「さっさと歩きなさい、このメスブタ。 何をトロトロ歩いているのですか」  
 
「そ、そんなの無理! こんな格好、恥ずかしくてまともに歩けないよぉ……」  
 
「言い訳などいいです。 さすがブタですね、歩みの遅さはまさに家畜並といったところですか」  
 
バチィンッ!!!  
 
「ひぃんっ! だ、だからお尻叩かないでぇ……」  
 
茉莉花さんにおもいきり平手打ちをされ、私のお尻がまたヒリヒリと痛みを増していく。  
そこはもうそうして歩みを止めるたび何度も何度もはたかれていて、肌色だったはずの臀部は今や無残にも真っ赤に染まりきっていた。  
その赤はもちろん、彼女に叩かれ続けているからということが主であるんだけど――原因はもう一つあると思う。  
 
「ね、ねぇおねがい茉莉花さん。 せめて下着くらい付けさせてよぉ……」  
 
「何を言っているんです、たかが家畜が乙女の着飾りなどする必要ありません。 いいからさっさと進みなさい、メスブタ」  
 
「うわぁぁん、あいかわらずにべもない。 おまけに毒舌ぅ、でもかわいい……」  
 
茉莉花さんの冷たい視線――それが私のお尻のとこを中心にグサグサと突き刺さってくる。  
ふたたび振り上げられそうになるか細い腕の脅迫に、私はしかたなく硬い石垣の上をヨチヨチと歩き始めた。  
よつんばいでね。 あの犬みたいな歩き方ね?って、こんなの説明するのも惨めだよぉシクシク。  
 
 
私と茉莉花さんは今、深夜の人気の無い学院内を散歩しています。  
もちろんご承知のとおり普通の散歩なんかじゃない。 あの鞠也さん(あえてさん付けしておく)に命令され、こ〜んな美少女メイドと楽しいお散歩真っ最中!  
私は寮を出てからもうずっとよつんばいで歩かされちゃってて、おまけに首には家畜に似つかわしい首輪なんか付けられちゃってる始末。  
そしてその首輪に繋がれているリードの先端は、背後の茉莉花さんの手にしっかりと握られていた。  
 
で、それはまだいいの。  
霊長類の最たるものとしてのプライドさえ捨てちゃえば、まだこの犬みたいな格好で歩かされるのもガマンできるんだけど……。  
私は今、何も着けてない。  
この場合の着けてないってのはブラとかパンティとかって意味じゃなくて、「服を着てない」ってことね。  
 
はい、全裸です。  
かなこは今お父さんとお母さんが結ばれたこの憧れの学院で、素っ裸でワンワン歩きなんかしちゃってます。  
 
「いくら人目が無いからって、こんな格好で外を出歩いちゃうなんて……。 かなこもうお嫁に行けないよぉシクシクシク」  
 
「わたくしだってあなたとこんなクソ下品なこと、したくありません。 どうせ散歩するならこんなデカチチブタなどではなく、もっと可愛いらしいペットを連れ歩きたいところです」  
 
「デカチッ……!? あ、あのね茉莉花さん、この前も言ったけど、私結構デカイって言葉にトラウマあってね」  
 
「おまけに後ろからはデカイお尻も丸見えですよ、この淫乱ブタ。 歩くたびプリプリプリプリ、みっともなく尻肉を揺らさないでくれませんかデカブタ女」  
 
「ぶぼえっ!!! ちょ、ちょちょちょちょっと待ってちょっと待っ」  
 
「そんなもの揺らす暇があるならとっとと進んでください、いやらしい。 あのクソオカマに命令されてしょうがなくなんですから、お互いこんなこと手早く済ませてしまいましょう」  
 
「う、うん〜そうだよね〜、茉莉花さんもむりやりなんだよね〜ていうかこんなこと命令でも聞き入れないでよ!しかもさっきから人が気にしてることズケズケ罵ってきて!下品ってあなたにだけは言われたくないですよこの卑猥メイ」  
 
「卑猥、なんです?」(ギラリッ)  
 
