「ねえ、ティトォ、プリセラ。今から少しの間だけ、あたしのことひとりにしてくれないかな」
夢の樹の上で、アクアは少しだけ言いづらそうに切り出した。
"アトラム大陸南西に位置するパキ島にて決戦を行う ティトォ アクア プリセラは30日以内に来られたし"
女神の国からの文を受け、"TAP"がメモリアを出立してから3日。TAPと仲間たちを乗せた海竜グノキングは、パキ島へと向かっていた。
グノキングの殻の中に作られた船室で、ミカゼは一人眠れずにいた。
これがきっと、最後の戦いになる。パキ島で待つ三大神器を打ち負かし、星の存在変換を食い止めななけらばならない。
しかし、時間がなさすぎる。ミカゼに託された禁断五大魔「命七乱月」は、まだ使い方すらわかっていないのだ。
禁断五大魔「ゴッドマシン」を持つグリンが再び時の眠りについてしまった今、自分がこの決戦に勝つための「鍵」だと言うのに
その自分は一体何をすればいいのかわからない。
ミカゼがそんなことをぐるぐる考えていると、船室のドアがコンコン、とノックされた。
ミカゼが起き上がる暇もなくドアが無造作に開け放たれる。
ミカゼは扉の方を見るまでもなく、誰が入ってきたかわかった。平然をこういう不躾なことをするやつは、ひとりしかいない。
ミカゼが入り口に顔を向けると、だぼだぼの青い服に身を包み、長い髪を二つ括りにした小さな女の子がいた。
「んだよ、アクア」
「よっ、ミカゼ。入るよ」
もう入ってんじゃねーか、と言うツッコミは心の中だけにとどめておく。
戦う決意を新たにしたティトォを筆頭に、
ミカゼ、リュシカ、サン、ジール・ボーイ、シシメらもパキ島での決戦に向け意気込み十分!とメモリアを発った。
しかしそのわずか2日後、ティトォは体調を崩して死んでしまった。
マージ島でのヨマ戦から疲れを癒す間もなく行動することになったこと、さらに出発前夜のバレット王との暴飲がたたり、
おまけにグノキングの不衛生さも相まってそれはもうアッサリポックリお亡くなりになってしまった。
そして存在変換が起こり、アクアが出てきたのだ。
まあ、マジックパイルを会得した今、誰が「出ていて」も別にこれといった違いはないのだが、
流石に決戦に向け士気を上げる中でのこの出来事には皆ちょっとだけコケてしまった。
「飲み物くらい出しなよ、気が利かないね」
やれやれどっこいしょ、とかババ臭いことを言いながらアクアはベッドに腰を下ろし、厚かましい要求をしてきた。
ミカゼは「ここはホテルじゃねーっつーの……」とぶつくさ言いながらも、爆破されるのも嫌なので
何かあったかな?と荷物をゴソゴソと探る。
「シシメは?」
「ああ、師匠ならネクバーパ船長に追っかけられてるよ」
「ふーん」
道理で…とアクアは思った。
少し前から「珍奇ィーーーッ!」という叫びがグノキングの中にこだましている。
ネクバーパに迫られ、シシメはミカゼに助けを乞うたが、ミカゼは無視してしまった。
(すみません師匠…俺、あのオッサン苦手なんす…)
心の中でミカゼはシシメへの謝罪の言葉を呟く。
「んで、何か用か?」
ミカゼは荷物をひっくり返しながら、アクアにたずねた。
「ん、まあね。あんたにちゃんと礼を言っておこうかと思ってさ」
「へ?」
