「―――要するに、メンタル面の強さっつたらよーどうしても一人に絞られちまうんだよな」  
「だよね」「だな」  
 
渋い表情を浮かべる三人の脳内に描かれている人物は紛うことなく一致している。  
それなりに戦えて、何よりマイナスの連中を相手取っても精神崩壊を起こさないと考えられる者、  
それらの条件を満たす人物は善吉ら生徒会メンバーの知り合いには一人しかいない。  
 
「心当たりがあるのか。言ってみろ。とはいえ、お前ら程度がそれほどの人物と知り合いとは思えんが」  
 
日之影に促され善吉が代表してその名前を口にする。  
 
「鍋島猫美先輩ですよ、柔道部の」  
「反則王か」  
 
ふむ、と日之影が思案する素振りを見せる。それに阿久根が続けた。  
 
「メンタル面の強さは保証します。球磨川が転校してきた日、一番最初に遭遇してしまったのが彼女たちだったのですが  
 裏の六人ですら螺子を身体中に打ち込まれたショックで現在もなお入院中だというのに  
 あの人だけはさっさと死んだフリ決め込んだうえ当日普通に帰宅しましたからね」  
「……お前らより遥かに有望だな。加えて腕も立つのだろう。何故一番に声をかけない」  
「それはあの人の性格(キャラ)上の問題でして」  
 
「簡単にいえば、鍋島先輩は生徒会などという表立った役職には絶対就きたがらないという話なのです」  
 
それまで黙っていためだかが簡潔に答えを述べた。  
彼女の呼称が鍋島三年生から鍋島「先輩」へと変わっていたことに三人は気づいたが  
今はそれについて言及しなかった。  
 
「それにあの人は私のことを友とは言ってくれても同時に嫌っていますから。  
 彼女は才能を嫌い、いつもこう言うのです。天才を努力と反則で踏みにじることが生きが……―――っ!!!」  
「おい、それは―――!」  
 
説明を続けていためだかがふいに青ざめる。それは日之影も同様だった。  
 
「え、なに、何なの!?」  
「なんで急に……ってそうか!今までの流れ上、俺たちがあの人に協力を要請するのは明らか!」  
「鍋島先輩が危ねぇ!?」  
 
遅れて三人がそれぞれに答えを見出す。しかしめだかと日之影の二人は首を振った。  
 
「いや、恐ろしいのはむしろ逆だ」  
 
 *  
 
『―――ね、僕たちってすごく仲良くなれると思うんです』  
 
と、球磨川はにこやかに猫美を見やった。  
 
『天才(エリート)なんてくそくらえって気持ち、よーっくわかりますよ。  
 あいつらがいるから世の中はこうも息苦しくなるんだ。あいつらがいるから、多くの才能を持たない一般人は  
 自分のあるがままを認められず、才能豊かな自分という虚像を追いかけ続けなきゃいけなくなる。  
 ねえ、貴女だったら僕らのエリート抹殺計画に賛同してくれるでしょう?』  
「さぁどうやろなぁ……」  
 
全く冗談ではない!と猫美は胸中で吐き捨てる。  
何故帰宅途中の自分の前にこの男が現れ、あまつさえよくわからない勧誘を仕掛けてくるのか、まるで理解できない。  
何を言おうともこの男に有利に働くような気がして口を開くことすらままならないでいた。  
 
「要するに何なん?新生徒会長様がこのうちごときに用があるとは思われへんのやけど」  
『あはは。もう僕のことを生徒会長って認めてくれてるんだ。さすが、僕の目に狂いはなかったね』  
「はいそうですよーうちは勝てん戦に手を出すような馬鹿ちゃうんで。っちゅーことで失礼させてもらいますわ」  
 
 
 
