「るきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきるきる斬!!」
右手の刀と、両腕に3本ずつ刺さった小太刀。とても正気の沙汰とは思えない。
だがその『死地点抜刀』に善吉は追い詰められていった。
贄波生煮の7本の刃が閃く度に、善吉は切り刻まれていく。ふらついて尻餅をついた。
「他愛無いな、所詮きみは三流だ。終わりにしよう」
生煮は表情一つ変えず、冷徹に刀を振り下ろしてとどめを刺そうとした。
だが、その腕がぴたりと止まった。生煮の意思に反してぶるぶる震えだす。
「な、何!?」
右腕だけではなく左腕も震えだした。その震動で、両腕に刺さっていた
6本の小太刀が押し出されて抜ける。次々と地面に落下して金属音を立てた。
「こ、これは一体……はぐぅ!?」
体内を何か駆け巡る感覚がするや、ごきりと嫌な音が、体の数箇所で起こった。
肩、肘、膝、手首、足首などの主要な関節がはずれたのだ。
そしてその謎のエネルギーは、彼女の体の外部めがけて放出された。
ぱあんという衝撃とともに、生煮のセーラー服や下着が粉々に千切れ飛んだ。
もう立っていられない。彼女は崩れ落ちて、大の字に倒れる。
その様子を見て、ほっと一息ついた者がいた。虎居砕である。
「ふう、やっと効きましたか」
「き、貴様……一体何をした……」
「八卦掌の発勁ですよ。先程、あなたの腰に叩き込んだやつです。
普通の人間ならあの一発で立ち上がれなくなるんですけどね。
あなたの場合、腰骨が外れても戦い続けていましたが、
なまじ耐え抜いて外部にエネルギーを逃がさなかったために
あなたの体内を循環して力が増幅し、こういう形で爆発したわけです。
しかしやはり一撃で倒せないあたり、私もまだまだ修行が足りませんね」
「いーやそんなことないですよ、虎居先輩。さすがですね。
こんな北○神拳みたいな真似ができるのはあなただけです」
善吉に褒められ、虎居はぽっと頬を染めた。
「け、敬語はやめてください、人吉会長!それよりこの子、どうするんですか?」
「もちろん、めだかちゃんの行き先を吐いてもらうのさ」
善吉は、全裸で大の字に倒れたまま動けない生煮に近寄った。
生煮は怒りに満ちた目で善吉を睨みつけた。裸を晒された恥じらいなど見られない。
敗北の屈辱が羞恥心をはるかに上回っているのだろう。
「殺せ」
「そうはいかないさ、めだかちゃんと他の婚約者達の情報を話してくれるまではな」
「何も話すことはない、殺せ」
「しょうがねえなあ、俺も使うとするか。とっておきの俺の刀」
そして善吉はしゃがみこむと、大きく口を開けた。そして生煮の肩口に噛み付く。
「なっ…あっ、え!?ぎゃああああああああああ!!!」
思いもよらぬ攻撃。思いもよらぬ痛み。生煮は我も忘れて絶叫した。
「虫歯なんて1本も無い28刀流だぜ!てめえの刀と違って切れ味悪くて悪いけど
てめーの肉の味もうまくはねーからお互い様だな!!」
「いいいい痛い痛い痛い痛い!!やめてやめてやめてやめてやめてやめて―――!!」
先程までの冷酷な表情も吹き飛び、生煮は恥も外聞もなく叫んだ。
そんな彼女を嘲笑しつつ、名瀬夭歌は声をかける。
「鋭い刀の痛みには澄ました顔の彼女さんもよー、鈍い刀の痛みだったらどうだろうにゃー。
痛かったら音を上げてくださいねー」
名瀬の言う通りであった。鋭い刀で一瞬で斬られた切り傷は、筋肉がすぐ収縮する為、
意外と痛みは少なく、歯が食い込む噛み付き攻撃を続けられる方がはるかに苦痛が激しい。
それに『陰険道』を極める為に無数の刀傷を受けてきた生煮にとっては、
「斬られる」ことには慣れていても、「噛み付かれる」というのは
未知の痛み、未知の恐怖だったのである。
「ぷはぁっ!」
息をつくために善吉が口を離した。生煮の肩口にはくっきりと歯型がつき、血がにじんでいる。
「はぁーっ!はぁっ!はぁぁっ!」
生煮も荒く息をつく。噛まれた肩の痛みが去らない。ずきんずきんという痛みが波紋となり、
逆に体の中に苦痛が浸透していくようだ。
「あ………う、ああ…………!」
ぱくぱくと口を動かすが言葉にならない。苦痛で頭がパニックだ。何を言えばいいかもわからない。
「まだまだ、めだかちゃんの居場所を言うまでは許してやらないぜ」
善吉は再び口を開けると、形よく膨らんだ生煮の右の乳房に歯を近づけてゆく。
「だ、駄目っ!……そこはっ……あ"あ"あ"あ"ああああああああ!!!」
生煮の悲痛な絶叫が、再び青空にこだまする。
善吉は肩口にした程、長くは噛み付かなかった。時間にすればほんの5秒ほどだ。
しかし女性にとってもっとも敏感な部分への攻撃は、生煮に大ダメージを与えた。
「痛い痛い痛い!!やめてやめて!!……あ……ぎっ!ぎゃあああああああっ!!!」
一瞬の間があって、生煮が三度目の叫び声を上げる。
右の乳首を離すや、すかさず善吉が左の乳首に噛み付いたのだ。
生煮は、関節を外されて動かすこともままならぬ全身を痙攣させて、悶え苦しんだ。
善吉がようやく口を離した。両の乳首には肩口同様に歯型が残され、
すすり泣くかのようにぴくぴくと乳首が震えていた。
「ああっ……うう……う……」
噛まれる。食われる。食い殺される……。原始的な本能の恐怖が彼女の心を覆い尽くす。
だがそれでもなお、善吉は攻撃の手を緩めなかった。
「まだ吐かねえのか、どうなっても知らねえぞ!」
言いながら善吉は、生煮の両足首をつかむと、がばっと広げた。
「ああっ!」
生煮の弱々しい悲鳴とともに、乙女の花園が善吉の視線に晒された。
陰険道一筋に生きてきた生煮はもちろん処女である。秘肉は綺麗なピンク色だった。
「やめてっ…見ないで…!」
心が弱くなれば、人並みの羞恥心も甦る。彼女の顔が、かあっと赤く染まった。
しかし善吉はすっかりスイッチオン状態だった。めだかの敵は誰であろうと容赦しない番犬モードだ。
ためらい一つなく、善吉は丸見えになっている生煮の股間に顔を近づけてゆく。
言うまでもなく、次のターゲットはクリトリスだ。
(そ、そんなところ噛まれたら……痛いのと、恥ずかしいのとで……死んじゃうっ…!)
