「くっ・・んむぷっ・・・」
薄暗い部屋の中、蛇籠飽のこもったような声が響く。
ぬちょぬちょと、口に含んだペニスを出し入れする度に漏れるその声には、苦しみと悔しさがあふれていた。
必死になってフェラチオを続けている蛇籠に向けて、部屋の一隅から罵声が飛ぶ。
「おら、もっと気合入れてしゃぶりやがれよ、生徒会長サマよぉ。でねーと大事なお仲間がもっとひでー目に遭うぜ?」
その声に呼応するかのように、新たな悲鳴が上がる。
「ひっ!いやあっ」
「ダメッ!ダメ、もう、許してぇっ!」
口中に肉棒を頬張ったまま、蛇籠がそちらへ視線を向けると、般若寺憂と練兵癒を組み敷いていた男子生徒達が、再度、腰の
抽送を開始していた。
むき出しになった二人の女性器へ向けて、ずこっ、ずこっと容赦なく打ち付けられるペニスを見て、蛇籠はあわてて口を離して
立ち上がると、声の主へと叫んだ。
「おっ、お止めなさい!わたくし一人が犠牲になれば、彼女達にはこれ以上手を出さないという約束でしょう!?」
「わかってりゃいーんだよ。ほら、さっさとしねーとそっちに転がってる二人みてーになっちまうぜ?」
部屋のもう片隅には、全裸で放置されたままの花熟理桃と坂之上替の無残な姿があった。二人とも、全身精液塗れの姿にされ、
だらしなく足を開いた格好のまま、ひくひくと痙攣し続けている。
そちらをちらりと見やって、ぎゅっと息を飲んだ蛇籠が苦々しげにつぶやいた。
「くっ・・・卑怯な・・・」
そして再び、目の前に立っている男子生徒の目の前にひざまずくと、大きく口を開き、そのペニスをずぶぶぶ、と頬張る。熱く、
雄臭い空気が蛇籠の口の中に充満した。
(どうして・・・こんな事に・・・)
じゅるじゅると舌をからませながら、蛇籠は反抗の意思を込めて、刺すような視線を送る。
声の主―――水槽学園3年4組所属、出席番号2番、須木奈佐木咲へと。
――数十分前。
その日も水槽学園生徒会は、何ら変わる事のない通常運行を行っていた。
各クラス委員からの陳情を跳ねつけ、各部活動からの設備拡充の依頼を蹴飛ばす。
正に支配者たるにふさわしい蛇籠の振る舞いと、それに惜しみない賞賛と賛辞を贈る各役員たち。
そんなごくありふれた、平凡な一日のはずだったのである。
しかし。
「邪魔すんぜ」
その一声とともにドアを開いた闖入者によって、平穏は断たれた。
「須木奈佐木・・・さん?」
入ってきた人物を見て、蛇籠は思わずその名をつぶやいた。
だがその語尾が、いくぶん尻上がりの、半疑問系になってしまったのは無理からぬ事であったろう。
何しろ、そこにいる須木奈佐木咲は、蛇籠の認識している彼女とはまるで別人のようであったから。
普段身に付けているマスクを外し、鋭い歯の並ぶ口をむき出して、瞳も得物を狙う獣のように輝いている。
常に気後れしたような調子で話す普段の彼女とは、何もかもが違って見えた。
「何の御用です?須木奈佐木さん。見てお分かりになる通り、我々は生徒会業務の最中なのですが――」
練兵が席から立ち上がることもなく、ぴしりと言い放つ。
だが須木奈佐木はまるでひるむ様子もなく、笑い混じりに言葉を返してきた。
「ああ、分かってるよ。別に茶も出してもらわねーで結構だ。俺様が来たのは単なる―――」
