「ごきげんよう、お姉さま」
「ごきげんよう、祐巳」
いつもの挨拶で始まった、ごく普通の平凡な一日。けれど、祐巳にとっては
その人と交わす一言一言が新鮮で心弾む出来事なのだ。
「お姉さま……。今日も放課後、いつもの『ご指導』をお願いします」
祐巳が伏目がちに言う。ブラウンの柔らかな長い髪を両側でまとめている
トレードマークのリボンの様に頬を染めながら。その仕草を微笑ましげに
見つめる祐巳のグラン・スールである祥子。長く美しい黒髪がそよ風になびいている。
「よくてよ。では、放課後に、いつもの所で…」
そう言うと礼儀正しく挨拶をして、祐巳と別れる祥子。その姿を見送りながら
内心、やった!と小躍りする祐巳。彼女の中では、今日はまた一つ、大きなイベントが
出来たのだ。お姉さまと二人っきりの胸がときめき、ちょっぴりエッチな素敵な時間。
今日の祐巳の心はその約束の事だけで一杯になった。
そして、放課後。
ここはリリアンの比較的外れにあるお聖堂から更に外れにある、『姉妹の部屋』。
リリアンではスールの契りを結んだ姉妹が、その古くから伝わるしきたりを姉から妹に
二人っきりで受け継ぐための部屋がいくつか用意されていた。授業や礼拝では教えて
もらえない、姉妹だけのしきたりを教える部屋の一つで祐巳は祥子を待っていた。
「おまたせ、祐巳」
にっこりと輝かんばかりの笑顔を祐巳に向ける祥子に祐巳は今更の様に呆然となる。
普段は物静かで礼儀正しい上品な財閥の令嬢で、生徒会である山百合会の一員として
ロサ・キネンシス・アン・ブゥトンの称号を受ける次期生徒会長。その人がこんな笑顔を
向けるのがオール平均点の自分だけだと考えると、光栄を通り過ぎてもったいないやら
罰当たりやら…。でも、これだけ幸せならば罰なんて平気に思えてしまう祐巳。
「では、早速はじめましょうか…。この前の続きよね?」
祐巳の肩を抱くと奥の部屋に連れて行く祥子。そこは洋室でなく、和室だった。
十畳ぐらいはあるだろうか、他の『姉妹の部屋』より大きい。
理由は、この部屋で教えることが特別な事だからであった。特別なことでしかも
姉妹には大事な事…。緊張感が募ってきた祐巳はほんの少し身を硬くする。
「硬くなってるのね、祐巳。……いいわ、今日は私が『される側』になってあげる」
祐巳を落ち着かせるように優しい笑顔を見せる祥子。
「え? お姉さまが…!? でも……」
本当ならば妹が『される側』が似合う行為。祐巳は困惑気味に畳の部屋の真ん中に
進み出た祥子を見つめる。
「いいのよ。私もされてみたかったの。祐巳に」
にっこりと微笑むと中世のお姫様の挨拶のようにスカートの裾を両側でつまみ、持ち上げる。
「お姉さま…」
祐巳が固唾を呑んでその様子を見守る。お姫様の挨拶と違うのは、祥子のスカートの
上げ具合だった。膝頭はおろか、太ももが完全に見える位置まで上げ、まだ持ち上がる動きは
とまらない。そして、それは、ちらりと白いものが見えるところまで……。
「祐巳、よだれ…?」
クスッと祥子が笑う。祐巳はハッと気づき、口をぬぐったが、そこは濡れてはいなかった。
「あれ?」と首を傾げる祐巳に祥子が更に忍び笑いする。どうやらからかわれたらしい。
「祐巳ったら、エッチな男の子みたいな顔をして」
タンゴの女性ダンサーの様にスカートを翻しながら祐巳を見る。祥子が男の子の前で
そんな事をするとも思えなかったが、見とれていたのは確かなので恥じ入るように
視線を逸らす祐巳。ひとしきり祐巳をからかうと祥子はゆっくりとその場に座り込んだ。
少し遅れて、舞い上がったスカートが、ふわさ……と祥子の周りに広がる。まるで天使が
降臨したかのような優雅さだ。祥子の両足は祐巳の方に向けられ、少し開いた状態で
Vの字に伸びている。
「祐巳は少し見えていたほうが良いのだったわね…?」
そう言うと、更にスカートをたくし上げ、かろうじて隠れていたシルクのショーツの
三角地帯だけをさらけ出した。全開でもなく、逆にまったく足が見えない状態でもなく、
ショーツが見えるか見えないかギリギリのポイントにスカートをセットする。
見える見えないのどちらにするかは、その行為者の趣味に任せられるが、それがリリアンでの
しきたりだった。
「では、はじめましょう……二人だけの『電気アンマ』のセレモニーを」
誘うようなソプラノで祥子は祐巳に呼びかけた。