ある日の生徒会の話である。  
まだ生徒会が2人しか所属していなかった時の話だ。  
人吉善吉は今日も生徒会執行部に向かう途中であった。  
「全く……最近はどんどん依頼が増えてきやがって、こっちもそろそろ疲れてきたっつーの」  
首の骨を鳴らしながら、廊下を気だるそうに歩いていく。  
「カッ! 少しはこっちの苦労も考えてみたらどうだって話だよな」  
誰に対してかもわからぬような愚痴をこぼしつつ、人吉は生徒会執行部のドアを開ける。  
「めだかちゃんの方が早かったか……っておいなんだこの光景は!」  
人吉が目にしたものは、生徒会長の黒神めだかである。  
ただ、格好は下着だけで、椅子に座った状態で目を閉じている。  
「どうしてそう脱ぎたがるんだよお前は!」  
反応がなかったことから、どうやら寝ていると判断した人吉はずんずんと近づいて、目の前で怒鳴り散らす。  
めだかの意図はわからないが、どうやら服を脱いで人吉を待っている間に寝てしまったようだ。  
「ったく……こちとら健全な高校生だっつーの」  
自分が赤面していることを自覚しつつ人吉はそっぽを向きながら呟いた。  
2歳の頃から幼馴染といっても、未だにこの露出には慣れていない。  
「……にしても、めだかちゃんでも疲労が溜まってるってことなんかな」  
人吉は腕を組み、もう一度めだかの寝顔を見る。  
自分と同い年のこの女は本当に色々なものを背負っている。  
人類皆家族という馬鹿げた座右の銘を、本当に実行しようとしている馬鹿げた女である。  
その側に在りたいと願った人吉は、ため息をつく。  
「俺がもっと助けてあげられたらいんだろうけどよ……」  
どうやら今日は独り言が多い日のようだ、と人吉は思った。  
「カッ! くよくよしてるなんて俺らしくもない。それよりさっさと今日の仕事をやっちまうか!」  
そう言って肩を勢い良く回すと目安箱の方へ足を運ぶ。  
「……なんだ襲わないのか。つまらん」  
その言葉にピタっと動きが止まる人吉。  
ギギギと首だけを動かすと、扇子を広げていつもの尊大な態度をとっているめだかの姿があった。  
「な……い、いつから起きてやがった!!」  
「始めからだ。この私がこの程度の忙しさで疲れるとでも思っていたのか。」  
意味もなくポーズを決めながら、めだかはさも当然というふうに答える。  
「せっかくの労いのつもりで、こんなおいしいシチュエーションを用意したというのに、食指も動かないだなんて、結構なショックなのだぞ?」  
「うるせぇ! 人に節操なしみたいに思ってんじゃねぇよ!」  
本当は、何度も本能が理性を上回ろうとしていたのだが、気取られまいといつも以上に怒鳴る人吉。  
「あーもう! 今日は帰らせてもらうぞ! やってられっか!」  
自分の思い上がった考えに恥ずかしさがこみ上げてきた人吉は、早足でドアに向かう。  
 
「助けられてるよ、私は。」  
 
その声に人吉はまた動きが止まる。  
「お前にはいつもいつも助けられている。 今までも、そしてこれからも私を助けてくれ」  
おおよそモノを頼む態度でない姿でめだかは言う。  
背中を向けていた人吉は拳をわなわなと震わせてしばらく立っていると突然振り返った。  
「カッ! そうだよ俺はお前が心配だし、ずっとお前を助けてやるって決めたんだよ! いいからさっさと仕事終わらしちまうぞ! それと服着ろ!」  
そういって人吉は目安箱の蓋を開け、溢れ出るほどの紙を机にぶちまける。  
「ったく……よく平気であんな恥ずかしいこと言えるよな……」  
ぶつぶつと、呟きながらなるべく難しく動物関連の依頼を探す人吉。  
「善吉」  
「なんだよ、めだかちゃん」  
「だーいすきっ!」  
「だから服を着ろよ! 抱きつくな! キスをしようとするなぁぁぁ!!」  
今日も生徒会は、いつも通り異常である。  
 

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