「この薬は、人が普段抑えている欲求を余すことなく口にすることができる、という効能があります。」  
「・・・そんなはた迷惑な薬を作ってどうするつもりだ。」  
 アニシナは大げさなほどため息を吐いて、呆れた目でこちらを見やる幼馴染の眉間の皺に人差し指を突きつけた。  
「これだからあなたは無学だというのです!人が自分の欲求を口にすることを躊躇うのは、無意識下で理性が欲求を  
抑えているからです。しかし、時としてそれは大変なストレスを人に与えるのです。過度なストレスは身体の異常、性格の  
ゆがみを与える、万病の種なのです。それを解消するのがこの薬「ハッキリサセタルネン」です!この薬を服用することで  
、あますことなく自我から開放され、ストレスを発散させる素晴らしい薬なのです!」  
 興奮気味のアニシナの巧拙を黙って聞いていたグウェンダルだったが、小さく一言  
「そんなに素晴らしい薬なら、自分で飲めばいいだろう。」  
「わたくしが病に至るほどのストレスを溜め込んでいると思いますか?身体と精神に悪いと知っていながらそれを溜める  
などという愚かなことを、このわたくしがするとでも?そんな無茶をするのはあなたくらいのものです。」  
 3倍くらいになって返ってきた。大きくため息を吐くグウェンダル。  
「・・・私は飲まない。明日も仕事があるからな。たとえ、お前が狙ったようにストレス解消の効能があるとしても、その  
ストレスを口に出すような解消の仕方は、摂政として許されん。」  
 アニシナは一瞬嫌そうな表情をして、次に心底バカにしきった瞳で幼馴染を見下した。  
「無駄なプライドと、その苦労ばかりを背負い込む性格のせいでその内身体がおかしくなりますよ。」  
「そうなっても、別にお前に迷惑はかけんだろう。」  
「何をいうのです!あなたが使い物にならなくては、わたくしの実験のもにたあがいなくなってしまうではありませんか!  
いいから四の五の言わずにお飲みなさい!」  
「ぐあやめろ!わひゃひはのまにゃー!!!」  
 力ずくで口をこじ開けられ、赤い色をした異臭を放つ薬を飲まされたグウェンダル。あまりのまずさに涙目になってしまった。  
涙目になった理由はそれだけではない。何だかんだと理由をつけてはいるが、アニシナは結局仕事のし過ぎで疲れている  
幼馴染を案じているのだ。それはわかる。それはわかるが、もっと普通に元気付けてはくれないものか。幼馴染の奇怪な  
優しさに、グウェンダルは涙を流した。               
 
