「さて、日高三年生、浦河三年生、襟裳三年生、座るがいい。」
めだかはいつも通りの上から目線な態度で、上級生3人を生徒会室に迎えた。
3人は、めだかの側に控える善吉の冷たい目に怯えながら、おずおずと椅子に腰掛ける。
善吉は不機嫌全開の顔を隠そうともせず、3人をにらみつける。
(ったく、こいつら何考えてやがるんだ……。)
善吉のイライラの原因は、3人の投書内容にあった。めだかがその投書用紙を読み上げる。
「拝啓。僕達3人は受験を間近に控えていますが、女の子と付き合ったことも、手を握った
こともありません。初体験など夢のまた夢です。このまま一生童貞で終わるのでしょうか。
不安で勉強も手につきません。どうすればいいのでしょうか。敬具。」
「バッキャロー!!風俗に行け、風俗に!!色ボケしてんじゃねー!!」
………と叫びたいのを、善吉は必死でこらえた。めだかはこういう時に横槍を入れられるのが
大嫌いなのだ。それにめだかなら、黙っていても一喝してくれるだろう。
「気に入らんな…。」
そうら、来た。こんな連中、さっさと叱り飛ばして追い出してしまえ。
「何をそんなにビクビクしている? なぜ自分に自信を持てないのだ? 日高三年生!」
「は、はい!?」
「背中を丸めるな! 眼鏡ではなくコンタクトにしろ! 標準より整った顔立ちを
しているではないか。浦河三年生!」
「はいぃ!」
「背は低いし、幼い顔立ちだが、母性本能をくすぐる可愛らしさがあるではないか!
キャラは使いようだぞ。襟裳三年生!」
「はいっ!」
「そのボサボサの頭を何とかしろ! 眉毛など整えるだけでもだいぶ違ってみるはずだ!」
(あ、あれ? なんか風向きがおかしくなってきたんですけど…?)
善吉は忘れていた。めだかはどんな無茶な相談でも、投げ出したことは1回もなく、
幾多の悩みを解決してきたのだ。その人柄に大勢の人々が惹きつけられてきたわけだが…。
「貴様達三者三様で、イケメンの端くれに分類してよいくらいの好男子だ。しかしその
オドオドした態度! 人の顔色を伺う卑屈な姿勢! 自意識の欠如! これらがせっかくの
好材料を全て台無しにしているのだ! なぜ自信を持たぬ? なぜ自分を磨かないのだ?」
めだかにことごとく痛いところを突かれ、3人はうつむいた。全てその通りだった。
3人とも勉強一筋に生きてきた。苦手なのは女子だけではない。人付き合い自体が苦手だった。
勉強オンリーの3人は、クラスの輪からもちょっと浮いた存在になっており、それがますます
オドオドした性格に拍車をかけていた。めだかは、それらを一目で看破したのだった。
「よし、わかった! 貴様達の『一生童貞のままかも』という悩みは、ひとえに己への自信の
無さが原因だ。ならば一石二鳥の解決方法がある。私が貴様達の初体験の相手をしてやろう!」
「え?」「ええ!?」「えええーっ!!!」
「ちょちょちょ、ちょっと待てめだかちゃん!!」
動転する3人、及び善吉に全くお構い無しで、めだかは続ける。
「まず童貞という問題は解消し、さらにセックスを経験することにより、貴様達には大いなる自信が
芽生えるはずだ! そうと決まれば善は急げだ。貴様達の望むシチュエーションを言うがいい。
理想の初体験をさせてやる。あ、それからコンドームは必須だぞ。いくら会長の職務とは言っても、
私とて、まだ妊娠するのは早過ぎるからな。」
「だーかーら、待てってめだかちゃん!!」
「止めても無駄だぞ、善吉。大げさではなく、こいつらの人生がかかっているのだ。放っておけば、
この3人はうつむいたまま、何の面白みも無い一生を終えるだろう。私は会長として救う義務がある。
体を投げ出すなど当然のことだ、わかったな?」
「う………く………。」
