空は彼女を思い出させる。  
 
「空?私の瞳が…?」  
濁りのない水色の瞳が、長身の男を見つめている。  
澄んだソレは穏やかであるが決して弱くない光がある、彼女そのものだった。  
「ええ。ちょうど今の空ようだ」  
男は手を天にかざして、太陽の光から目を守りながら指の間からのぞく青空を確かめる。  
ジュリアにそっくりだ、と目を細めて空と彼女を交互に見た。  
「そうなの‥」  
とても不思議そうに彼女は空を見上げたが、その瞳から空を見ることは出来ない。  
ゆっくりと目蓋をおろし、残念だわと小さく洩らす彼女は、決して自分を可哀相だとは思っていないに違いなかった。  
空という色が見れないことは残念だけれども、彼女は不幸だとは思わない人だ。  
自分にしか見えない、感じ取れないものをたくさん知っている。  
「コンラート、貴方は大切なモノはある?」  
唐突な質問に一瞬、躊躇したもののウェラー卿はすんなりと答えることが出来た。  
ただし、確信に触れずに質問を返すような形で逃げた。  
「ジュリア…貴方は?」  
ウェラー卿が微笑む姿が見えなくとも、ジュリアはその声音で彼が何を思っているのかを感じ取った。  
「ありすぎるわ。国や家族、友人、兵…生きる人々」  
目蓋を閉じたままの彼女は、同じトーンで話しながら数多くのことを思っていた。  
 
「戦争は嫌いだわ」  
ポツリと呟く一言にどれだけの想いがあったことか、人を気遣い、立てる事の得意なウェラー卿も若さゆえ知ることは少なかった。  
「もうすぐ、この戦いも終わるだろう」  
眺めた先に一羽の鳥が美しい鳴き声を誇らしげに奏でながら旋回して、城を出ていく。  
視線をおろせば、城の門の手前で若き魔族の兵がぞくぞくと集まっていた。  
「ジュリア、部屋に戻ろう。」  
見えないはずの瞳を兵に向けた彼女は、ウェラー卿の一言に小さく頷き、庭園をあとにした。  
 
長い城内の廊下を歩いているとき何人かの兵に会釈をされ、俺が教える迄もなくジュリアも存在に気付いては会釈を返した。  
以前、なぜ人がいることが分かるのかと聞いてみたことがあった。  
彼女は笑みを浮かべて、当たり前のように言った。  
「生きているからよ」  
分かりそうで分からない答えにモヤモヤとしながらも、そういうものなのだと納得したのだ。  
 
部屋に着くと、ジュリアはウェラー卿にお茶を勧め、彼もそれに従った。  
 
出された湯気がたつ紅茶をウェラー卿は一口飲んで、静かに置くと、テーブルを挟んだ窓際に座る彼女に視線を送った。  
光を浴びた雪のような髪が肩にかかった彼女は、慣れた手つきで紅茶を口にした。  
「そういえば」  
唇から離したカップを、両手で支えながら膝の上に乗せたジュリアは、思い出したように話を切り出した。  
この部屋に誘う前から、なにか話したそうな彼女にウェラー卿も気付いていたようで、彼はさして驚きもせず彼女の話を促した。  
ジュリアも、彼の姿勢に感謝しつつ話を進めた。  
「今朝方、ツェリが来ましたよ」  
予想外の話だったのか、ウェラー卿は少し驚いたようで、不自然にカップを鳴らしてしまった。  
失礼と謝罪を述べて、ウェラー卿はジュリアの瞳を見つめた。  
「母上が…ですか?」  
第26代魔王陛下であるウェラー卿の母親は、世界がめまぐるしく変わる中で兄であるシュトッフェルを頼りに魔族の長として暮らしていた。  
昔から恋多き女性であった彼女が、一つの城に閉じ込められることがどれだけ辛い事か。  
 
ジュリアに愚痴や泣き言を洩らす己の母親を想像することは、容易かった。  
「彼女、とても辛いと言って…眞王がなぜ自分を選んだのかと嘆いていたわ」  
閉じてしまいそうな目蓋が影を作って、ジュリアの水色の瞳が青く濁った。  
「たくさん人が死んだと知らされては、次は殺したと知らされる…おかしくなってしまいそう」  
昨日話し掛けてきた兵が今日は棺で運ばれてくる。  
友人も一人、また一人とどこか遠くへ行ってしまう。  
婚約者の彼も…  
ジュリアは、カップの淵に指を滑らして哀しげに紅茶に映った自分を見つめた。  
否、見えていないのだから自分を見ていたのでは無いのだろう。  
「ジュリア…」  
俯いた彼女が泣いてしまったのだと思ったウェラー卿は、大きな手のひらを薄い彼女の肩に気遣うように触れさせた。  
しかし、彼女は泣くことはせず顔を上げると優しく微笑んで肩に乗ったウェラー卿の手に、彼女のそれを重ねた。  
「貴方も行くのでしょう?」  
彼がどこに向かうのか、ジュリアは知っていた。  
彼が魔族として誇りや信頼を取り返すために、死を覚悟した戦いに挑むということを。  
 
