翌朝、登校中も善吉の頭の中は江迎のことで満たされていた  
(どうやって帰ったんだろ? 死んだりしてないよな?)  
善吉は屋上に転がる死体を想像するだけで身震いがした  
学校に着くと同時に善吉は走り出した  
ただ、屋上を目指して走る  
江迎が心配で心配で胸が潰れそうだった  
 
−−「『あれ? 善吉ちゃん』」−−  
 
ビキィッ……!  
善吉の頭に頭痛が走った  
声のする方を振り返れば、黒い学ランに身を包んだ自分達より2つ歳が離れた少年の姿が見える  
善吉にとっては宿敵とも呼べる相手、球磨川禊  
「く……、球磨川……」  
「『あはっ☆ やっぱり善吉ちゃんだ』」  
「ど、どけよ……」  
「『地下以来なのに随分ご挨拶じゃない。 僕達も知らない仲じゃないんだからさ』」  
「どけろっ!」  
「『悪いけどそれは聞いてあげられない。 クラスメートが君に用事があるんだってさ』」  
「クラスメート……?」  
「『そうでしょ? 怒江ちゃん』」  
「……ッ!」  
善吉の呼吸が一緒止まった  
球磨川の影から江迎が姿を見せる  
その表情は、昨日と同じく『過負荷』そのものだった  
「え……、江迎……」  
「『善吉ちゃん昨日スゴイことしてたんだね。 でも、慣れないことはしないものだよ? 誰も傷付けられない、お人よしな善吉ちゃんのことだしきっと震えてたんじゃない?』」  
「……」  
「『図星でしょ? 相変わらず情けないなぁ』」  
「……、まれよ……」  
「『え?』」  
「黙れよ球磨川……。 江迎連れて何の用だ」  
「『だーかーら、怒江ちゃんが君に用がある、って言ってたから連れてきただけさ。 僕はこれから授業サボって本屋さん行くつもりだし。 それじゃ、また明日。 あ、そうそう。 昨日のは僕が戻しといたから心配しないでね☆』」  
それだけ言うと球磨川は江迎を残してその場を去る  
僅かな時間会話しただけなのに善吉の胸にはどんよりとした黒い『禊』が打ち付けられた  
それこそが、球磨川禊という男であることは充分理解しているが、それでも球磨川の言葉は怖い  
 
「善吉くん……」  
球磨川に気をとられた善吉は残されたもう一つの『過負荷』に気を向け直す  
昨日から善吉を悩ませる少女だ  
昨日善吉は彼女に暴行を働き、揚句強姦までして彼女を痛め付けた  
彼女の頬に付いていた紅葉型の痣は綺麗に消え失せている  
「な、何だよ……?」  
「善吉くん、私について来てくれるよね? 私、触れないから引き擦っては連れて行けないから貴方の足でついて来て」  
「……くっ!」  
付いていかざるを得なかった  
この少女に対する罪悪感が最高潮に達した善吉は、今や彼女の言葉に逆らえない  
自分の中に渦巻く優しさという甘さをこの時ばかりは強く怨んだ  
 
しばらく足を揃えて歩けば、昨日と同じ屋上にたどり着いた  
「善吉くん……。 勿論、この場所は覚えているよね?」  
朝日で屋上は照らされ、南から吹く生温い風が2人の間を駆ける  
昨日と同じ、しかしまた違った景色が映り、違った時間が流れる  
「善吉くんが昨日、私をボロボロに痛め付けた場所だよ? もし球磨川さんが見付けてくれなかったら私、死んでたかも」  
「……」  
ズキリと胸の奥が痛んだ  
今、江迎に言葉にされたことで大きく膨れ上がっていた罪悪感が善吉の内側で弾けて彼の心を大きく傷付けた  
何て身勝手な痛みだろうと善吉は思う  
思えば思うほど善吉の心の傷は増えていった  
「でもね。 善吉くんはやっぱり優しいんだよ」  
江迎の言葉でズキズキと疼いていた胸が急に穏やかになった  
優しい、この少女は何を言ってるんだろう  
「私、確かに痛くて悲しくてしかたなかった。 でもね、善吉くんは最後に私を気遣ったでしょ?」  
それは違う、勝手に押し倒し勝手に挿入したのは善吉なのだから  
「ホラ、今だって善吉くんは私の為に泣いているでしょ?」  
善吉はそっと自分の頬に手を置いた  
手が濡れたのを感じた  
彼の腰から力が抜け、その場に彼は力無くへたりこんだ  
「優しいね、善吉くん」  
言葉から深い愛情を感じた  
敵わない、と善吉は思った  
「でもね、私がここに呼んだのはそんなつまらない話じゃないの」  
「……、は?」  
「昨日の、仕返し」  
優しく笑うと江迎は善吉にのしかかり、強引にその唇を奪った  
 