善吉は口ごもった。こうなったら、もう誰もめだかを止められないのだ。
「さあ、誰が最初だ? 順番を決めるがいい!」
「黒神さん?……いるの…?」
日高は、怖々と体育倉庫室の扉を開けた。自分で指定したシチュエーションとはいえ、現実とは
まだ信じられない。外から見られないよう、後ろ手で扉を閉める。
『体育倉庫で、積極的な後輩に迫られるのが望みか。よし、任せておけ!』
めだかは自信満々でそう答えた。彼女なら、まさかここまでしておいて、実は晒し者にするような
真似はしないだろうが……。
「日高センパイ!待ってたんです!」
倉庫の隅から声がして、めだかが姿を現わした。いつもの、威圧感のある軍服っぽい会長服ではなく、
普通の学校指定セーラー服だ。表情も、照れたような、ワクワクする喜びを隠せないような、
無邪気な笑顔だ。数十分前に自分達を叱咤した生徒会長とは、まるで別人のようだった。
「センパイ……私、前からセンパイのことが……。」
目を潤ませながら、めだかが近づいてきた。扉を閉め、窓からわずかに光が漏れるだけの、薄暗い
体育倉庫の中で、めだかの全身が輝いて見える気がする。これは恋する乙女のオーラか…。
「日高センパイ……好きですっ!」
そう言うやいなや、めだかはいきなり日高に抱きついた。ボリュームあるバストが押し付けられ、
ぎゅっと抱きしめられる。いい香りだ。日高は一瞬意識が遠のきそうになった。
「はっ! ご、ごめんなさい! 私ったらセンパイの気持ちも確かめもせずに…。」
めだかは、ぱっと後ずさった。顔を赤く染めて、とんでもないことをしたかのようにうつむく。
可愛い。なんて可愛いんだ。正に、日高がリクエストした通りの後輩像だった。
「そ、そんなことないよ。僕も…前から君の事は気になってたんだ…。」
「ほんとですか!うれしいっ!」
めだかは破顔一笑すると、日高に飛びついた。勢い余って、体育マットの上に二人は倒れた。
石灰の混じった埃が、どっと舞い起きた。お構い無しにめだかは、日高の唇を奪う。
「む…むぐっ……く、黒神さん……っ」
「ああっ、センパイ……ごめんなさい。でも、センパイのことを考えると、勉強も何も手につかないんです。
体が……熱くなって……自分でも何をやってるのか……もう、押さえられないんです!」
言いながら、めだかはセーラー服を脱いだ。ブラからはみ出そうな、見事なバストがたゆんと揺れる。
「こんなエッチな子は……嫌いですか……?」
「そ、そんなことないよ。可愛いよ、黒神さん…。」
「うふ、よかった。」
めだかはスカートも脱いだ。続いて下着も脱ぎ捨てる。一糸纏わぬ姿になって、マットに横たわり目を閉じる。
「優しくして…くださいね…。」
日高の心臓は爆発しそうだった。目の前に全裸の女の子が横たわっているなんて、まるで夢のようだ。
震える手でバストに触る。信じられないくらい柔らかい。
「あン……。」
めだかの声に一瞬びくっとする。今度は少し強く揺すってみた。二つの豊満な果実がふるふると揺れた。
ぎこちない愛撫をしながら、日高は下腹部の方へ移動してゆく。柔らかい草むらに覆われた、初めて生で見る、
女性器だった。顔を埋めて、大きく息を吸う。甘酸っぱい香りだ。
「あ…ふぅっ…。」
めだかが切ない声を漏らした。心臓の高鳴りが一層大きくなる。それ以前に、股間がもはや噴火寸前だ。
日高は手の震えを何とか鎮めて、ズボンをおろした。興奮で破きそうになりながら、何とかコンドームを装着する。
「い、いくよ……黒神さん…!」
「ええ、来て…センパイ…。」
ゆっくりとめだかの中に挿入する。えも知れぬ感覚が、日高の分身を包み込み、締め付けた。なんという快感…。
「あ、うぅん……せ、センパイ…!」
