ヴォルフラムが兄を呼びに毒女の部屋へ入ると、兄はぐったりと机につっぷしていた。  
・・・なぜ兄の執務室ではなく、兄の妻の部屋へ来たのかは自分でもわからない。けれど、  
なぜかそこにいると思ったのだ。彼ら夫婦は、よくこの部屋に二人でいる。  
「おやヴォルフラム。何の用ですか?」  
 義姉が煌めく水色の瞳でヴォルフラムを見た。手元には兄で実験した結果を書き込むための  
紙が握られている。  
「兄上に急いで決済していただきたい案件があって・・・ユーリ・・・王が呼んで来て欲しいと。」  
「・・・わかった。」  
 今まで黙っていた兄がのそりと起き上がり、ふらふらとした足取りで部屋を出た。それを  
慌てて支えるヴォルフラム。  
「今日の夕食は8時です。遅れないように。」  
 背中で義姉がそう言ったのが聞こえた。兄は手を挙げて返事を返した。  
 
 未だに、なぜ兄が毒女と結婚したのかがわからない。しかも、話を聞けば嫌がっていた  
アニシナに何度も何度も頼み込んで、やっとプロポーズを受けてもらったと言う。  
兄とアニシナは、あれで仲も良かったし、幼馴染としてとても長い間一緒にいた。  
それは知っている。しかし、兄はその長い間をずっともにたあとして毒女にこき使われ、  
時に恐れ、時に逃げ回っていた。仲こそ悪くないものの、まさか男女としての何かがあるだなどとは  
考えたこともなかった。しかも、結婚してもその関係は変わらず、こうして日々もにたあとして  
こき使われている。なのに、兄は毎日アニシナと一緒に食事をし、一緒の部屋で夜を過ごす。  
 一体、この夫婦はなぜ夫婦足りえるのか。  
「兄上。兄上はなぜアニシナと結婚したのですか?」  
 単純な疑問だ。なのに、兄は渋い顔をして一瞬黙り込んだ。  
「・・・お前は・・・もし、ユーリに自分しか知らない良いところがあったら、それを他人に教えるか?」  
「は?それはどういう意味です?」  
「例え話だ。」  
 もし、ユーリに自分しか知らない部分があったら。ユーリは誰にでも優しいし、とても立派に王として  
やっていると思う。それは誰もが認めることで――残念ながら婚約者である自分しか知らない部分ではない。  
そもそも、ユーリ自身が誰にでも平等に優しいから、特定の人間に対して特別な部分がないのだ。それが  
――悔しい。もし、自分にだけしか見せないユーリの顔があったなら、きっと・・・  
「・・・誰にも、教えないと思います。」  
 自分しか知らない。自分にしか見せない相手の表情なんて、こんなに独占欲の満たされることはないだろう。  
きっと、自分は他人には教えない。  
「絶対に、教えません。」  
 そう答えると、兄はぽそりと  
「――では、そういうことだ。」  
 兄はそっぽを向いた。顔が紅かったのは気のせいだろうか。  
 
 

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