」  
とは言うがやはり口数かさっきに比べ減っている。それと、気分が悪いというか機嫌が悪いといったふうな感じだ  
善吉は気になったが、機嫌が悪い人に話しかけると、大抵ろくなことがないのはわかっていたのであえて深追いはしなかった。  
そうしている内に二人は生徒会室の前までつく。ここまで来ると冥加はもう話さない。  
善吉は腑に落ちない表情で疑問符を浮かべるが、どうせ一過性のことだろうと気にしないことにした。  
そうしてドアノブに手を置き、ガチャリとドアを開けると…  
 
「会長さん、どういうことなんですか!? 人吉くんが 女の子と学園の中をキャッキャウフフと走り回っているっていうのはどういうことなんですか!?」  
ピンクの制服ピンクの髪の毛、触るものはすべてが腐る 過負荷系女の子 江迎怒江が叫んでいた。  
「しかも会長さんはそれを黙認しているっていうし…生徒会だからって風紀はないんですか、風紀は!」  
バンバン!と机を叩きつけながら怒る怒江。それに同調するように もう1人横からひょいっと出てくる。  
「あひゃひゃ!なーんかひっとよっしくーんが面白そうなことしてるって聞いて夏休みに飛んできたけど ホントのことだったんだねー☆」  
青髪飴舐め、素性は謎の過負荷系女子、不知火半袖も割り込んでくる。口調と口は笑っているが、目は一切笑っていない。  
「で、その本人はいまどこ?」  
さらに問いかける 半袖。それに同調するようにまた1人ひょいっと出てくる。  
「人吉クンも隅におけんなぁ こんなかわいい女の子3人も悩ますとか ウチもなんかムズムズしてきたやんかー☆」  
半袖スカートがよく似合う特待系女子、鍋島猫美も割り込んでくる。こちらも目は笑っていない。  
「まぁそうカッカするでない。 あそこまでベッタリくっつくのも日本語を教えている間だけだ。終われば四六時中ともにいなければならない理由も無くなる。」  
それに対しめだかも返答をする。めだかには珍しく、なんというか屁理屈っぽい理論だ。  
「それにほら、ご本人登場のようだぞ。」  
そうしてめだかがセンスで善吉たちを指すと、一気に三人そちらへ振り返る。そして勢いよく詰め寄ると、まず善吉に話しかける。  
 
「ひ・と・よ・し・く・ん?わたしに内緒で女の子と校内イチャイチャデートってどういうこと?どうしたの?わたしを嫉妬させてそんなに楽しいの?」  
「あひゃひゃ!これが噂の女の子か! まぁゴスロリ服を校内で着こなしてるってとこが 人吉がつれてる女っぽいね!」  
「今のん聞いてたん?やっぱ隅におけんわー 黒神ちゃんだけやとおもってたのに こんなライバルおるなんてなー」  
一気に善吉に話しかける三人。善吉はほとんど聞き取れない。三人は満足いくまで話し続けると、今度は冥加のほうへと標的を移し変える。  
「あなた!あなたがたぶらかしてるのね!」  
まず怒江が真っ先に話しかける。その表情は怒り満天だ  
「おもっきり日本人顔なのになんで日本語はなせないのよ!帰国子女?帰国子女なのね!アイムア ヒトヨシズパートナー!!」  
「なんだ?こいつ…」  
暴れまわる江迎に対してローテンションで返答する冥加。その目は冷たい。  
「あひゃひゃ!もう日本語話せてんじゃん!その辺の覚えの早さからして13組生かなー?」  
半袖は冥加を周りから観察するように覗き込む。冥加はそれを見るだけだ。  
「あ」  
「あ」  
冥加と猫美は顔を合わせるや否や二人して声を出す。よく考えれば負け犬以来の再会だ。  
「鍋島猫美か」  
「なんや冥利君のねーちゃんやったんか そういやなんかよーわからん数字つぶやいとったな あんとき日本語しゃべれんかったんかい」  
そういうや否や猫美も冥加を周りから観察する。冥加は相変わらず表情を変えない。あまりこの状況を快くは思っていないようだ。  
 
