「ジョネー、大丈夫―?」
心配そうに顔を覗き込む友人に手をパタパタと振りながら酔っ払ったジョネは答える。
「大丈夫よ、あたしがアルコールで前後不覚になったことないの知ってるでしょー?」
郊外のバーで一通り飲んだジョネとその友人は無人の駅前で叫ぶようにして話し合っている。
二人が酩酊状態であることを知らぬ人間が見れば、まるで喧嘩でもしているかのように見えるだろう。
「心配してるのは帰り道のことよー。結局終電乗り過ごしたじゃない。
あたしは近くにおばさんの家があるし明日仕事じゃないからいいけど、
こっから街中まで結構距離あるし途中全然人気がないとこ通るんだよ。
この前も変な魔法使いが街中で暴れてたばっかりだしあぶないんじゃないのー?」
「大丈夫よー?あたし結構逃げ足はやいからねー」
そう叫ぶと、上機嫌のジョネはけらけら笑いながらメモリア中心部へと続く道へ歩いていった。
右側は深い森で、左側は川原という線路伝いの一軒も民家のない暗い道を足早に歩くジョネ。
メモリア東区域 − すなわちまばらに民家のある場所まで後10分ほど、
という地点まで来てジョネのアルコールはかなり抜けていた。
するととたんに理性が戻り、そして恐怖が沸きあがって来る。
やっぱり、明日の仕事は休みにして親友の誘いに乗ればよかったのだろうか。
しかし、ぶんぶんと頭を振り彼女は家で待つ家族の顔を思い出す。
ジョネは若くして両親を失い、今では妹との二人暮しだ。
たとえその妹が自分で料理洗濯掃除と一通りの家事が出来るしっかり者であろうとも、
まだブラすらしていない少女を家に一人きりにして不安を抑える事など
オムツの取れないころから妹の母親代わりになって育ててきたジョネには無理な話だった。
女だけの家族はただでさえ犯罪者の標的にされやすい。
もし、あたしのいない間に変質者があたしの知り合いと嘘をついて尋ねてきたら。
もし、あたしのいない間に凶器を持った強盗が窓を壊して部屋へ侵入してきたら。
もし、あたしのいない間に悪い魔法使いの殺人鬼が……。
ダメだ、怖い想像ばかりしてしまう。
本とあの嫌な魔法使い達のせいだ。
彼らが暴れたせいで電車や線路は壊され、
復旧作業のために終電は早くなりこんな暗くて人気のない夜道を歩かねばならないし、
なにより、ジョネや妹の知り合いだって数人が事件に巻き込まれたのだ。
もっと楽しいことを考えよう。
そう思い直し、ジョネはある男のことを思い出す。
そういえば、あの男も魔法使いと名乗っていたっけ。
変なマントを着て、自ら勇者だとか女神の30指だとか謳ってナンパしてきたあの男。
正直あんまり頭が良さそうには見えなかったし、田舎者丸出しだったけど面白い人だった。
田舎者といえば今日電車で乗り合わせた狐のお面をかぶった少年もそうだった。
昼日中からあんなお面をかぶってうろうろきょろきょろしているから目立ってしょうがなかった。
彼の常識の斜め上を行くファッションセンスに、笑いをこらえるのに必死になったっけ。
そうだ、今度のクリスマスはあの男の子のお面のようなセンスの悪いものを買って、
一度妹をがっかりさせてから欲しがっていたムームーマウスをあげてみよう。
最初にがっかりした分、欲しかったものをもらった喜びが倍になるかも。
じゃあ早速、明日の仕事終わりに……
そこでジョネは背後に気配を感じた。
誰かの足音……?
今まで30分近く誰ともすれ違わなかったこの道で?
家ひとつないこの界隈で?
