江迎「球磨川さん…ひどい……なんで……」  
目が覚めると自分の股間には鈍い痛みがあった。  
確か喫茶店にいたはずなのにここはどこだ?何しているんだ?  
頭がボーっとして状況がよく飲み込めない。  
ただ球磨川に自分の初めてを奪われてしまったことしか……。  
 
球磨川『怒江ちゃんダメだよ。アイリッシュコーヒー二杯程度で酔っ払っちゃ』  
 江迎「………」  
球磨川『どうしたんだい?恋人なんか、どうせいないんだろ?いいじゃないか☆』  
 江迎「……グスッ……好きな人は……いました」  
 
胸の中いっぱいに広がる罪悪感、ぐしゃぐしゃになった泣き顔を両腕で隠すのに必死だった。  
 
球磨川『まさか善吉ちゃんかい?でもそれはありえないよ』  
 
そうじゃない。  
生まれて初めて自分の手をとってくれた球磨川のことは嫌いじゃなかった。  
でもそれは恋というよりは尊敬に近いものだった。  
そして今の有様からは尊敬などど言う言葉は出てこなかった。  
球磨川が事を終え、ズルズルとソレを引き抜くと真っ赤に染まっていて……自分の中からは流れ出る白い液体、汗臭く体中に染み付いていた。  
 
球磨川『じゃあ、先に教室にいってるから遅れないようにね☆』  
 
球磨川はいつのまにか服をきていた。おそらく大嘘憑きによるものだ。  
いつもどおりのニコニコした顔、気がつくと自分の体も元通りになり、痛みも消えていた。  
処女たるものももちろん元通りにされたのだろう。  
ただし、心の奥深くに受けた傷までは元通りにはならなかった。  
 
見回すとそこはどうやら視聴覚室らしい。  
やっとのことで身なりを整え外に出る。  
夏休み、無人の校舎、喪失感、虚脱感…一人でいることがつらい。  
涙をボロボロとこぼしながら、あてもなく歩いていた。  
下を向いて声を押し殺しながら校舎をさまよった。  
 
どん  
 
誰かにぶつかる。とっさに顔を隠した。  
誰だ……こんなときに空気の読めないやつか?  
最低だ、最悪だ、もう嫌だ。  
 
 人吉「お前…江迎!?」  
 
聞き覚えのある声だ。  
そういえば前にもこんなことがあった。  
確か……人吉……善吉。  
生まれて初めて手を差し伸べてくれた男。  
箱庭学園生徒会庶務にして−13組の宿敵。  
敵だ!敵に見つかった!早く攻撃しなきゃ!  
だが、体は言うことを聞かない。  
溢れ出る涙、膝は振るえ、唇もまともに動かせない。  
やっとのことで口を開くと、自分でも信じられない言葉が出た。  
 
 江迎「善吉くん…お願いです……私のこと、抱いてください。…嫌なことが…どうしても、忘れたいことがあるんです」  
 
涙が止まらない、どれだけ声を上げても満たされない。  
その日、江迎怒江は生まれて初めてのキスをした。  
敵でありながら優しかった男、人吉善吉に。  
 
 
 

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