「コンラート、お前アニシナに何を教えたんだ?」
弟は怪しげなほど爽やかな笑顔を兄に向けた。
「ああ。裸エプロンの話?どうだった?」
爽やか次男の発言に、すぐ傍で書類とにらめっこをしていた魔王陛下が悲鳴を上げた。
「はっ・・・裸エプロン!?いやー!コンラッド、お前が言うといかがわし過ぎるって!!ってか何?どうだったって何?ま、まさかグウェン、
アニシナさんに・・・!!」
「へぇー。やっぱフォンヴォルテール卿とウェラー卿とでも猥談なんてするんだねー。」
グウェンダルは眉をしかめた。弟だけでなく、魔王や大賢者も「裸えぷろん」なるものを知っているとなると、あちらの世界では
ポピュラーなものなのか。てっきり弟がマニアックなことを面白がって幼馴染に吹き込んだのだと思っていたのだが。
「・・・あれのどこが「男のろまん」なのだ?寒いし、不気味なだけだと思うのだが・・・」
「不気味!?アニシナさんの裸エプロンが!?不気味どころかさぞ可愛いだろうに!!うらやましい・・・。」
そう言いながら魔王陛下は、あらぬコトを想像したのか顔を赤らめた。そんな魔王と、よくわかっていない兄の表情を見て、
ウェラー卿は腹をかかえて笑い出した。
「ははっ。ユーリ、俺は確かにアニシナにそういうものがあるって教えたけれど、どうもアニシナはグウェンに「裸エプロン」を
させたんじゃないか?」
「ええっ!?マジで!?」
「なんだ。アレはそういうものじゃないのか?」
「さっすがフォンカーベルニコフ卿。やることが違うよねー」
「お前、そういう感想?でもそれは・・・確かに不気味・・・」
グウェンダルは周りの反応にだんだんいらつき始めた。要領を得ない。
「結局、あの「裸えぷろん」というのは何なのだ?どういった類のときに用いられる服装なんだ。」
生真面目な言い方に、ウェラー卿と大賢者が爆笑し始めた。ますます憮然とするグウェンダル。目に涙を浮かべたウェラー卿は、
かわいそうな目にあった兄に説明をし始めた。
「グウェン、「裸エプロン」がどういう服装なのかはわかってる?」
「まぁ、やらされたからな。」
「じゃ、あの格好をアニシナがやったらどうかな?」
あの格好。裸にえぷろんとやらをつけた格好だ。えぷろん自体はフリルをあしらった大変可愛らしいものだった。
アニシナが、アレを着る・・・。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
グウェンダルだけでなく、つい想像してしまう他3名。
「・・・いやー。やっぱ美人がああいう格好して出迎えてくれたら最高だよねー。」
「うっわ、やべぇ。俺、鼻血出そう・・・。」
「アニシナは見かけはなかなか可愛いですからねぇ。」
「・・・。」
好き勝手言う弟と上司たちに、グウェンダルは剣呑な視線を向けた。
「・・・コンラート。結局、「裸えぷろん」は本来女性が着るものだったのだな?」
「まぁ、大抵は。見る側の趣向によっては男性がやる場合もあるだろうけれどね。今度はアニシナに着せてみる気になった?」
「バカを言うな。」
眉間に皺を増やして、グウェンダルは魔王の執務室から退出しようとした。
「あ、フォンヴォルテール卿。それで、今の説明で「裸エプロン」の使用方法はわかった?」
大賢者の発言に、ウェラー卿は大爆笑だ。魔王は微妙な表情で顔を赤くして俯いている。このような話題に慣れていないのだろう。
思わず一瞬、頭に血が上ったグウェンダルだったが、何か言う前に大賢者に畳み掛けられた。
「今度は是非、使用後の感想を聞きたいねぇ。」
「・・・ッ失礼する!!」
室内の爆笑の渦に完全に背を向けて、グウェンダルは乱暴にドアを閉めた。