…目が回る。
頭がクラクラする。
彼女に抱かれている時はいつもそうだ。
頭の中を、何かでグルグルとかき回されているかのような快感。
彼女に触れられると、他の事はもう何も考えられない。
甘い甘い倦怠感が、身体全体を包み込む。
ぐったりと身体が重くなって、思うように動かせない。
彼女に与えられる快感だけを貪って、それに飲み込まれて、彼女に愛されることだけが許される。
フォンヴォルテール城の地下実験室で、月に数回行われる『実験』が今始まろうとしている。
もう何年も前から行われているのに、この城の主、フォンヴォルテール卿グウェンダルと、
この実験室の主、フォンカーベルニコフ卿アニシナだけで行われる極秘実験である。
実験室の奥に設置された通常の実験で『もにたあ』確保用の椅子に良く似た…
しかし、この実験のためだけに特別に誂えた拘束器具付の椅子に、
グウェンダルが手足の自由を奪われた状態で縛り付けられている。
そんなグウェンダルの膝の上をアニシナは手馴れた様子で上っていく。
ゆっくりと優しく、それでいて強引なアニシナの指が、グウェンダルの顔を自分の方に振り向せる。
水色の瞳でじっとグウェンダルの瞳だけを見つめながら、アニシナが額にキスを落とす。
続いて、瞼を閉じさせるように両の瞼の上に落とされる口付け。
「アニシナ…」
グウェンダルが何かをせがむかのような声を上げるが、それを塞ぐように指が唇の上に置かれた。
「しっ…」
唇の輪郭をなぞるようにそっと這わせられるアニシナの長い指先。
その指にくっと力が入って唇を微かに開かせると、アニシナはそこに自分の唇を重ねた。
そっと唇を触れ合わせるだけのキス。
それだけで、頭にカーッと血が昇ったみたいに何も考えられなくなる。
「はっ…」
息が上がる。
胸が苦しい。
頭がくらくらする。
アニシナは逃げようとするグウェンダルの頭を片手で抱え込んで、戸惑うグウェンダルの舌先に自分の舌を絡ませる。
それと当時に、拘束していたグウェンダルの片方の腕だけを開放させる。
「なっ…何でいつもそういう風に強引なんだ!?」
ぷはっと息を吐きながら、開放された腕でアニシナの肩に手をかけ押しのけようとする。
しかし、アニシナはそんなグウェンダルににっこりと微笑むだけ。
「グウェン」
「…何だ?」
「愛してますよ」
それは魔法の言葉。
いつもグウェンダルから抵抗する気力を奪ってしまう。
ふにゃふにゃとグウェンダルを腰砕けにしてしまう、アニシナだけが使える魔法の言葉。
「…返事ぐらいしたらどうです」
「…私も愛している…」
その言葉を聞き、アニシナはもう片方の腕も開放させる。
開放された両腕をグウェンダルはゆっくりとアニシナの首に巻きつける。
長いキス。
息が続かなく、目の前が真っ赤になるくらい、甘くて長いキス。
キスが途切れて、しがみついたグウェンダルの首筋に、アニシナが顔を埋める。
忍び笑いが低くアニシナの喉から溢れて、それがくすぐったくて気持ちがよくて、グウェンダルは小さく呟く。
肩のラインをそっとなぞる指。
アニシナの指が動く度に、身体全体に走る快感。
自分の手で自分の身体に触れても別に何とも思わないのに、何故アニシナに触れられるとこんな風になってしまうのだろう。
服の下に手を滑り込ませて、アニシナがグウェンダルの肌の感触を楽しむように撫で回す。
「っ、手が冷たいな」
グウェンダルが訴えるが、アニシナはぽぅっと上気して薄薔薇色に染まるグウェンダルの肌のそこかしこに触れる。
「あなたの肌で暖めれば良いでしょう」
アニシナはグウェンダルが何かを言う前に服を肌蹴、乱れた服の下に手を差し入れて、厚い胸板に手を置く。
軽く突起を愛撫するとグウェンダルのそこはぷっくりと尖って、その存在を強調する。
グウェンダルの顔にキスの雨を降らせていたアニシナの唇が、首筋を伝って降りていく。