アクアの口から発せられた言葉は、ミカゼが予想もしなかったものだった。
アクアが礼……いやまあこれは別にありえなくもなかったが、その相手がミカゼとなると話は別だ。
ミカゼは思わずきょとんとした顔でアクアを見る。アクアの顔はいつもと変わらなかったが、その口調はミカゼをからかってるふうではなかった。
「ほれ、あんたが魔法陣で優勝した後にさ、あたしすぐ「換わっちゃった」だろ。ゆっくり話をする暇もなかったからね」
「ああ…」
ミカゼは曖昧に答える。
あの時、アクアはミカゼを治療するために、拳銃で自らの頭を打ち抜き、癒しの魔法を操るティトォに存在変換したのだった。
ミカゼはその時のことを思い出すと、苦い気持ちになる。
いくら相手が不老不死の存在とは言え、目の前で死なれるのはいい気分はしない。
しかもその死が、自分のために行われたのだと言うならなおさらだ。
「ま、あたしゃこれでも結構アンタに感謝してるわけよ。あんたの勝ち取ったそれ
「……最後の禁断五大魔、命七乱月。絶対にグリ・ムリ・アの手に渡すわけにはいかなかったからね。
「そいつは運命を切り開く鍵だ。そして、女神を討ち倒すための剣なんだ」
…そして、アロアを…と言いかけたが、アクアはぐっとその言葉を飲み込んで、ふうっと息を吐く。
知らず知らずに手に入っていた力を抜くと、アクアはミカゼに微笑みかける。
「正直ね、アンタがここまでやるとは思ってなかったよ。…偉いぞ、ミカゼ」
それは、アクアがいままで見せたことのないような
……天真爛漫で無邪気な笑顔でも、意地の悪そうなニンマリ顔でも、自信に満ちた不適な笑みでもなく……
とても穏やかな笑顔だった。
「なッ…何言ってんだよ」
照れくさくなったミカゼは再びアクアに背を向け、荷物を探り始める。
そんなミカゼのようすを可笑しく思ったのか、滅多に見せないアクアの微笑は
すぐにいつものニヤニヤ笑いに戻ってしまった(もちろんミカゼからは見えないが)
「なに、照れてんの?柄にもない」
「そんなんじゃねーよ!んだよ、やっぱからかいに来たんじゃないか」
「んなことないってー、ホント感謝してるんだってマジで」
けらけら笑いながらアクアは答える。
「だからさ、ご褒美をやらないとなっと思ってね」
「なんだよそれ……お、あった」
メモリアで買ったジュースのボトルをようやく見つけると、ミカゼはそれをアクアに手渡そうと振り返った…
…ところで固まってしまった。
アクアはベッドの上に腰かけたまま、もぞもぞと服を脱いでいるところだった。
「ん〜……ふうっ」
アクアがごわごわした厚手の服からようやく頭を引き抜くと、彼女の身体を包んでいるものは、薄っぺらで頼りない下着だけになってしまった。
「おまッ……何してんだよ!?」
ミカゼは真っ赤になって背を向けると、アクアがその背中にニヤニヤしながら声をかける。
「コーフンした?」
「ガキの裸なんか見ても何とも思うか!」
それはアクアと付き合いの長いミカゼが、普段ならけっして口にしない言葉だった。
それほど動転していたということなのだが、言ってからしまった、とミカゼは青くなる。
(やばい、爆破される……!いくつ来る!?5個か、10個か!?それとも、まさか、もしかして……スーパーキャンデー28号か!?)