『やだなーそう慌てないで、ゆっくりエリートの抹殺の嬲り方でも話し合おうよ』  
 
言うや否や、全力で駆け出した猫美の前に球磨川が立ちふさがる。  
ぞっとして立ち止まると、自分が動き出す前と寸分も変わらぬ位置にいることに気づいて愕然とする。  
今にでも気を失ってしまいたいほどの恐怖感を抑え込んで、猫美は無理矢理口角を上げた。  
 
「……お断りや」  
『生徒会長のお願いだよ?』  
「だったらうちあの学校やめるわ。うちは忙しい受験生さまやで?  
 なんや新しいことが始まる忙しいとこになんかいてられへんわ。うちは寝てて良い点数のとれる天才とは違うからな」  
『へぇ、めだかちゃんや他の友達を身捨てるんだー』  
「んなもん知るかい。うちは自分がいっちゃん大事や」  
『うわあ皆が必死でめだかちゃんたちを応援してる最中にそんなこと言っちゃうなんて、根性腐ってるなぁ。  
 さすがの僕もびっくりだよ。ねえ皆もそう思うでしょ?』  
 
「まぁ、わかりやすく小者臭漂う下衆な台詞ではありますね」  
「とはいえこいつも所詮勝ち組だろ?あたしらと釣り合う奴とは思えないけど」  
「でも球磨川さんが声をかける程度には負け組なんでしょう?だったらお友達になれるかもしれないわ」  
 
いつの間にか側に控えていた新生徒会メンバーに猫美は絶望の色をいっそう濃くする。  
 
『それにしてもよくわかってるなぁ鍋島先輩は。やっぱり一度ですんなりOKなんて興ざめだもん。  
 主人公たちは協力を依頼するが一度は断られる。しかし主人公たちの真摯な態度に心動かされ、  
 終いには「今回だけだからな!」なんてツンデレな台詞を吐いて申し出を受け入れる新たな仲間、これぞジャンプの王道だね!  
 うんうん本当によくわかってる。ああけど……』  
 
ずい、と口づけせんばかりに顔を近づけて球磨川はにっこりと笑う。  
 
『学校辞めるなんて言っちゃだめだよ。学校はとっても楽しいところなんだから』  
 
 
 *  
 
 
「―――はっ、はっは、……はぁーーーっ」  
 
苦しげな呼吸音と無機質な機械音が部屋に響く。  
手足を螺子で刺し貫かれる痛みと下半身に絶え間なく襲いかかる快楽。  
床に上向きに固定された電気マッサージ機は、下着越しにも十分な刺激を与えている。  
痛みと恐怖による冷や汗と快楽による分泌液で猫美の身体は既にぐっしょりと濡れていた。  
 
「ずいぶん生ぬるいことをやっていますね。一体どうしたんです球磨川さん」  
 
いち女子高生が何本もの巨大螺子で床に縫いとめられた状態で凌辱を受けている様を  
生ぬるいと一蹴し、蝶ヶ崎は美味しそうにケーキを頬張る球磨川に問いかける。  
 
『生ぬるいもなにも』  
 
くるりと椅子を回転させ、あどけない表情を浮かべた球磨川は指のクリームを一舐めして言う。  
 
『別にお仕置きをしてるわけじゃあないんだから。これはむしろご褒美だよ。それかマニュアル不純性交遊の先取り体験?  
 学校辞めるなんて悲しいこと言うからさ、学校に来ることはこんなに楽しいことなんだって教えてあげてるんだ。  
 やっぱり生徒会としてはそんなこと言う子は見逃せないじゃない?  
 …………ね、僕らのつくる学校はきっと素晴らしいものになるってわかるでしょう鍋島先輩。  
 あ、どうせだったら猫美ちゃんって呼んだ方が良いよね、せっかく可愛い名前なんだから』  
「はっ……抜かせや。お前らみたいなんと、うちを、一緒にするんちゃうわ。  
 …………何がっマイナスや、うちに言わすとなぁ」  
 