めだかは陶酔の表情で、日高の背中を抱き寄せた。日高も腰を動かしながら、めだかの裸身をぎゅっと抱き締める。
弾力のある両の乳房が、日高の胸板を押し返した。乳首が硬く勃起している。
「ああっ、く、黒神さん…!」
「センパイ、好き、大好き……は、ううっ!」
夢のようなひと時だった。日高は何もかも忘れ、めだかの体を貪る。
日高は一心不乱に腰を動かした。めだかの声が次第に大きくなる。と、日高は自分の男根が一際大きく脈打ったのを
感じた。二度、三度とそれは続いた。
(ああ、射精したんだ……。)
頬を染め、荒く息をつくめだかから、日高は男根を引き抜く。コンドームがはちきれんばかりに精液が注がれていた。
急激に虚脱感と疲労が襲ってきた。こんな激しく動いたのは久しぶりだった。コンドームを外して結び、ごろんと
マットに横たわる。服も脱がずに挑んだことに今さらのように気づいた。ワイシャツは汗びっしょりだ。
しかし不快な疲労ではない。日高は、心の底から充実感で満たされていた。
めだかはそんなひだかに顔を近づけると、そっとキスをした。
「ありがとうございます、センパイ……。」
日高はそれが、夢から覚めるべき合図だとわかっていた。名残惜しいが、現実に戻らなくてはいけない。
「礼を言うのは僕の方だよ、黒神さん。おかげで、何か変われそうな気がするよ!」
その声は、1時間ほど前のオドオドしたものではなかった。人生のステップを一歩歩んだ彼は、大きな自信を
身につけていた。表情も心なしか男らしくなっていた。めだかは元気良く立ち上がると服を着けた。
そして座り直した日高に向かい、ぴょこんと頭を下げると
「センパイ、じゃあねっ!」
と笑顔を見せて、体育倉庫から出て行った。日高はその背中を愛おしそうに見送っていた。
倉庫から出ためだかの表情は、いつも通りの凛とした会長の顔に戻っていたが、こちらも満足そうな笑顔を
浮かべていた。日高はもう大丈夫だ。この経験が彼にと度胸をつけさせたはず。もううつむいて歩くことも
ないだろう。まずは1件目の任務は成功だ。
「さて、次は浦河三年生か。場所は保健室だったな…!」
日が傾きかけている。夕陽に染まった保健室のドアを、浦河は開いた。
「失礼しまーす…。」
小柄で童顔の浦河の声は、まだ声変わりしていない小学生のようだった。保健室の中から、めだかの声が聞こえた。
「どうぞ。お入りなさい。」
保健室に入った浦河は、はっと息を呑んだ。めだかが窓際の椅子に座っていた。白衣を着て、黒縁の眼鏡をかけている。
ただそれだけなのに、浦河には10歳も年上の大人の女性のように感じられた。さっき相手をした日高がこの
姿を見たら、もっと驚いただろう。めだかは『保健の黒神先生』になりきっていた。
めだかは読んでいた医学書を置いて向き直り、椅子を勧めた。浦河は言われるまま、めだかの側の椅子に腰掛ける。
「今日はどうしたの?」
「最近どうも熱っぽいんです……食欲もないし、何か夜も眠れないし…。」
「ふうん。それじゃ、熱を測りましょうか。」
めだかの顔が急接近してきた。
「え、え、え…!?」
たじろぐ浦河の目に、めだかの顔がどんどんアップになってくる。ピンクの光沢のある唇が迫ってきて…。
こつん。浦河の額に、めだかは額をくっつけた。
「確かにちょっと熱っぽいみたいねえ。」
ちょっとどころではない。心臓がバクバクいって、頭から火を噴きそうな気分だった。額で熱を測ってくれるなんて、
ラブコメの中だけの話だと思っていたのに。女性にこんなに接近されたのは、生まれて初めてだ。
慌てて視線をそらす。しかしそらした先は、めだかのブラウスの胸元だった。豊満なバストはブラウスを
突き破りそうだ。その胸の深い谷間と、それを辛うじて隠している黒いブラジャーがはっきり見えた。