ジュリアの微笑みは、少しでも触れたら壊れてしまいそうにはかなげで、ウェラー卿は笑みを作ることもままならなかった。  
そして不謹慎にも、彼女の眼が見えなくて良かったと思ったのだ。  
彼女を傷つけずにいられることに安堵して。  
「ジュリア、俺は辛くないよ。君が代わりに悲しんでくれたから。」  
ウェラー卿は、崩れてしまいそうな彼女に愛しさにとても近い感情が生まれていたことに気付きながら、そんな自分を見て見ぬフリをした。  
席を立ち、ジュリアを引き寄せると彼女が手にしていたカップが落ちて音を立てて割れた。  
彼女の長い髪をゆっくりと手で梳いて腰に空いた右手を回すと、彼女は糸が切れたようにウェラー卿にしがみついた。  
「とても、とても悲しくて、心が痛い…潰れてしまいそうだわ」  
折れそうな体が震えて、水色の瞳に薄く膜が張る。  
もし、この場にアーダルベルトがいたら絶対殺されてたなと、急に思ったりしたのは、おそらくこの先の己の行動に原因があるに違いなかった。  
 
「でもね、コンラート。私は皆が言うほど強くないけれど貴方が思うほど弱くも無いわ」  
水色の瞳がコンラートを写し出して、危うい感情の狭間で不安げに揺れた。  
これ以上進むなと、“親友”の線を越すべきでないと、お互いの全身で警告し合っている。  
「そんなこと…知っている。」  
それでも、ウェラー卿は腕からジュリアを放すことが出来ず、ただただ切ない感情に身を任せてしまう。  
「きっと後悔するわ」  
あんな行為をするべきてはなかったと、ただの“親友”でいられなくなることを。  
「争いのせいにしてしまえばいい」  
焦れたようにウェラー卿がジュリアを強く抱き締めたのを合図に、彼女は拒むことを止めた。  
同じくして、彼は彼女の唇に触れるだけの口付けを送った。  
 
ジュリアのやわらかい唇が一度離れて、お互い強く抱き合うと再び、今度は深く口付けた。  
ウェラー卿は彼女の下唇をついばむように甘噛みし、口が開かれるとそこから舌を侵入させた。  
彼女の舌を絡み取り、角度を変えながらキスを味わった。  
「ん…ぅ」  
蹂躙する舌と、息も付けない激しさに苦しげに眉をひそめたジュリアは、細い指をウェラー卿の上着に引っ掛けて、キュッと握り締めた。  
彼女の訴えに気付いたウェラー卿は唇を離し、キスでぽってりと膨れた彼女の唇を舌先でなぞるように舐めた。  
「すまない」  
恥じたようにうなだれ、ジュリアを抱き締める。  
決して手に入れることは出来ないし、しないだろうと思ってきた彼女をこの手で抱く現実が、少なからずウェラー卿を焦らせていた。  
「大丈夫よ」  
優しい鈴の音のようなジュリアの声に誘われるように、彼はもう一度、ゆっくりと口付けた。  
キスをしたままで、ウェラー卿はジュリアを抱き上げると部屋の奥、寝室のドアを抜けベッドに彼女を寝かせた。  
窓から日が射していたことで、今が昼なのだと唐突に思ったが備え付けられた天蓋のカーテンを引いてしまえば、光は遮られ時間など気にすることはなかった。  
 
