荒く、整備されていない道を行く一台の車。
窓から顔を出しただただ溜息をつく。
「姉様…、姉様!!」
ぼう、としていた頭に聞きなれた声が木霊する。
「何だ、太陽丸…?」
呆けた声で私は答えた。
私の名は月丸。
女神の三十指の一人で、弟の太陽丸と共に女神様に直接仕えている身だ。
「何だ、ではないですよ?もう直ぐ城に到着します」
「そんなことで、逐一私を呼ぶな。分かりきった事を…」
あぁ、怒ってる怒ってる。
そんな弟を横目に私はある人を想っていた。
―舞響大天様。
三十指の上に立つ三大神器の一人。
そして何より私達姉弟を幼き頃から育ててくれた、親の様な存在だ。
いや、私にとってはそれ以上の―。
城に着き、早速私はあの方を探し始める。
しかし、最初に見たのは忌々しいブライク・ブロイドとその犬アダラパタだ。
気分を害したが、一応同士と言う事で適当にあしらったその時、
リーン… リーン…
静かに鳴る鈴の音。
今度こそ舞響大天様だと振り向く。
姿を確認すると同時に、すぐさま抱きつき甘える。
いつもとは違う、いや唯一真の私を出せる時である。
弟やアダラパタの視線は刺さるが気にはしない。
一つ嫌味を言うようならば私の氷の刃で八つ裂きにするまで。
一通りの話し合いは済んだようだ。
私達姉弟は明日からまた次の任務に動くという事だ。
今日は一時休戦。舞響大天様と短いが一緒にすごせる。
夜。
月明かりが随分と綺麗だ。
鈍色に光る三日月が―。
外から澄み切った歌が流れてくる。
―舞響大天様のMPは「歌」
しかしそれ抜きでもあの方の歌は本当に美しい。
気付けば私は歌の聞こえる方に足を歩ませていた。
いた…!
美しく歌うあの方が。
「どうしたの。月丸」
突如歌声は止み、その言葉が闇に響く。
「いえ…、すいませんでした」
咄嗟の事だったのでこれしか言えなかった。
すると舞響大天様はクスと笑い、
「こっちにおいで、少し話そう」
と声をかけてくださった。
言われた通り近くにより、同じ場所に腰掛ける。
それから暫く舞響大天様は何かを喋っていたようだが、何故か緊張していた私には聞こえなかった。
「月丸?」
「え…あ、ハイ!!」
「…どうしたの、顔が真っ赤じゃないか」
「いやその…」
やっぱり可笑しい。明らかに別の感情が生まれている。
「熱でもあるの?」
と私の額を自分の額とを合わせる舞響大天様。
そのとき、私の中で何かはじけた―
事もあろうに私は舞響大天様の唇に自分の唇を重ね合わせていた。
同性愛―。これが私の愛だ。
今、そう気付いた。
でもこんな事は許されない。
それ以前にこの方にそれをした事が許されはしないだろう。
でも違っていた。
一瞬戸惑いはしていた舞響大天様だったが、直ぐに私を熱く抱擁してくださり、
更に濃い口付けを交わしてくださった。
「ほんとう…甘えん坊ね月丸は…」
「舞響大天…さま」