「じゃあ、そこのベッドに横になってくれる?」
浦河はぎくしゃくした動きで、ベッドに横になった。めだかが椅子を動かして、横に寄ってきた。
「体調がおかしいのはいつくらいから? 何か思い当たる節でもあるのかしら。」
「1か月くらい前からなんですけど…最近ある女性のことが気になって、何も手につかなくて……。」
「あらあら、それって恋の病ってやつじゃないの。誰なの?内緒にしてあげるから言ってごらんなさい。」
「そ……それ……それ……は……。」
酸欠の金魚のように、浦河はパクパクと口を動かす。喉元まで来ているのに、言葉が出ない。
「どうしたの?」
めだかがにっこり微笑んだ。意を決して、浦河は叫んだ。
「そ、それは……黒神先生です!先生のことが好きなんですっ!」
今、この状況は自らの依頼したものであり、拒絶されることなどないはずであったが、もはや浦河の脳裏からは
そのようなシナリオは吹き飛んでいた。目の前にいるのは生徒会長黒神めだかではなく、憧れの黒神先生であった。
一世一代の告白をした浦河の頭は、真っ白になった。次のめだかの言葉を聞くのが怖くて、ぎゅっと目をつぶる。
「ありがと。」
目をつむった浦河の唇に、やわらかい感触があたった。はっと目を開けるとめだかの顔がアップになっている。
これはもしかして……キス……?
めだかの笑顔が静かに離れた。唇がぷるんと揺れる。その時、ようやく浦河は今、自分がキスをしたのだという
ことが認識できた。急激に顔が赤くなり、心臓が爆発するのではないかと思うくらいバクバク鼓動している。
「よく勇気を出して言ってくれたわね。先生、うれしいぞ。」
「あ……あ……あの……。」
言葉を続けようとするが、心臓の音に邪魔されているようだ。それに頭が混乱していて、お礼を言うべきなのか、
告白をたたみかけるべきなのか、もう何を言ったらいいかわからない。
そんな浦河の心を見透かしたように、めだかは悪戯っぽく笑った。目がすっと細くなり、妖しい輝きを帯びる。
めだかは黒縁の眼鏡を外した。そして浦河の耳元に口を寄せると、小声で囁いた。
「それじゃあ、ご褒美あげようか……ねえ、先生と……エッチしたい?」
「は……はい……お願いします……。」
そこから先は、浦河は断片的にしか覚えていない。
ブラウスの前をはだけ、黒いブラの下から現れためだかの爆乳。パンティを脱ぎ捨て、ベッドの上の自分にまたがるめだか。
生まれて初めて見る、女性の秘部が、自分の男性器をずぶずぶと飲み込んでいくありさま。
激しく腰を上下させ、たゆんたゆんと乳房を揺らして、切ない喘ぎ声をあげるめだか。
夕陽に照らされためだかの肢体は、女神のように美しかった。そして浦河は、コンドームが裂けんばかりに放った…。
すっかり日が落ち、あたりは薄暗くなりかけている。ようやく意識がはっきりしてきた浦河は、ベッドにまだ
横たわったままだった。既にめだかは身繕いを終え、浦河の下腹部の後始末まで済ましていた。
めだかは、また机に向かって本を読んでいる。まるで何もなかったかのようだった。さっきのは夢だったのだろうか?
浦河は、自分の両手をじっと見つめた。そんなことはない。この両手に残る、めだかの乳房のずっしりとした重みの感覚、
そして今は沈静化した自分の性器にも、めだかの肉襞の温かい感触と、締め付けられた記憶がしっかり残っている。
夢であるはずがない。自分は確かに黒神先生と初体験をしたのだ。
我に返ったかのように浦河は跳ね起き、ベッドから降りて靴を履くと、めだかに向かって深々と一礼した。
「あっ、あのっ…ありがとうございましたっ!!」
めだかは向き直ると、にっこり微笑んだ。
「どういたしまして。勇気を出すってことが、そう難しいことじゃないってわかったでしょう?