生煮の心は完全に敗北していた。瞳から涙がこぼれ落ちると同時に、
生まれて初めてのしおらしい言葉が、自然と口を突いて出る。
「お願い、やめて………そんな乱暴にされたら、傷が残っちゃう……」
あまりの豹変振りに、名瀬が思わず白目を剥いて吹き出した。
虎居砕も、江迎怒江も、鰐塚処理も同様に呆気に取られている。
しかし一番困ったのは善吉だ。数分前までは、狂気の殺人マシーンのようだった相手が、
突如目を潤ませて許しを請う、ただの可憐な女子高生になってしまったのだから。
しかも自分はその全裸の少女の足首を持って、左右に大きく広げているのだ。
元々女子には優しい男である。今度は善吉が真っ赤になる番だった。
「す、すまねえ!ちょっとやりすぎちまったみたいだ!ごめん!!」
慌てて後ろを向くと、ボロボロの制服の上着を脱ぎ、肩越しに放り投げる。
制服は、まだ大の字で倒れたままの生煮にふわりとかかった。
「と、虎居!彼女の関節を入れてやってくれ!」
「承知しました。でも相変わらず甘いですね、人吉会長」
言いながら虎居は生煮の体を抱き起こし、彼女の関節を元に戻し始めた。
「く、うっ…!」
ごきりと音が鳴る度に、苦痛を伴いつつも生煮の体は自由に動くようになってくる。
だがようやく体を動かせるようになった彼女が見たものは、
両の乳首に無残に残された、獣の牙の痕跡だった。善吉の歯型が深く刻まれている。
生煮の瞳から、再び涙がぽろりとこぼれ落ちた。
「私、傷物になっちゃった………もうお嫁にいけない………」
善吉は、心臓を鷲掴みにされたような思いだった。全身に冷や汗が流れる。
数分前までは殺す気満々の敵だったとか、さっさと白状しないからだとか
どうとでも言い訳は出来る。だがその言い訳ができないのが人吉善吉という男だ。
女の子を泣かせるのは、どんな理由があってもやってはならないことなのだ。
「悪かった、本当に悪かった!もし本当に傷が残ったら、俺が嫁にもらってやる!」
「………ほんと?」
「本当だ!嘘はつかない!絶対に責任は取る!………でもその代わりと言っては何だけど…
めだかちゃんの居場所をそろそろ教えてくれないかな?」
「わかった………約束、守ってね」
そして軽はずみな発言をし、あちらこちらで余計なフラグを立ててしまうのも、
人吉善吉という男なのであった。
生煮は素直にめだか達の居場所や、他の婚約者達の情報を白状した。
抵抗する気など当に失せていたし、それに何より、彼女の中には「嫁にもらってやる」の
善吉の一言のおかげで、全く新しい感情が芽生えていた。
善吉を見る視線は優しく、頬もほんのり桜色に染まっている。
もう裸を見られるのも恥ずかしく、善吉の制服で体をきっちり隠していた。
しかし当の善吉は、生煮の劇的変化に気づくこともなく、意気揚々と立ち上がった。
「よし、めだかちゃん達の居場所はわかったぜ!次の目標地点は南極だ!
さてどうやって行ったものか………って、江迎? お、お前何やってんの?」
驚くのも無理はない。江迎怒江が生徒会服の胸元を緩め、右肩を露出していたからだ。
「人吉君、私の肩にちょっと噛み付いてもらえないかな?」
「はぁ????」
「だって傷物になったら、人吉君が責任取ってくれるんでしょ?
人吉君のお嫁さんになれるんなら、私、傷物になってもぜーんぜん構わないよ、うふっ」
「いやだからそういう意味じゃなくてさっきのはいわゆる男としての……と、虎居?」
「江迎会計、ずるいですよ!まだ早いと思ってましたけど、そういうことでしたら
私も喜んでこの身を人吉会長に捧げる所存です!」
「自分は阿久根殿が……いえ、生徒会書記としては自分も参戦するのが義務でありましょう!」
「つーわけだ善ちゃん。花も恥じらう乙女が四人、肩をさらけ出してウェルカムしてるんだ、
心ゆくまで噛んでもらおうか、っつーか、さっさと噛め!」
「鰐塚の名瀬師匠まで!?え、何これ!?日本って一夫多妻制だっけ!?」
こうして立てたフラグが次々と花を咲かせ、知らぬうちに一大ハーレムを築いてゆくのもまた、
人吉善吉という男なのであった。
(END)