「飲みましたね!気分はいかがですか?」  
「・・・最悪だ・・・」  
 当然である。しかし、アニシナはグウェンダルのその台詞をきれいに無視して、記録用紙を持ってもにたあの変化を見守っていた。  
「気分に変化はなし、と・・・。さて、あなたのストレスと言うと、やはり仕事のことですか?何でもさっさとお言いなさい。」  
「仕事・・・ああ、あの新米魔王、次々に新しい案件を持ってきてはこれをやれ、あれをやれと言う。少しは自分でできるもの  
からやればいいのに・・・。これもそれも、全てあの過保護王佐が甘やかしたせいだ。だれもかれも、あれに甘すぎるのだ。」  
「いい調子ですね。ですが、陛下に甘いのはあなたも同じです。ついでに弟にも甘いですよ。まったく、可愛いものを愛でる  
のが悪いとはいいませんが、節操を持ちなさい。」  
 アニシナ様、説教モード。ストレスを口にさせているのに、黙って聞く気はないようだ。それでも薬の効果からか、グウェンダル  
は普段は口にすることのない愚痴を言い続けた。 「ああ、弟たちと言えば、ヴォルフもコンラートも魔王に甘すぎる。誰も王を  
叱るものがいないのであれば、あのように奔放な王になってしまっても臣下は文句が言えん。」   「あなたが叱ればいいでしょうに。」  
「それからアニシナ。」  
 急に話の矛先を向けられて、アニシナはおや、と首をかしげた。本人的には、グウェンダルのストレスと自分との関係性が  
よくわかっていない。  
「お前、いつまでグレタの教育係をやっているつもりだ?」  
「別に教育係などやっていませんよ。ただ、グレタは勉強熱心な子ですからね。王佐の教育など物足りないので、わたくしの  
ところまで勉強にくるのですよ。」  
「・・・構いすぎじゃないか?」  
「・・・そうですか?」  
 グレタに対して、甘やかしているということはないと自分では思うのだが。  
「・・・四六時中一緒にいるだろう。」  
「それは、今は留学先から帰省中ですし、陛下がいらっしゃいませんからね。構ってあげないと、いくらなんでもかわいそうでしょう。」  
 毒女が珍しく人間的なことを言ったので、グウェンダルは黙り込んだ。それでも、薬の効果で言いたいことを言わずにはいられない。  
「・・・わたしと」  
 グウェンダルの指が震えた。理性と薬の効果で戦っているのだろうか。それでも、毒女印の薬に勝てるわけもない。震える唇で、  
どこか訴えるように言った。  
「・・・わたしと、一緒にいる時間が減る。」  
「おや。」  
 アニシナは意外そうな表情をしてグウェンダルを見た。その瞳に羞恥を感じて、思わず水色の瞳から視線を外した。  
だからグウェンダルは、アニシナの瞳が細くなったのに気付かなかった。  
 
「わたくしと一緒にいられなくて、寂しかったのですか?」  
「・・・そ、そんなわけでは・・・」  
 別に、四六時中一緒にいたいわけではない。そんなことを望むほど命知らずではない。けれど。けれど、いつももう少しだけ  
自分に構って欲しいと思うだけだ。もにたあとしてではなく、幼馴染としてでもなく。  
「では、何が欲しいのです。何が不満だというのですか。」  
「欲しい・・・のは・・・」  
 欲しいのは。不満なのは。  
 グウェンダルは、とうとう薬の効果に負けた。それとも、毒女の毒に負けたのだろうか。そっと、アニシナの身体を抱きしめた。  
 いつだって欲しくて、でも足りなくて、不満に思っていたから。  
 
 そっと頬に唇をよせた後、アニシナの柔らかな唇に吸い付いた。軽く吸い付いただけで離れたが、何だか蜜のように甘く感じられた。  
その甘さに、頭がくらくらとする。目の前のアニシナが、ゆっくりと赤い唇を動かすのを、夢のように見つめた。  
「グウェン。グウェンは、わたくしが欲しいのですか?」  
 淑女が口に出していい台詞ではないと思いながら、それでもグウェンダルは突っ込まなかった。大人しく、首をこくりと縦に振る。  
「欲しい。」  
「わたくしの、何が欲しいのですか?」  
 この問いには少し考えた。と言っても、言いたいことを整理するための沈黙ではなく、普段は曖昧にしたままの欲求を  
はっきりさせるための沈黙だった。  
 アニシナの、心が欲しい。いつだって、自分に向いていればいいと思う。そうすれば無駄な実験だってしないし、自分は  
もう少し大切に扱われるだろうし、一緒に編み物をする時間が増える。  
 アニシナの、身体が欲しい。いつも小さな身体を抱きしめていたいし、毎晩、求めることができればいいと思う。そうすれば、  
言葉の少ない自分だってアニシナをいかに大切にしているか伝えられるはずだ。  
 どっちがより欲しいか、なんて、決まっている。  
「アニシナの、心も、身体も、全部だ。」  
 どちらか片方だけなんて、そんな寂しいのは嫌だ。  
 アニシナは、この答えに笑った。この、幼馴染のことならなんでもお見通しの毒女は、さっき本人が改めて言語化した  
気持ちでさえお見通しだったのかもしれない。  
「男は本当に欲張りだこと。わたくしの、何もかもが欲しいですって?」  
 グウェンダルは真面目に頷いた。  
「残念ながら、わたくしの何もかもをあなたにあげることはできませんよ。わたくしの優れた頭脳は、やはり眞魔国のために  
使われるべきです。」  
 グウェンダルはしょんぼりと眉を下げた。全部が手に入らないことをほんの少しだけ嘆き、逆にそんな物騒なものはいらない  
かも、とちょっと考えている。  
「ですが・・・まぁ。」  
 アニシナはグウェンダルの首に腕を回して抱きついた。まるで大木につかまった子猫みたいだったが、グウェンダルは  
そんな様子にさえときめいた。というか、そんな姿にこそときめいたと言うべきか。  
 アニシナはそのままグウェンダルの頬に唇を寄せた。軽い接触にも、胸がしめつけられる。離れたアニシナの顔を見ると、  
機嫌よく微笑んでいた。滅多に見せない表情は、彼女が毒女であることを忘れさせる。男なら皆、騙されてしまうに違いない。  
自分でさえ騙されそうだ。  
「でもまぁ、半分くらいはあげても構いませんよ。」  
「・・・本当か?」  
 