ミカゼは一瞬死を覚悟したが、爆発の代わりにミカゼは頬を叩かれた。
叩かれたと言うか、殴られた。グーで。全力で。
爆破されなくてホッとしたが、ほお骨を思いっきり殴られたので、ものすごく痛かった。
ミカゼは思わず素に戻って返す。
「あの、アクア痛いんだけど……」
「黙れ童貞が」
アクアはミカゼをじろりと睨み、ズバッと切り捨てる。
「どッ……あのな……!その……」
ミカゼは何か言おうとするが、そのものズバリ事実を言われただけなので、言い返せない。
というか事実を言われただけなのに、なぜこんな屈辱的な気分になるのだろうか。
「あのねえ、さっきも言ったけど、命七乱月はこの決戦の鍵なんだ。言うなればアンタは、大地を守る勇者様なんだよ」
裸身にシーツを羽織ったアクアは、ぴっとミカゼを指差す。
アンタは大魔王だけどな、と減らず口が浮かんできたがミカゼはそれを飲み込んだ。
「そんな『勇者様』が童貞じゃかっこ付かないだろ、だからあたしが相手してやるって言ってんの」
「相手ってお前……」
「んだよ、こー見えても結構経験豊富なんだよあたしゃ」
「は!?」
しなを作りながら答えるアクアに、ミカゼは思わず頓狂な声を上げてしまった。
「長く生きてりゃね……ま、色々あるんだよ」
心なしかアクアの声のトーンが落ちる。
100年間も、人より弱い身体を抱えて生きてきたのだ。辛いこと、苦しいことが山ほどあったに違いない。
ミカゼは自分には想像もできないような彼らの100年の旅を思い、苦い気持ちになる。しかし……
(……世の中には、いろんな趣味のやつがいるんだなァ……)
座り込んでいるミカゼとほとんど変わらない身長。二つ括りの髪型も相まって、どう見ても小さな子供にしか見えない。
アクアの身体を眺めながら失礼なことを考えていると、再びアクアの鉄拳がミカゼを打ちのめした。
「何だよ、なんでだよ!」
「あんたの視線があたしを侮辱してたんだよ」
ミカゼの抗議にアクアは冷ややかに答える。しかしひとつため息をつくと、
「ま、特別に許してやるか。今日は『ご褒美』に来たんだしね」
アクアは二つ括りにしていた髪を解き、軽く手で梳く。床に付くほど長い髪が、ふわっと揺れる。
身体に纏っていたシーツを緩め、肩が出るくらいにはだけると、ぎしっ、とベッドに腰かける。
いまだに座り込んだままのミカゼを、その人形のような瞳で見つめ……
「おいで……好きなようにしていいよ」
……誘いの言葉を舌に乗せた。
ミカゼは思わずどきりとする。
その姿は、幼い外見からはとても信じられないような、妖艶な色香に満ちていて……
ミカゼはゆっくりと立ち上がると、誘われるようにのろのろとベッドに向かう。
アクアの前に立つと、アクアもまた上目にミカゼを見返してきた。
ミカゼの頭は熱に浮かされたようになっていたが、そんな中で、ぼんやりと考える。
(本当に、するのか……?アクアと?)
ミカゼも年頃の少年だ、女に興味がないと言ったらウソになる。
しかし、アクアとこういうことをするのには、正直なところ抵抗を感じていた。
それは彼女の幼い身体だけが原因ではない。
思えばミカゼの旅は、ミカゼがアクアを下界に連れ出したことから始まったのだ。
ミカゼはアクアたちのために、とミルホット村を飛び出した。そして、世界を見た。魔法使いたちと出会った。
性格は悪いし、人のこと殴るわ蹴るわパシるわ爆破するわ……それでも、ミカゼはアクアを、何か特別な存在のように感じていたのだ。
そんなふうにミカゼがもたもたしていると、アクアはしびれを切らしたのか、ベッドから立ち上がりミカゼに抱きついてきた。
アクアの身体を隠していたシーツが、はらりと床に落ちる。
「アクア……」
「……バーカ、女に恥かかすんじゃないよ」