思い切って一歩踏み出すだけで、いろいろな世界が開けてくるのよ。」
「はいっ!本当にありがとうございました、失礼します!」
日高はもう一度頭を下げると、保健室から出て行った。小学生のようだった声が、少し低くなったような気がする。
勇気を出すことを知った日高は、肉体的にも精神的にも間違いなく成長したことだろう。
めだかは眼鏡を外し、白衣も脱いだ。凛とした生徒会長のオーラが現れる。
「さて、2件目も完了か。残るは1件か、急がねば!」
もう日が暮れ、満天の星が輝いている。広大な箱庭学園の敷地では、保健室と生徒会室はかなり距離が離れていた。
めだかは急ぎながら、先程聞いておいた三人目の相談者・襟裳の携帯に電話をかけた。
「私だ!遅くなってすまなかったが、今すぐ生徒会室に来てもらいたい!」
それだけ一方的に告げると、電話を切った。日高と浦河の相手をするために、じっくりと時間をかけたので、
今日は雑務がかなり残っている。その点では、襟裳の望みはちょうど都合のいいものであった。
「待たせたな!」「い、いえ、全然…。」
生徒会室の前で待っていた襟裳は、いかにも今来たかのようなふりをした。前の二人が済むまで、どこかで時間を
つぶしているよう指示されたのだが、居ても立ってもいられず、ずっと生徒会室の前で待っていたとは言えなかった。
「さて、念のため確認しておくが…本当にそれでいいのだな?」
「は、はい……僕は理想のシチュエーションとかじゃなくて……ありのままの、生徒会長の黒神さんと、
は……初体験したいんです……。」
「本当にいいのか。ありのままの私としたいということは、まずありのままの私の仕事に付き合ってもらうことになるぞ。
生徒会長の仕事は激務だ。私がその気になった時は、襟裳三年生の体力が残っておらんかもしれんぞ。」
「か、覚悟の上です……そんな完璧な黒神さんに憧れたからこそ、お相手してほしいと思ったんです…。」
「よし、その覚悟、確かに受け止めた!では、私と共に行動してもらうからには、それなりの恰好をしてもらおう。」
めだかは生徒会室に襟裳を招き入れると、手早く襟裳のボサボサの髪や眉を整えた。予備の生徒会服も着せる。
土台は元々よかったので、襟裳はなかなかの好男子に変わった。
「よろしい、生徒会の一員たるもの、外見で舐められてはいかん。さて、もう7時だ。校内巡回に出かけるぞ!」
襟裳は後に語った。
『軽く校内巡回すると言うもので、こっちも軽い気持ちでついていったんですが、学園の隅から隅まで見て回るとは
思いませんでした。夜の7時過ぎですよ? この広い校内の敷地を隅から隅まで。補修箇所があればチェックし、
ポスターが曲がっていても逐一直し、あげくは喫煙してたむろしていた不良10人をあっという間に叩きのめして
しまうんですよ。超人と言うか鬼神と言うか…それで生徒会室に戻ってきた時は息一つ切らしていないんですから…。』
既にヘトヘトの襟裳を尻目に、めだかは汗一つかかずスケジュール表に目を通した。
「次は目安箱に入っていた依頼を執行する。行くぞ!」
めだかはすたすたと歩いていく。よろめきながら襟裳も続いた。到着した先は屋内プールだった。
そこには一人の、競泳用水着を着た女生徒が待っていた。運動音痴の文化系の襟裳だったが、この同学年の女生徒は
有名人だから知っている。競泳部の1年生エース・喜界島であった。
「待たせたな!」「ええ、お願いします…。」
生徒会長を前に、喜界島は目をそらして頬を赤らめる。めだかが襟裳に説明した。
「この喜界島同級生は、先日の部費争奪水泳大会のウナギつかみどり競争において、たった13匹しかつかまえ