ジョネは歩くスピードを速める。
その速度に、背後の足跡が合わせて来る。
二人の距離は離れず、むしろ音から推測される距離は少しずつ縮まってゆく。
不安が恐怖へ、疑念が確信へ変わる。
もう、歩くことは止め、少し高いヒールの靴でなりふりかまわず走り出すジョネ。
背後の足音の鳴る間隔から、追跡者が走らず早歩きをしていることが分かった。
しかしその足音は遠ざかるどころか少しずつ近づいてゆく。
女性と男性(ジョネはこの時点で後ろの追跡者を男性と予想、そしてそれは当たっていた)の歩幅の差や、
自分の靴が走るのに向いていないという点を考慮しても、
走っている自分が早歩きの変質者から逃げられないというのは異常なことだった。
背後にいる彼は、足の長さが2メートル近くもある化け物のような歩幅の持ち主だとでも言うのだろうか?
そんなジョネの混乱をあざ笑うように気配は近づいてくる。
5メートル
靴は舗装されていない道の泥にまみれ、右足のヒールも半分折れたがジョネは走った。
4メートル
ジョネの頭の中に、魔法使いに殺された職場の先輩の顔が浮かぶ。
3メートル
あたしも殺されるのだろうか。
2メートル
ああ、でも、殺されるだけですむんだろうか。
1メートル
あたしは女で、追跡者は多分男で。
50センチ
そしてここは、人気のない場所で。
20センチ
ただ殺されるより、もっと惨くて酷い目に合わされるんじゃないのだろうか。
10センチ
あの小さな子を残したまま。
5センチ
あたしはここでこ
「捕まえたぜ……」
すぐ耳元で聞こえる蛇のようなねっとりとした陰湿な声に、
緊張の爆発したジョネが首をたたき折られた鶏のような悲鳴を上げる。
「いやああああああぁぁぁぁぁっっ」
その瞬間、ジョネの眼前の土くれが跳ね上がり、
メガネをかけた少女と鳥を頭に乗せた少女が同時に現われた。
と、その膨れ上がった土の塊がジョネの鼻先を掠め彼女の背後へ飛び追跡者にぶつかり、彼を吹き飛ばす。
そして鳥を乗せた少女は光を纏い、大人の女性に姿を変える。
ぷっつり解けた緊張の糸と、目の前で繰り広げられる人知を超えた光景に驚き、
座り込んだまま呆然として動けなくなるジョネ。
そんな彼女にメガネをかけた少女が力強い声で語りかける。
「あたし達は女神の30指だから、もう大丈夫です。ほら、早く逃げて!」
その声にはっとしてジョネは立ち上がり、
「ありがとう!」
と二人に大きな声で礼を言うとすぐにその場から逃げ去った。
「てめーら、なに人の邪魔してくれてるんだ……?」
吹き飛ばされた男……エイキは、二人の少女……メルチナとコモレビを凶悪な顔で睨んだ。
『それはこっちのセリフですよ』
対峙する3人の頭の中に声が響く。
「そうか、てめえ……アダラパダかっ…」
『全く、僕がどれだけの手間をかけて魔法陣開催までこぎつけたと思ってるんですか。
見張っといて正解でしたね。もうちょっとで婦女暴行なんてちんけな罪で
大事な出場枠をひとつ失うとこでした」
そこで、脳内に響く声が鼓膜を揺らして伝わるようになった。
極楽連鞭で操る巨鳥の背に乗ったアダラパダがその場に現われたからだ。
「はん。こんな夜道を一人で歩いてるような馬鹿女は犯されたって文句言え」
「あんたにはさあ、んなことよりも他に言うべきことがあるんじゃないのか?」
怒気の含んだ声で、メルチナがエイキをなじる。
「ああ?なんのことだ」
月が雲に隠れ光は消え4人の表情が不明瞭になる。
「あのボブリッツって奴はあんたの友達じゃなかったのか?
