「跪け!」
目の前の男の体が地べたに吸い付いた。
よかった〜、成功だ。
実はこの前やって失敗したんだよな。
誰にも見られてなかったからよかったものの、もし誰かに見られていたら俺の地位が脅かされるところだったよ。
それもその相手が小学生だなんて知られたらどうしようもないだろうな。
俺の威厳は地に落ちてしまう。
黒神めだかが後ろにいた。
気が付かなかったが行橋のおかげで対応することが出来た。
お前には感謝している。
「平伏せ」
緊張の一瞬。
黒神めだかに効くかどうかは賭けだったが、全く問題なく、俺の言うとおりになった。
それも頭から地面にダイブしたからかなり心配したが大丈夫な様子で安心した。
テンパって忘れる前に一言掛けておこう。
「お前を俺の妻にしてやろう」
俺は黒神めだかに顔を近づけて行く。
意外にもめだかの頬は真っ赤に染まっていく。
おおおおおっ!!
か、かわいいっ!!
この女を自由に出来るのか!?
俺は。
すっげーラッキーじゃん!
だが、この前の小学生みたいに言うことを聞かない可能性も消せない。
早いとこ俺の女にしちまおう。
「この王野郎!!」
さっきまで跪いていた男が立ち上がり俺に攻撃しようとした。
その男の動きを行橋が制してくれる。
ビビッて動けなかったのが幸いしたな。
ふう、行橋のおかげで助かったよ。
心の中で礼を言っておこう。
男はジタバタしているが、振り解く振りをしているだけのようだ。
目的は行橋の胸を堪能することだろう。
なんだ、ただのロリコンか。
なら行橋に任せておいて問題はない。
そのまま、もがいている振りをして行橋の体を触り続けるだろう。
それに行橋は気をきかせて「王土に攻撃していたらお前はもう死んでいる」みたいなことを言ってくれた。
ありがとうよ、行橋。
これである程度の牽制はできたわけだ。
キスは出来なかったがしょうがない。
今これ以上この男を刺激して暴れられたらヤバイからな。
もういいや。
今日はデートの誘いだけしておこう。
俺は目安箱に投書しようとしていたラブレターを渡した。
この手紙には『今度デートしよう』と偉そうに書いてある。
何で偉そうかと言うと、もちろんそれが俺のキャラだから。
今更変えられないっていうのが一番の理由だ。
自分で王とか言っちまって、偶然が重なって色んなやつに勝ってきたわけだが、もう突き通すしかなくなってしまった。
フラスコ計画ってやつも流されるまま受けちまって失敗したからな。
早いとこ抜けようとしたんだが、あの人の惨状を見たら俺は抜けられなくなってしまった。
今はデートのことだけを考えておくか。
邪魔さえ入らなければ黒神めだかは俺のもんだ。
今日聞いたからたぶん大丈夫だと思うけど……。
明日は効かなかったらどうしよう……。
デート当日。
黒神めだかはあの時、一緒にいた男を連れてきた。
その上なぜか二人とも俺の『言葉の重み』が効かなくなっている。
今日は俺の味方は誰もいない。
怒って帰れば理由も付くかもしれない。
「気分が悪い。今日は帰る」
俺がそう言うと黒神めだかと一緒にいた男は驚いていたが放っておくとしよう。
無理に何かを話すと俺のことがバレてしまう。
二人から俺の姿が見えなくなった頃、俺は後ろから声を掛けられた。
振り向くとこの前俺の言うことが効かなかった小学生がいた。
「都城王土ちゃん」
そいつは俺の名を知っていた。
そして、ちゃん付け。
俺の本性がヘタレだと知っている…だと!?
俺はこいつの言う通りに動くしかないようだ。
何者かと尋ねると『不知火半袖』という名で、フラスコ計画の試作品らしい。
俺の『言葉の重み』は通じないが、この不知火という体格は小学生だが自分のことをピチピチの女子高生だと言い張るコイツの言葉に俺は逆らえない。
圧倒的に不利だった。
どうしようもなかった。
そうして俺は不知火半袖の言うことに絶対服従のただの傀儡となった。