 グウェンダルの表情が明るくなった。と言っても、幼馴染にしかわからない程度の瞳の輝きだったが。その様子に微笑んで、  
アニシナは言葉を続けた。  
「ええ。ただし、条件があります。」  
「何だ?」  
 実験はお断りだ――  
 そう言おうとしたグウェンダルの声を、アニシナは遮った。  
「わたくしにも、半分あなたを寄越しなさい。」  
 それで、一つになるでしょう?  
 アニシナが機嫌よくそう言ったとき、グウェンダルはかつてないほど相好を崩した。あまりに崩れた自覚があったので、  
アニシナを胸に抱きしめて顔を見せなかった。  
「・・・やる。半分だ。」  
 本当は全部あげても構わなかったが、全部となるとちょっと怖かったので、とりあえず半分と言った。  
 アニシナはグウェンダルの束縛から力づくで抜け出し、グウェンダルの顔に近づいた。  
「男に二言はありませんね?」  
「――お前こそ、後で知らないとは言わせない。」  
 まるで、将来を誓い合ったかのような言葉は、絶対に忘れてもらっては困る。アニシナは、女は嘘を吐きませんと言って、  
グウェンダルに口付けた。  
 
 くすくすとくすぐったそうなアニシナの笑い声に、グウェンダルは少しいらついていた。互いに衣服が乱れ、幾度となく口付け  
を交わし、身体をまさぐりあっているのに、アニシナは何時までたっても本気にならないからだ。  
 白いブラウスから零れ出た白い乳房の先端を口に含んできつく吸うと、ちいさく啼いて身を捩るのに。まるでじゃれついた  
犬をかわすように、笑ってはグウェンダルに抱きついて浅いキスを繰り返す。  
 じれったい。  
 いつも以上にアニシナの機嫌がいいことだけはわかったが、それにしても焦らされる。これでも本気で襲っているのだが、  
なぜか筋力が互角な上、相手はかわいいときているので、毒女印の薬の効果を持ってしてもコトは容易には進まなかった。  
 乱れた衣服のまま、白い肌が露わになってシーツに沈んでいる様は、非常に扇情的だ。赤い髪と白い肌のコントラストが、  
グウェンダルの目を焼く。こんな風にかわいくて色っぽい彼女を、早く自分のものにしたいのに。  
 無理やりにでもその気にさせてやろうと、グウェンダルは強引にアニシナのスカートをたくし上げて、中へ手を入れ、下着の  
上から陰部をまさぐった。  
 グウェンダルは少し驚いた。  
「・・・濡れて・・・」  
 最後まで言う前にアニシナに頭を殴られた。頭に痛みを感じながら、それでも気を取り直して改めてそこを触ると、たしかに  
アニシナは濡れていた。まだ、大した刺激も与えていないのに。というか、それを避けたのはアニシナなのに。そこまで考えて、  
グウェンダルははたと思い当たった。  
そういえば、アニシナは感じやすかった。いつも危険な毒物やらなにやらに触れているので、肌の感覚が常人と比べて鋭敏  
なのだ。そのせいで普段は近づくのも一苦労だが、一度触れてしまえばこちらが驚くほど敏感に反応する。  
 アニシナに触れるのが久しぶりで、すっかり忘れていた。少し嬉しくなって、ゆっくりとそこに指を這わせるとアニシナはぎゅっと  
グウェンダルの身体に抱きついて、堪えるように目を閉じた。その様子がかわいくて、グウェンダルは頬を緩める。激しく口付け  
ながら、濡れた秘所に指を指し入れる。くちゅりという卑猥な水音と、唇と舌のとろけるような接触に、グウェンダルは我を  
忘れて夢中になった。  
 