大事なツレが死んだらさあ、墓のひとつも作ってやるのが人間ってもんじゃないか?」
すると、突然エイキは狂ったように笑い出す。
「くっくっくっ、くっはっはぁーはっはっは、
馬鹿じゃねーのか。
あいつはただ単に盗んだり犯したり殺したりする時に使える便利な奴だから一緒にいただけだ。
……死んで肉の塊になれば、何の価値もねえよ」
何かを叫ぼうとするメルチナを制してアダラパダが拍手をした。
「なるほどなるほどそういう考え方もありますねぇ。
しかしその論法で行くと、魔法陣に出れなくなったあなたも何の価値もない事になる。
そうですよね?」
「ちっ…分かったぜ、自粛すりゃいーんだろーが。
せーぜーどっかの娼婦で出場資格を奪われない程度に遊んでおくぜ」
「ええ、そうしてもらえると助かりますよ、非常に」
ふん、と呟くとエイキはわずかにメルチナの方を睨んでから跳躍して闇夜へと消えた。
「あの野郎、本と最低だ……」
そう呟くと、メルチナはエイキのいた空間にはわずかな時でも居たくない、
と言わんばかりにつかつかと早足で町の中心部の方へと歩いていった。
「まってよメルチナちゃん……でも、あいつにボブリッツの墓作るようにお願いしといてよかったね。
エイキにお願いしてても、きっと鼻で笑われて終わりだったよね」
コモレビも、おたおたとメルチナの後を追い、アダラパダだけがその場に残った。
「しかし困りましたねぇ。アレじゃエイキの野郎はいつ爆発するか分かったもんじゃない」
すると雲に隠れていた月が消え、あたりを月光が照らし、
逃げ去るときジョネが落としたであろうおもちゃ屋の広告が目に入る。
【クリスマスプレゼントはぜひともクリーム駅前店へ!!ムームーマウス全バージョン大量入荷】
ふむーと考え込んでいたアダラパダは独り言を続ける。
「そうですねぇ、たまにはエイキさんにもプレゼントを上げるとしましょうか」
そして、今度は遠くを歩くメルチナの全身……そのむっちりとしたふとももから美しい腰のライン、
肉感的な肩と首のシルエットを舐めるように見つめながら、
「せっかくのクリスマスですから肉付きのいい七面鳥の丸焼き、でもね」
と呟くと、にやりと笑った。
そして時間は少し進み、クリスマスの夜。
アダラパダはアクアと接触し二人で寄宿舎の地下室へ侵入していた。
「染み込んで取り憑くタイプか。やっかいですねぇ」
アダラパダはおもむろに携帯電話を取り出した。
「もしもーし、エイキさんですか?メリークリスマス!!まあ、僕はクリスマスが嫌いですけどね」
『何の用だアダラパダ?』
極楽連鞭の力の解かれた寮母の様子を気遣うアクアを見下ろしながら、
不機嫌なエイキに現状を素早く説明するアダラパダ。
「……まあそういうわけで、メルチナさんの魂にどうやら封印されていた
魔獣の悪霊らしきものが取り憑いていると。で、それを取り除くには」
『あの女を犯せばいいんだろ?』
「おや、知っていましたか」
『……昔、酔狂な金持ちにその手の物を正規ではないルートで
集めて売り払う仕事をしていたことがあったんだよ』
「へー、そいつは話が早い」
少し大げさに驚いたが、アダラパダはエイキが過去そういうビジネスをしていたことなど
本当は知っていた。
『……俺の好きなようにヤってもいいんだな』
まるで舌なめずりをするのが聞こえるような下卑な声が響く。
「ええ、もちろん。ただしあまり傷つけないよううまくやってくださいよ。
弱らせたり動きを封じたりするのはあなたの得意分野ですからねぇ……宜しくお願いしますよ」
そう答えると、アダラパダは通信を切った。
「もしあの娘から魔獣を追い出したとして、その後はどうするんだい?