柔らかく、優しいキスが善吉の唇を覆った  
ちゅっ、と可愛らしい音がする  
ただ触れているだけのキス  
善吉は最初、何が起きたか全く理解出来なかった  
やがて、自分は昨日彼女にしたことをされているのだと理解した  
「ぷはっ!」  
江迎は自分から仕掛けたキスに緊張して呼吸すら忘れていたようだ  
下手くそなキスだと善吉は思う  
「えへへ、善吉くんにキスしちゃいました。 でも、これくらいで緊張しちゃダメだよね、うん」  
「えっと……、江迎?」  
「もう! 怒江って呼んでって言ったでしょ?」  
江迎は照れながら善吉に笑いかける  
その顔をそのまま善吉の中心部へと持っていった  
その小さな口でチャックを掴もうとしているらしい  
「なっ、ちょっ」  
「あっ! 動かないで善吉くん!」  
「えっ、す、すみません……」  
怖ず怖ずと善吉は元通り寝転がる  
付き合ってすらいない、ましてや幼なじみですらない少女に尻に敷かれるなど情けない話だと彼は思う  
江迎は不器用ながらも何とかジッパーを下ろし、彼自身を取り出した  
「わっ、大きい……。 昨日コレが私の中にあったなんて信じられないなぁ……」  
「うっ……」  
「あっ、勘違いしないでね。 責めてるわけじゃないから。 というか私が善吉くんを責めるはずないし」  
優しげな声で囁くと江迎は善吉をゆっくりと舌で舐める  
つっと滑らかに、柔らかに  
やがて、口全体で包み込むように江迎は善吉に奉仕を施した  
暖かい咥内に善吉の身体はびくびくと跳ねた  
上手くは無い、むしろテクニックと呼べるものは皆無だろう  
だが、その拙い舌使いが善吉の身体に刺激を与えていた  
その必死で一心不乱な表情が善吉を煽った  
「んっ……、くふぅ、はぁ……。 ん……? んむぅ……」  
江迎は咥内に昨日感じたドロリとした熱い液体を感じた  
美味しくはなく、強烈な風味を江迎はその舌で感じた  
「うっ……。 苦いけど……、これが善吉くんの味なんだね……」  
目をつむり、コクッと白い喉を鳴らして飲み干す  
「うん、喉越しはちょっと悪いけど……、美味しいよ」  
無理をしているのは善吉の目からも明らかだ  
だが、無理をしようと思えるくらい自分は愛されているのだと思うと善吉の心に突き刺さっていた棘が抜けていく  
 
江迎は善吉の上に跨がった  
ゆっくりと腰を降ろし、善吉を自分の体内に埋めていく  
やがて、半分ほど埋まると覚悟を決めたかのように奥まで押し込んだ  
「……ッ!? あっ、あぁ、くっ、ひゃああああああああんっ!!」  
その瞬間、江迎の口から甘ったるく、鋭い矯正が響いた  
きゅううっと、江迎の体内が狭くなる  
「え、江迎!?」  
「ふぁ……、ぁん……、だ、大丈夫だよ善吉くん……、ひゃあ! き、昨日より気持ちいい……ッ!」  
狂ったように江迎はその律動を開始した  
「ひぅぅん……、善吉くぅん……、とま、止まらないよぉ……、あっ!」  
引き、再び腰を打ち付ける瞬間を狙って善吉も腰を上げる  
「ひゃあっ!? ぜぜぜ善吉くん……?」  
「くっ……! こんなの、卑怯だぞ江迎……」  
「ぜ、善吉くんこそ突然動かして……、ひ、卑怯だよぉ……、あぁん!」  
2人はリズム良く互いの腰を打ち付け合う  
「くっ、江迎……。 そろそろ」  
「わ、私も……、あっ、あっ、あぁぁぁん!」  
2人はこうして……、果てた  
 
 
 
1時限目の開始までには何とか身支度を整え、善吉は江迎と別れて席に着いた  
相変わらず不知火の出席は無く、代わりに瞳が着席していた  
授業が始まっても善吉の頭には何も入って来ない  
先程の行為が思い出されて善吉は終始放心状態であった  
「どうしたの善吉? アンタって朝弱かったかしら?」  
42歳の少女……、もとい母親に心配されるほどの放心である  
(……、ちくしょう……。 俺が好きなのはめだかちゃんだろ……? たった1回優しくされて、1回強姦して、1回和姦みたいな強姦されただけだろ? 何だってこんな……、胸が落ち着かねぇんだよ……)  
 
fin  
 

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