「んっ・・う・・・はぁっ・・・!」  
「は・・・アニシナ・・・かわいいな・・・」  
 いつもは言わないようなことを言って、グウェンダルは自分で照れたが、アニシナは聞いているのかいないのか  
(聞き流されているのかもしれない)、いやらしく腰を振ってグウェンダルを挑発した。衣服が乱れて半裸の状態になった美女  
のその仕草に、グウェンダルはごくりと生唾を飲み込んだ。  
 何度抱いたところで、この毒のような色気に抗えたことは一度もない。  
 グウェンダルは自分のシャツを乱暴に脱ぎ捨て、アニシナの下着を抜き取った。上半身は白いシャツが申し訳ない程度に  
アニシナの完璧な白い肌にくっついているだけだし、いつもは長いスカートに包まれた白く細い足は、スカートを思い切りたくし  
上げられて、下着さえもない状態で、非常に扇情的だ。  
グウェンダルはアニシナの足の間に身体を滑り込ませ、蜜の滴る恥部を舌で舐め上げた。アニシナの細い腰がびくりと揺れて、  
濡れた唇から甘い声が漏れた。  
「あ・・・んん・・・」  
 アニシナが逃げないように、腰を引き寄せながら、固くなった蕾を唇で刺激し、蜜壷へ舌を挿入する。蜜はますます溢れて、  
ぴちゃぴちゃと淫らな水音は増していった。  
「はっ・・・そ、そんなにっ・・・はっ、だめっ・・・」  
「びしょびしょだ・・・いいのか?アニシナ・・・」  
「・・・ん・・・」  
 肯定とも否定ともつかないアニシナの返答。けれど、声の甘さからグウェンダルは肯定と受け取って、行為をさらに進めていく。  
固く立ち上がった蕾を指で弄ったり、逆に蕾を口にくわえて愛撫しながら、蜜壷に指を指し入れたりした。その度、くちゅりくちゅり  
という淫靡な水音が二人の耳を打つ。  
「あっ・・・やぁっ・・・はっ、グウェンっ・・・!あんっ」  
「凄いな、ココは・・・。気持ちイイか?」  
「・・・もっと、気持ちよくさせてはくれないのですか・・・っ?」  
 アニシナが、荒い息の中小さくそう言った。グウェンダルは顔を上げてアニシナの表情を見ると、興奮のためか何なのか、  
顔が紅潮していて、荒い息をしていた。不覚にも、とてつもなくときめくグウェンダル。  
「・・・いくらでも、よくしてやる・・・」  
 そう言って、改めてグウェンダルはアニシナの身体を押し倒した。アニシナが抵抗さえしなければ、驚くほど簡単に倒れて  
しまう小さな身体。その身体に再びキスを落とし、自身の興奮しきった雄をアニシナの蜜壷に充てる。  
「ん・・・はやくっ・・・!」  
「ああ・・・。」  
 アニシナが欲しがってくれることも嬉しかったが、何より、今は自分がアニシナを欲しかった。ゆっくりとアニシナの秘所に  
雄をすすめていく。  
「ああああっ!はぁっ!グウェンっ・・・!!」  
「アニシナ・・・ッ・・・!!」  
アニシナの中にあたたかく包まれて、頭の中が変になりそうだ。一度奥まで辿りつくと、今度は何度も抜き差しを繰り返す。  
アニシナとグウェンダルの体格差では、それだけでも互いに強い快楽を呼び起こした。  
「はっ・・・アニシナッ・・・!すごく、いいっ・・・!」  
「ああんっ!はぁっ!あ、あっ・・・グウェンッ!!」  
 アニシナはすがるようにグウェンダルの広い背中にしがみ付いた。グウェンダルはアニシナの小さな身体をしっかりと抱き、  
ずぶずぶと出し入れを繰り返す。幼馴染の最奥は馴染んだものではあるが、それでもこれ以上ないほど狭く、グウェンダルを  
締め付けてくる。下半身から脳髄へ直撃するような快楽に、どうにかなりそうだ。  
「んぅ・・・!ぁ、ひゃあぁっ・・・!」  
 アニシナは快楽に水色の瞳を揺らがせ、白皙の頬は興奮に紅潮している。とても、かわいい。いやらしい声を漏らす赤い唇を  
強引に奪った。舌を割りいれ、逃げる舌をからめとる。  
 