そうしていると後ろからくめだかがセンスで口を隠しながらよってくる。  
「なんだ、もう言語習得は終わっていたのか さすがだな、善吉。」  
「いや、俺というより冥加さんなんだけど…」  
「「「冥加さん!?」」」  
その言葉に三人反応する。  
「冥加さんだなんて…わたしですら下の名前で呼んでもらったこと無いのに…照れてる?照れてるのね!安心してわたしはいつでもゼンキチズパートナー!」  
「あひゃ☆ 人吉のくせに女の子と名前で呼び合うなんて 生意気だよ?しめていい?しめていい?」  
「ウチの名前知ってる?猫美やで!鍋島いらんで!猫美やで!」  
そうして三人一気に善吉にまた詰め寄る。そしてめだかがそれを静止する。  
「落ち着け三人とも。もう日本語教育は終わったのだ、善吉と四六時中はいられまい。それに今日から善吉は一旦書類整理に回ってもらう。」  
「つまり?」  
「機密情報たっぷりのところに 字が読める部外者を放り込むことはできない。」  
「「「イエー!」」」  
ハイタッチする四人。冥加はそれを見て明らかに不機嫌。最高潮に不機嫌そうだった。  
 
「修羅場…ですか」  
『そうだけどもう黙ってて』  
はしっこで阿久根と球磨川が 細々と会話する。  
「人吉ってモテるなぁ〜…」  
そしてその場を傍観するもがな。結局シンクロ部に気に入られて試合が終わった後も2週間ほどヘルプを頼まれていた。  
 
「じゃ、その書類整理の前にわたしと学食でもいこっか!今日は味噌汁たくさん作ってきたんだよ!体育館借りて置いてあるから取りに行こう!」  
「あひゃひゃ!書類整理とかどうでもいいけどわたしの焼肉の約束はどうなってんの人吉?まさか破る気じゃないよね?」  
「柔道部いかへん?投書するわ、乱取りメンバー足りてへんからヘルプ頼むわ」  
「書類整理を先に済ませろ善吉 わたしが手伝ってやるから」  
そうして善吉を引っ張り合う4人の女子。それぞれの力が半端なものではないので善吉は悶える  
「いででででででで!!千切れる、千切れる!!」  
そうして女子たちの応酬が続く。そのとき、冥加はというと何も動いていなかった。しかし、決して何も感じていないわけではない。  
その逆。嵐の前の静けさというやつだ。  
プチン、という音がリアルで聞こえてくる。善吉+4はそれを聞き取ると何事かと冥加のほうを見つめる。  
その瞬間、冥加はその5人の中に割って入った。めだかを離し、半袖を離し、江迎を離し、そして少し苦労したが猫美を離した。  
「何よあんた!!たとえ何人たりとも私と善吉くんの間に割ってはいることはできないんだよ!?」  
「あひゃひゃ!!私と人吉の焼肉代おごるってんなら今の行為許してやっても良いよ?もちろんあなたは来ちゃダメだけどね!」  
「柔道家のつかみを剥がすなんてやるやないか… でも、手は離せてもウチは人吉クンの心だけは絶対離さんからなー」  
「生徒会役員の仕事を邪魔しようとするとはいい度胸だ。校務執行妨害で風紀委員送りにするぞ?」  
4人とも不愉快だったようで顔がとても怒っている。そして四人で一気に冥加を圧迫する。  
「ふん」  
冥加も冥加で不機嫌そうな顔をする。一番すごいのは全く堪えていないところだ。そして善吉の方を向き、善吉の胸倉を掴む。  
「ちょ、あんた何1人で善吉君に触って…」  
 
直後、4人の前で善吉を無理やり引き寄せる。そして冥加は顔を構え善吉の唇と自分の唇を勢いよく くっつける。  
そうしてそこでも舌を善吉の中に割り込ませる。何もわかっていない善吉はただ受け入れるだけだった。  
4人+3人が絶句する中、10秒ほどその状態が続く。そして満足したのか、冥加はゆっくりと糸を引きながら善吉から唇を離した  
そして、4人の自分のライバルたちに向け、キリっとした目でしっかりと宣言する。  
 
「ぜんきちはわたしのものだ。 おまえら、いやだれにもぜったいにわたさない」  
 
こうして以後 3月まで続く、生徒会どころか学校全体を巻き込み、その壮絶さゆえ歴史に名を残す「人吉事件」が、たった今幕を開けたのであった――――  
 
 

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