ミカゼの背中──と言うか、アクアは背が低いので実際にはミカゼの腰のあたりだが──に回された腕に、きゅ、と力が入る。
アクアの身体は暖かくて、柔らかくて……
「……ふうん」
アクアはにんまりと微笑むと、少し体を離し、ミカゼの下腹にそっと手を這わせる。
「うあッ……」
思わずミカゼは声を漏らす。
ゆったりした服のせいでアクアは気付いていなかったが、ミカゼの分身はアクアに誘いの言葉を囁きかけられた時から、痛いほどに勃起していた。
「なんだい、しっかりヤル気になってんじゃないか」
くすくすと笑いながら、アクアはミカゼのそれを、ズボンの上から摩ったり、カタチを浮かび上がらせるように指でこねたりする。
ミカゼの息が荒くなってくる。ミカゼはそのまましばらくされるがままにしていたが、
アクアはあくまでもズボンの上からのみ愛撫を続け、布越しのその感触がだんだんともどかしく感じてくる。
ミカゼは、自分が先走った液体で、ズボンの前を濡らしてしまっているのが分かった。濡れた布が肌に張り付くような感覚が、気持ち悪い。
「ぁ…む…」
アクアが少し屈み込み、ミカゼのそれをズボン越しに甘噛みしたとき──わずかに残っていた彼の理性は、完全に消え去ってしまった。
「アクア……ッ!」
ミカゼはアクアの肩をつかむと、強引にベッドに押し倒した。
ミカゼの身体の下に、裸のアクアがいる。
長い髪、白い肌、華奢ながら、薄く肉の付いた身体。わずかに紅潮した頬。細い首、細い肩……
いつも偉そうで、人をやたら魔法で攻撃してくる、悪魔のようなアクアが……なぜか触れたら壊れてしまいそうな、とても儚いものに見えた。
「本当に…いいんだな」
ミカゼは呟いたが、たとえ駄目だと言われても、もう止まれないだろうと、沸騰した頭の端で思っていた。
アクアはその問いに答えず、目を瞑って、軽く口を突き出してみせる。
(キス……しろってことだよな、これって)
ミカゼはぎこちなくアクアに顔を寄せる。
まつ毛、意外と長いんだ。などと考えながら、そっとアクアに口づける…
最初は、唇と唇をふれあわせるだけの、軽いキス。
しかし、ミカゼはそれだけでは満足できなかった。やがてアクアの口に舌を入れると、彼女の口内を貪るように、激しいキスをした。
それは技巧も何もない、勢いだけの少々乱暴なものだったが、アクアもまたミカゼの舌に舌を絡ませ、キスに答える。
ぴちゃぴちゃと水っぽい音と2人の荒い呼吸だけが、狭い船室に響く。
純朴な田舎の少年であるミカゼは、当然キスなんて初めてのことで。
情熱的なキスはくらくらするほど熱くて、そして蕩けるように甘く……
(……甘い?)
それはロマンチックな表現と言うわけではなく、実際甘かった。物理的に甘かった。
すると突然ミカゼに、何かが口移しされる。
驚いたミカゼはあわてて顔を離そうとしたが、アクアの両腕にガッチリと頭を抱きしめられていて、顔を動かすこともできない。
だんだん息苦しくなったミカゼは、その口移しされたものを飲み込んでしまう。
アクアに頭を掴まれたままキスを続けていたが、アクアの腕の力がゆるんだ隙を見て、ミカゼは顔を離した。
実に5分間に渡る情熱的なキスを終え、アクアはベッドに身体を横たえたまま、とろんとした目で、ほう、と船室の天井を眺めていた。
対称的にミカゼは激しく咳き込んでいる。
「おまッ……!何、飲ませ……ッ!」
「……ったく、もーちょっと余韻に浸らせなよね……ホント、ムードってもんがわかってないんだから」
アクアが興醒めだ、とばかりにミカゼに冷ややかな言葉を投げかける。
「いやムードとか気にしてる場合じゃねーよ!お前今、俺に何飲ませたッ!?」
本当はだいたい想像がついていたが…
「ん?ああ、アメ玉。」
悪びれもせずアクアは答える。