苦しげな息の下、猫美が鬼気迫る笑みを浮かべる。  
 
「お前らもうちの敵(エリート)と同類じゃボケ!生まれながらに飛びぬけとるって時点でなぁ!」  
 
一瞬、その部屋に沈黙が流れた。  
 
「!!がっ!!!!ぐっ、うぅ!!」  
 
息をつく暇もないほど凄まじい勢いで猫美の頭が床へと叩きつけられる。  
 
「何だろう、今すっごく信じられないことをこいつが口走った気がするんだけど気のせいかな」  
「さてねえ知りませんけれどいいんじゃないですかこの際。ムカついたことには変わりないんですから。  
 あの、世の中に賞賛される為に生まれてきたエリートたちと、世の中に蔑まされる為に生まれてきた僕たちとを  
 同列視するような世迷いごとが聞こえてきた気がしなくもないですけれど。なに、大したことではありません」  
『こらこらそんなことをしたら猫美ちゃんが可哀想じゃないか』  
 
猫美の頭を叩きつけ、踏みにじっていた蝶ヶ崎と志布志を球磨川が止めに入る。  
ついと猫美の頤を持ち上げ、その惨状に困ったような表情を浮かべた。  
 
『あーあ、ほらぁそんなことするから、鼻からも口からも血がいっぱい出ちゃって。  
 ……可哀想。ほんと可哀想っ』  
「っあがぁぁああ!!」  
 
何の前触れもなく螺子が猫美の口内へと叩き入れられる。  
顎が外れんばかりに口が開かされ、猫美から絞り出すような悲鳴が上がる。  
 
『ほら、喧嘩両成敗。これで猫美ちゃんはさっきのようなことを言えなくなったんだから、  
 君たちもそれで許してあげよう?僕らは平和主義者なんだから、時には他人の過ちを許してあげなきゃね』  
「はーい許しますもう怒ってません」  
『うんっそれでこそ僕の友だちだ、今度ご褒美あげるからね』  
 
満足げに頷いて、球磨川は猫美の後ろへと回る。  
 
『そして猫美ちゃん、君にもも一つご褒美だ。きちんと過ちを認めて、罰を受け入れたからね』  
 
言って猫美の下着を取り払う。  
秘部が振動を続ける機械に直接触れた為に反射的に引いた尻を球磨川の手が優しく受け止めた。  
 
「っあ゛!……がっ!!」  
『うわあこんなに反応してくれちゃって照れるなぁ。そんなに気持ち良い?』  
 
わずかに残った理性でも理解できる挿入されたという事実に首を振る余裕もなく  
猫美はただただ悲鳴を上げる。苦しみに見開かれた目からは先程からずっと涙が止めどなく流れている。  
 
「あーー!あ゛っ、ぁぁぁ……」  
『ってそっか。気持ち良いに決まってるよね。ちゃんと気持ち良くなれるよう玩具を置いてあげたんだから。  
 やだなー僕ったら自意識過剰、自画自賛の自惚れ屋!猫美ちゃんも遠慮しないでちゃんと言ってよね。  
 僕が上手いからヨガってるわけじゃないってさ。あぁもしかして僕を気遣ってくれたんだ。僕が自信を喪失しないように。  
 優しいなぁ猫美ちゃんは。ほんと優しくって涙が出ちゃうよ』  
 
激しく猫美の腰を抉りながら、球磨川の語り口は不気味なほど静かだ。  
いよいよ猫美の身体が痙攣し始めるのを見て球磨川はああそうだ、と続けて声をかけた。  
 
『そんな優しい猫美ちゃんに一つリクエスト。勿論聞き入れてくれるよね。  
 あのね、イクときはイクって言ってほしいな。知ってる?ベタだけど男って案外これに弱いんだ』  
「はっ、ひ、あっ―――!!」  
 
球磨川のその言葉が、きちんと猫美の脳内に伝わったかは定かではない。しかし。  
 
「ひ、ひぐ!!ひぃぃぃぃぐううぅぅぅう!!!!」  
 
そんな獣じみた叫び声が、その部屋にはいつまでも木霊していた。  
 
 

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