ウェラー卿が上着を近くの椅子の背もたれに掛け、ベッドに戻ると腕でジュリアを閉じ込めるように、彼女の頭の両側に腕を付いた。  
見つめた先の彼女の水色の瞳が、今は暗闇の中で何色か判断できなくなっていた。  
ウェラー卿は、ジュリアの頬に唇を寄せると滑るように顎に移り、首筋を舌先でたどって鎖骨のあたりを強く吸った。  
「少し背中を浮かせて」  
「ん。」  
そうしながら彼女の服を脱がしていき、胸元にキスを贈る頃には、ジュリアがしっかりと身につけているものは下着と青い魔石の首飾りのみとなっていた。  
暗闇のなかでも彼女の胸で薄く光を放つ魔石をウェラー卿は手に取ると、それに軽く口付け彼女の上に戻した。  
外そうとは思わなかった。  
そうしてから、ジュリアの胸を撫でるように触れ唇を寄せた。  
片手で胸を揉み、空いた胸の頂きを舌で転がすように愛撫する。  
「ぁ‥ン、ん」  
同時に今にも消えてしまいそうな小さな喘ぎを少しでも引き出そうと、右手を彼女の秘部に向かわせた。  
中指で割れ目をやんわりとなぞってから、ひだの間に隠れている性感を人差し指で刺激した。  
「ひぁッん‥!」  
途端に彼女の体がビクリと震えて、叫びに近い声をあげる。  
とろりとした愛液を指に絡めて、くちゃくちゃと音を立てながら彼女の中を人差し指がゆっくりと侵略していく。  
彼女の中の襞の熱さに指が溶かされてしまいそうな錯覚に侵されながら、押し広げるように指を曲げた。  
二本目の指を咥え込んで、しばらくすると暗闇で映える彼女の白い肌が熱を帯びて、しっとりと汗を滲ませているのがよく分かった。  
 
ジュリアの唇から絶え間なく洩れる喘ぎは、切なげに潤ませた瞳と共に、ウェラー卿を十分に魅了した。  
彼女の中を掻き混ぜるように旋回させていた指の動きを抜き差しに変え、長い指の爪先まで抜いては、根元まで咥え込ませた。  
「は‥ンっ、ん、んッ!」  
一定のリズムを取りながら彼女の中を犯し、舌で胸を愛した。  
しなやかな肢体が妖しくベッドで悶える様は、たまらなく扇情的で、ウェラー卿の人並みはずれた理性は、一つ、また一つと崩れていった。  
乱れた長い髪を一房すくい上げると、そっと香りを吸いこんだ。  
この先、二度と彼女を抱くことは無いのだろうと思った。  
「コンラート…もうこれ以上‥」  
見えないはずのジュリアの瞳がウェラー卿の目をしっかり見つめた。  
そのとき、薄茶の彼の瞳は闇に溶けて黒く染まっており、普段の彼からは想像できない鋭い眼光すら備えていた。  
細いジュリアの指がウェラー卿の頬を撫でて、甘えるように先を促す。  
 
それまで彼女を犯していた指を、ずるりと抜くと代わりに指とは比べものにならない欲望の塊を押しあてた。  
「…ぁっ」  
あてられたモノの熱さと大きさに息を飲み、それでも受け入れようとする彼女は、そっと脚を開いた。  
ウェラー卿はジュリアの膝に腕を通すと彼女の体を少し持ち上げ、己のモノを押し込めた。  
「ひぁァア、ぃあー――ッ!!」  
一気に埋め込められる苦痛とひどく曖昧な快楽にジュリアは叫びと同時に、水色の瞳から涙を零した。  
痛いと思うのに辛いとは思わない、とても不思議な感覚を味わう間もなく、ウェラー卿の腰が引き、再び穿たれる。  
「ぅっン、ぁッあッあ!ひぁ‥ッ」  
徐々にあげられるスピードに狂わんばかりにジュリアは泣き喘ぐ。  
肉同士がぶつかる音が鳴っては、粘着質な水音が溢れていった。  
シーツを掴むジュリアの指は青く血の気をなくすほど力が籠もっていて、時間と共に皺を様々に刻んでゆく。  
コンラートの熱っぽい息が事の激しさを物語り、ジュリアは泣きながら彼の名を呼び続けた。  
 
小刻みに腰を揺らし、彼女の中をめちゃくちゃに掻き混ぜると、ビクンっと彼女の体が震え仰け反り、最後を迎えたことを知らせた。  
そして、彼もまた少しして彼女の中で果てた。  
 
余韻の残るけだるい体で、ジュリアを上から被さる形で抱き締めると彼女も力の入らない腕をウェラー卿の首に回した。  
息を整えようと開いたジュリアの唇にウェラー卿は己のそれを被せ、優しいキスをした。  
「もし…」  
唇が触れるか触れないかの位置で、ウェラー卿は言葉を紡ぎだす。  
「俺が帰ってきたら、笑って迎えてくれ。同志である親友として」  
ジュリアは、小さく頷きウェラー卿を抱き締めた。  
青い魔石が薄茶の瞳から流れた雫を受けとめた。  
 
 
END  
 

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