「なんでもありませーん。 あははー裸でお散歩楽しいなーかなこがんばっちゃうぞー♪」  
 
失言が口をついた瞬間、鷹のような目がこちらを射抜いた――私は彼女から離れるようにすぐさま前へと歩き始める。 怖いよこの子!  
茉莉花さんって普段はわりとおとなしい?子なんだけど、こういうふうに相手を見下せるチャンスがある時にはほんと容赦ない人だなって思う。  
だって私のこと、初対面でメスブタだもん。 ありえないってないない、そんな二人の出会い絶対ない!  
あ、そういえばこの舗装された大通り。 ここで初めて茉莉花さんに会ったんだっけ……。  
 
「う……ひ、ひざ痛い。 珠のようなお肌が剥けちゃうよ〜うぅぅぅぅ」  
 
でもいくら舗装されている道とはいえ、やっぱり小さな小石とかは散らばっているみたい。  
さっきからよつんばいで歩いてる私の膝にはそれがいっぱい食い込んできていて、ただでさえこんな歩き方したことないのに余計に散歩の効率が悪くなっていた。  
いつのまにか背後にいた茉莉花さんにもすっかり追いつかれていて、またお尻をスパーンって叩かれちゃわないかビクビクしてしまう私です。  
 
「あ、ちょ、ちょっと待って、お尻は止めて! すぐ歩きますからすぐすぐ!!!」  
 
「……もう無理そうですね。 少し休みましょうか」  
 
「……へ?」  
 
ありえない言葉を聞いた気がする。 ていうか幻聴? 気のせい? 私の耳腐った?  
茉莉花さんはあたりをキョロキョロと見回していくと、木立の脇に設置してあったベンチ――そこを指さしてあそこで休憩しましょうと囁いてきたのだ。  
もしかしてもしかして、これは私の身体を気遣ってくれてる?  
あの毒舌ツンデレメイドさんが、ついについにデレ領域突入かーっ!?  
 
「何をしているんです。 あそこで休みますよ、ポチ」  
 
「ポ、ポチじゃないけどやったー! ありがとう茉莉花さん、やっぱりあなたはほんとは優しい子だったんだねーもう大好きー♪」  
 
「きもちがわるいです。 いいから早く来なさい、このノロマブタ」  
 
「おぎゅーおぎゅー首が絞まるーもちょっと優しくー」  
 
さっさとベンチへ向かうよう、私の首輪のリードがグイグイと前へ引っ張られていく。  
ちょっと乱暴で苦しかったけど、それも茉莉花さんなりの不器用な優しさなんだと思うと全然平気だった。 むしろ、快感だった。  
今まではずっと無愛想な子だな〜なんて思ってたけど、この子はただ素直になれないだけなんだ。  
あの鞠也のそばでメイドなんかしているから、感情を押し殺して生きていくのが処世術になってて――でもでも、同姓である私にはここにきてやっと心を開いてくれたんだ。  
やったぁぁぁぁ美少女メイドゲットぉぉぉぉ!!!  
 
「さっさと歩きなさい、このウスノロ。 乳と胸をもぎ取られないと機敏に動けませんか?」  
 
「ま、茉莉花さん。 あのあの、私達きっといいお友達に……ううん、恋人同士になれるよね? これからよろしく、えへえへえへ♪」  
 
「…………?」  
 
ベンチへとヨチヨチ歩きしながら、私はいつのまにか茉莉花さんのことを同姓ではなく――異性としての欲情した瞳で見つめていた。  
頭のカチューシャところから垂れているツインテール。 そして可愛らしいメイド服に包まれたそのか細い身体のラインが、こんな寒空の中裸になっている私の胸を熱くさせていく。  
しかもしっかり出ているところは出ているみたいで、大きな胸元が歩くたびタプンタプンとおいしそうに揺れていた。  
きっとそのスカートの中のお尻もウエストに似合わず豊かだったりして、彼女を恋人にしたらさぞ毎日が桃色の甘美な日々に染まっていくにちがいない……。  
 