そこまで言って、須木奈佐木がすっと片手を上げた。
「クーデターだからよ」
「なっ!?」
それと同時に、開け放たれたドアの向こうの廊下に、大勢の男子生徒が現れた。
「貴様等っ、どういうつもりだ!?」
花熟理と坂之上が思わずといった様子で立ち上がる。
だが、生徒会室へとなだれ込んできた男子生徒たちによって、たちまち彼女達は拘束されてしまった。
「花熟理!坂之上!」
「よーしよし、とりあえず人質二人ゲットだな。大事な仲間にケガさせたくなかったら大人しくしとけよ?」
そう言われては抗う事も出来ない。蛇籠ら三人はその場で体を強張らせるしかなかった。
その間に男子生徒は次から次へと侵入し、まるで訓練された兵士のように統率された動きで、残る三人の自由をも封じていく。
「須木奈佐木・・・!あなた、一体どういうおつもり!?この学園でわたくしに逆らえばどうなるかはご存知でしょう!?」
机に押さえつけられたままの体勢で、蛇籠がうめく。
だが、それを聞いた須木奈佐木は、何故か嬉しそうに口をぎい、と歪めて笑った。
「嬉しいねえ。この状況でもまだそんな口が聞けるたあ、俺様の見立ては間違ってなかったみてーだな」
「なっ、何を・・・?」
その言葉の意味が理解できず戸惑う蛇籠をよそに、須木奈佐木が続ける。
「さて、これにて現政権の打倒は完了したわけだが、そうなると当然、愚かな独裁者には罰を与えてやんねーとなあ?」
須木奈佐木の言葉に、蛇籠はぞくり、と悪寒のようなものを覚える。
それは彼女がこの、水槽学園の生徒会長に就任してから、一度たりとも出会った事のない、出会うはずのない感覚であった。
「ううっ・・んむぅぅっ・・・」
ごつごつとしたペニスの感触が、喉の奥にまで伝わってくる。蛇籠は必死で舌を動かし、男性器へと這い回らせた。
じゅるじゅると下品な音を立て、目の前の肉棒に一心不乱に吸い付いていく。
その様子を眺めながら、生徒会長の机に腰掛けてふんぞり返っている須木奈佐木が、手を叩いて喜んだ。
「ははっ!いい顔してやがんなあ、蛇籠!これも全てはてめーがやりたい放題やってきたツケってもんだぜ?」
「ぐぅぅっ・・・!」
耐え難い屈辱だった。
よもやこの自分が、たかだか一般生徒、それも須木奈佐木ごときに辱められるなど、悪夢でしかなかった。
今すぐにでも『遊酸素運動』を発動して、そのバカみたいに開いている大口から、全ての酸素を奪い取ってやりたい。
しかし、もしもそれをやってしまったら、残る男子生徒たちがどのような凶行に及ぶ事かと思うと、どうしても実行する事が
できなかった。
(とにかく今は、耐えるしかありませんわ・・・!そうよ、こんな事はさっさと終わらせて・・・!)
そう考えるが早いか、蛇籠はきゅうっと口をすぼめ、じゅぅぅぅっとペニスを吸い上げた。
「おっほ、ノリがよくなってきたじゃねえか。さてはてめーも相当溜まってらっしゃったんじゃねーの?」
嘲るような須木奈佐木の口調も無視し、蛇籠はひたすらフェラチオに没頭した。
唇で締め付け、舌で舐め回し、涎を絡ませて、さらには両手まで動員し、ごしごしとその肉棒をしごき上げた。
びくびくという脈動が手と口に伝わり、それが次第に早まっていくのが感じられる。
(んふっ、んっ、もう少しで・・・!)
