おかしい……、何があった。 と、善吉はその心を悩ませる  
ただ、突如クラスに転校してきた42歳の少女から逃げていただけだ  
なのに、気が付いたら善吉は怨嗟とも取れる愛の告白を受けていた  
何故今このような状況に陥っているのだろう  
やがて、少女の告白は終わりを告げる  
「−−うんっ! そうだな!」  
違うッ!!  
何故自分はあっさり受理してしまっているのだろうか?  
それ以上にこの女、ヤバイと善吉は戦慄する  
少女の瞳は一直線に、自分へと投げ掛けられている  
とりあえず、はっきりとした推測が善吉の中に生まれた  
 
−球磨川禊の関係者……、『過負荷』である、と−−  
 
『過負荷』に好意を持たれるという状況が好ましいはずはない  
「どうしたの善吉くん。 顔色悪いよ?」  
「い、いや……」  
「隠さないで? 私達もう恋人同士じゃない。 善吉くんの力になりたいのよ」  
だったら一刻も早く自分から離れて下さいと言いたいがそうもいかない  
困窮を極めた善吉の中で1つの後ろ暗い考えが生まれた  
 
−好きだから言い寄られるなら、嫌われればそれで良い−  
 
一度考えたら中々止まらないのが人間というもの  
名案だと思えば思うほど暴走は歯止めを失う  
善吉の中で生まれた策を、彼は何の躊躇いもなく実行した  
 
江迎がまず感じたのは息苦しさだった  
続いて痛み  
「んくっ……、かっ……、はぁ……。 ぜ、善吉くん……?」  
江迎は乱暴にキスをされ、更に突き飛ばされて転んだのだと気付くのに長い時間を要した  
「お前が悪いんだぜ江迎? 俺という人物を勘違いしてるだろ? お前が球磨川の元箱庭学園に集まりつつある『過負荷』の1人だってのはもう何となくわかってる。 つまり俺達の敵だ」  
「で、でも……。 私達の愛に敵も味方もな……、かはっ!」  
言葉を紡ごうとする江迎の腹部を善吉は踏み抜いた  
「お前は俺を愛してるのかどうかは知らねぇな。 俺が愛してんのはめだかちゃんだしお前には敵愾心しかないよ」  
「そ……、そんな……、うっ!」  
今度は頬を張り手で打ち抜く  
元々肉弾戦に強くない彼女の柔らかい頬からは高い音が響き、その表情からは苦痛が見て取れる  
「だ、だったら……、何でさっきキスしたの……?」  
「決まってるだろ? お前の身体と心を両方ボロボロにするためだッ! 俺はめだかちゃんが球磨川と戦った日から誓ってるんだよ!  
お前達『過負荷』にはめだかちゃんは指一本触れさせねぇてなぁ! そのために俺はこれから……、お前を犯す……」  
ぐにゃっと江迎の視界が歪んだ  
初めて手を差し延べてくれた男に痛め付けられ、更には強姦すると宣告された  
その悲しみは、苦しみは、想像を遥かに超越している  
江迎自身もその大きすぎる苦痛を全て受け止めきれはしなかった  
痛みが感じえる範囲を超越して江迎に伝わっている  
だが、その激痛の最奥で1つ、鈍く光っているものにまだ江迎は気付かない  
この心苦しい脈動の中には、僅かな『期待』が混ざっている事に……  
 
江迎は抵抗しなかった  
否、抵抗すらさせてはもらえなかった  
腐りきった両手の毒手を宛てれば善吉を殺して逃れれるのに、出来なかった  
善吉への恐怖か愛か  
江迎にはわからなかったし、恐らくその両方が入り交じっていた  
さてその善吉はというと無言でその服を破り捨てていた  
片手で江迎の口を封じ、もう片方の手と口を使い、器用に江迎の身を包む布を引き裂いていく  
外気に触れる肌の面積が増えれば増えるほど江迎の感情は恐怖で塗り潰された  
やがて、下着を残して服の全てが取り払われる  
「ぜ、善吉くん……、お願……、やめ、やめて……、ぐっ!」  
何とか口の拘束から合間を縫って言葉を紡ぐも無駄だった  
再び鋭い炸裂音で懇願は打ち消される  
下着を脱がされ、いよいよ江迎は生まれたままの姿へと変貌を遂げた  
身体の幾つかの場所に、善吉からの暴行で付いた痛々しい傷痕が伺える  
善吉は全てを剥ぎ終えるとおもむろに自身を取り出した  
 