られなかったことを悔やんでいるのだ。20匹はいけたはずだと。ダントツトップだったのにも関わらず、だ。」
「ああ、この手のつかみどり大会はあちこちであるから…。賞金は1円たりとも逃したくない…。」
喜界島はボソボソと答えた。しかし彼女の真意は他のところにあった。
その大会の騎馬戦において、喜界島はめだかに唇を奪われた。自分が好きなものは金と屋久島と種子島だけだと
思っていたのに、その価値観にめだかは堂々と割り込んできたのだ。その時、体に走った衝撃を、彼女はまだ
理解できずにいた。めだかと直接会って、それが何か確かめたかったのだ。
(聞かなくっちゃ…どうして私にキスをしたのか……めだか…お姉様に………。)
その喜界島の心の奥を知る由もないめだかは、うんうんとうなずいた。
「その意気やよし! 高みにありながら更に高みを目指す姿勢を、私は応援する。そこでこれを用意した。」
めだかはプールサイドの一角においてある、ビニールシートをかぶせた物体に近づいた。襟裳もさっきから
気になっていたが、中から水がはねる音が断続的に聞こえている。もしかして…。
「さあ、じっくりとウナギをつかみ取り、慣れ親しむがいい!」
めだかがビニールシートを剥がすと、そこには3メートル四方くらいの、家庭用ビニールプールがあった。
そしてその中には数百匹のウナギがはねていた。水音の正体はこれだったのだ。
「うわぁ…。」
襟裳の顔が青くなる。喜界島もわずかに顔をひきつらせたが、めだかはそんな喜界島を好もしそうに眺めている。
「ありがとうございます。そ、その前にあの…。」
喜界島は口を開きかけるが、めだかがそれを制した。
「まあ、ちょっと待て。普通に入ってつかんでも、さほど効果は上がるまい。どうせならハンデをつけて
やった方がよかろう。」
言うやいなや、めだかはつかつかと喜界島に歩み寄り、競泳用水着のショルダー部分をつかんで、一気に
引きずりおろした。筋肉質の体には不釣合いな、大きな乳房がぷるんと剥き出しにされる。
「やっ!ちょっと!何を…!」
いつもはクールな喜界島の顔が真っ赤に染まった。めだかは有無を言わさず、あっという間に競泳用水着を剥ぎ取る。
鍛え上げた裸身が晒される。腹筋は割れ、ウエストはくびれているが、尻と太腿の肉付きは素晴らしかった。
どうしていいかわからず、おたおたする襟裳を尻目に、めだかは取り出した紐で、喜界島を後ろ手に縛る。
「やああっ!みっ、見ないで!」
襟裳よりも、めだかに全裸を見られた恥ずかしさで喜界島は全身真っ赤になった。下腹部だけでも隠そうと、
太腿をもじもじさせる。
めだかはそんな羞恥に身をよじる喜界島の様子など、一向に意に介する気配もなかった。
「何を恥ずかしがる? 練り上げた肉体を人目にさらすのは、むしろ喜びではないか。それ、行くぞ!」
言うやいなや、めだかは喜界島をどんと押した。
「や、やめて!お姉さま…!」
その言葉を最後まで発する前に、後ろ手に縛られてバランスの取れない喜界島は、つんのめってウナギまみれの
ビニールプールの中に落下した。水しぶきが上がる。
「手づかみするなどという、凡庸なことをしていても始まらん。全身でウナギの動きを感じるのだ。
そのためには手など使わないほうがいいし、水着も邪魔だ。さあ、思う存分ウナギから学ぶが良い!」
「そっ、そんな…うああっ!」
喜界島はウナギの大群の中で体を艶かしくくねらせる。手は後ろに縛られているし、ウナギのぬめりで体を起こせない。
必死に体勢を立て直そうとする喜界島を、ウナギたちは攻め立てた。首、乳房、腕、太腿と随所にウナギが