とどめとばかりに制服の前をはだけ、その豊満な乳房を露わにすると、そこにペニスをずぶりと突っ込んだ。
自分の胸を変形するほどに強く揉みしだいて、先端から覗いている亀頭をべろべろと舌で撫で回し、否が応にも射精を誘発する。
やがて、一際大きくびくん、とペニスが跳ね上がり、その先端からびゅぶうっ、と大量の精液が噴出した。
「きゃあっ!」
その勢いと熱さに、蛇籠が思わず顔を背ける。
射精の勢いは止まらず、びゅるっ、びゅるるるっと断続的に発射が続き、蛇籠の顔や制服を白く汚した。
やがて、べっとりと全身を汚された状態で、蛇籠ははあはあと荒い息をついた。
「はぁっ・・・ふぅぅっ・・・さ、さあ、もう気が済んだでしょう?須木奈佐木。わたくしたちを解放して――」
まずはこの場を離れることだ。そうすれば体勢を整え、逆襲することだって出来る。
だが、そんな蛇籠の目論見は、須木奈佐木によって脆くも打ち砕かれた。
「はぁ?誰がこれで終わりにするっつったよアホ!やるからには徹底的にやんねーとなあ!」
「いやぁぁぁっ!」
ずぶり、と背後から挿入されるペニスの感触に、蛇籠が悲鳴を上げた。
須木奈佐木を見上げるように床に四つん這いにさせられて、背中にのしかかった男子生徒の重みに耐え続けていた蛇籠の瞳から
一筋の涙がこぼれ落ちる。
だが、男子生徒はそんな彼女のこともお構いなしに、まるで遠慮のない腰つきでずんずんと蛇籠の膣内を蹂躙していく。
陰茎を突き刺され引き抜かれるたびに、その大きく張ったカリが蛇籠の膣肉をごりごりとえぐり、言いようのない不快感が
ぞわぞわと立ち上ってきた。
そんな蛇籠の様子を見て、須木奈佐木が机の上で爆笑している。
「はっはっはっは!まるで犬っコロみてーだなあ、生徒会長サマよお!てめーにゃお似合いの格好だぜ、ああ!?」
そんな中で、不快感とともに、全く違う感情が燃え上がってきていることも、蛇籠は自覚していた。
(・・・殺してやる)
憎悪。
もう、後の事など知った事か。
今すぐこの、クソ生意気な女の口を塞いでやらねば気がすまない。
一瞬の内に、そんなドス黒い決意を胸の内に固めた蛇籠が首を持ち上げ、憤怒の形相を須木奈佐木の方へと向けた。
「『遊酸素運・・・』!」
カッ、という、乾いた音が、空気を切り裂いて聞こえた。
その瞬間、蛇籠の動きはぴたりと止まり、全く自由が利かなくなった。
「!? なっ・・」
「・・・まあ、このくれーが限界だな」
固定された視線の先、須木奈佐木がぽつりとつぶやいた。
そこには先ほどまでの狂騒的な態度は微塵も残っておらず、かといって、蛇籠の認識している普段の彼女の姿でもなかった。
あるのはただ、全身にまとわりついているような倦怠感だけ。
その、ある種異様な佇まいに蛇籠が気を取られているうち、須木奈佐木が誰かに声をかける。
「おい、起きろてめーら」
それに続いて、誰かがつかつかと歩み寄ってくる足音。その音が、蛇籠の背後から目の前へと回り込む。
蛇籠は目を見開いた。
「は、般若寺!?練兵・・・!?」
それは紛れもなく、先ほどまで自分と同じように男子生徒に犯されていた、生徒会役員の二人だった。
だが今彼女達は、まるでそれが当然のことであるかのように、須木奈佐木の命令に従順に従っている。
何だ?いったい何が起こっている?
混乱するばかりの思考をよそに、視界はただ、目の前の情景をありのままに捉え続ける。
「楽にしてやれ」
須木奈佐木が命令を下すと、般若寺と練兵が虚ろな目をしたまま、すい、とそれぞれの片手を蛇籠に向けて伸ばしてきた。
「失礼いたくのす。蛇籠会長」
「私たちぜいっすぇに、気持ちいぴならぬしょー?」
何を言っているのかさっぱりわからない。
顔に覆いかぶさった二人の手の隙間から、わずかに須木奈佐木の姿が見える。
全てに興味を失った、心底退屈そうな表情だった。
「『下劣な大道芸』」
「『退化論』」
「あっへぇぇぇっ!チンポぉっ!もっとチンポちょうらいぃぃぃっ!」
複数の男子生徒に取り囲まれ、あられもない表情でそう喚く蛇籠飽を眺めながら、須木奈佐木咲はため息を一つもらした。
「んじゅぷっ、ぷはっ、えへへぇっ、わたくしはぁっ、チンポ大好きのドスケベ生徒会長なんれしゅぅぅっ!