「ま、まちゅりかさ〜ん♪ まちゅりかしゃんかわい〜おっぱいおっき〜、ああメイドさんかわい〜よぉ〜はぁはぁはぁはぁ♪」  
 
「……あなた、大丈夫ですか。 頭、おかしくなりました?」  
 
「うんうん〜なっちゃいそう♪ だってだって〜、茉莉花さんの身体とってもおいしそうで柔らかそうで〜もうかなこ変になりそうなんだも〜ん。 えへへへへ♪」  
 
「………………」  
 
全裸でよつんばいのまま、鼻血をボタボタと垂らしていく私――茉莉花さんはそれをまるで汚物でも見るような冷たい目で突き放してくる。  
けどけど、それもいまや格別。 だって私達はもう恋人同士なんだもん。   
それもきっと不器用な彼女なりのコミュニケーションの取り方にちがいないと思うと、私はいくらでも自分をドMの家畜精神に陥れられる気がした。  
初めて会ったときから可愛い子だな〜とは思ってたけど、まさかこうして結ばれる日がくるなんて夢にも思ってなかったよ。 うんうん。  
いきなりメスブタなんて言われたからちょっとトキメクのが遅れちゃっただけ。  
本当なら鞠也より先に一目惚れしてもおかしくない美少女なんだもん、別におかしくないよね?   
私達、きっとこれから素敵なカップルになれるはず……ね、茉莉花? えへへへへ♪  
 
「わーいベンチだベンチだ! やっと休めるぞーやっふぅぅぅぅ♪」  
 
そうして茉莉花さんとの愛を噛み締めながら、私はようやく備え付けられたベンチに辿り着いていった。  
それはまるで結ばれたばかりの二人を祝福するかのようにこじんまりとしたもので、並んで腰をかければちょうど二人分――つまりピッタリ寄り添えるようなカップルベンチだったのだ。  
 
「まぁ、わたくしはべつにかまいませんが。 あなたの頭がイカれようと腐れ落ちようと……」  
 
ふぅっとため息をつきながら、先に茉莉花さんがベンチへと腰を下ろしていく。  
ちょうど真ん中あたりに座ったから一見私の座る場所がなくなったようにも思えるけど、きっとそれも二人でくっ付いて座ろうね?という茉莉花さんの意思表示にちがいない。  
私は彼女の素直じゃない愛情表現にクスクスと笑いつつ、その甘〜いラブベンチに腰をかけようと立ち上がっていった。  
 
「失礼しま〜す。 きゃー茉莉花さんとのラブラブベンチタ〜イム!冷えきったかなこの身体を温めて〜♪」  
 
ドガンッッッ!!!  
 
「痛たっ、痛ったっ!!! ちょっとなに……え?」  
 
そうしてベンチ(茉莉花さん)に抱きついていこうとした――その時、私の身体が何か強い衝撃によって地面へと押し返されていた。  
あまりの突然のことにベタリと尻餅を付いていくと、目の前にはメイドスカートを翻した茉莉花さん。  
チラっと中の下着が見えてエヘエヘラッキーと思うも、私はすぐに彼女の足に蹴飛ばされたのだと理解する。  
 
「へ? ちょ、ちょっと茉莉花さんどうして……なんでかなこのこと蹴ったのかな〜?」  
 
「誰が立っていいなんて言いました。 誰が座っていいと許可しましたか、このメスブタ。 自分の領分をわきまえなさい」  
 
「え……だ、だって休みましょうって。 休憩って言ったじゃん! だから私も愛する茉莉花さんの隣にでへへお邪魔しま〜すってしようと」  
 
「犬がベンチにおすわりしますか? ブタがベッドでお休みしますか? これは人間様が休む為に設置された公共物です。 浅ましいメスブタは床にお伏せなさい」  
 
「え……ええええええええっっっっ!!!」  
 
私は唖然とする。 しないはずがあろうかと、もう夜の大通りで叫び声をあげていく。  
茉莉花さんはさも当たり前かのようにそう口にしていくと、ドカリと身体をベンチに座りなおしていった。  
それによって完全に二人用のそれは彼女一人の身体によって占有されてしまい、私は茉莉花さんの言葉が冗談ではない――本気でペット扱いされているんだということを再認識させられていった。  
同時にさきほど感じた淡い恋人関係も、最早ただの勘違いだったと思い知らされる。  
私を気遣ってくれただなんてとんでもない!  
彼女はただ、本当に休みたかった。 「自分が」休憩したかったからこのベンチに誘ったのだと、そうロマンチックの欠片もない事実を突きつけられていくのだった……。  
 