「いやさー、いくらアタシが経験豊富な大人の女って言ってもさ、この身体だろ?激しくされたりすると、やっぱちょっと辛いものがあるわけよ」
ぺたぺたと自分の身体を触りながら、アクアは「大人の女」を妙に強調しつつ、言葉を続ける。
「……乱暴にしたりしたら、内側から爆破してやるから」
ぞっとするような笑みを浮かべ、アクアは言った。
「……っこの、ドS……!」
「なんとでも言いな、加減を知らない童貞坊やにムチャされたらたまったもんじゃないからね」
「お前本当……ッ、お前なあ……ッ!」
ミカゼは何か言い返してやろうと思ったが、その前に再び唇を塞がれる。
唇を離すと、アクアはぺろりと唇を舐め、言った。
「いつまでその格好でいる気?服着てちゃ、始めらんないよ」
ミカゼはもぞもぞと服を脱ぎ始める。上着とシャツを脱ぐと、鍛えられ引き締まった肉体が姿を見せる。
そのようすをアクアがベッドで足をぶらぶらさせながら見ているので、ミカゼはアクアに背を向ける。
(くそ、恥ずいな…)
とかそんなことを思いながら服を脱ぎ終えると、股間を手で隠しながらアクアに近付く。
ぎし、と軽くベッドが軋む。
再びアクアを押し倒すような形になったミカゼは、(爆破されてはたまらないので)はやる気持ちを抑えつつ、アクアの身体に手を伸ばす。
アクアは目を伏せ、ふいと横を向いている。
ミカゼがアクアの胸に触れると、アクアの身体がぴくっと震える。
ほんのわずかな膨らみではあったが、ぐに、と少し固めの弾力を感じる。
ミカゼはそのまましばらくむにむにと彼女の胸を弄っていた。アクアの頬が、だんだんと紅潮してくる。
「……っふ……」
アクアの息がだんだんと荒くなっていく。しかし、当のミカゼは…
(……なんか、あんまり面白くないなあ……)
と、アクアに知れたら骨まで残らなくなりそうな、非常に失礼なことを考えていた。
言ってはなんだが、アクアはあまりにもボリュームが足りなさ過ぎた。……もちろんそのテの趣味の方にはご褒美だろうが。
(だったら……)
ミカゼは胸を弄る手を止め、アクアの太ももに手を伸ばす。
ミカゼの手が触れると、アクアは一瞬身を固くしたが、すぐに力を抜いて、その身をミカゼに委ねる。
(うわ、すべすべだ……)
ミカゼは、アクアの白い太ももを撫で摩る。
「……くすぐったいよ」
とアクア。ミカゼはそれには答えず、しばしの間「女性の柔らかさ」に夢中になっていた。
すげーな、こんなに柔らかいんだ。
いつもおんぶとかしてやってるのに、全然気付かなかった。
ミカゼがアクアの脚を掴んで上げると、アクアはきゅっと目を瞑り、シーツの裾を掴む。
ぴったりと閉じられたそこを、両手で広げてやると、アクアの女性器があらわになった。
「……すげーな、こんなふうになってんだ……」
「うるさいよっ……」
さすがに恥ずかしいのか、アクアは消え入りそうな声で答える。
アクアのそこは熱を持っていて、そしてしっとりと潤んでいた。
(これが……アクアの……)
蜜に誘われるように、ミカゼはそこに顔を近付けると、ふんふん、とにおいを嗅いだ。
これはさすがに想定外だった。アクアは一瞬で茹で上がったように顔を真っ赤にすると、
「なにやってんだいっ!」
と、叫んだ。
しかしミカゼはかまわずに続ける。
「……好きなようにしていいんだろ?」
「それはッ……」
アクアは口籠る。自分が言い出したことなので、言い返せない。
「だったら……いいだろ」
ミカゼはそこに鼻をくっつけるようにして、アクアのにおいを嗅ぐ。アクアの蜜が、ミカゼの顔を汚す。
アクアは羞恥に顔を真っ赤に染め、ミカゼが鼻をふんふんと動かすたびに、身体をびくっと震わせる。
獣の面をかぶっていたころのミカゼは、鼻の力を生かして人を捜したりしていたので、今でも匂いと言うものに敏感になっていた。
(これが、女の匂い……アクアの匂い……!)