巻きついてくる。
「ひあっ!…あっ…うあう、んんっ!」
さらにウナギは隠れ場所を見つけたと思ったのか、喜界島の口に1匹が潜り込んだ。さらに秘部にも1匹、
菊門にまでウナギが侵入してきた。喜界島の体が、ビクンと大きく反り返る。
「もごおおっ!んんぅ、んーっ!!」
悲鳴を上げようにも口は塞がっている。腰を振ってふりほどこうとすればするほど、ウナギは喜界島の
中へ中へと入り込んだ。秘部にはさらに1匹ウナギが入り込み、勢いよく暴れる。もはや当初の目的も忘れ、
喜界島は倒錯した快楽の虜になっていた。
(ああっ、恥ずかしい……ウナギに犯される姿を、めだかお姉様に見られるなんて……。)
しかし心とは裏腹に、前と後ろの穴でウナギが暴れる未曾有の快感に、喜界島の肉体は溺れきっていた。
「んぐぅ!ひっ、ひぅぅぅーーっ!!」
喜界島は絶頂に達し、潮を吹いたが、水しぶきにまぎれ、めだかも襟裳もそれに気付かなかった。
ズボンの前が破裂しそうに膨らんでいるのを隠そうと襟裳は必死だったが、めだかはそれにも気付く様子はない。
悶えまくる喜界島の姿を見つめるめだかの瞳は、愛弟子を見守るコーチのような、愛情に輝いていた。
「うむ、目標に向かって努力する姿を見るのはよいものだ。私もだんだん昂ぶってきたぞ!」
めだかの目がらんらんと輝き始めた。そして襟裳の方に向き直ると唐突に言った。
「よし、ここでやるぞ!」
「な、何をでしょう…?」
「決まっているだろう、セックスだ!」
「はあ!?」
襟裳は一瞬、我が耳を疑った。しかしめだかの表情は、明らかに本気だった。
「練り上げられた肉体、そしてそれを更に自ら磨こうという姿勢。これこそが、私をもっとも燃え上がらせるものだ!」
確かにめだかは興奮していた。が、普通の人間とは、明らかにポイントがずれている。
全裸でウナギ責めにされ悶絶する喜界島のエロティックな肢体ではなく、ウナギづかみに再挑戦しようとする
喜界島の心意気と、今、格闘している姿を見て興奮しているのだ。全裸とか、ウナギに犯されているのは
特に視界に入ってないらしい。
襟裳は後に語った。
『後日、生徒会庶務の人吉さんに聞いたんですが、会長ってバカ……い、いえ!独特の価値観を持ってらっしゃる
んですね。性的なことより、青春ドラマみたいに努力する姿に興奮するっていうんですから…。
でも、どんな人でも応援するっていうポリシーを、一貫している人だなっていうのはよくわかりました。
その点では本当にすごい人です。ちょっとバ……いえ、個性的な面はありますが。』
めだかは顔を火照らせ、いそいそと純白のパンティを脱いだ。壁に手を突き、スカートをめくりあげる。
熟れきった白桃のように、むっちりとした大きなヒップが剥き出しになった。
「さあ、後ろから突くがいい!思い切り、荒々しく!」
喜界島の痴態のおかげで、既に臨界点に達しつつある襟裳の男性自身は、めだかのその姿で、一気に暴発
しそうになった。なんとか耐え抜き、コンドームをつける。愛液がしたたるめだかの秘部を、後ろから貫いた。
「あうっ!…い、いいぞっ!……貴様もなかなかやるではないか…んっ、くううっ!」
襟裳のピストン運動に負けじと、めだかも激しく尻を振り、襟裳の男性器を咥え込んだ。それだけでは物足りぬと
ばかりに、めだかは制服の胸元を自らはだけ、爆乳を露出させる。襟裳の両手を掴み、自分の乳房に当て、
自ら揉みしだいた。あまりの柔らかさに、襟裳の頭はショートしそうになる。
「はっ!…はっ!…んうう!……そうだ、もっとだ!もっと突いてくれ!」
「はぐぅ!んんんーっっ!!」