首筋から胸元の肌に、数え切れないくらいの紅い花が咲く。
「前のモノが消えかかってますね、グウェンダル…またつけてあげますよ…」
紅い花は、グウェンダルがアニシナのモノという証。
その数は、どれだけアニシナに愛されているかというバロメーター。
古いモノが消える前に、また新しい花がそこに花開く。
顔を近付けて、厚い胸板には似つかわしくない突起を愛しげにちらりと舐めると、
もう片方の突起を2本の指で優しくつまみ上げていたぶる。
「くぁ、ああ…」
2つの突起に与えられる快感が全身に染み渡る。
気持ちが良すぎて、身体中から力が抜けていってしまう。
「嫌?それとも、気持ちよくないですか?」
気持ちがよくて声を上げているのをわかっているくせに、アニシナはわざとそんなことを聞いてくる。
「…ぃぃ…」
聞き取れるかどうかの小さな声で、グウェンダルが呟く。
「そう、イイんですね。では、もっと可愛がってあげましょう」
アニシナはにっこりと微笑んでグウェンダルの唇の上にキスを落とすと、今度は温かい口の中に含んだ。
「ふぁ…ぁあん…はぁっ…あぁ…」
口の中に含まれていた乳首の頂を、ぺろっと舐め上げられて甘噛みされる。
…これ以上気持ちよくなったら、頭がおかしくなりそうだ。
剥き出しになった神経に直接触れられているみたいに。
しばらくしてアニシナがグウェンダルの膝の上から降りた。
が、次の瞬間、そっと優しく、しかし有無を言わせずにグウェンダルの身体を椅子の背に押しつけられる。
それと同時に、今度は椅子に収納されていた拘束ベルトでグウェンダルの腰を縛る。
「な、何をするアニシナ!?」
「おや。イイ声で啼くようになった途端に止められては不服ですか?」
僅かに笑いを含んだ声が耳元で囁く。
「そ、そんなことはっ、くっ…あ、…あぁっ!」
答えようとした瞬間に、押し付けられる熱い身体。
ぐん、と背筋が大きく仰け反る。
逃げたい。でも逃げられない。
首筋から肩先、肩先から胸板、ウエストへと順番に滑り落ちていく、火傷しそうなくらいの熱を放つ熱い唇。
その唇の動きに全神経を集中させていたら、アニシナの手がズボンの中に忍び込んでいるのに気付かなかった。
アニシナの手が、下着越しにその存在を強調し始めたグウェンダルの脚の付け根に触れる。
アニシナの指がソレを布の上からゆっくりと上下させる。
何度も何度も執拗に動くその指の動きに、グウェンダルの腰が微かに揺れる。
気が付くと、下着越しでも分かるくらいにくちゅくちゅと水音が聞こえてくるようになり、
その音に気付いたグウェンダルは一気にかぁっと赤面し、アニシナの肩に爪を立てた。
その爪は抗議なのか、快楽に悶えているのか。
アニシナはそれを愛撫が足りないのだと解釈し、愛撫する指を更に動かす。
布を押しつけて、グウェンダルを追い詰めるかのようにゆっくりと指をうごめかせると、
グウェンダルは背を弓形に反らすようにして、アニシナの執拗な愛撫から逃れようとした。
「んっ、ふぅっ!…ゃぁっ、あぁっ…!」
グウェンダルは顔中を真っ赤に染めて、首を左右に振って身悶える。
「今更こんなことをする位で赤面するんですか、あなたは?」
おかしそうにククッと笑いながら、アニシナは更に身体を愛撫する指の勢いを強める。
「やぁっ、ダメだ…もう、やめ…」
「何故です?…こうすると気持ちがいいのでしょう?我慢しなくていいのですよ」
アニシナがグウェンダルの耳元で囁く。
びくりと身体を震わせて、反射的に逃げようとする身体を抱きしめるようにして、濡れた指をそこから引き抜く。
根元までべっとりと濡れた指を、じっとグウェンダルの瞳を見つめながら舐める。
「おやおや、指だけじゃ嫌なのですね?」
ゆっくりとアニシナが微笑む。
グウェンダルを快感の地獄に突き落とす、堕天使の微笑み。
そして、開放されていたグウェンダルの両腕を再度椅子に縛りつけ、今度は片足だけを開放する。