「むっ、んんんん〜〜! んむっ、んん!」  
江迎はその目に溢れんばかりの涙を溜めた  
イヤだ、と江迎は思う  
何の慣らしもなければましてや彼女は処女だ  
耐えられるハズなど無い  
だが、善吉は躊躇わない  
躊躇わず、自身を江迎の秘所へと押し当てた  
必死で首を振り、身体を捩らせて抵抗を試みるが、『異常』にも通用する善吉の身体能力に敵うはずなど到底無い  
抵抗を嘲笑うかのように善吉は自身を埋めていった  
「あぐっ! んふーっ、ぐっ、んむぅぅぅっ!」  
熱く、痛く、苦しく、そして悲しかった  
痛み以上の悲しみを含んだ涙が江迎から流れた  
ただ好きだっただけ、一目惚れしただけだというのに  
全力で愛を訴えただけなのに  
江迎の胸は悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて、ただただただ悲しみで満たされていった  
 
善吉はすでに奥に届いている  
強すぎる悲しみで初めてを失った痛みすら感じ得なかった  
江迎の顔は既に涙で濡れきっていた  
悲しい、悲しい……  
だが、江迎はそれからすぐ悲しみ以外の感情が芽生えたのに気付いた  
善吉が、いつまで経っても律動を開始しないのだ  
「……?」  
行為中初めてだろう、善吉は気遣いを見せた  
善吉の中の優しさと甘さがとどめとなる律動を躊躇わせた  
江迎は彼と対面した瞬間を思い出す  
そうだ、彼は手を差し延べてくれたのだ  
抱き上げて壁を走るというファンタジックな芸当でここに連れてきてくれたのだ  
あの時の優しさは幻想ではない  
悲しみで埋め尽くされたその胸にほんわりと、暖かくて優しい喜びが生まれた  
痛みはとうに失せ、秘所には潤いが満ちてくる  
その表情は相も変わらず悲痛だが、僅かな微笑みも混ざっていた  
その内、善吉の律動が開始された  
「うっ、うっ、うっ、んんん〜〜!」  
突かれ、引かれ、また突かれる  
極単純なピストン運動が江迎を満たしていく  
喜び半分、悲しみ半分  
いつしか江迎の最奥で燻っていた喜びの火は悲しみを焼き払い始めていた  
痛い、その分気持ちいい  
やがて、ドロリと熱い感覚が彼女を満たしたとき、彼女も全てを解き放ち、強い快感と共に深いまどろみへ沈んで行った  
 
「ハァッ、ハァッ、ハァァァァァァァッ……!!」  
屋上を後にした善吉は震えていた  
いかに『過負荷』とはいえ女性を殴り、蹴り、揚句強姦まで行ったのだ  
計り知れない罪悪感が善吉にのしかかっていた  
(いや、あの女は敵だ……。 一切の情けもかけちゃいけない。 徹底的に『過負荷』を潰した……、アレで良かったんだ)  
善吉が取った行いは人道からは遥かに外れているが、自分とめだかを守る為の行動としてはある意味最上だったろう  
だが一つだけ、彼はミスを犯してしまっている  
罪悪感に苛む善吉は、それに気が付かなかった……  
 
場所を変えて屋上  
未だ、眠りから覚めない全裸の少女がそこにいた  
その少女は幸せそうに、ただ善吉の名を眠りながら呟いていた  
 

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