どうせすぐに町にいる他の人間に取り憑くぞ」
アクアが睨みながら問う。
「その時はまた新たに取り憑いた人をヤってもらうしかないですねぇ。
まあ心配しなくても、依り代を持たない魔獣なら取り憑いた魂から追い出されて新たに取り憑くまで
相当魔力を消費するんで、多くても20人、少なくて4,5人の犠牲
…といっても別に命とられるわけじゃないですが…で魔力が尽きて掻き消えますよ、多分ね」
「20人近くの人間を辱めるんだぞ!そんな事をしてバレットが許すと思うのか!!」
アダラパダは悲しそうな顔で…しかし唇の端はいつものように薄く笑っているので
どこか人を馬鹿にした表情で…申し訳なさそうにアクアを諭した。
「あなたの愛着があるこの町の人が不幸になるのはとても悲しく思い同情します。
しかしですねえ、だからといってこのまま魔法使いであるメルチナさんの体に人へ危害を加える気満々の
魔獣を取り憑かせたままでは更なる不幸、それこそ何百何千の死傷者を出すような
事態になる恐れがあるんじゃねーですか?だったらまだメルチナさんの肉体を扱えきれてない
今のうちに追い出し、取り憑かれてもあまり他へ被害が出ず魔力も搾り取られない
一般人の人へどんどん取り憑かせて消耗させたほうがいいんですよ」
「…………」
アクアは押し黙った。
アクアもわかってはいるのだ。
この事態は、もう誰かが貧乏くじを引かなければ終わらないようになっていることを。
(そしてあなたは、なんだかんだいいながらその貧乏くじを自ら引こうとするタイプの人間なんですよねぇ……)
そこで、アダラパダは駄目押しの一言を呟く。
「そうですねえ、後は狐君にもお願いしましょうかねぇ。
まあ、彼には魔獣に操られたメルチナさんを弱らせたり縛ったりといった器用なことは出来ないでしょうが、
魔獣がメルチナさんの精気を吸い取る邪魔ぐらいは出来るでしょう。
正義感の強い彼のことですから、一番被害が出ない方法だと説得すれば
命がけで協力しくれるでしょうねえ」
そういってもう一度携帯を取り出し、ミカゼと連絡を取ろうとした時、アクアが地下室を出て行くのを確認した。
「もしもし、聞こえますか狐君?」
ミカゼと通信をしながら、近くにいるメルチナの魂とも通信をつなげる。
さて、これで予定通りと……。
そう、今日この町で起きたことは、全てアダラパダのシナリオどおりだった。
アダラパダは、エイキがジョネに暴行未遂を起こしそうになった時に、
エイキがメルチナに対して深くて大きな歪んだ怒りを抱いたことを見抜いていた。
アダラパダが仕掛けなくても、いつかエイキはメルチナを陵辱しようとしていただろう。
エイキは陰湿で執念深い男だった。ならば、せめてその復讐をアダラパダがお膳立てし、
なんとか30指に走る亀裂やメルチナの心身のダメージを少なくしようという魂胆だった。
まずアダラパダは魔獣の封印された依り代を探した。
普通の人間なら到底探せないだろうが、極楽連鞭には魂を感知する能力があるので
アダラパダには簡単な仕事だった。また、ここがさまざまな遺物の眠る魔法都市であることも大きかった。
次に、その依り代の封印をネズミで事故を装い破壊した。もちろんネズミは魔法で操ってである。
後は人間に危害を加えそうな不穏な魂が街中で発生したので調べてくれと言えば、
30指内で比較的正義感の強いメルチナは罪のない市民を守るためそこへ駆けつけ、取り憑かれる。
そして、アダラパダが仕組んだこととばれにくいよう第3者であるミカゼとアクアを事件に絡ませる。
この二人が来ることは、メモリア城関係者に連鞭を使えばいいアダラパダとは違い
メルチナには予想しづらいハプニングであっただろうし、
アダラパダでも敵方のこの二人を操ることはまず出来ないと考えるだろう。
しかしアダラパダから言わせれば、熱血馬鹿のミカゼや安っぽい正義感を振り回しすぐ熱くなるアクアは
味方の五本の指より動きが読みやすい存在と言えた。
事実、この二人はアダラパダの読み通りの動きをしてくれた。
ミカゼ(とメルチナ)に『セックスをすれば魔獣を追い払える』
と言う講釈を一通り終わらせた後、ミカゼとメルチナのいる場所にアクアの魂が到達したのを
確認したアダラパダは、魂を通信状態にしたまま心を沈黙させる。
『とに、勝手に話しかけてきて勝手にいなくなりやがった』
ミカゼの心の声が届く。
『アクアの……ままなのか?』
『ああ、分かった』
ミカゼの心の声が2,3聞こえた後、ミカゼとアクアが移動するとともに魔獣の魂も一緒に移動し、
極楽連鞭では感知できない場所へ行き反応が消えた。おそらく魔法結界のある場所へ移動したのだろう。
そして、魔獣の支配から解放されたメルチナの心の声が届く。
『あたしは……助かったのか……いや、助けられたか……ぼろぼろだけど……』
その声が聞こえてからたっぷり一呼吸してからアダラパダは心の声を飛ばす。
「あーもしもし狐君?……ダメだ、返事できないぐらいやられちまいましたか?
