あたしは一人、いや、独りだった。
何をするにも独りぼっちで、まあ、孤独な幼少時代ってのを過ごしてた。
誰かに興味を持つことなんかなかったし、他人があたしに興味を持つこともなかったと思う。
別段、周りに溶け込むつもりもないし、溶け込みたいとも思ってなかったけどね。
誰かに好かれたいわけでもないし、誰かを求めるわけでもない。それがあたし。
……むしろ、好き好んで独りになろうとしていた気もする。
しかしまあ、あたし的に言えば、それが普通だった。
「……ふ、んぅっ」
あたしにとって、他人の存在なんてそこらへんに転がってる石ころみたいにちっぽけで、どうし
ようもなくどうでもいい存在でしかない。
もしあたしに構う奴がいたならば、適当に相手をして、適当に振る舞っていればそいつはあたしから離れていく。
それがあたしにとっての普通だったはずなのに。
あいつは、あいつはだけは、あたしのことを、"友達"だなんて言いやがった。
その時のあたしは"はぁ?なんであんたなんかと"って思ってた。
いつものように適当にふざけてれば、そのうち呆れてどこかに消えるだろう。
なんてことを思ってたんだけど、そうはならなかった。
なんか知らないけど、あいつはあたしが意地の悪いこととか言ってても笑ってんの。
たくさんたくさん嫌われるような言動とか行動もしたのに。
それでも、あいつは笑ってる。自然と話しかけてきやがる。
ああ、なんか悔しいって思った。
なんであんたはあたしのこと見て笑ってんのとか思ってた。
だからあたしは、何度も何度も何度も、遠回しに"どっか行け!!"ってあいつに叫んでた。
……はずなのに。
いつからだろうか。あたしの心は、
「……っ、ふ、ひゃっ」
──不思議なキモチに包まれてた。
ナニコレ?
あいつが笑うだけで、ほんのりと胸の辺りが熱くなる。
意味がわからなかったけど、悪くないカモ、って思ってる自分がいた。
「……はっ、んん、んぁっ」
あいつと話をしてるだけで楽しかった。
今まで一度として芽生えたことのない感情だとも自覚してた。
良いオモチャを見つけた子どもみたいに、あたしははしゃいでた。
あたしがくだらないことを言って、あいつがそれに適当な突っ込みを入れたりして。
ただそれだけが、ひたすらに愉快だったんだ。
たまにお嬢様があたしとあいつの話の邪魔をしてきて、なんかビビッと来た。
あいつらバカ共は、どうにも切れない糸で結ばれてる。
なぜだかそれが無性に腹立たしかったから、仕返しにあいつらの会話を邪魔したこともあった。
「……んぅっ、いっ……く……」
今思えば、あれは子どもっぽい独占欲だったんだな、とちょっと納得。
いや、それは現在においても大して変わんないんだけどね。
むしろ、以前よりもその感情は膨れ上がってるかもしれない。
ともかく、最近になってようやく気付いた。
あたしはやっぱり、"友達"なんていらなかった。
あたしは、あいつだけ側にいてくれれば、それで良いんだ。
だって、あいつはあたしの大事なオモチャだし。
お嬢様にも、誰にもやらない、あたしだけの、オモチャだもん。
……だからこそ、邪魔者は排除しなきゃならないって、気付いちゃった。
もう、決めた。決定した。
あたしと、あいつの間にある障害は喰らい尽くす……全部、ぜんぶ……。
例えそれが、あいつを傷付けても、あたしは。
「……はぁ…………はぁ……善吉ぃ……」