身体を重ねあわせ無言のまま二人の荒い呼吸が1,2分間続く。  
「リィさんの中…蠢いてて…まるで僕のものが搾りあげられるみたいでした…」  
ようやくパンナがうめくように一言言うと、荒い呼吸のままリィが  
パンナの腕に指を這わせながら彼の耳元で囁くように応える。  
「我慢してから…射精するのって…凄く気持ちよかったでしょ…?」  
「ええ…ほんと…凄く良かったです…」  
リィは笑いながら言う。  
「良く我慢できたわね…今日の貴方は最高だったわよ…」  
「そりゃ、僕もお尻の穴を賭けてましたから…って、いてっ!」  
急に腕をつねあげられたパンナが悲鳴をあげる。  
「こういう時は、嘘でも「リィさんを気持ちよくするって誓いましたから」  
とか言うものでしょう、普通…」  
身体に付着した二人の体液が部屋を汚さないよう注意して立ち上がりながら、  
すねたようにつねったリィは呟く。  
「せっかく久しぶりに二人の時間が持てたのに、「尻の穴を賭けてましたから」  
なんて…あなたの一言で余韻も冷めたわ」  
胸ポケットから出した下着を身に着けるリィに、彼女の目が  
全く怒っていないことに気付いていないパンナは立ち上がりながら慌てて謝る。  
「ああ、す、すいません」  
 
「本当に「すいません」なんて思ってるの。  
どうせ今だけごまかせれば良い、とか思ってるんじゃない?」  
リィは疑うような目をしてチャックを上げるパンナの顔を睨む。  
演技に気付かないパンナはうろたえながら首を左右に振る。  
「その、ちょっとうっかりしてて、でも、その、  
リィさんにも気持ちよくってのは嘘じゃなくて…」  
「罰」  
「え?」  
「せっかくの気分を台無しにした罰。もちろん聞きいれてくれるわよね?」  
「え…そりゃまあ…僕にできることなら」  
 
「じゃあ罰の内容を言うわね。これからの戦いで何が起こっても…  
たとえ城の中に敵が攻めいるような事があっても…もっと極端に言えば  
敵が私ののど元に刃を突きつけるようなことがあっても…  
私がどんな目にあっていようと、あなたは私の事を一切気にかけないで」  
「何言ってるんですか!そんなの無理に決まってるでしょ?」  
びっくりしたパンナが叫ぶ。  
そんな彼とは対照的に落ち着き払ったリィはにっこりと笑って言った。  
「あら、聞き入れてくれるんじゃなかったの?」  
「できることならって言ったじゃないですか!  
そんなの聞き入れられません!」  
「じゃあ、自分の命を粗末にしない、ていう約束は守れそうにないわね」  
「その約束は全然関係ないじゃないですか?」  
少し影のさした表情でリィが呟く。  
「あなたはとても優しい人よ。でもそれは、  
戦いの場では生き残る事への妨げになるわ…。  
もし30指が女性や老人、子供だったら?もし敵が人質を取られる  
とかのやむおえない理由で戦う人だったら?  
…もし味方だと思っていた親しい人が敵になったら?  
あなたは躊躇わず戦える?」  
パンナは目をそらすようにして呟く。  
「そんなの…卑怯ですよ。僕じゃなくたって普通の人は…」  
「そうね、誰だってそんな相手とは戦えないわね。特に魔法使いであろうと  
女の子が相手なら手加減する位のお人よしなら、なおさら無理よね」  
 
「でも僕は…」  
興奮してきたパンナを制するように軽く口付けをした後、リィは言った。  
「私はね、今度の戦いであなたか私のどちらかが倒れて  
永遠に離れ離れになるのはもちろん嫌だけど、  
戦いのさなかあなたが私を気にかけて倒れてしまうようなことが  
あったらもっと嫌なの…そんなことがあったら…」  
それ以上、リィは続けず下を向いて黙ってしまった。  
わずかな間、沈黙が部屋を支配する。  
パンナが意を決し押し黙った彼女を抱き寄せて言った。  
「分かりました。戦いになったら、自分の命を守ることを第一に考えます。  
リィさんのことを心配して気を散らさないよう勤めます。  
できるかどうか分かりませんけど…でも、もしリィさんが  
僕の目に届くところにいたら、どんなに相手が強大で傷つく事があっても  
リィさんを守るために戦います。これだけは絶対に譲れません」  
「…そんな甘いことを言ってはダメよ!私が人質になったら見捨てるぐらい」  
リィの抗議を、今度はパンナが口付けでとめ、ちょっと赤面しながら告げた。  
「リィさんは重要なことを勘違いしてるみたいですからこの際はっきり  
言いますけど、リィさんが僕を心配している以上に、  
僕はリィさんを心配してるんですよ。リィさんを見捨てたりすることなんか、  
死んでもできるわけないじゃないですか」  
 