「うぅぅぅ、もてあそばーれーたー。 かなこの純真な乙女心、茉莉花さんに弄ばれたよーシクシクシク」  
 
「なにを泣いてるのか知りませんけど……。 あなたのようなクソブタに乙女の清い心などあるはずありません。 乳と尻を揺らすことしかできない、便器女のくせに」  
 
「あああああもうやめてぇこれ以上罵らないでぇぇぇ。 私が馬鹿だったんですアホだったんです、ただの勘違いだったんですぅごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」  
 
「わかっていただければ結構です。 では、そのままイスになっていただけますか?」  
 
「ぐすっぐすっ……イ、イス?」  
 
茉莉花さんを脳内で恋人認定、そして勝手に失恋へと追い込まれながら――私は彼女のまたもや予想だにしない言葉にクエスチョンマークを浮かべていく。  
なんだかんだおとなしく地面に伏せっている私。 膝を付くと痛いので、ネコがごろ〜んと寝転ぶみたいにはしたない格好をしている。  
それに反して茉莉花さんはベンチにゆったりと腰をかけていくと、その綺麗なおみ足を私の方に向けてきたの。  
そして次の瞬間、背中に感じるストンとした感触……。  
 
「あ、あの〜茉莉花さん。 これはいったいどういうことかな〜?」  
 
「少しブヨブヨしてますが、なかなか心地の良いイスです。 この場合は足置き…と言ったほうがいいのでしょうか。 まあとにかく、こんな肉便器でも家具としては一級品ですね」  
 
「に、肉便器……ていうかそんなにブヨブヨしてる? うそうそ!ほんとに!?私そんなにお肉付いてないようわーんバカーこのドSメイドー足をどけろーっ!!!」  
 
「……あとは口さえ閉じてくれれば、ですね。 ブヒブヒとやかましい」  
 
ドカリッッッ!!!  
 
「ぐほぇぇぇっ!!! か、かかと、踵は痛いよ茉莉花さん、それは許してぇぇぇぇ」  
 
お口を閉じなさい――と言わんばかりに、私の背中に踵落としがお見舞いされていく。  
本来なら主君に仕えるべきメイド、茉莉花さんに足置きとして使われる屈辱がその痛みを通してヒシヒシと身体中に伝わってくる。  
首輪をつけられて犬にされて。 裸でお散歩させられて家具にまで落とされちゃって。  
ここまでくるともう、本気で自分が家畜かなんかになったような気分にさせられてきちゃう。  
茉莉花さんは私好みの超美少女だし、いっそのこと全て受け入れたら幸せになれるんじゃないだろうか……。  
この身長から私って基本タチだと思ってるんだけど、もし彼女とそういう関係になったらネコとしても十分いけるかもしれない。  
その背中にズシリとした美少女の価値を感じながら、私は自分が徐々にマゾヒストとしての素質に目覚めさせられているような気分に陥っていった。  
 
「えへ、えへへへへ♪ 茉莉花さん、どう。 私の格好ってみっともない? おかしいかな?」  
 
「ええ、みっともないですね。 おかしいどころか、これはもはや人間ですらありません。 まさにメス、まさにブタといったところでしょうか」  
 
「メス……ブタ。 そ、そうだよね〜、こんなの女の子でもなんでもないよねぇ、あはははは……」  
 
「黙りなさいメスブタ。 分類上は女のくせに裸で寝転がって、おまけにわたくしに足を乗せられて悦に浸っている。 これこそ家畜、といったところでしょうか。 恥を知りなさい」  
 
「メスブタ……家畜。 私は茉莉花さんの奴隷、ペット、肉便器ぃぃぃ♪ ぶつぶつぶつぶつ……」  
 
「…………かなこさん?」  
 
こういうの、自己暗示っていうんだっけ。  
私は茉莉花さんの罵言暴言雑言――その全てをあえて受け入れてみることにした。  
でもでも、あくまで暗示、ていうか演技のつもり。  
だって本当の私はドMでもなんでもないし、いくら茉莉花さんが生唾ものの美少女だとしても肉便器だなんてありえないもん!  
ただでさえここ最近は鞠也にまで罵られている日々。 二人のドSっ娘に板ばさみにされて、このままじゃいずれ私は廃人にでもされてしまうかもしれない。  
だったらこういったことにある程度の耐性を付けることも必要だと判断し、私はあえてこの茉莉花さんに全面服従を誓ってみるのだった……。  
 
続く  
 

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