そこの匂いを嗅いでいるだけで、ミカゼはもう爆発寸前にまでなっていた。
「……っ、あんま、調子に乗るんじゃ……ふぁっ!?」
アクアはミカゼを睨みつけるが、ミカゼがそこをべろりと舐め上げると、不意をつかれたアクアが嬌声を上げる。
ミカゼには、もうアクアの声は聞こえていなかった。
ミカゼはまるで獣のように、アクアの性器を貪った。ぺちゃぺちゃと、水っぽい音が静かな船室に響き渡る。
「っあ、あぁっ、ん、んっ……」
ミカゼがそこを舐めるたびに、アクアの腰にぴりぴりと快感が走る。
アクアははしたない声を上げそうになるが、指を噛み、それを必死で噛み殺す。
乗員の多いこの船で、誰かに聞かれるようなことになったら最悪だ。
とうとう我慢の限界になったのか、ミカゼが身体を起こし、アクアの身体を引き寄せる。
そして、びくびくと脈打つ怒張をアクアの下腹にあてがう……が、未経験なミカゼは、うまくそれをアクアに挿入することができない。
ぬるぬると、入り口を擦るだけのそれをアクアはもどかしく思い、ミカゼに手を添え、入り口を示す。
「……ゆっくりだかんね」
と念を押すように言ったが、アクアもまたミカゼの執拗な責めで、すっかり身体に火がついてしまっていた。
ミカゼを突き立ててほしい。掻き回してほしい……
狭い壁を押し広げるように、ゆっくり、ゆっくりとミカゼのものがアクアの中に侵入していく。
(うあ……なんだこれ……)
アクアの中は狭くて、ミカゼをきゅうきゅう締め付けてくる。ミカゼのそれが、アクアの体温に包まれて……
(やば……!)
すでに相当昂っていたミカゼは、急速にこみ上げる射精感を覚える。
「っ……アクア!!」
「ッ!!?」
もはや限界だったミカゼは、アクアの身体を引き起こし、
そのまま彼女の身体を座らせるようにして奥まで一気に貫くと、どくどくと大量の精を吐き出した。
「はッ……かはっ……」
突然身体の一番奥まで怒張を突き立てられたアクアは、一瞬呼吸ができなくなって、喘いだ。
腹の中で、ミカゼがびくびくと動いているのが分かる。ミカゼは、射精しながら、アクアの小さな身体を潰れそうなほど強く抱きしめていた。
長い射精を終え、ミカゼの腕の力が緩むと、アクアはやっと一息つくことができた。
「っはっ……はぁっ……バ、バカ……早すぎ、だよッ……」
切れ切れに、アクアが言う。
アクアと同じように、ミカゼもまた肩で息をしていた。
「しょうが……ないね、まったく……」
アクアは腰を浮かせて、ミカゼのものを引き抜いた。
……が。
ミカゼに乱暴に肩をつかまれ、アクアはベッドに押し倒された。
突然のことに驚き、アクアは抗議の声を上げる。
「ちょっと、ミカゼ!?」
しかし、ミカゼは答えない。ミカゼは荒い呼吸のまま、アクアを見ていた。
しかし視線はアクアにあっても、ミカゼはアクアのことを見てないように思えた。
その視線は、まるで貪るような目付きで…
(……もしかして、キレちゃった?)
アクアの顔が、少し青くなる。
「待てミカゼ、ちょっと落ち着……ひぁッ!?」
言い終わるより早く、ミカゼが再びアクアに怒張を突き立て、めちゃくちゃに腰を振った。
「っう、うぁ、待ッ……!」
アクアの愛液と、先ほど射精された精液が激しくかき混ぜられ、ぢゅぱぢゅぱといやらしい音を立てる。
アクアにのしかかっているミカゼの身体は、じっとりと汗ばんでいた。そしてそれは、アクアも同じで…
「あッ、あ、や、やぁぁぁ」
なんとかミカゼを静止しようとするも、ミカゼの責めはあまりに激しく、アクアはまともな言葉すら発することができなかった。
そんなようすが、ミカゼの欲望にさらに火をつける。
無邪気で天真爛漫な彼女を、どサドで、自分を下僕のように扱う彼女を、今自分の身体の下で、小さな身体を震わせ、鳴いている彼女を。
壊してしまいたい。
ミカゼのそれは一段と膨らみ、アクアに激しく腰を打ち付ける。
ぎしぎしと、安物のベッドが悲鳴を上げる。
「あぁ、ぁん、あ、やぁ、やぁぁ、だめ、だめぇ……!」
ミカゼの責めはめちゃくちゃででたらめだったが、その激しさに、アクアはだんだんと限界に近づいていた。
頬を紅潮させ、大粒の涙を浮かべ、ミカゼの身体を強く抱きしめる。
ミカゼもそれに答えるように、さらに激しく腰を振る。
(やば、キちゃう……!)