だからぁっ、だからお願いっ、もっとわたくしにチンポめぐんでくりゃさいまへぇぇぇっ!」
恥も外聞もなくそう叫びながら、両手に握り締めた何本もの男性器に片っ端からしゃぶりつき、大きく開いた股の中央には
二本も三本も咥え込んだまま、大きく腰をグラインドさせている。
「ああイきゅぅぅっ!わたくしまたイッちゃいましゅぅっ!どうかわたくしのアクメ顔ご覧くらさいぃぃぃっ!」
手の中の数本のペニスと膣内のモノが同時に絶頂を迎え、驚くほど大量の精液がびしゃびしゃと蛇籠へ向けて降り注いだ。
それをあわただしく手で掬い上げ、じゅるじゅるとすすりながら、痴呆じみた顔つきで蛇籠が笑う。
「んひぃぃっ・・・ザーメンおいしいですわぁぁ・・・もっとぉ、もっとちょうらぁい・・・」
そう言ってまた、新たな男子生徒を捕まえ、その精気を吸い取り始める。恐らく、放っておけば半永久的にこのままだろう。
(・・・ま、男どもの方も花熟理の『四分の一の貴重』で精液の量を増やしてあっから、そう簡単にはくたばんねーがな。
もっともしかし、精子そのものの量までは増やせねーから、文字通り「水増し」に過ぎねーが)
そんな事を思いながら、目の前の痴態には目もくれず、須木奈佐木は生徒会長の椅子の上で大きく伸びをした。
須木奈佐木が口にした「クーデター」という言葉は、もちろん、彼女の真意からはかけ離れたものであった。
そもそもこの学園の真の支配者は蛇籠などではなく、『操作令状』で全てを操る須木奈佐木であるのだから。
今回のこれも、須木奈佐木にとってはただの退屈しのぎのお遊びのようなもので、深い目的があるわけではない。
ただ、普段は引っ込み思案な一般生徒を演じている彼女が、自分の支配力を目に見える形で実感したい、という程度のものだ。
その目的はとりあえず達成されている。美少女揃いの水槽学園生徒会役員達に対し(まあ彼女達を選んだのは自分なのだが)
陵辱の限りを尽くして、蛇籠に至っては『捜査令状』を抜きにした状態でも、一時的に従わせる事ができた、という事実は、
須木奈佐木の感じている漠然とした不満の、少なくとも一部を埋めはした。
しかし。
残りの大部分については、未だぽっかりと、大きな穴が開いたままだった。
「・・・ちっ」
須木奈佐木は小さく舌打ちをした。そして再び正面に向き直る。
相変わらず、複数の男をはべらせた蛇籠が、満ち足りた表情で喘いでいる。
般若寺の『下劣な大道芸』で性欲を異常昂進させられ、練兵の『退化論』で、知能を大幅に減退させられてはいるけども、
それでもやっぱり彼女は彼女で、誰かの上に立ち、下々の人間から崇められ、憧れられ、敬われるにふさわしい人間の顔だった。
そんな彼女の顔を見ているうちに、須木奈佐木の中の苛立ちはどんどん膨れ上がる。
「・・・てめーら!」
須木奈佐木が大きく叫ぶ。
『操作令状』の効力下にある、全ての男子生徒が一斉に彼女に注目する。蛇籠に対して機械的に腰を振り続けていた数人の
男子生徒までも、動きをぴたりと止めて須木奈佐木を注視した。
大勢の人間が、自分を見ている。
自分が次にどうするのか、一挙手一投足を見逃さないように。
わけのわからない感情が須木奈佐木の心の中に芽生え、それがぶるり、と身体を震わせた。
(解放したい)
(発散したい)
(爆発させたい)
そんな衝動を自覚した須木奈佐木が、制服の胸の辺りをぐっと握り締める。