しょーがねーですねー、今からそっちにエイキさんが行きますから、後は彼に任せてやってください」
『なっ……アダラパダ!あたしは大丈夫だって!!ねえアダラパダ』
しかしアダラパダは聞こえていない振りをする。
「まあ、エイキさんは多分君より女性の扱いに慣れてると思うんで、もうあなたは何もしなくていーですから」
『アダラパダ、アダラパダッ!!くそっ、憑かれてる間に魔力を殆ど吸われちゃったのか?』
「それでは、まあお気をつけて。ああ、後エイキさんはかなりのサディストなんで、
純真なあなたはメルチナさんが襲われてるところは見ないほうがいいですよ。それでは」
なおアダラパダの名を呼ぶメルチナの声を無視して通信を切り、
アダラパダはやれやれと零しながら寄宿舎を出る。
「全く、こんなくさい芝居をやらされるとはねぇ」
すると、遠くで屋根伝いに跳躍しながらメルチナのいると思われる川沿いへ急ぐエイキの姿を見た。
獲物を飲み込む前の蛇のように目を爛々と輝かせる彼の姿を見て、アダラパダは冷ややかに笑う。
「せっかく手間隙かけて作った料理なんですから骨までしゃぶってもらわないとねえ。
魔方陣が始まるまで婦女暴行をしようなんて思いが浮かばなくなるほど徹底的にヤりつくしてもらわないと」
そう呟くと、近くを歩いていた酔っ払いの魂を操る。
「あなたはあと3時間ほどビルの上で自殺してやるって騒いでなさい」
すると酔っ払いは疾風の速さで建物の屋上まで上がり、屋上のふちで半身を空中へ乗り出させて
大声で自殺してやると騒ぎ出した。
先ほどの魔獣に取り憑かれていたメルチナが行った破壊の跡に群がっていた野次馬達も、
その注意を酔っ払いの自殺志願者へと移してしまう。
「さて、これでお二人だけの時間が過ごせるでしょう。後はまあ、何杯でも飽きるまで
おかわりすることですねぇ」
そういってケキャキャキャキャと笑うと、アダラパダは夜の闇へと姿を消した。
「違う、あたしにはもう魔獣は憑いていない!!」
魔獣に精気や魔力を根こそぎ吸い取られスパイシードロップのダメージまで残るメルチナは、
逃げることが出来ず言葉でエイキを説得するしかなかった。
たとえ全世界に指名手配された極悪人が相手で、自分の話など通用しないと分かっていても。
そんな必死なメルチナに対してエイキはまるで手足のもがれた虫を見つめる子供のような
残酷で無邪気な笑顔を見せ、
「魔獣に取り憑かれてる奴は皆そういうんだよ。まあ、実際ヤってみりゃ分かるわな。
処女なら憑いてる、処女じゃなきゃ憑いてねえ」
その笑顔と言葉でメルチナは覚悟した。魔獣の存在に関係なく、この男は私を犯す気だ。
「メテオンッ!!」
最後の力を振り絞るようかのような土くれのミサイル。
しかし魔獣が先の戦いで辺りの良質の土壌をほとんど飛び道具にして放った後で、
さらに河川の近くで土が大量の水分を含んでいたためミサイルはエイキに届く前に空中で分解した。
ポケットに両手を入れたままニヤニヤ笑いながらメルチナに近づくエイキ。
メルチナはエイキに背を向け体を引きずるようにして逃げようとする。
しかし、その首にエイキの左足が巻きついた。
「てめえに見せるのは初めてだな。これが俺のマテリアルパズル妖老裸骨蛇だ」
にやりと笑い、メルチナの体をそのまま後ろ向きに力づくで倒し、
まるで首輪をつけた犬を引きずるようにずるずると自らの方へ引き寄せるエイキ。