喜界島は、何度目かの絶頂に達しつつあった。その姿に、めだかのボルテージも上がる一方だ。
「そうだ、美しいぞ、喜界島同級生! 私も……私も……うああっ!」
ポイントのずれた興奮ではあるが、とにかくめだかもクライマックスに到達する。襟裳ももう限界だ。
「か、会長っ……もう、イキますっ!」
「遠慮するな、私もだ! あっ!……あっ!……イ…くぅ、あああ!!」
襟裳がたまらず発射した。めだかの背中が反り返り、しばらく硬直する。二人は大きく息をついた。
「はあ……はあ……よかったぞ、襟裳三年生。これぞ青春の汗というものだ。」
汗の浮かんだめだかの笑顔に、襟裳もようやく表情を崩した。
「ああん、めだかお姉様……。」
その一方で喜界島は、恍惚の表情を浮かべたまま既に失神していた。
「さて、一汗かいたらまたやる気が出てきたぞ。最後の締めくくりとしてデスクワークだ!」
「ええっ、まだ仕事があるんですか…。」
既に夜の10時を回っていた。襟裳はもはや疲労困憊であったが、ヤることだけヤって帰るのでは卑怯な気がして、
最後までめだかに付き合う腹を括る。初体験をさせてもらったというだけでなく、このほんの数時間で
いろいろなことをめだかに教わった。手伝うことで、少しでも恩返しができればいいと思ったのだ。
しかしその襟裳の決意は、生徒会室に戻った時、崩れそうになった。机の上には何百何千枚あるかわからぬ
書類の山が積み上げられていたからだ。しかしめだかは、事も無げに言った。
「うむ、今日はいつもより少ないな。これなら12時くらいには終わるだろう。始めるぞ!」
襟裳は後に語った。
『あの書類の山を見た時、気が遠くなりました、ほんと。でも僕が1枚見る間に、会長は10枚以上
こなしていくんです。その早いことと言ったら…。この人でなければ、会長は務まりませんね…。』
深夜12時を過ぎ、日付が変わった頃に、ようやく書類の山は全て処理が完了した。襟裳はゲッソリと
なりながらも、この充実した半日に満足していた。めだかに礼を言い、フラフラと帰宅していく。
「さて、今回の依頼は全て終わった。出てくるがいい、善吉。」
めだかは物陰に向かって声をかけた。舌打ちして善吉が姿を現わす。
「カッ、やっぱりお見通しだったか。」
「無論だ。人のセックスを覗き見するとは、良くない趣味だぞ。」
「そっ、そんなこと言ってもだな……!」
善吉は反論しようとしたが、途中でやめた。今回は大人しい連中揃いだったからいいが、ケダモノみたいな
奴らが同じ依頼をしてきても受けるのか。そもそも、初体験したいと言われて、はいそうですかと肉体を
提供するっておかしいだろう。言いたいことは山ほどあるが、めだかの返事は決まりきっているからだ。
「そう、わかっているだろう。私は、私の助けを求める人間の為なら、いかなる労苦をも厭わぬ。
その笑顔を見ることこそが私の生き甲斐、私がこの世に生まれた理由なのだから。」
善吉が予想した通りの言葉が返って来た。やっぱりな…。善吉はふっとため息をつく。
めだかはその善吉の肩をぽんと叩いた。
「だが、礼を言うぞ善吉。貴様が私のことを心から心配してくれるのは、私が誰よりも知っている。
それに……今日の依頼を見ていたなら、わかったはずだぞ。」
めだかは善吉の顔を上目遣いで覗きこみ、頬を赤らめて言った。
「私が……生でさせて、中出しを許すのは……善吉だけなのだぞ……。」
善吉の頭が一気に沸騰した。ズボンの前が、爆発しそうに隆起する。
「だが今日はさすがに疲れた。続きはまた今度だ。」
抱きつきかけた善吉を空振りさせて、欠伸をしながらめだかは帰り支度を始めるのだった。
(終)