そして、そのまま力任せに引き剥がすとともに、心の底からこう叫んだ。
「俺様を犯せ!」
彼女の忠実なる兵士たちは、即座にその命令に従った。
「はあっ!んああっ!」
大柄な男子生徒の身体の下で、須木奈佐木が派手に喘ぐ。
先ほどから下腹部に打ち付けられている男根もまた太く、須木奈佐木の膣内を容赦なく責め立てる。
痛みと快感が交互に襲ってくる奇妙な感覚に、須木奈佐木の嬌声がいっそう激しくなっていった。
「ひああっ!そっ、そうだっ、もっと激しく突け!俺様の中を埋め尽くせ!」
命令に従い、男子生徒が腰の動きを速める、ずぶっ、ずんっ、ずぶっと一定のリズムを保ったまま、須木奈佐木の膣内へ
出し入れを繰り返す。その度ごとに須木奈佐木の太股には、愛液と先走りの混じった半透明の粘液が、とろとろと滴ってきた。
「ひゃんっ!あっ、いっ、いいっ、そのままぁっ、そのまま来いっ!」
男の背中に回した手足にぎゅっと力を込め、抱きつくような体勢のまま須木奈佐木が悦びの声を上げる。
今こいつは、俺様の身体を貪る事だけを考えて生きている。
他の誰でもない、この俺様だけを。
「っ!」
そんな事を意識した瞬間、強烈な刺激が全身に走り、びくびくと須木奈佐木の全身が痙攣した。
それは体内から膣内へも伝わり、複雑な蠕動となって侵入しているペニスをしごきたてる。
投げつけられた感情に、精一杯全力で応えるように。
ほどなく男子生徒は射精した。この上なく熱い精液が迸り、須木奈佐木の中に塗りたくられていく。
「はぁっ・・・はぁあ・・っ・・」
同じく絶頂を迎えた須木奈佐木は天井を見上げたまま、肩を揺らして、苦しげに呼吸をした。
息が、苦しい。無意識に動かしていたらしい下半身にも疲労を感じる。
だけど、一瞬だけ掴んだあの感覚のせいで、心と体はこれ以上ないくらい、燃え上がっていた。
あの瞬間を、忘れたくない。
忘れないうちに、もう一度確かめたい。
「ふぅっ・・・んんっ、と」
むくりと起き上がった須木奈佐木は、震える体を必死で操ると、生徒会長用の机へと這い上がり、腰をぺたんと据える。
そこでくるりと向きを変えると、大きく開いた両足の中央に指を添え、そこをくぱぁ、と開いてみせた。
そして、目の前に群がる彼女の支持者に対して、にっこりと満面の笑顔を浮かべて、言った。
「私を・・・食べて?」
いつしか、時刻は夕暮れ時を迎えていた。生徒会室の窓から、傾いた夕日が室内に差し込む。
その、オレンジ色の輝きが、床に寝そべっている須木奈佐木の姿を照らした。
全ての衣服を剥ぎ取り、満天下にさらした素肌のいたるところには男達の性欲の跡がこびりつき、髪や顔に至るまで、
べっとりとコーティングされている。
だらしなく広がった股間からは、ごぽり、と精液が漏れ出し、タイルの床面を汚していた。
男たちの欲望のまま、食い尽くされたなれの果て。
そんな形容が似合う惨状だった。
しかし。
「・・・はっ・・・ははっ」
須木奈佐木は笑っていた。先ほどまで感じていた漠然とした不満など、すでにどこかへ霧消してしまっていた。
誰かに求められて、使われて、飽きられて、捨てられること。
それがこの上なく刺激的で、この上ない愉悦であることに、気付いてしまったから。
こんなもんじゃ足りない。もっと俺様を、多くの人間に食わせたい。貪らせたい。消費させたい。
その為なら何だってしよう。今の俺様からは考えられない事だって。