「さあ、しつけの時間だぜ、このメス犬め」
体の自由が奪われたうえ獣のように地面を引きずられて、ついに大きな悲鳴を上げるメルチナ。
「いやだああああぁぁっ、やめろおおおおっっ」
しかしそんなメルチナの悲鳴は歪んだエイキを楽しませるだけだった。
地面の上で仰向けにされたメルチナの衣服の下に首へ巻きついていた
左足が襟元からするすると潜り込んでいく。
「ひぃっ、やっ」
両胸の頂の上を擦りつける様にして細長い左足が進入し、敏感な突起へむずがゆい刺激を与えながら
腰の上をすべるようにした今度は下半身を目指す。
「いやぁっ、いやあ」
肌の上をすべる蛇上の物体は確かに人間の皮膚であり、温かく、なまめかしい。
そしてそれは、ついにメルチナのショーツの中へ進入する。
こんな場所で。こんな男の。こんな肉塊に。
自らの初めてを奪われる。
「お母さん……」
悔し涙を浮かべながら、メルチナは思わず母を呼んだ。
すると、一瞬エイキの動きが止まる。
「母親、ねえ……」
その声にメルチナが拘束されながらも首の動きだけでエイキの顔を見ると、
その瞳のすさまじい憤怒の念に全身が凍りついた。
まるでエイキの全ての怒りが目に凝縮され噴き出したかのような暗く恐ろしい瞳で、
一瞬でメルチナの心が麻痺する。
エイキは口の筋肉だけで笑いながらメルチナを言葉で嬲る。
「お母さんに伝えとくんだな。私は足で処女を奪われましたって」
うねる淫蛇が、ぐねりと肉穴へ侵入する。
「痛い……っ」
メルチナの処女地はあっさりと猛る蛇に侵略され、蹂躙された。
「どうだ、腹ん中で蛇が這い回る感覚はよお?」
痛み以外に何を感じると言うのだ、とメルチナは思ったが口を開くことすらままならない。
そして蛇は、少女の胎内に毒を吐きだした。
まるでひだ一枚一枚に毒液を染み込ませるように、毒を流し込む作業は2分近くの長きにわたって行われた。
ずりゅり、と蛇は顔を出す。赤い血潮をその身に纏いながら。
もはやメルチナは泣くことすら忘れ、ただ呆然と闇夜を見つめるだけだった。
しかし、エイキはそんなメルチナの頬を彼女の血のついた左足でたたいて告げる。
「おい、今のはただの開通式だ。こっからが本番だぞ。
ちゃんとてめえの中で射精しないと魔獣は追い払えないからな」
「……何が魔獣よ……」
下腹部を襲う破瓜の激しい痛みに耐えるメルチナには、そう答えるのがやっとだった。
しかし、その痛みが突然消える。下半身の感覚が消失したのだ。
そしてその後には、まるで燃えるような熱さが下半身から広がっていく。
「これは……何……?」
「毒ってのはよお、何も溶かして絶命させるだけじゃない。
相手の神経を麻痺させ動きを止めたり、
痒みを与えて掻き毟らせて肉を露出させたり、
多幸感を与え無気力にさせたり。
そう、てめえの中に吐き出した毒は多幸感を与えるものさ」
そう教えると、蛇の体でショーツ越しにメルチナの肉穴の入り口を擦る。
「ひゃぁぁぁっ」
メルチナは、自分の発した声の甘さと高さに驚く。
「そんな……なんで」
「毒が回ってきたんだよ。さて、じゃあ本番といこうか。
他の男じゃ感じられなくなるぐらい、メチャクチャに感じさせてやるぜ」
そう呟くと、突然エイキの口から舌が伸びてくる。
そしてその舌がまるで糸のような細さになった。そしてそのままメルチナの下半身へ伸び、
ぷっくりと膨れた肉の突起にゆっくりとふれる。
「ぁあああああっ」