「ふ、んっ・・・ん!ちゅっ・・・うんっ!」  
「ちゅ・・・ん、はっ・・・アニシナっ・・・今、ひとつだ。わかるか?」  
 互いが交じり合って、ひとつになる。アニシナの半分は自分のもので、自分の半分はアニシナのもの。今のこの状況の  
ようで、なんだかグウェンダルは嬉しかった。それを聞いたアニシナは、うっすらと笑った気がした。  
「・・・っそう、ですね。今、あなたがわたくしの中にいるのですから、ひとつですね・・・っ」  
アニシナに肯定されることで、グウェンダルは自分の感覚にようやく実感が持てた。幼馴染を抱く力が強くなるのがわかった。  
離したくない。部屋に響く卑猥な水音は二人の快感は高める一方だ。限界が、近い。  
「や、ぁあ!もぅ、ダメッ・・・!」  
「あ、ああ・・・私も、一緒に・・・っ!」  
「ああああんっ!!」  
「―――くっ・・・!」  
 アニシナが達したと同時に、グウェンダルはアニシナの中へ自らの精を放った。  
 
 情けないことに、もう一回したいなぁとグウェンダルが思ったのは、アニシナの疲れきった寝顔を眺めていたときだった。  
あんまり可愛い寝顔なので、素直に身体が反応してしまった。しかし、寝込みを襲うことはグウェンダルの騎士道に反したし、  
後の仕返しが怖いので、何とも出来ずに愛らしい寝顔を眺めているだけだった。  
 一応、心配してくれてあんな薬を用意してくれたわけだし、薬を使った後も・・・グウェンダルの要求にのってくれたわけだし、  
彼女は彼女なりに心配してくれたに違いない。そのことについては礼を言わなければならないだろう。  
 そう考えていると、ゆっくりとアニシナが瞼をあけるところを見た。あんまりゆっくり水色の瞳が見えたので、まるで人形が動き  
出したようだった。  
「・・・グウェン・・・?」  
「・・・起きたか。」  
 できるだけいつものようにそっけなく言ったつもりだったが、きっと目元はだらしないくらい緩んでいるに違いない。アニシナは  
寝ぼけたついでにグウェンダルの唇に唇を軽く重ねてきた。ちゅっちゅっと軽く触れ合わせる。  
「・・・アニシナ、その・・・すまん。」  
「?何を謝っているのですか?」  
 ああ、そうじゃない。グウェンダルは自分の無口さを呪った。  
「・・・いや、その・・・」  
 心配してくれて、ありがとうと言えばいいのだろうか。何だかそれも違う気がする。そもそも、自分の疲れの半分くらいは  
彼女の実験によるものだし。  
 結局何を言うべきか見当たらず、グウェンダルは口をつぐんだ。  
「・・・なんでもない・・・。」  
 アニシナはわけがわからないという表情をしたが、グウェンダルは唇を塞ぐことでこのことをうやむやにした。  
 
 
 

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