「イヤだ…もう、ダメだっ…」
「イヤ、じゃないでしょう。イイんですよね?」
この時のグウェンダルの『イヤ』は、それと反対の意味だということを知っているから、アニシナは止めない。
アニシナのすることが気持ちよくて、ついそんな言葉が口をついて出てきているだけだから。
足首から両脚の付け根へと、アニシナの手がゆっくりと這い上がる。
膝に手が当てられると、ぐっと大きく脚を広げさせられる。
大の男相手にこんな小柄な女性のどこにそんな力があるのかと思えるのだが、グウェンダルにはそんなことを考える余裕はない。
ゆっくりとアニシナの身体がグウェンダルの脚の間に沈みこむのが見えたかと思った次の瞬間、
グウェンダルの瞳がカッと大きく見開かれた。
思わず逃げようとした腰もベルトで縛られているため、逃げることも叶わずただひたすら拷問のような愛撫を受ける。
ぺちゃぺちゃと、子猫がミルクを舐める時のような音だけが聞こえる。
視線を向けてもそこにはアニシナの赤い髪が見えるだけ。
その場所でその音が自分の身体から発せられているのかと思うと、平静でなんか居られない。
「あ、あ、あ…」
これ以上は開かないというくらいに大きく見開かれた瞳。
しかし、そこには何も映ってはいない。
アニシナの舌がソコに触れるたびに、まるで身体に電流を流されたかのような衝撃が走る。
「く、あぁ、…た、頼む、もう…」
「もう?何を頼みたいんです?」
グウェンダルは今にも泣き出しそうに潤んだ瞳でアニシナを見る。
「ア、アニシナっ…それを…」
聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声でそう呟くと、アニシナから顔を背けた。
「何です?グウェンダル。わたくしに何をお願いしたいのです?」
「……ぃ…」
口の中で小さく呟くグウェンダル。当然アニシナには聞こえていない。
「何です、もう一度はっきり言ってごらんなさい。ほら」
「……出したい…アニシナの…中…で…」
アニシナは微笑みを浮かべるとグウェンダルの上にまたがり、ぐちゅぐちゅに濡れたそそり立つソレを、自分の華にあてがった。
アニシナのソコはすでにびしょびしょで、今までのグウェンダルへの愛撫の間ですっかり準備ができていたようだ。
「今夜は気が狂うくらい愛してあげますよ…」
その言葉と共に、グウェンダルのソレがアニシナの中へと入っていく。
そのままいきなり奥まで突き進み、グウェンダルのソレをギュッと握り絞めるような感覚に、グウェンダルは声にならない悲鳴を上げた。
アニシナの身体の動きに翻弄される。
繋がりあった下半身から流れ込んでくる快感が、グウェンダルを飲み込み尽くしてしまう。
「はぁ…ぁ…ん…」
アニシナの甘い鳴き声が上がる。深い口付けが、それを塞ぐ。
緩やかなアニシナの腰の動きに、触れ合った唇の隙間から堪え切れなかった声が漏れる。
「ふぁっ、ぁんっ…ぁっ…」
貪るようなキス。
何もかもを飲み込むような深く熱いキスに、意識が引き戻される。
「ア、アニシナ…」
熱に浮かされたみたいに、ぽうっと潤んだ瞳。
その瞳の中にはアニシナの顔だけが映し出されている。
世界が回る。
彼の周りでだけ、グルグルと回る。
甘い眩暈がグウェンダルに襲い掛かる。
「もっと欲しいですか?」
まだ二つの身体が繋がりあっているということをグウェンダルに思い知らせるかのように、ゆっくりとアニシナは腰を動かす。
「…んっ…だ、だめだ…も、だめ…」
「おや、そんな事を言ったってダメですよ。…あなた自らがわたくしの中で出したいと言ったのでしょう?
今夜はどれだけ出せるのか実験するのですからね」
そう呟くと、アニシナはグウェンダルを快感の谷底へと突き落とす動きを再び始めた。
今夜もまた、眩暈がするような甘い時間が続く―――。
END