乳首を弄られる感覚の何倍もの強くて鋭い刺激が走り、
電気椅子で焼かれる死刑囚のようにメルチナの体が激しく震える。
そしてその間に左足は根元の辺りで胸の頂を擦りつつ先端でエイキ自身のズボンのジッパーを外す。
悶えるメルチナは、そこから赤黒い頭を持つ最後の蛇が出てくるのを確認した。
恐ろしい事に、その蛇も他の蛇たちのように太さや長さや形をある程度自在に変えられるらしく、
エイキ自身は全く動いていないのに最後の蛇は人間の器官にあるまじき動きでメルチナの下半身へとその首を伸ばし、
泉のごとく濡れそぼる渓谷へ近づいてゆく。
今までの悲しみさえ吹き飛ばすほどの快楽量に溺れるメルチナはまだ気付いていなかった。
足の蛇の先端が、いつの間にかどこかに姿を消していることを。
「ひいいいいいぃっ、抜いやぁぁっ」
突然の肛門への侵入者は、左足の蛇だった。
しかしその太さはまるで肛門の体積を入り口で測ったかのようなちょうどいい太さに変わり、
軽い圧迫感を与えるだけで決して粘膜や入り口に裂傷はつくらなかった。
足蛇が出入りするたびに、開放感と圧迫感が交互に襲い掛かりメルチナの脳を焼く。
ぶるぶると形のいい胸を震わし叫び続けるメルチナに、脈打つ蛇が最後の攻撃を加える。
ゆっくりと、うねるように鎌首を上げ膣内へボス蛇は侵入した。
「いやああぁぁ熱い、あついいいいいぅ」
その蛇を駆け巡る血流の熱か、肉体に染み込んだ淫毒の効果か、中へ出された精液の温度か。
メルチナは膣内に焼けるような熱さと、えもいわれぬ悦楽を感じ、絶頂を迎えた。
そして、全ての蛇が動き出す。
左足の腹と頭が乳首と肛門を、舌の紐蛇が雛先を、またぐらの棒蛇が肉穴を、
そしてそれら全ての蛇の体が全身の皮膚をずりずりと擦りあげる。
少女の周りは360度全ての方角が、体外も胎内も全ての空間が蛇で満たされていた。
メルチナは蛇と快楽の海で溺れながら東の空が白むまで喘ぎ声を上げ続けた。
そして時は流れ、魔方陣の第一試合。エイキはミカゼに敗れた。
敗退直後、まるで夢遊病者のように歩くエイキの前に一人の少女が立ちはだかる。
「敗れたってねえ、エイキ」
それはメルチナだった。
しかし、そんなメルチナの姿が目に入らないかのように、エイキは何も言わずフラフラと歩く。
「おい、何とか答えたらどうだい?」
メルチナは声を荒げて叫ぶ。
するとエイキは少しメルチナを見てから力なく笑い、呟いた。
「そうだな、俺にもまだかけらほどの価値はあったか。
狐のやつはこちらの攻撃を無効化する技を使う。
奴と対戦する時は、気をつけろよメルチナ」
そういって、エイキはまた呆けた表情に戻り、メルチナの横を抜け、
森の奥へと歩いていこうとした。
「これで俺は本当に無価値だ……」
そんなエイキを見て我慢できなくなったメルチナは叫んだ。
「エイキっ、あんた殺されるよ!!」
エイキは振り返らず、独り言のように呟いた。
「大丈夫、俺は誰にも殺されない……」
そんなエイキの背中を見つめながら、メルチナは混乱していた。
なぜあたしは自分を辱めた奴に話しかけたのだろう。
なぜあたしは自分を辱めた奴を助けるようとしたのだろう。
なぜあたしは自分を辱めた奴の負けた姿を見て涙を流しているのだろう。
その全てに答えが出そうにないので、メルチナは涙を拭いてその場を後にした。
エイキが自ら命を絶ったのは、それから2分後の出来事だった。
終わり