ひときわ大きな快感の波が押し寄せるのを感じ、アクアは大きな声を出してしまわないように、ミカゼの胸に顔を埋める。
「ふ……あっ……!!─────っ!!!」
ミカゼがアクアの一番奥に付き入れた瞬間、びくびくと身体を震わせ、アクアは果てた。
快感の波が身体の中を暴れ回り、それに耐えるようにミカゼの身体をよりいっそう強く抱きしめる。
爪がミカゼの背中に食い込み、血がにじんだ。
アクアが達するのと同時に、彼女の中はミカゼを強く締め付け、その刺激にミカゼもまたアクアの膣内に2度目の射精をした……
「……うぁっ!?」
しかし、絶頂の余韻に浸る間もなく、ミカゼはアクアに腰を打ち付けてくる。
「ミカゼ、ちょッ……休ませ……ッ」
息も切れ切れにアクアが訴えるが、ミカゼは聞いていない。
アクアはもうとっくに体力の限界だと言うのに、ミカゼは2度の射精にも関わらず、全く萎えるようすがない。
ミカゼはアクアの腰をつかみ、さらに激しく動かす。
「や、やぁ、だめ……だめッ……!」
アクアの必死の懇願も、ミカゼの耳には届かない。
「……っいいかげんに……しなッ!!」
最後の力を振り絞って、アクアがミカゼの胸をどんと叩く。
ぼふ、と鈍い音が部屋に響き渡り、ミカゼの動きが止まった。
魔力を込めたアメ玉を、ミカゼの体内で爆発させたのだ。
ミカゼはもわっと口から煙を吐くと、白目を剥いてアクアの上に倒れ込んできた。
ようやく解放されたアクアは、ぜいぜいと肩で息をして、なんとか呼吸を落ち着ける。
部屋は、汗と精液の匂いが混じりあって、むせ返るようだった。
(……死ぬかと思った……)
割と本気でそんなことを考えつつ、自分の上にのしかかっているミカゼを睨みつけ。
(ったく……あんだけ人にムチャしといて、のんきに気絶なんかしやがって。重いっつーの)
ベッドの下に蹴り落としてやろうかと思ったが、
「……」
ミカゼの体温と、鼓動が、触れ合った肌から伝わってくる。
アクアはそっとミカゼの背中に手を回す。
アクアはミカゼの重みを感じたまま、ミカゼをきゅっと抱きしめた───
数時間後。
そこには、ベッドの上に不機嫌そうに腰かける少女と、土下座する少年の姿があった。
「好き勝手やってくれたね」
「すんませんっした」
「まだ体中ぎしぎし言うしさー」
「ホントすんません」
「これだから童貞は」
「返す言葉もございません」
アクアは言いたい放題だったが、
欲望に正気を失ったことを恥じていたミカゼは、何を言われても平謝りだった。
「今夜のことに点数付けるなら、あんたは0点だよ、れーてん」
「マジでごめんなさい……」
うなだれるミカゼに、アクアはふう、とため息を吐くと
「……0点なんて恥だよ。少しくらいは取り戻しなよね」
と言った。
「へ?アクア、それってどういう……」
ミカゼは怪訝そうに顔を上げる。
「そんなだから、あんたはムードってもんが分からないんだよ」
と言うと、アクアは腕を広げる。
行為を終えた後の男女は……
(……あ、そういうことか……)
ミカゼは気付くと、身体を起こし、アクアの隣に腰かけ……アクアを抱きしめる。
「……なあ、アクア。なんでこんなことしたんだ?」
裸で身を寄せ合いながら、ミカゼがアクアに尋ねる。
「……さっき言ったろ、ご褒美だって」
「本当に、そうなのか?」
ミカゼには、アクアがそんな理由で自分に身体を許すとは思えなかった。
「……さあね」
アクアは素っ気なく答え、そっぽを向いてしまった。
ミカゼへのごほうび……そんな理由でないことは、アクア自身が一番分かっていた。
パキ島で待つ、三大神器「舞響大天」……彼女との戦いは、アクアの100年の旅の終わりを意味するものかもしれない。
戦う覚悟はしてきたはずだ。しかし、本当に自分は……彼女を攻撃することができるのか?
