善吉がもがなにキスされた翌日。善吉は不知火と一緒に食堂に来ていた。昨日の口止め料として昼ご飯を奢ることになったのだ。
「昨日も結構奢ったってのに……その小さい体の何処に入るんだ?」
「乙女の秘密ってことで」
もきゅもきゅという擬音と共にジャンボラーメンを飲み込む不知火。満足したのかイスを立ち上がる。
「そんじゃ、口止め料貰ったので生徒会長には言わないでおくよ」
不知火の言葉に心から安堵する善吉。しかし不知火はニヤリッと不適に笑い……
「ところで……これなーんだ?」
……取り出したのは写真だった。
「それは!」
それは間違いなくもがなと善吉のキスシーンの写真だった。
「生徒会長に言わないけどさ、これ引き伸ばして校門の所に置いたらどうなるかな? いや他意は無いよ? ただ、もしかしたら生徒会長の耳にも入るんじゃないかなーって」
「……何が望みだ」
「放課後付き合ってくれる?」
「……分かった」
善吉は二日連続で財布がからっぽになるのかと憂鬱になった。
「それで? 何処まで行くんだ?」
放課後、不知火に連れられていく善吉。今日は何奢らされるのかなーなどと考えていると、どうやら不知火が向かってる場所は下駄箱ではないようだった。
「おい不知火? 何処に……」
「ちょっと黙ってて」
不知火が発した声はいつものお気楽なものでなく、何か鬼気迫るものがあった。
「ついた。ここに入って」
不知火が立ち止まった場所。それは今では使われてない空き教室だった。
「なあ、ここで何を」
「入って……」
「うっ、分かった……」
不知火の迫力に大人しく空き教室に入る善吉。不知火も続いて入り、扉の鍵を閉めた。
「なあ、不知火、そろそろ目的をって! 何してるんだ!」
善吉が驚くのも無理はない。振り返った時、不知火は制服を脱いでる最中だったのだ。
「人吉……抱いてくれない?」
服を脱ぎながら淫靡に微笑む不知火。見た目が子供なのでそれ程ダメージは無いが、これでめだか程のスタイルだったら間違いなく魅入っていただろう。
「私ね、人吉のこと一目見た時から気に入ったんだ。でも傍にはいつも生徒会長がいた。だからね、言っちゃなんだけどチャンスだと思った。この機会を逃したらもう人吉を手に入れることが出来ない。そう思った」
不知火がしている表情は今まで善吉が見たことの無い必至な表情。こんなに必死な彼女の思いに報いてやりたい。お人好しの善吉はそう思う。しかし、男としての善吉はめだかが好き。彼女の思いに報いてやれない。
「俺は……」
「分かってるよ。人吉が生徒会長が大好きってことは。だから、お願い。私の初めてを貰って。善吉の初めてを頂戴。それだけでも、私はいいから」
そう言った不知火の顔はとてもとても辛い顔をしていた。自分に嘘をついている。納得してない。
善吉が欲しい。めだかのことなど関係ない。私のものにしたい。それでも妥協しようとしている。それだけでもどれほどの苦痛だろう。
善吉は分かっている。これで断ったら不知火はどれほど悲しむか。しかし不知火も分かっているだろう。人吉善吉という男が、決して人を簡単に抱かないということを。抱かれて何より悲しむのは、不知火自身なのだから。
「お願い……抱いてよ」
それでも不知火は願った。自分が傷つくと知っていても、その思いを抑えきれないのだ。
「俺は……めだかちゃんが大好きだ。でもな……」
善吉はゆっくり不知火に近づき、自分のブレザーを不知火に掛けた。
「お前のことも好きだ。けれど、抱くことはできねえ。大切だからこそ抱けない」
善吉はそういい、脱ぎ散らかされた不知火の脱ぎ散らかされた制服を集め始めた。
「お前のことはめだかちゃんの次に好きだ。だからめだかちゃんに振られた時にそう言ってもらえたら俺は喜んでお前と付き合うかもな。まあ、それどころじゃないかもしれねえけど」
「振られて傷心の男を狙うような卑怯な女に見える?」
「見える」
などと苦笑を交えながら善吉がいい、しゃがんだ状態で制服を置く善吉。その時、不知火の目がキラーンと光った。
「ほら、さっさと着替え」
「善吉!」
「ん?」
顔に近づく不知火の顔。避けること叶わず。
「んんんんんん!」
昨日に引き続き、唇を奪われた善吉君であった。
【めだか退院まで後5日】
続く?
おまけ
(ダーリンどういうことや!? ウチというものがありながらあんなチビッ子とキスするんなんて! これはお仕置きが必要やな)
さてさて、勘違いの柔道娘に覗かれていたお二人さん。この柔道娘の物語が書かれるかどうかは作者次第? いや、望む人次第でしょうかね?