リィは彼女にしては珍しくむきになったように呟く。  
「…私の心配してる気持ちの方が絶対あなたの気持ちより強いわ」  
パンナがきっぱりと否定する。  
「いえ、僕の気持ちの方が強いです」  
少しの間リィはパンナを怒ったような目で見てから、こう呟いた。  
「じゃあ、結局今提案した罰の内容は全て聞き入れられないってわけね」  
「まあ、そうなりますね」  
リィはベッドの前から廊下へ続く扉へつかつかと歩いていき、  
ノブをつかみ少し何かを考えるような仕草をしてからパンナのほうへ  
振り向く。彼女の顔は笑顔に戻っていた。  
「じゃあ、罰の内容を変えなきゃダメね。たとえばそう…  
この前買ったディルドーで」  
とたんに、さっきまでのきっぱりした態度が幻だったかのように  
情けない声でパンナが叫び、悪魔のような提案をとめる。  
「あ、あぁそれはダメです。ほんと、許してください」  
くすくすと笑いながら、リィが扉を開け部屋の外へ出る。  
なにか叫び声をあげながらパンナがそのあとに続き、扉を閉める。  
…ポトリ。  
パンナが扉を閉めて数分間の時が流れてから、部屋に羽が落下する  
小さな音が響く。  
その音に続き、そろそろとたんすの扉が開き、ティトォとリュシカが  
無言のまま出てくる。  
羽を拾った後、リュシカがふと、ティトォのほうを見ると、  
同じタイミングでティトォもリュシカのほうへ顔を向ける。  
二人の目が合い、これ以上ないぐらい二人は赤面してしまった。  
 
「じゃあ、僕は行くね」  
「ぁ、待ってください」  
逃げるように部屋から出ようとするティトォの手をつかみリュシカが叫ぶ。  
しかし、その行為は本能的なものだった。  
もし、この気まずい空気のまま別れてしまえば、もし今度ティトォと  
顔を会わせてもろくに話なんかできないかもしれない。  
そんな危機感を感じ、つい取ってしまった行動だった。  
「えぇと、その…」  
ティトォを制止した後、リュシカは困惑してしまった。  
(どうすれば、この気まずい空気を取り除けるんだろう…)  
その時、不意にリュシカの体が揺らぐ。  
「ぁ」  
「リュシカ?」  
慌てて倒れようとするリュシカの体をティトォが抱きとめる。  
倒れかけたリュシカの体をベッドに座らせる。  
 
(このベッドって…)  
「どうやら、不自然な体勢のままでいたから、足の血流が悪くなった  
みたいだね」  
しかし、ティトォの声も、今のリュシカには届かない。  
(あの人もここのあたりに腰掛けて…)  
「長時間正座してたのと同じ現象だよ」  
心配そうにティトォが彼女の前にかがみこみ足を調べる。  
だがいつもより雄弁で落ち着きのないティトォの姿は、自分の頭に浮かぶ  
考えを必死にどこかへ追いやろうとしているように見える。  
(あの人も丁度ティトォさんのいたとこら辺に跪いて…)  
「…ここ、しびれるだろう?」  
ティトォがリュシカのくるぶしを揉み解すと、  
「あぁ」  
とリュシカの口から甘い吐息がもれる。  
自分の口から発せられた声に驚くリュシカ。  
しかしそれはティトォも同様で、思わず彼は尻餅をついてしまった。  
二人が目をあわすと、ティトォは思わず苦笑いをする。  
「どうやら僕も、足がしびれてしまってたみたいだ。  
自分でも全然気付かなかったよ」  
 
その時、リュシカは絨毯にぺたんと座り込んだティトォ見て、  
意識を失う前のティトォの様子を思い出した。  
「そういえばティトォさん、意識を失う前に「本当の僕は  
違うんだ」とか言ってましたけど、あれってどういう意味なんですか?」  
ティトォは、わずかな間沈黙してから、答えた。  
「そうだね、確か…リュシカがぼくのいいところしか見ていない、  
そんな話だったっけ?…そのままの意味さ…」  
ため息を吐き、リュシカから距離を開けるようにしてベッドに腰掛け、  
ティトォは続けた。  
「僕には、そう、きみや御風にはあまり見せていない冷酷な部分がある…  
僕以外の人間を駒にしか見れないという部分がね」  
斜め上の中空に視線をやり、ティトォが続ける。  
「100年前から僕は、人間の内面に対する様々な知識を学んでいた。  
心理学、行動学、社会学、人類学、民俗学…。  
人が一生かけて学べるかどうかという量の人間に対する書物や論文を、  
若い柔軟な頭脳のまま学び続けたんだ。  
その結果僕は…他人を個人ではなく、データの塊のようなものとして  
認識するようになってしまったんだ」  
 