そんな秘めたる決意を胸に、須木奈佐木は立ち上がり、周囲の様子を見回した。
あちらこちらに転がっている男子生徒、そして生徒会役員。蛇籠などはまだもぞもぞと動きを止めずにおり、自分で自分を
あさましく慰めている。
「坂之上、起きろ」
その言葉に応じ、むっくりと坂之上替が身を起こす。
「『賭博師の犬』だ。ここにいる連中全員に、一時的な健忘症でも発症させとけ」
「了解しのはぐ」
命令に従い、坂之上が『賭博師の犬』を発動させる。それをよそに須木奈佐木は身なりを整え、生徒会室を後にした。
「・・・上手く片付いてくれりゃいいがな」
廊下を歩きながら、須木奈佐木は一人つぶやく。
『賭博師の犬』は狙った奇跡を必ずしも発動させられるとは限らないため、もしかしたら、今日の事を覚えている奴が一人か
二人は残るかもしれない。まあ、そうなったらそうなったで、自分が『操作令状』を使えばいいだけの話だ。
「いっそ、全てを『なかったこと』にするスキルでもありゃ、後始末も楽だったんだがな。ま、そんな都合のいい、
人でなしの権化みてーなスキル、あるわきゃねーか」
それよりも、今の彼女にとって大切な事は他にあった。
今日、自分の中に芽生えた、小さいけれど確かな野心。それを実現する手段を、模索しなければならない。
ふと立ち止まり。窓の向こうの夕日を見つめる。真っ赤に輝くその光が、自分を、目映く照らしている。
その眩しさに、須木奈佐木はすっと目を細め、頭の中で、先ほどまでの熱狂を反芻した。
俺様だけを照らす光。俺様だけを見つめる大衆。
(俺様の、向かう先は―――)
「――奈佐木、すーきーなーさーき」
ふっと聴こえた自分を呼ぶ声に、須木奈佐木は我に帰った。
目の前には、八人ヶ岳十字花のきょとんとした顔があり、自分にむけて手の平を振っていた。
「どしたの?ピンスポ見つめてぼーっとしちゃって。もうすぐ開演時間だよ?」
隣には不老山ぞめきがおり、彼女もやや心配そうにこちらを覗きこんでいる。
「体調でも悪い?それならちょっと休んでもらって、後から登場って形にしてもいいけど。それはそれで、一つの
サプライズって事にできるし」
「ん・・・あ、いや、問題ねえよ」
須木奈佐木は首をひとつ、ぶるん、と振り、二人に応えてみせた。
「そう?それならまあ、いいんだけど」
そう言うと、八人ヶ岳はととと、と去り、自分の持ち楽器であるティンパニーの前について、えへん、と一つ、咳払いをした。
不老山も安心したように笑顔を浮かべると、ダブルベースを抱え直して、ついでのように軽口を叩いた。
「今日は脱がないでよ?」
「わーってるよアホ。いつまでも同じ失敗を繰り返す俺様じゃねーっつーの」
噛み付くような勢いで憎まれ口を返し、須木奈佐木はテューバを手に取る。その瞬間にはもう、さっきまで、自分が何を
思い出していたのかも忘れてしまっていた。
(・・・何だったっけかな。何か、すげー大事な事だったような気がするんだが・・・)
もどかしく、ぎしぎしと歯軋りをする。彼女の自慢の鋭い犬歯がこすれあい、刃物のような音を立てる。
だがすぐに、ふう、と息を一つ吐いて気持ちを切り替えると、ぎい、という、肉食獣のような笑みを浮かべた。
(ま、知ったこっちゃねーぜ。今の俺様にとって大事なのは、このステージと・・・)
その瞬間、ブザーが鳴り、ステージの幕が開く。
第75回箱庭学園文化祭、特別対バンライブ。
先攻「キヲテラエ」
(消費者の皆様の、笑顔だけだ)