真実を知る勇気はあるのか?
(不安……だったのかもしれないね)
(だから、温もりが欲しかったんだ)
(ミカゼ、別にあんたじゃなくてもよかったんだ)
(誰だってよかったんだよ、ミカゼ)
そんなことを考えながら、アクアはぎゅっと身体を固くする。
「……?ミカゼ?」
アクアが怪訝な声を上げる。
ミカゼはアクアの身体に手を回し、優しく抱きしめた。
きっとうまくいく、とか。
俺が守ってやる、とか。
そんな安い言葉を口に出すことはなかったが。
ただ、アクアのことを、優しく抱きしめた。
それは、100年の間に忘れていた、人の温もり……
「……ふん」
アクアは軽く鼻を鳴らし、ミカゼの腕に、そっと手を添える。
背を向けているためミカゼには見えないが
……その顔には、ふわっとした、安らぎの表情が浮かんでいた。
※※※オマケ※※※
「あのさ、ちょっと気になったんだけど……」
「なにさ」
「その、こんなことして……ティトォやプリセラに、バレないのか?」
「あー、それね……大丈夫大丈夫、今夜ここに来る前、ふたりに『しばらく一人にしてくれ』って言っといたから」
「そっか、それなら安心」
ミカゼはほっと安堵の息を漏らす。
「……ってちょっと待て。それ逆に怪しまれないか!?」
「ん?ん〜……かもね」
アクアは気まずそうに、ポリポリと頬を掻く。
「ティトォは頭がいいし……プリセラは勘がいいからねぇ。ま、フツーにバレてる気はするけど」
ふう、とアクアはため息をつく。
「こんな身体じゃ、完全に隠し事なんて無理なんだよ」
「いや軽く言うなよ!俺今度からどんな顔してふたりに会えばいいんだよ!」
「ふたりとも別にそんなの気にしないって。100年も生きてりゃ、大抵のことには驚かなくなるんだよ」
「そんなのって……」
「それにあたしら、夢の樹で3人でしたこともあるしね」
「マジで!?」
一方その頃、夢の樹では。
「ん〜、ぜんぜん駄目ねミカゼったら、がっつきすぎ。」
「あれじゃアクアも怒るよねえ。まあでも、最後の気遣いはちょっと良かったんじゃない?」
「それでも総合で赤点だよ。今度あたしが出たら、ひとこと言ってやろうかな」
「……やめときなって」
『見るな』と言われたのを完全に無視して、ティトォとプリセラはしっかりデバガメしていた。
「……でもさ、アクアったら『誰でも良かった』なんてこと考えてたけど、まっすぐミカゼのとこへ行ったよね」
プリセラがくすくすと笑う。
「ミカゼもね。アクアが服を脱ぎはじめた時、すごく照れてた」
ティトォも笑う。
「ミカゼがそういう趣味じゃないってのは、これまでの付き合いで分かってるんだけどねえ」
「アクアだから、ってこと?」
「たぶんね」
「ヘー。じゃああのふたりってそうなの?そうなの?」
「さあ。お互い意識してるかどうかは分かんないけど……」
「けど?」
「多分…」
ティトォが言葉を続ける。
「多分、ふたりともお互いがちょっとだけ『特別』なんじゃないかな」
おわり