西洋焼菓子を思わせる扉を背景に、二人の女は、じっと相対していた。
ともに身にまとうのは漆黒に緑を一しずく落としたかのような深い色の制服。
象牙色のタイも、スカートのプリーツも凍りついたかのように微動だにしない。
「やはりうぬが刺客であったか、松平瞳子」
長い髪を両脇で三つ編みのおさげにした、やや年かさの方が口を開いた。その手には抜き身の
刀が握られている。
「しかし、徒手空拳でかの支倉令の"妹"たるこの島津由乃を仕留められると思っているのか」
頭の両脇に螺旋のような巻き毛を垂らした小柄な女の唇端がにい、とつり上がる。
「勝てる算段もなしに来るものかよ」
かっ、と頭に血がのぼった。怪鳥のような叫びとともに、由乃は刀を大上段から振り下ろす。
だが、ぎぃん、との鋼同士の弾ける音がするだけであった。
「みたか、"螺旋髪"」
由乃の振り下ろした刀は、瞳子の頭側から伸びた錐のような髪に挟み取られていた。
「白刃取りかっ――」
「支倉令の剣ならば、いかな螺旋髪といえど防げはせんよ、だがおぬしの未熟な技ならこの
とおりたやすいもの」
錐のような髪は甲高い音を立てて回転し、由乃の剣をねじり折ると、さらに軌道を変えて
由乃の喉笛をえぐらんと迫る。
「とったり」
瞳子の哄笑を、ありうべくもない声がさえぎる。由乃だ。瞳子の秘術・螺旋髪の鋭い切っ先は、
由乃の皮一枚傷つけてはいなかった。
「忍法"鉄黄薔薇"――これがわたしの"黄薔薇のつぼみ"たる何よりのゆえんよ」
鉄黄薔薇! 伴天連の秘法によりみずからの体に刃も弓矢も通さぬ堅牢さを与えるもので
ある。しかし、それは秘法を施術するにあたっての地獄の苦痛に耐えたものだけが得ることが
できる。島津由乃は、支倉令の側にありたいとの一心のみでそれに耐え抜いたのであった。
「――ひっ」
「そして、髪をあやつるは紅薔薇のみにあらず」
その刹那、由乃の二本の三つ編みが毒蛇のように鎌首をもたげ、身をひるがえそうとした
瞳子の首にからみつく。ぼきり、との鈍い音が響くと、あり得ない方向に顔を向けた瞳子はゆっくりと膝をついて崩折れ、二度と動くことはなかった。
「おのれの術におぼれたがうぬの命とりよ」
由乃はそうつぶやくと、瞳子のなきがらに軽く手を合わせ瞑目した。
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「これ何ですの、由乃さま」
「今度の文化祭の演目のイメージスケッチみたいなものかな」
「……何をなさるおつもりで」
「今回はあえてオリジナルで、名付けて『リリアン忍法帖』!」
「その山田風太郎と白土三平を足して割ってお湯で薄めたみたいなの、ほんとにやるの?由乃」
「うるさい令ちゃん」