裏マ(本家)の『閣下の苦悩』の魔鏡でのやり取りと、作者のコメントを受けての妄想ネタ
〜ドラマCDから約20年後〜
地下実験室へと向かうヴォルテール城の廊下を歩く赤い魔女・アニシナ。
その姿を見て、この城で働く者たちが次々を唖然とした表情になっていく。
正気に戻った部下が当主・グウェンダルを呼びに走る。
数分後、その報告を聞いたグウェンダルがアニシナの下へと走り来る。
「ア、アニシナ!?」
「おや、グウェンダル、そんなに急いで何の用です?息まで切らして年寄りくさい」
「な、何の用って…その格好はいったい?」
「これですか?各地から取り寄せた本が届いたので運んでいるのですよ」
「そ、そうか…しかし、さすがに不味いのではないか?」
「どうしてです。別に問題ないでしょう」
「だがな…」
「今更わたくしがこの城内を歩いていて不思議がるモノがいるとは思えませんが?」
「いやそうではなく、その姿で分厚い辞書や古びた本やらを何冊も両手に抱えて廊下を歩いているのはどうかと聞いているんだが」
「でしたら、手伝ったらどうです。まったくこれだから男というのは…」
「す、すまない。ではそれを…」
「初めからそう言えばいいのですよ」
そう言ってズシンと言う音が聞こえるような重量の本をアニシナはグウェンダルに渡す。
「うっ(お、重い…)」
「それに、わたくしをこのような姿にしたのは紛れもなくあなたなのですよ、グウェンダル。それなのにあなたときたら…」
「(アニシナのお腹を見ながら)わ、私が悪かったのか?」
「失敗したのはあなたでしょう。違うのですか?」
「ち、違わなくはないような…だが、しかし…失敗というのは……確かに私に責任があるのは重々承知はしているが、あれは合意の上でというか、
そもそもきっかけは研究成果を試すから協力しろと言い出したのはアニシナのほうで……(だんだん声が小さくなっていく)」
「言い訳なんていいですから、グダクダ言う暇があったら、さっさとこの辞書を実験室まで持っていきなさい」
「あ、ああ」
「それに今の時期は多少動いたほうがいいんですよ」
「だからといって、辞書を両手に10冊以上も持って運ぶのはいかがなものかと思うぞ」
「しょうがないですね、次からは8冊程度にしておきます」
「あまり変わらないと思うのだが…」
「何かいいましたか?」
「いや…」
「もうすぐ父親になるのに情けない。意見があるのならはっきりといいなさい」
「うっ」
「このような情けないままでは親としての威厳が保てませんよ?」
「ぜ、善処しよう」
「そういえば、以前グレタが持ってきた魔鏡で未来が写ったときにわたくしを侮辱したことがありましたね」
「いきなり唐突な。しかし、あれは侮辱したのではなく見たままを…」
「何です(ギロリ)」
「い、いや…あれは私が悪かったんだな。ああそうだ」
「…わたくしが言いたいのはそのことではありません」
「では、何を」
「あの魔鏡で見た映像は本当に未来を映し出したものだったと言うことです」
「あ、ああそうだな。あの時は太っ…いや、ふくよかになったと思ったが、今にしてみれば妊娠して腹が大きくなっていたのだと考えれば合致するな。あの時はまさかこうなるとは考えもしなかったが」
「自己管理の完璧なわたくしが太るなどと…まぁ、確かにわたくしも子どもを身籠った姿が写っていたとは思いもよりませんでしたが」
「しかしよく今まで身籠ることがなかったものだな。まぁ、お前とは何年も前からそうゆう関係になっていたというのに」
「それは当然です。きちんと計算していましたから」
「計算?」
「当たり前です。むやみやたらにやって研究に差し支えるのは嫌ですからね」
「では今回は何故…」
「おや?身に覚えがないとでも?」
「い、いやそうではない。その、計算していたのであれば今回のようなことにはならなかったのではないのか?」
「残念ながらその研究が完全ではなかったのですよ。ですから、さらなる研究をするためにこの辞書と文献が必要なのです。女性の地位向上を目指すにはますこの研究で成果を挙げなくてはならないのです。
さあ、こんなところでじおしゃべりしている時間はありませんよ、グウェンダル。さっさと運びなさい」
「わかった、わかったからもう少しゆっくり歩いてくれ。お前一人の体ではないのだからな」
「それぐらい、わかっています」
「靴ももう少しかかとの低いものにしたほうがいいんじゃないか?それに…」
「あーもう、いいですからさっさと行きますよ」
「お、おい。私はお前を心配してだな」
「過剰な心配は結構です。それよりも……(クラッ)」
貧血でも起こしたのかアニシナがよろめく
「ア、アニシナ!!??」
持っていた本を放り投げ、アニシナを受け止めるグウェンダル。
しかしながら…
「な、なんてことをするんですグウェンダル。早く本を拾いなさい」
当のアニシナは自分よりも本を心配している
それにちょっとムッとしたグウェンダルはいつもより強い口調で
「本は部下たちに運ばせる。それよりも、大事なのはお前のほうだ」
「ちょっ…」
そういってグウェンダルはアニシナをいわゆるお姫さま抱っこをして地下実験室ではなく元来た道を戻り自分たちの自室へと向かう。
「グウェンダル、降ろしなさい。わたくしはもう平気です」
「無理をして本を運ぶなどしたから立ち眩みを起こしたんだろうが。過剰な心配は無用だといったが、ここは夫として妻の身を案じるぐらいさせてくれ」
「ですが!」
「それに、もしも子どもに何か悪い影響がでたらどうする?無理をして母子ともに危険な状態になるなんてごめんだぞ、私は」
「…しょうがないですね。今回だけはあなたの部下たちに貴重な資料を運ばせる権利を与えましょう」
「今回だけでなく今後暫くは力仕事は部下たちにやらせてやれ」
そう言って、グウェンダルは今までその姿を目撃し呆然としていた部下たちに命令する
「それに、あの数の本を読むのだからしばらくは自室に篭っているだろう」
「まぁ、そうですね」
「読み終えたら、研究を煮詰めるのだろう」
「当然です」
「だったら、力仕事などする必要はないではないか」
「あなたもたまには頭の回転が速くなるのですね」
「…まぁ良い。お前が無理さえしなければな」
「仕方がありませんが夫の顔を立てるのも妻の務めですからね」
「わかってくれれば結構だ」
「しかし、今からこんな状態では子どもが生まれてからは大変でしょうね」
「何がだ」
「まぁ、何れわかることです」
「?」
「それよりも、この研究の目処がついたら即実験ですからね、楽しみにしていなさいグウェンダル」
「た、楽しみ?………ほどほどにな」
「この研究を女性の地位向上と眞魔国の発展と繁栄のために捧げるのですから、ほどほどなどと曖昧なことでどうするのです!」
「ああ、わかった。お前の実験には数十年もつき合わされて来たのだから生命の危機に直面しない限り付き合ってやるから少しは休め」
「その言葉、忘れてはなりませんよ」
「ああ」
そうして、数ヵ月後子どもが生まれてからのグウェンダルは予想どおり親バカに。
そして、研究成果を得るために根も精も尽き果てそうになったのだった。