「よく…意味が分かりません」  
「そうだね、極端な例を言えばきみがパン屋でお客さんに会った時、  
その人の顔や体つき、衣服などの視覚的な情報や、  
この人はいつもメロンパンを買う人、この人はおつりがでないようきっちり  
値段分のお金を渡す人、この人は子供づれでお店に来る人…  
といった具合にそのお客さんの行動の特徴で覚えていくだろう。  
でも、僕は違うんだ。その人の買ったパンの合計の値段、  
買い物にかかった時間、古いパンでも気にせず買う確率…  
といった数値を一人ずつに頭の中へインプットして覚える。  
覚えるというよりも分類する、といった方が正しいかな」  
ティトォはここで突然自嘲的に笑って続ける。  
「そしてその中から特に自分の店の  
利益に貢献しそうなデータの人と優先して人付き合いをするようになる…  
そして、怪我や病気といったものでパンが買えなくなったりしたら、  
その人のデータはとたんに上書きされ優先順位も下がってしまう。  
つまり、他人とは打算的な接し方しかしない人間なのさ」  
そういって、ティトォはわずかにリュシカのほうへ視線を移す。  
その視線が、手が触れるぐらいの距離まで近づいていたリュシカの視線と  
ぶつかり、ティトォは慌てて目をそらした。  
「じゃあ、ティトォさんが私を連れてきてくれたのも、  
なにかの打算の上の行動だったんですか?」  
目をそらさずに悲しそうな顔でリュシカが問う。  
 
「もしもう一度アダラパタに操られれば僕らの脅威になる。  
そんな風に考えるのは当たり前じゃないか」  
ティトォは唇をかみ締めながら答えた。  
「何でそんな嘘をつくんですか…」  
リュシカが目に涙をためながら呟く。  
「空港で三大新器の人に襲われた時、ティトォさんは必死になって  
被害にあった人を助けてたじゃないですか…  
無関係な人を巻き込んだことを本気で後悔してたじゃないですか…  
そんな人が打算だけで人と付き合うわけないじゃないですか!」  
しばらく、部屋の中にリュシカの泣く音だけが響く。  
ティトォが重い口を開く。  
「ごめんよ…リュシカ。本当のことを言うよ」  
リュシカのしゃくりあげる音がとまる。  
「本当はね、さっき言ったことは半分は本当なんだ。  
他人がデータの塊に見えるって言うのはね…。  
でも、打算的な人の付き合いしかしないって言うのは嘘だ。  
それは、君に嫌われたくて言いたかったことなんだ…」  
 
「本と子供みたいだよね。君に軽蔑されたから、  
どうせなら自分から嫌われるように仕向けるなんて…」  
「ちょ、ちょっと待ってください!私がいつティトォさんを  
軽蔑したっていうんですか?」  
「だってそうだろう?いくら他人の情事を見ていたとはいえ、  
ぼくは…その…」  
口ごもるティトォ。  
「なんなんです。ちゃんと言ってください。わけが分からないまま  
嫌われるように仕向けられたなんて、何か」  
そこでティトォは赤面して叫ぶ。  
「ぼくはきみに欲情して、勃起してたんだよ!」  
しばしの沈黙の後、ティトォが疲れたように呟く。  
「最悪だろう。100年以上も生きてるくせに、自分の…大切に思ってる  
相手に、あの暗がりの中で、淫らな想像ばかりして…  
どうせ軽蔑されるならもう徹底的に嫌われた方がいいなんて  
勝手なことを考えてまた君を泣かせて…」  
そこで大きくため息をつき謝った。  
「ゴメンねリュシカ…」  
 
ティトォは視線をリュシカの顔のはるか下へ向けていた。  
まともに顔が見れない。当然だろう。  
リュシカが立ち上がり、ティトォの前へ移動する。  
ぶたれても文句は言えないな、とティトォが考えていた時、  
不意にリュシカが身に着けていたホットパンツを脱ぎ捨てた。  
「な…?」  
思わずリュシカの顔を見ると、これ以上ないというぐらい真赤になっている。  
そんなリュシカはティトォの手を取るとその手のひらを自らの下着の  
上に這わせるように導いた。  
「わ…私も…み…淫らなことを考えてい…から」  
ティトォの手が触れたとき、下着の上からでも分かるほどそこは濡れていた。  
「お…おあぃこです…」  
 

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